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ひと(人材)を大事にすることで日本全体を幸せにしたい ~店舗運営専門の社労士~石上大祐さん

石上大祐(いしがみだいすけ)さんは社会保険労務士として、2020年に個人事務所を立ち上げ、給与や社会保険、労務手続きの支援や、人材育成のコンサルティングまで、幅広く活動されています。

なかでも、「店舗運営専門の社労士」として、自らの店舗運営ノウハウを体系化した「多店舗展開に必要な5つの人事ステップ」は、飲食店や理美容業界のフランチャイズオーナーから多くの支持を得ています。

「ひと(人材)を大事にすることにこだわっています」とおっしゃる石上さんに、お話をうかがいました。

1.業績向上の基盤作りを人事面からサポートする

石上さんは社会保険労務士として、給与計算や社会保険・労働保険等の事務手続きや、就業規則の作成・変更といった労務管理のほか、「人・組織の成長過程を支援することで、素晴らしい商品・サービス・システムを世の中に」をミッションに掲げ、人事評価制度の導入や人材育成のコンサルティングにも力を入れています。

特に最近は、「人が取れない、戦力化しない、戦力化してもすぐやめてしまう」という人事の3大悩み事の相談が多くなっており、採用のお手伝いや定着するための評価制度に力を入れています。
「業績向上の基盤作りを人の面からサポートしたい、という思いでサービスを展開しています」石上さんの言葉にも力が入ります。

1.1 経営者としての顔を生かしたサービス展開

実は石上さんは社会保険労務士以外にも、経営者としての顔もお持ちです。
「パーソナルジムや美容関連のフランチャイズのオーナーとして活動しています。人事管理の専門家と、経営者の2つの立場で資金調達や人材確保といった店舗の立ち上げから、店舗運営のアドバイスまで、ワンストップで支援しています」

店舗運営で成功するために必要な要素をうかがうと、「人材育成のシステム化としくみ化」であると石上さんは答えます。
フランチャイズビジネスは1店舗あたりの売上に上限があるため、事業を拡大するには店舗数を増やすことが必須条件になります。そのためには資金面はもちろん、良い人材の確保が重要なポイントです。1店舗目は経営者自らのマンパワーで店舗を運営して成功することができても、2店舗目からは経営者のパワーだけでは限界があるからです。

「逆に良い人材さえ確保できれば、2店舗3店舗目と拡大することは難しいことではありません。社長の経営理念をしっかり伝え、その思いを従業員が引き継ぐことができれば、店舗運営は自然とうまくいきます。経営者と従業員がともに成長することを理想において、こだわりを持ってサポートしています」

1.2 「店舗運営専門の社労士」としての地位を確立

実際に石上さんが支援した居酒屋の例があります。
相談された当初は、社長が自ら店舗に週5・6日泊まり込み、社長のマンパワーでお店を切り盛りしていました。従業員の募集がうまくいかず、採用してもすぐ辞める。自転車操業な状況で売上はあがっているものの、お店の運営は危機的な状況だったといいます。

石上さんがまず初めに取り組んだのが、「社長の思いを言語化すること」でした。経営理念を言語化して、採用段階から従業員に明示することで、社長の思いを従業員に浸透させることに力を入れました。
また従業員のキャリアパスをA4一枚の紙にまとめて提示して、従業員も会社と同じ方向を向いて努力する環境作りを支援したことで、「お店の売上アップと働く環境改善の両立」の目標に向かって、社長と従業員が一丸となって動き始めたといいます。

「今では社長は店に出ずに経営に専念しています。2店舗目も出店して社長の思いを引き継いだ店長が運営しており、役員として社長の右腕としても働いてくれています。売上も倍増して、3店舗目4店舗目も視野に入っていますよ」

こうした「店舗運営専門の社労士」としての実績が積み重なり、飲食店や理美容業界のフランチャイズオーナーから多くの支持を得ています。最近ではフランチャイズ本部にも認められ、本部全体の人事制度の構築や、店舗に落とし込むためのコンサルティング依頼も来るようになりました。

