香川県高松市で研修・執筆業を営む山本武史さんは、2022年の志師塾卒業生です。
2000年に大学を卒業して製薬会社に就職しますが、コーチングで生計を立てようと一念発起し2013年に退職。米国でも有数のコーチ養成機関が認定するコーチング資格を取得し、これまで1万人以上を対象に研修などを実施してきました。
以前は業種業界を問わずさまざまな職業の方を対象としていた山本さんですが、志師塾受講をきっかけに看護の現場に特化した研修プログラム『やめたくない看護部をつくる7つのマネジメント』を開発します。なぜ看護部なのか?その経緯や思いについてうかがいました。
1.研修『やめたくない看護部をつくる7つのマネジメント』
1.1 看護部に特化した研修プログラム
看護師の平均離職率は10.6%(2021年 病院看護・外来看護実態調査 報告書より)。他の職業と比較して突出しているわけではありませんが、不足する人材を容易に補充できる職業でもありません。
「もともと医療業界、とりわけ看護師で組織される看護部は業務量が多くストレスが溜まりやすい職場でしたが、新型コロナウイルスへの対応で拍車がかかり、現場に従事する看護師たちは心身ともにボロボロになっていると聞きます。余裕の無さから人間関係もギクシャクしたものになりがちで、若手看護師の離職も増加傾向にありました」
人間関係やメンタルの不調からの離職を防ぐためには、心理的安全性を担保し、仕事にポジティブな姿勢で取り組める環境づくりが不可欠で、しかもこれを看護部が組織として実現していかなければならない、それには現場の管理者である看護師長クラスへの研修が必要だ―そう考えて開発された研修プログラムが『やめたくない看護部をつくる7つのマネジメント』です。
「わかりやすく言うと、この研修の目的は看護の現場を働きやすく雰囲気の良い職場にして、人間関係およびメンタル不調による離職をゼロにすることです。新人の看護師に「いい病院に就職できた」と喜んでもらえることを目指します」
1.2 ステップを踏んで成果を上げる
研修は、院内の看護師長さんたちに集まってもらい座学と意見交換を行う方式で、月に1回、7~8か月かけて実施します。始めは時間管理術などの業務効率化やメンタルトレーニングに関するもので、看護師長個人の能力を向上させます。その後、組織内での役割や円滑なコミュニケーション方法などについての授業を行い、組織が機能するために必要なことを学んでいきます。
研修当日は始めに山本さんが講義を行い、その後参加者は学んだことについて自分の病院に当てはめるとどうなるか、どうしたらよいかを考え、意見交換します。座学だけでなく、自分事に落とし込んで考え話し合うことで、現場の力を高め、組織の成長につなげていきます。
このように半年間以上かかる研修プログラムを独自開発した山本さんですが、ここに至るまでにはさまざまな困難があったそうです。
2.紆余曲折の20年間
2.1 はじめは人見知りが強かった
学生時代から医療業界に関心が高かった山本さんは、2000年4月に農業系の大学を卒業後、製薬会社に就職しました。薬の品質管理の仕事をしたいと考えていましたが、任されたのはMRという、医療機関に赴いて自社製品をすすめる営業職でした。意外かもしれませんが、山本さんは当時人見知りが強かったそうです。人前で話すことが苦手な山本さんにとってMRの仕事は苦痛で、成績も当初は「ずっと地を這うような」結果でした。
それでも、ある病院から食中毒の院内感染対策に関する勉強会を頼まれたとき、大学時代に研究していた細菌の知識が役立つことに気づくと、他の中小病院や開業医にも積極的に展開していきました。これに伴い薬の販売も伸びていき、ついには営業成績も社内ナンバーワンに。
「この頃から、人前で話すことがちょっとずつ楽しくなってきました」
2.2 背水の陣で独立開業
山本さんは講師としての能力を高めるため、プレゼンテーションやファシリテーションについて勉強するようになり、さらにコーチングについて本格的に学ぼうと、米国CTI(Co-Active Training Institute)認定の資格が取得できるスクールに通い始めました。そしてほどなく、山本さんは製薬会社を退職します。
