今回話を伺ったのは中国語が話せる行政書士・社会保険労務士の大西祐子さんです。大西さんは主に中国人経営者の会社設立やビザ、労務手続きなどを支援しています。
現在は“中国人経営者の法の伴走者”として日本に暮らす中国人の人生全体を支える存在として、顧客に密接したサポートを提供しています。現在のお仕事に対する思いや志師塾での学び、今後についてお話を伺いました。
1.中国人経営者の右腕としての行政書士・社会保険労務士業務
“中国語が話せる行政書士・社会保険労務士”として、主に中国人経営者のサポートを行っている大西さん。現在は、主に日本で起業を目指す中国人のクライアントに対し、会社設立から経営管理ビザの取得、社会保険の手続き、従業員のビザ申請や労務対応など、いわばバックオフィス機能のすべてを担っています。
行政手続きと労務管理を一気通貫でサポートできるのは、大西さんが行政書士と社会保険労務士の2つの国家資格を持つからこそです。クライアントからは、ビザが通った後の労働・雇用管理まで、ワンストップで任せられるため、とても安心感があると評価されています。
大西さんが行政書士・社会保険労務士として本格的に独立したのは2017年。以来、主に中国人経営者に寄り添う専門家としての道を歩み続けています。
2.ビジネスの柱は在留中国人向けサポート
2.1 中国語との出会いと惹かれたきっかけ
もともと語学が好きだった大西さんは、大学の副専攻で中国語を選び、さらに学びを深めるために1年間の北京留学に行きました。そこでの出会いや体験が、その後の人生に大きな影響を与えることになりました。
「北京留学中に様々な場所に遊びに行き、そこで多くの方が本当に親切にしてくださいました」と大西さんは語ります。こうした温かい交流や、中国の広大な土地、文化の多様さに触れたことで、中国とつながりたい思いが深まりました。
大学卒業後は、中国での商品開発や輸出入を担う企業に就職し、中国語を活かしながら物流、生産管理、カタログ販売向けの卸売り業務など、幅広い分野に携わりました。
「中国人を相手にする仕事は大変なことも多いですが、やはり楽しく感じます」と語る大西さん。
「親切にしてもらった国って、忘れないものなんです。だから私も、日本に来た外国の方々が最初に出会う日本人として、少しでも安心を届けられる存在でありたいと思っています」
2.2 行政書士との出会い
当時、試験ブームで行政書士の資格を知ることになりました。同僚が受けるという話を聞いて、興味本位で受験し、試験に合格しました。
翌年には第一子の出産もあり、すぐに開業には踏み切れませんでしたが、最初は通信教育講座の講師として、活動を始めました。
2.3 入管業務をきっかけに始まった独立
講師仲間ですでに行政書士として開業していた先生に、「中国語ができるなら、入管業務をやったら?」と勧められたのがきっかけで入管業務を始めることになりました。
現在では注目される分野となっている入管業務ですが、大西さんがこの業務に取り組み始めた9年前は、まだ対応している行政書士がそれほど多くありませんでした。
「今でこそ人気の分野と聞きますが、当時は本当にやっている先生が少なかったんです」と振り返ります。
当時から「中国語が話せる行政書士」と名乗り、ブログでもその強みを発信し続けていた大西さん。実際には業務の実績がまだ多くなかった時期でも、「入管業務をやりたい」という姿勢を打ち出していたことが、結果的に「やっている」「できる」といったイメージにつながり、紹介が舞い込むようになりました。
「最初からやりたいことがはっきりしていたので、迷いはありませんでした」
無理に差別化を図ったわけではなく、過去の経験とスキルを自然なかたちで活かすことで、結果的に独自のポジションを確立していったのです。やりたい仕事をやりながら、しっかりと依頼もいただける、とても良い環境で事業をスタートすることができました。
2.4 行政書士×社会保険労務士×中国で広がる事業領域
行政書士の資格取得後は、先述の通り通信教育講座の講師として5年間、受講生に合格のためのノウハウを伝える日々を過ごしていました。そんな中、講師仲間の間で「社会保険労務士受験ブーム」が起きます。
大西さんは、今まで生徒にこうすれば合格できると伝えてきた立場でしたが、それが本当か自分で試したくなり社会保険労務士試験を受験することを決めました。
結果として、この社会保険労務士資格の取得が現在の業務に広がりをもたらしました。行政書士として取り扱っていた「経営ビザ」や「従業員のビザ申請」といった業務に加え、社会保険労務士としての立場から、社会保険の手続きや労務管理にも対応できるようになったのです。
中小規模の中国人企業の中には、日本の労働法に対する理解が不十分なまま運営されているケースも多いといいます。だからこそ、行政手続きに加えて、労務や雇用管理といった領域までサポートできる大西さんのような存在が必要とされているのです。
中国語×行政書士としての中国人の在留支援、入管知識×社会保険労務士としての労務支援、これらの掛け合わせにより、大西さんは独自のポジションを築いています。
3.志師塾での学び
3.1 志師塾に参加した理由とは
大西さんが、志師塾に参加したのはコロナ禍の少し後、2023年頃です。