2.学生時代のアルバイト体験が、人事キャリアの原点に

子供の頃から新しいことを始めることが好き。チームで目標を達成することが好きだったという石上さん。
人事に興味を持ち始めるきっかけとなったのは、高校生の時のアルバイト経験だったそうです。

「東京ディズニーランドでキャストのアルバイトをしていましたが、アルバイトにも社員教育や行動指針が徹底されていることが印象的でした。例えばパレードの最中にゲストが飛び出してフロートに轢かれそうになった時、ゲストの安全確保のためにアルバイトでもパレードを止めることができます」

他にもチームワークや社員教育・育成制度の機会が、アルバイト・正社員に関係なく平等に提供されており、まさに「ひと(人材)を大事にすること」を身ともって経験したことが、後の人事マンとしてのキャリア形成に大きく影響したと石上さんはいいます。

2.1 人事一筋だったサラリーマン時代

そして大学卒業後、石上さんの人事マンとしてのキャリアがスタートします。
「大手製造業に就職しました。入社当初は海外営業志望でしたが、なぜか人事部に配属されました。それからずっと人事畑一筋です」

人事部に配属されると、1000人規模の工場での労務管理や、本社勤務では連結3万人の人事制度企画などを担当します。
工場勤務の時は、現場の人が働きやすい環境作りに腐心しました。環境・安全衛生面を整備する地味な仕事でしたが、できるだけ工場に出て、現場の声に耳を傾けるようにしていました」

長時間労働が多かった職場に変形労働制を採用して残業時間を短縮させるなど、実績も積み上げ順調だった頃、突然ショッキングな事件が発生します。
「リーマンショックで工場の派遣社員を契約解除せざるを得なくなりました。職場の仲間が突然1/3くらいいなくなり、その後業績が回復した時も、人員の確保や技術の伝承に苦労しました」
人事担当として辛い思いをしただけでなく、適正人員の配置や社員教育、技術の伝承など、人の重要性に身をもって考えさせられたと、石上さんは振り返ります。

2.2 起業して店舗ビジネスの難しさを体験

8年間のサラリーマン勤務を経て、石上さんは30歳を節目に自ら起業することを決心します。自分の得意な人事の経験をいかして店舗展開をしたいと思い、トレーニングジムのフランチャイズに加盟して、開業に踏み切ったのです。

ところが事業を始めた当初は自分の理想とは程遠く、売上は下降線をたどるばかり。ついには破産寸前の危機的な状態となり、撤退や転職も考えるなど精神的にも追い込まれました。
「なかなか売上が回復しない状況に、資金繰りやお店の経営を考えることに精一杯でした。お店の運営は従業員任せで、経営者である私と従業員の思いに大きな隔たりがあったのも浮き彫りになりました」
従業員が石上さんの思い通りに動いてくれず信頼関係は悪化し、石上さん自身も人間不信に陥ったといいます。

2.3 現場の声を聞くことが逆転のきっかけに

藁をもつかむ気持ちでオーナー仲間に相談すると、思わぬ一言が返ってきました。
『人を雇うということは、その人の人生を背負うことだ。その責任が果たせないならお前は一生経営者をやるな』と言われて目が覚める思いでした」

オーナー仲間からは、とにかく現場の声を聞けと叱咤激励され、改めて従業員とひざを突き合わせて、本音で話し合う場を持ちました。
「私もサラリーマン時代に現場の声を聞いていましたが、人事担当者と経営者では立場がまるで違う。まずは従業員ひとりひとりと面談して、私が思っていることと従業員がやりたいことのすり合わせから始めました」