「会社が買収されたり子供が4人に増えたりして、自分はこの会社で働き続けるのが良いのだろうか、と考える日々が続いていました。そんななか、コーチングの魅力を知ったんです。始めはてっきり【話す】テクニックを学べると思っていたんですが、コーチングの要諦は【聞く】ことなんですね。聞くことが仕事になることに衝撃を受けて、今後はこれを仕事にしようと、会社を辞めて背水の陣で臨みました」
難関資格を取得し起業した山本さんでしたが、1,2年目はほとんど売上が無かったそうです。
「仕事が回り始めたのは3年目からですね。以後は売上も順調に伸びてきて、プロコーチとしてやっていけそうだな、と思った矢先に新型コロナウイルスが現れて。一番の収入源だった新入社員研修が2020年はすべて中止となり、収入がゼロの月もありました」
2.3 そして志師塾と出会う
それまでは研修会社経由で講師を請け負っていましたが、収入の単価を上げるため自ら集客する必要性を強く感じた山本さんは、Facebookの広告で志師塾の存在を知り、無料セミナーに申し込みました。
「集客もそうですが、自分の能力を顧客の価値にどう転換するか、コンセプトを一から作り上げていきたいと思っていました。志師塾には先生業に特化した『先生ビジネス開発講座』があり、私が求めるものにマッチしていると感じたので、受講を決めました」
3.志師塾で学んだこと、得られたもの
3.1 ポジショニングの明確化
山本さんが受けた講座は、前半6か月間で学び、後半6か月間で実践するカリキュラムとなっています。前半終了後すぐに、山本さんは『やめたくない看護部をつくる7つのマネジメント』の研修プログラムを完成させました。講座で学んだことが、このプログラムにどのように反映されているのでしょうか。
「全部と言っても過言ではないのですが、一番は自分のポジショニングを明確にすることですね。コンテンツは作れるのですが、それを誰に、どう訴求していくのかが不明確だったんです。以前から医療分野にぼんやりとした憧れのようなものはあったのですが、志師塾の講義を受けて『自分が一番サポートしたいのは誰か』と真剣に考えた時、コロナ禍で懸命に働いているにもかかわらず人間関係やメンタルの不調で辞めてしまう看護師さんたちが思い浮かびました」
「病院でやりがいをもって働いてほしい、明るく活気のある職場であってほしい、辞めないでほしい―そのために自分のこれまでの知識・経験が生かせるはずだ、貢献できるはずだ、と気づいたんです。そうして、看護部の組織マネジメントにフォーカスした研修という発想に至りました」
とはいえ、看護部の組織マネジメントに関する研修は、これまでも無かったわけではありません。看護師の多くが入会している公益社団法人日本看護協会は、看護師の世界で“勉強するなら看護協会”と言われるほどさまざまな研修を用意しています。ただ、その研修は看護師長が個人で申し込み、全国各地から集まって受講するスタイルのため、研修期間中は参加者同士で活発に意見交換をして盛り上がるものの、研修後に各自が病院に戻ると、熱量が高いのは自分だけで周囲との温度差を感じ、長続きしないケースが多いそうです。
「私の研修は病院単位で実施します。いつも顔を合わせているメンバーで一緒に学び、考え、意見交換するので、看護部をより良くしようという思いを共有でき、熱量が高い状態で継続的に組織課題に取り組めるという強みがあります」
参加者の中には、始めは研修と聞いて訝しげな表情を浮かべていたものの、“どうすれば職場・病院がもっと良くなるか?”と真剣に話し合ううちに、他の参加者の意見や自身の思考から新たな気づきを得られるようになり、「毎月の研修が楽しみになりました」とまで言ってくださる方もいたそうです。
また、この研修の対象は看護師長であり、組織の長である看護部長の出席は求められていませんが、大抵の部長さんが同席されるといいます。
「これまでも師長以上が集まる定例会議はあったけれど、事務連絡に終始することが多く、部長が考えていることを師長に伝える場があまりなかったそうです。この研修をきっかけに双方のコミュニケーションが活発になったケースもありましたね」
このようにポジショニングを明確にすることで、山本さんの研修はこれまでにない“尖った”サービスとなりました。
