今回インタビューした田邊雅子さんは、社会保険労務士やキャリアコンサルタントをはじめとした資格を活かして、人事労務面で企業支援を行っている先生です。現在、神奈川県横浜市に拠点を構えるグロースサポート社労士事務所と株式会社グロースサポートの代表として、6名の従業員を抱えながら活動しています。
従業員規模を拡大しながら事業を進める田邊さんですが、開業当初はどうやって顧問先を見つければよいかすら、わからなかったといいます。これまでどのような道のりを辿ってきたのか、志師塾での学びをどう活かしてきたのかについて、お話をうかがってきました。
1.資格取得から志師塾入塾まで
1.1 “中年の危機”を乗り越えて
田邊さんは、教職に数年間就いた後に結婚し、約10年間子育てに専念しました。そして子育てが一段落したタイミングで、パート社員として図書館で働き始めます。その後、大学の研究機関へと転職。契約社員として入職しましたが、仕事ぶりが評価され正社員へ登用されました。
キャリアの転機が訪れたのは、上司にあたる担当教授が退官する時でした。当時の勤務先で約10年働いていたため、一区切りをつけたいと思い切って転職を決意します。しかし、今後の生き方や働き方に対して漠然とした悩みが出てきてしまい、転職活動は思うように進みませんでした。
この悩みを解消しないと転職できない。そう考えた田邊さんは、自治体で開催されていたキャリアコンサルティングに参加しました。そして当日、面談を一通り終えると、面談担当者からキャリアコンサルタント試験の勉強をしてみては、とすすめられたといいます。
「最初は、自分の仕事をすすめるなんて安直なことを言うおっちゃんやなあと思いました(笑)でもよい機会だと思って、その言葉を素直に受け止めて勉強してみることにしました」
キャリアコンサルタントの勉強を始めると、自身の悩みが40代から60代に起こる“中年の危機”というキャリア課題だったと気づくなど、今まで抱えていた悩みが霧のように晴れていったといいます。のめり込むように勉強していった結果、田邊さんは2008年にキャリアコンサルタントの資格を取得しました。
資格取得後、ハローワークの指導員になることを決断します。相談員になりたいと思ったのには、キャリアコンサルタントの資格を活かしたいという気持ちのほかに、こんな思いがあったそうです。
「私自身、10年の子育て期間を経てキャリア復帰をしました。新たに働く場所では、仕事復帰したい子育て世代が新たな一歩を踏み出すお手伝いができる場所がよいなと思ったんです」
1.2 従業員が幸せに働ける会社を増やしたい
その後、ハローワークの相談員として約3年間、様々な方の就職支援に携っていきます。
相談員としての仕事にやりがいを感じながらも、ハローワーク経由で就職した方がすぐに退職してまた相談窓口にいらっしゃった時には「せっかく入社した人を、なぜ企業はすぐに辞めさせてしまうんだろう」と悔しい思いをすることもあったそうです。
また同時に、求人票を読む際の知識量を増やす必要があると気づいたといいます。その当時の田邊さんは、求職者の方に求人を紹介する際、変形労働時間制やみなし残業など今まで働いてきた職場にはなかった労働条件に関する文言が書いてあると、十分な説明ができなかったそうです。
そこで労働条件などの知識を専門的に学びたいと考えて、新たに社会保険労務士試験の勉強を始めます。勉強していくと、求人票を紹介する知識が身につくだけでなく、考え方も変わっていったといいます。
「社会保険労務士の勉強をしていくと、多くの規制を守って会社を経営しなければいけないことに改めて気づきました。そこで、入社した人がすぐに辞めてしまう企業があるならば、従業員が幸せに働ける会社にするためのお手伝いができるようになったほうがいいのでは、と思うようになりました」
思いを実現するため、社会保険労務士の資格が取れたら独立開業しよう。そう考えながら勉強に取り組んだ結果、田邊さんは2012年に社会保険労務士の試験に合格し、資格を取得しました。その後ハローワークを退職して、すぐにグロースサポート社労士事務所を立ち上げます。
しかし、社会保険労務士としての実務経験がないうえに、依頼につながる人脈もなかったことから、当初は開店休業状態だったそうです。
この状況から脱却するために新たな知識を身につけたいと思っていた時、偶然にも志師塾の広告をSNS上で見かけます。広告を見た田邊さんは、ビジネスとして事業を成り立たせるためのノウハウを学べることに魅力を感じて、志師塾への入塾を決意します(画像はグロースサポート社労士事務所・株式会社グロースサポートのシンボルマーク)。
2.志師塾で得られたこと
2.1 経験を重ねていくうちにわかることが増えていく
2013年、田邊さんは7期生として志師塾に入塾しました。しかし当時はマーケティングやブランディングなどのビジネス知識も乏しかったことから、講義で教わったことが腑に落ちない時も多くあったそうです。
例えばサービスをどう売り込んでいくかを考える授業において、お客さんに選んでもらうためには強みを尖らせる必要がある、と聞いた時のことです。
「当時の私は、何でもやったほうがお客さんの幅を広げられるから集客しやすいのでは、と思っていました。だから強みを尖らせることでむしろお客さんが減ってしまうような気がしていたんです」
腑に落ちなくてもまずは素直にやってみる。その気持ちで、入塾後から田邊さんは教わったことを一通り試します。
まずは依頼獲得のため、入塾後から異業種交流会への参加やダイレクトメールの送付、相見積もりサイトへの登録など様々なことに挑戦します。しばらくの間は結果が伴わなかったものの、種を蒔いて待つような気持ちで活動していくと、異業種交流会で知り合った方などから段々と依頼が舞い込んでくるようになったそうです。
また、依頼を受ける際は強みを尖らせていくために、依頼主の方が従業員と会社の両方を大切にしたいという考えに共感いただけるかどうかを意識したといいます。この考えに共感いただけない場合には、思い切って依頼を断っていたそうです。
