
「弁護士が営業をするなんて」。独立した方から、いまでもこの声を聞きます。抵抗があるのは自然なこと。実際この職業では、他の士業のように売り込みへ踏み出すこと自体が難しいという事情もあります。
ただ、事務所を続けるには依頼が要ります。ここで押さえておきたいのは、弁護士の営業は「売り込む営業」ではないという前提です。制度の側からも、依頼者の心理の側からも、そもそも押す営業は成り立ちません。残されているのは、向こうから来てもらう設計のほうです。
この記事では、先生業(士業・コンサルタント・コーチ・講師など)の集客・顧客獲得支援を専門としてきた志師塾が、弁護士の営業を3つのコツに整理して解説します。
- コツ1:営業の前に「思い出される理由」を設計する
- コツ2:紹介元に「思い出す言葉」を渡す
- コツ3:個別相談60分を型にする
合わせて、独立後の年収を左右する構造にも触れます。まずは、弁護士の営業がなぜ他の職業と違うのかから確認しましょう。
1. 弁護士の営業が難しいのは、性格のせいではない
営業が苦手だという自覚を持つ方は多いものです。ただ、うまくいかない原因は性格ではありません。この職業に固有の構造にあります。
1.1 押す営業は、制度の側でも制限されている
弁護士の発信と営業には、日本弁護士連合会の業務広告に関する規程という前提があります。禁じられているのは、事実に合致しない広告、誇大な広告、誤導や誤認のおそれのある広告、品位を損なう広告など。勝訴率のように受任の判断を誤らせかねない数字の表示にも制限がかかります。それだけでなく、面識のない相手への訪問や電話による働きかけにも制限が置かれています。規程は改正されることがあり、所属する弁護士会ごとの運用もありますから、必ず原文と所属会の案内で最新の内容を確かめてください。
つまり、他の業種が当たり前に使う「こちらから会いに行く」手が、この職業では最初から狭められています。飛び込みも、名簿への電話もできない。ここを知らないまま「営業が下手だ」と自分を責める方が、とても多いのです。
1.2 残っているのは、紹介と発信の2本だけ
押す手が使えないなら、道は絞られます。紹介と、発信です。この2本しかないと分かった時点で、やるべきことははっきりするはずです。
そして、どちらも共通の土台の上に立っています。相手の頭の中に、あなたが思い出される形で入っていることです。紹介元が場面と結びつけて思い出せるか。発信を読んだ人が「この件ならこの先生」と記憶するか。ここを設計するのが、弁護士にとっての営業になります。
1.3 独立後の年収を決めるのは、単価ではなく継続の比率
もうひとつ、独立を考えている方に伝えたいことがあります。年収の見え方についてです。
弁護士の仕事は、事件が解決すればそこで一区切りになります。毎年ゼロから探し直す形のままだと、どれだけ単価が高くても、翌年の見通しは立ちません。反対に、顧問契約や継続的な相談が積み上がっている事務所は、年の初めに一定の売上が見えています。年収の差をつくるのは、1件あたりの単価より、継続の割合のほうです。独立後の収入の考え方は弁護士の独立開業と集客戦略の記事でも解説しています。
2. コツ1:営業の前に「思い出される理由」を設計する
紹介も発信も、思い出してもらえなければ動きません。まずはその材料をつくるところからです。
2.1 「弁護士の○○です」では、記憶に残らない
名刺交換の場面を思い浮かべてください。「弁護士の○○です。民事全般を扱っています」。正確ですが、1週間後には忘れられています。相手の頭に引っかかるものが、どこにもないからです。
比べてみましょう。「従業員30名前後の製造業の労務トラブルを、就業規則の設計から止める弁護士です」。こちらなら、その場面に出会ったときに思い出されます。覚えてもらうのは名前ではなく、場面のほうだと考えてください。
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2.2 「誰の・どんな場面を・どう助けるか」で言い切る
難しく考える必要はありません。手を動かす順番は3つです。
- 手順1:直近3年の受任案件を書き出す。分野、依頼者の立場、どんな状況で来たか
- 手順2:そのうち「解決まで進み、しかも自分が力を発揮できた」ものに印を付ける
- 手順3:印を付けた案件に共通する「相手の立場」「状況」を掛け合わせ、一文にする