3.2 ターゲットにマッチする集客方法
集客においても、志師塾で学んだことを生かせたと山本さんは言います。その手法は、対 象とする病院の看護部長宛てにダイレクトメール(DM)を郵送で送り、興味を示した方には無料のオンラインセミナーに招待し、さらに関心を持ってもらえれば個別に相談したうえで契約、という流れになります。起点となる郵送DMの反応率は一般的に1%あれば上々といえるところですが、山本さんの場合10%程度もあったそうです。
「志師塾では、アプローチしたい人はどういう媒体を見るか、どうすれば内容までリーチするかをしっかり調査するようにと教わりました。そこで知り合いの看護部長に聞き取りを行ったのですが、『研修に関してネットで検索することはまず無い。一方で信頼できるところからの情報はたいてい紙媒体で院内に届けられるので、自分の名前宛でDMが届けられたらまず開封して中を見るだろう』ということがわかったんです」
「看護部長クラスの氏名や肩書は病院のウェブサイトにほぼ載っているので、宛先の特定には困りません。今さら郵送DMなんて、コストも労力もかかるし…とは思いましたが、とりあえず1回やってみたんです。これが当たりました」
3.3 刺激しあえる同志
このほか、志師塾に入ったメリットとして、受講仲間との関係性があると山本さんは言います。
「1チーム13~14人で受講するのですが、独立している、またはこれから独立しようという方ばかりなので、方向性が一緒で、話がしやすいし刺激にもなりましたね。今回はオンラインでの受講でしたが、特に気が合う方には直接会いに行きました。また、私のクライアントに事業承継を見据えている社長さんがいて、成約には至りませんでしたが事業承継をサポートしている受講仲間を紹介したこともあります」
3.4 どんな人に向いている?
『先生ビジネス開発講座』にはどのような人が向いているか、山本さんに尋ねました。
「伝えたいメッセージはあるけれど誰にどう伝えたら良いかわからない、という人は、志師塾で学ぶと本当に必要としてくれる人と出会う確率が上がりますし、伝えたいことを伝えられるようになると思いますよ。私が受講した一次目的は収入を増やすことでしたが、生活のため誰にでもコーチングすることに違和感もあったんです。それが自分のポジションが明確になることで、これから自分の進むべき道はこれだ、とモチベーションも上がりました」
4.目指す先は
最後に、山本さんに今後の方向性についてうかがいました。
「まずは『やめたくない看護部をつくる7つのマネジメント』を広く展開していきたいです。また、その研修を終えてもっと学びたいという人には今後オンラインコミュニティを立ち上げて、病院やエリアを跨いだ、活発な意見交換ができる場を提供していきたいですね」
また、山本さんは『Nursing BUSINESS』など看護関係の雑誌にコラムを連載したことがあります。これまで本を2冊執筆したこともあり、『やめたくない看護部をつくる7つのマネジメント』のノウハウの書籍化も目指しています。
“看護の勉強なら看護協会”と言われるように、“看護管理者の教育研修なら山本”と言われる領域にゆくゆくは到達したい―そう山本さんは言います。
「そのためにも『やめたくない看護部をつくる7つのマネジメント』をはじめ、さまざまな角度から看護部をサポートしていきたいですね」
5.取材を終えて
山本さんは医療系の大学進学を希望していましたが、さまざまな理由から断念したそうです。医療に対する思いは大学での研究内容や就職先の選択にも表れていましたが、消えずに残っていたからこそ、自身のポジショニングを考えるときに「医療の現場」だと閃いたのではないでしょうか。コーチングなどで医療の現場をサポートする―思いを形にする、山本さんなりの方法だと感じました。
これまでも積極的な行動で苦境を脱してきた山本さんですが、志師塾での学びを経て、今後より一層迷いなく、力強く進む姿が想像できます。
文:鈴木建(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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