七転八倒しながら依頼を受けていくと、志師塾で教わったことが段々と腑に落ちていったといいます。
「経験を積むと、今までわからなかったテキストの情報がわかるようになってきたんです。五十嵐さん(志師塾塾長)、あの時はきちんと話を理解していなくてごめん!今頃わかったよ!と思うことが何度もありました」
教わったことを素直にやってみたことで、田邊さんの考えに共感する依頼主が多く集まるようになり、結果として社労士事務所の事業は約2~3年で軌道に乗っていきました。
2.2 開業後も新たなチャレンジを
グロースサポート社労士事務所を開業させてちょうど10年に差し掛かる頃、田邊さんは新たな事業をやってみたいと思い始めます。
「何かしたいと思った時、ちょうど志師塾からメールマガジンが届いたんです。文面には『新しいことをやってみたい時期になっていませんか』というフレーズが書かれていました。まさにそんな時期だったのよねと思い、先生ビジネス開発講座の68期に参加することをすぐに決めました」
考えをまとめていくうち、これまでの事業展開で十分に手がつけられていなかったキャリア支援を、当事者意識を持って関われる中高年を対象として取り組みたい、というご自身の思いに気づき始めたといいます。そして思いを実現するため、志師塾の講師陣と相談しながら、企業向けにシニア社員戦力化プログラムを新たに立案すること、個人向けに“100年キャリア見える化ノート”という冊子を作成することを決意します。
冊子は志師塾の卒業生で一般社団法人シニアライフカウンセラー協会代表の小番一弘さんの監修を受けて制作されました。また内容としても、1か月先から数年後までのライフデザインや現在の不安なことをチェック式で回答するページ、収支計画書を簡単な数式で計算できるページなど、多くの方が明日からでも実行できるようなものを取り揃えました。
「キャリアプランは具体性がないと書きづらいものですよね。だから絵に描いた餅になってしまうこともある。私自身、抽象的な表現をしない性格なので、その性格を活かしたほうがいいと思ったんですよね」
3.志師塾卒業後の活動
3.1 当たり前のことを・バカみたいに・ちゃんとやる
田邊さんは経営者としての一面も持っています。人を雇う側である経営者を支援するためには、人を雇う側の気持ちを知っておく必要があるという考えのもと、事業がまだ軌道に乗っていない開業2年目からパート社員を雇い始めました。
パート社員を雇うにあたり、ハローワークへと転職した理由の1つであった仕事復帰したい子育て世代のお手伝いを、雇う側として実現したいと考えたそうです。
「でもその場合には実務経験を求めるのは難しいですよね。なので私はそれを逆手に取って“今は知識や経験がなくとも必死で勉強して専門家になりたい方”という条件で募集をかけていきました」
実務経験がない方に難易度の高い業務を任せることはできないため、田邊さんの事務所では今後AIに取って代わられると言われている申請書や帳簿作成などの簡単な業務依頼を、あえて率先して受けています。
ここまで聞く限り、人材育成の工数が大きくかかると思われるこの方針。しかし、実際にはこの方針が田邊さんの社労士事務所の強みになっています。
例えば帳簿作成をするために入退職者数や労働時間などの数カ月間の数字を見ていくと、入退職者が多いことや残業の増加をデータとして把握することができます。これにより、自身の知っているデータに基づいてコンサルティングできるため、単純にデータをもらうよりも、顧問先の状況を理解したうえで支援ができます。
この簡単な業務から少しずつ仕事を任せていく方針により、1人目のパート社員として採用した方は現在、顧問先に対するコンサルティング業務ができるまでに成長しました。
他が避ける道をあえて通るこの方針には、五十嵐塾長の言葉からの影響もあります。
「『A=当たり前のことを・B=バカみたいに・C=ちゃんとやる』というABCを五十嵐さんに教わったんです。教わったことを真面目にやった結果、ここまで事業を成長させることができました」
3.2 事業を拡大していくために
真面目に素直にやってみる性格で、これまで多くのことに挑戦し結果を残してきた田邊さん。最後に今後やっていきたいことをうかがうと、2つのことをあげられました。
まずは従業員規模の拡大です。田邊さんは経営理念として“従業員が元気に働ける経営を”という言葉を掲げており、実務経験なしの方をコンサルティングができるまでに成長させるなど、この理念を言動一致で行ってきました。これからも顧問先にもよい影響を与えられる存在として成長しつつ、さらに多くの方を雇えるようになりたいと考えています。
そしてもう1つはシニア社員戦力化プログラムや“100年キャリア見える化ノート”の展開です。現在、見える化ノートについては月2回ほどワークショップを開催し、これまで150名以上の方に参加いただいたそうですが、さらなる拡大を目指しています。
「どちらも中高年が元気になれる要素が詰まっていると私自身感じているので、もっともっと広げていきたいんです。そのために志師塾の同窓生へ広めたり、苦手だったイベントなどへ参加したり、日本全国へ広げるための活動をしていきたいなと思っています」
最後に、志師塾への入塾を迷う方々に対してかける言葉をうかがいました。
「私自身、初めて行った時は劣等生だったので、教わったことがあまり理解できませんでした。でも志師塾でビジネスの基本の“き”を教えてもらったこと、そしてその教えをバカみたいに真面目に取り組んだことが、事業を軌道に乗せられた理由だと思います。かけがえのない仲間とも出会えますしきっと面白い場所だと思いますよ」
田邊さんは、真面目に素直にやってみる性格を活かして従業員と企業に寄り添う、パワフルな先生でした。
文:依田彩那(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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