すると従業員は、トレーニングの指導や技術の向上を最優先に考えていたことがわかります。
「トレーニングフォームやトレーニング効果を研究して、それをお客様にも要求していました。でもお客様が求めているのは、そこじゃない。話を聞いて共感してくれる、トレーニングメニューの管理をしてくれる、上手く進まない時には叱ってくれる。それこそがお客様がトレーナーに求めていることであり、信頼されリピートにつながることだとひとりひとり説得しました」

さらにトレーナーの評価項目に、トレーニング技術だけでなく、お客様とのコミュニケーション能力やコーチング技術を取り入れ、経営者が求めるスキルと、従業員の努力が正当に評価されるしくみを作りました。業績改善に関連する項目を、従業員とすり合わせをしながら評価項目に加えることで、売上は順調に回復。1年後には全国1位の売上を達成するまでに業績がⅤ字回復して、他のオーナーがその秘訣を聞きにくることもあったといいます。
「従業員は、どうすれば会社に評価されるかがわかり、スキルアップや自らの成長を実感できることで、長く勤めるようになりました。会社の課題を自分事として捉え、前向きな発言が増えるようにもなりましたね」

3.コロナ禍での独立開業、そして志師塾との出会い

自らの起業体験をきっかけに人事領域での仕事を拡げていきたいと思い、社会保険労務士の資格を取得することを決意します。
資格取得後、独立開業したきっかけは、近年世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症でした。

「私が経営しているトレーニングジムも一時休業せざるを得ない状況で、従業員の休業補償のために雇用調整助成金を申請していました。ところが手続きが思っていた以上に複雑で申請が難しい。この助成金申請のお手伝いができれば、私と同じ悩みを抱えるたくさんの企業を救うことができるのではと思い、開業に踏み切りました」

ところが開業した当初、依頼される仕事は給与計算や社会保険の手続き業務ばかりで、本来やりたかった店舗経営者向けの伴走支援ができない状況が続き、今後の経営の方向性について不安と悩みを抱えてしまいます。
そんな時、相談した顧問税理士から紹介され志師塾の存在を知ります。まずはWEB集客の無料セミナーに参加を申し込むことにしました。

「信頼する税理士のすすめだったので、迷うことなく志師塾の門をたたきました。それまでは特に営業活動をしていなかったこともあり、WEBマーケティングの知識を習得することで、営業・集客活動に役立てばと思ったのがその理由です」

他の社労士事務所や人事コンサルタントとの差別化を実現するために、インターネットやSNSでどのように情報発信すればよいか、そのノウハウを習得して人事コンサルタントの仕事を獲得したい。石上さんは期待に胸を膨らませて入塾します。

3.1 期待とは異なるカリキュラムで得たもの

しかし、始まった講義の内容は石上さんの期待とは全く異なるものでした。
「全くWEBの話が出てこない。入塾して最初に取り組んだ課題は『人生の棚卸し』ですが、これがとても大変でした。自分の今までの人生を振り返り、これまで取り組んできたことや、楽しかったこと苦しかったこと、成功体験だけでなく、挫折したこともすべて洗い出す作業で、この『人生の棚卸し』を最低でも2万字以上書き出さなければならず、四苦八苦しました」
普段は社労士として経営者に「会社の理念を書き出してください」と口酸っぱく言っている立場なので、耳の痛い思いをしながら、受講生の仲間とディスカッションを重ねて何とか書き上げたそうです。

この作業を通じて自分自身の強みや、将来実現したいことを改めて整理することで、今後の事業の方向性が明確になったと石上さんは振り返ります。
「開業したばかりで自信の無かった私でも、自分の持っているものや経験を改めて見つめ直して再構築することで、半年間という短期間で自分のビジネスを再構築できたことが、志師塾での最大の成果ですね」

3.2 「とんがりポジション」で店舗運営専門の社労士の肩書を確立

他にも印象的だったのが、「とんがりポジションを作る」という課題です。マーケティングの基本ともいえるポジショニングですが、講師の先生から自分の事業分野を絞りこむことの重要性を指導されます。得意分野を絞り込み、尖った事業戦略にしないとクライアントに伝わらないと指導されますが、最初は分野を絞ることが怖かったといいます。