できた一文は、自分では判断がつきません。判定はこうしてください。その一文を知人に読んでもらい、「誰を紹介すればいいか」がすぐ浮かぶかどうか。浮かばなければ、まだ絞れていないということです。
「絞ると仕事が減るのでは」と不安になる方は多いものです。実際は逆で、絞るからこそ思い出してもらえます。「何でもご相談ください」は、相手の記憶の中では「何の専門家でもない」と同じ扱いになってしまうからです。
2.3 すべての接点で、同じ一文を使い続ける
ポジショニングのゴールは、相手の頭の中で「この件といえば、あの先生」と最初に思い出される状態(第一想起)をつくることです。これは一度の出会いではできません。
名刺の肩書き、事務所サイトの冒頭、ブログの署名、セミナーの自己紹介、SNSのプロフィール。すべての接点で同じ一文を繰り返すことで、少しずつ記憶に沈んでいきます。志師塾が「ポジショニング先行」を大切にしているのは、この一貫性が紹介を生むからです。手法ごとの整え方は弁護士の集客方法8選にまとめています。
3. コツ2:紹介元に「思い出す言葉」を渡す
弁護士の依頼で最も太い経路が紹介です。ところが、多くの事務所はここを運任せにしています。紹介は、渡し方を変えるだけで動き出します。
3.1 紹介が動かないのは、相手が場面を持っていないから
「何かあったらよろしくお願いします」。この頼み方では、何も起きません。相手は善意で受け取りますが、いざ相談を持ちかけられたときに、あなたを思い出す引き金がないのです。
渡すべきは、場面そのものになります。「経営で困っている社長がいたら」ではなく「辞めた社員から内容証明が届いた社長がいたら」。相手が実際に遭遇する場面の言葉で渡すと、その場面に出会った瞬間にあなたの顔が浮かびます。
3.2 紹介元の顔ぶれを、先に決めておく
誰に渡すかも大事です。弁護士の紹介元は、たいてい次の5つに整理できます。
- 他士業:税理士、社労士、司法書士、行政書士。顧問先を抱え、相談を受ける立場にいる人たち
- 金融機関:取引先の事業承継や債権の相談から、話が回ってくることがあります
- 保険代理店・不動産会社:相続や賃貸のトラブルで生まれる接点
- 同業の弁護士:分野が違えば競合ではありません。専門を絞るほど回してもらえます
- 過去の依頼者:解決した経験を、知人に話してくれる立場にいます
この中でも、同業からの紹介は見落とされがちです。「弁護士に紹介を頼むのは変では」と考える方がいますが、専門が違えば話は別。絞っている弁護士ほど、同業から仕事が回ってきます。
3.3 まず、紹介を返す側に回る
紹介は一方通行では続きません。もらうことを考える前に、こちらから回してください。相続の登記なら司法書士、就業規則なら社労士、税務なら税理士。日々の相談の中に、渡せる場面はいくつもあります。
返せる相手を持っておくことは、依頼者にとっても利益になります。「自分の担当ではない」で終わらせず、次につなげる弁護士は覚えられるものです。紹介は、紹介し合う関係からしか生まれません。日常の関係づくりは弁護士のFacebook集客、直接会う場のつくり方は弁護士のセミナー集客で解説しています。
なお、こうした「紹介が動く伝え方」の土台を先につかみたい方は、「先生業の顧客獲得を成功させる7つの能力」をまとめた無料資料をご活用ください。
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4. コツ3:個別相談60分を型にする
紹介や発信で人が来ても、最後の面談で決まらなければ意味がありません。ここは型にしておきましょう。
4.1 60分の進め方を決めておく
行き当たりばったりで臨むと、話を聞くだけで時間が終わるか、逆に手続きの説明ばかりになります。志師塾では、おおよそ次の型をおすすめしています。
- 最初の5分:この時間の目的を先に伝える。「今日はご依頼を決めていただく場ではなく、状況を整理する時間です」
- 次の20分:経緯を聞く。時系列、手元にある書面、相手の出方。ここは聞き役に徹する
- 次の15分:聞いた話をその場で整理して返す。「論点は3つ、先に手を打つべきはこれです」と示す
- 次の10分:自分で進められることと、弁護士が入るべきことの線を引く
- 最後の10分:依頼する場合の進め方・期間・費用を伝える。金額は言い切って、そのあと黙る