当時、大西さんはすでに行政書士・社会保険労務士として独立され、中国人経営者の支援を中心に実務を重ねる中で、日本に住む外国人のニーズが大きく変わりつつあることを感じていました。中でも技能実習生や特定技能に関する法改正が始まったばかりで、外国人雇用に対する企業側の理解も不十分な状況でした。
この領域にちゃんとアプローチしてみようと考え、初めてオンラインでセミナーを開催。タイトルは「外国人雇用の法律がすべてわかるセミナー」です。ところが、参加者は経営者ではなく、同業の行政書士や社会保険労務士ばかりでした。
「今考えると当然なんですが、経営者は法律を知りたくないんですよね。知りたいのは、同業者だったんです」
それでも、開催後の無料相談で「入管業務をやっていきたいので教えてほしい」と声をかけられたことがきっかけで、講座化する流れが生まれました。最初は2名の受講者から始まり、次第に人数も増え、価格も10万円から20万円へと上がっていきました。自身の専門知識を伝える機会が少しずつ広がっていったのです。
その過程で課題になったのが、「どうやってお客さまを集めたらいいのか」という点でした。
「私はずっとブログを書いていただけなので、それがたまたまうまくいっただけなのか、他の人に教えられる方法なのか、わからなかったんです」と、大西さんは当時の戸惑いを振り返ります。
そこでマーケティングや営業の知識をしっかり身につけるために、志師塾に入塾することにしました。コロナ禍で少し時間的な余裕があったことも、学びを始める後押しになったようです。
3.2 志師塾の学びで得たもの
志師塾はビジネスを体系的に学べたことが一番大きかったと大西さんは言います。もし今の仕事をやめたとしても、新しい商品をつくって、同じ流れでビジネスができる。つまり再現性があります。
また、志師塾を通じて得た人脈も、大きな財産になりました。現在では志師塾のメンターとして活動され、さまざまな起業家と接点を持つようになります。それにより、行政書士や社会保険労務士の世界では出会えないような、いわゆるマーケッターの方々と話す機会が増えました。
「起業家の皆さんは視点が幅広く、士業にありがちな固定概念にとらわれない、ビジネス的な考え方が身についた」と大西さんは語ります。
独立士業として実務に取り組みながらも、自らの知識を体系化し、他者に教え、さらに新たな視野を広げていく。志師塾での学びや経験は、大西さんのキャリアを次のフェーズへと導く役割を担っています。
3.3 原点となった「二軸戦略」
志師塾の学びで原点となっているのは「二軸戦略」です。二軸戦略とは自分の強みを掛け合わせることで差別化を図る戦略です。たとえば1万人に1人の存在になるためには、1つの専門性で突出できなくても、複数のスキルや経験を組み合わせることで、独自の価値を持つことができます。
行政書士は、それぞれに前職の経験が多様なため、その経験を活かして手続き業務にとどまらないビジネスを展開できる可能性があります。資格を複数持っていること自体が強みになるかどうかは、「何をするか」というビジネスの方向性次第です。ただ資格が多ければよいとは限りません。
実は大西さんは、中小企業診断士も取得しようかと考えたことがありました。経営管理ビザの場面では、中小企業診断士の一筆が必要になることもあるからです。しかし、実際には顧問税理士の証明で済む場合も多く、自分ですべてを抱え込まず、信頼できる専門家と連携した方がうまくいくのでは考えました。
会社設立時の登記も司法書士に依頼していますが、逆にその司法書士から社会保険労務士案件が紹介されることもあります。大西さんは、人と人のつながりが大切だと日々痛感しています。
4.終活支援や顧問契約まで広がるその先の事業展開
今は中国人経営者向けの支援を中心に安定的に事業を継続できていますが、いつまでもこのプチバブル状態が続くわけではありません。だからこそ、将来的に必要とされる分野へも準備を進めたいと考えています。
今後は、「外国人経営者の法的な伴走者」として、さらに幅を広げていきたいと大西さんは語ります。これまで手を付けていなかった、終活、遺言、相続といった領域への展開も視野に入れています。
現在、日本に住む外国人の数は増加傾向にあります。とくにベトナム人の増加が顕著で、相対的に中国人の存在が目立ちにくくなってはいるものの、依然として大きな市場があることは間違いありません。
「軸足は日本にいる中国人の方々。その方々の生活と人生を、最初から最後まで支えられるような存在になりたいんです」と大西さんは語ります。
たとえ現状が変わっても、「また志師塾で学んだメソッドを使えば、新しいビジネスを展開できる」と、未来に向けて柔軟な視点を持っています。
好きだった中国語を活かすところからスタートしたビジネス。専門性を深めながらも、人とのつながりを生かし、時代のニーズに応じて事業を展開していく大西さんは、これからも強みが発揮できる独自のフィールドで活躍されることでしょう。
文:野村英樹(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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