「『店舗運営専門の社労士』という肩書を作ることはできましたが、店舗運営に絞り込むことで、他業種の企業からの依頼が全く来なくなるのではないか、今の顧問先からも仕事を断られるのではないかと、不安しかありませんでした」

そんな石上さんの不安はその後の講義で杞憂に終わります。
いよいよ始まったWEBマーケティングの事業で、実際にTwitterを活用して、フォロワーを1,000人作る課題に取り組んだ時のことです。プロフィールには「店舗運営専門の社労士」の肩書を書き、メーカーの顧問先から契約を解除されるのではないか、不安を抱えてのスタートでしたが、そんな問い合わせは一切ありません。むしろ、SNSを通じて多店舗展開を支援している税理士からの人事評価支援の相談依頼や、フランチャイズ本部から店舗運営の相談依頼が来るようになりました。業界特化のポジショニングを実現したことで、同業者である社労士からの相談や紹介案件も増えて、全般的に案件がうまく回り始めます。

「この課題を通して、『店舗運営専門の社労士』という自分の肩書を確立できたのは、大きな財産になりました」

3.3 志師塾で得た、かけがえのない財産とは

また志師塾でのチームの学びを通して、大切な仲間ができたことも大きな財産になりました。
同じチームに設計士や保険の代理店、人事コンサルのメンバーがいて、ジョイントベンチャーの様なお客様の悩みを解決できるビジネスチームができたり、自分のビジネスを見つめ直してアドバイスしてくれる仲間ができたり、多様な業種のメンバーが集まっていることで、様々な業界知識を吸収できたり、お互い仕事の紹介ができるようになりました。さらに半年間毎週ミーティングをするので絆の強い仲間ができ、志師塾の仲間とは今でも交流が続いています。

「お互い切磋琢磨しながら、セミナーを開催する時はダメ出しや壁打ちもしてくれる。自分の『人生の棚卸し』を一緒に考えて、理解してくれている仲間なので、時には耳の痛い、キツイダメ出しをされることもありますが、素直に聞き入れることができる。本当に一生ものの財産です」

そして志師塾の学びの総仕上げとして、自分にしかできないビジネスモデルを作成します。
それが今までの人事の経験や店舗運営のノウハウを言語化した、多店舗展開に必要な「5つの人事ステップ」です。

「5つの人事ステップは、『ちゃんと』がキーワードです。当たり前のことを当たり前に実行する。一見すると難しいことではありまでんが、意外と中小企業ではできていないことが多い。例えば未払残業があったり、社会保険に加入していなかったり、法律では義務化されていることが、資金の面でも知識の面でもできていない中小企業が多く存在します。やるべきことを、社長に寄り添いながら一緒に作る。社労士として会社のためにも、従業員を育てて定着させるためにも、ちゃんとやることを社長さんには知ってほしいと思っています」

4.ひと(人材)を大事にすることで日本を幸せにしたい

これまで大企業の人事担当として、そして経営者として人材開発・育成に携わってきた石上さん、将来は日本人の人材価値を高めていきたいと強調します。

「これまで人事一筋で仕事をしてきました。これからも人と組織の成長過程を支援することで、素晴らしい商品・サービス・システムを世の中に広めていくお手伝いがしたい。店舗ビジネスでは、経営者と従業員がWin-Winの関係で互いに高め合い成長できる職場環境作りの支援を通じて、人材育成や業績向上に貢献することが私の志(こころざし)です」

ひと(人材)を大事にすることで、世の中に素晴らしい商品・サービスが広がり、その結果、経営者、従業員、顧客、ひいては日本全体を幸せにしたい。そう語る石上さんの落ち着いた口調の中には、熱い想いが詰まっていました。

文:細田哲也(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部

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