この型の肝は、真ん中の15分にあります。相談者は、自分の状況を自分の言葉で整理できていないことがほとんど。目の前で整理して見せられた瞬間に、「この人と話すと頭が片づく」という体験が生まれます。書面を後日届けるより、その場の15分のほうがずっと効きます。
4.2 正直に線を引く人が、選ばれる
4番目の10分を飛ばさないでください。全部を受任しようとする姿勢は、相手に伝わってしまいます。
「この部分はご自身で進められます」「この段階なら、まだ弁護士を入れなくても構いません」。こう言われた相談者は、かえって信頼を深めます。受けない範囲を先に示せる人のほうが、依頼を任されやすいのです。目先の1件を逃しても、その人は次に困ったときに必ず戻ってきます。
4.3 費用は、下げるのではなく範囲で調整する
費用を抑えてほしいと言われる場面もあります。ここで安易に下げると、次の相談でも同じ話が始まりますし、その金額があなたの相場として紹介先へ伝わってしまう。
おすすめは、価格ではなく範囲を調整するやり方です。「ご予算に合わせるなら、交渉のみを先に進めて、その先は状況を見て判断する形にしましょう」。提供する範囲を動かせば、単価は下がりません。応じるかどうかを、その場の空気で決めないことが大切です。
5. 単発の依頼を、顧問契約に変えていく
ここまでが1件を受任するまでの話です。最後は、その1件を毎年ゼロに戻さないための設計になります。
5.1 顧問料の中身を、自分で組み立てる
顧問契約を増やしたい弁護士は多いのですが、つまずく場所は決まっています。「毎月、何をしてくれるのか」が相手に見えていません。税理士のような毎月の法定業務がない以上、中身は自分でつくるしかないのです。
契約書のひな形を年に一度見直す。人事の相談窓口として担当者の連絡を受ける。トラブルになる前の30分の相談枠を毎月確保する。社内研修を年に一度担当する。この並びを1枚の紙にして、初回の面談で見せてください。「この先生がいるから踏み込める」と感じてもらえる型を持つ事務所が、顧問先を長く保ちます。
5.2 事件が終わる日が、次の入口になる
解決の報告をして終わり。これでは、せっかく築いた信頼がそこで途切れてしまいます。終了時こそ、次につながる場面です。
やることは3つ。今後こういう場面では早めに相談を、と具体的に伝えておく。継続的に見る形があることを、その場で紹介する。年に数回、制度の変わり目に短い案内を送る。依頼者が経営者なら、個人の案件から顧問の話につながることも珍しくありません。取り組んだ弁護士の実際は弁護士の成功事例インタビューで読めます。
5.3 AIとの分業で、会う時間を増やす
営業まわりの周辺作業は、AIを使えば大きく短縮できます。面談メモの整理、提案書のたたき台、発信用の文章、業界の下調べ。1件あたりの準備が軽くなるほど、同じ労力で会える人の数は増えていきます。
渡せない部分もはっきりしています。相談者が言葉にしていない事情を引き出すこと。決めきれない社長の背中を押すこと。守秘義務の観点から、具体的な事件の情報を入力しない線引きも事務所として決めておいてください。下ごしらえはAIに寄せ、判断と対話は人が持つ。取り入れ方は弁護士のAI活用術で紹介しています。
6. まとめ:弁護士の営業は「思い出される設計」から
弁護士の営業のコツを、3つに絞ってお伝えしました。
- コツ1:営業の前にポジショニング。「誰の・どんな場面を・どう助けるか」を一文にする
- コツ2:紹介元には「場面の言葉」を渡す。まず自分が返す側に回る
- コツ3:個別相談60分を型にする。正直に線を引き、費用は範囲で調整する
押す営業が制度の側からも制限されている以上、弁護士に残された道は紹介と発信です。どちらも、思い出される形で相手の記憶に入っているかどうかで決まります。そして、単発で終わらせず継続へつなげられるかどうかが、独立後の収入の見通しを変えます。
明日から手をつけるなら、この3つからどうぞ。
- 直近3年の案件を書き出し、「解決まで進み、自分が力を発揮できた」ものに印を付ける
- その共通点から自分を一文で言い表し、知人に読んでもらう
- よく会う他士業に、「この場面に出会ったら思い出してください」と場面の言葉で伝える
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