日本の8士業のひとつになっている弁理士。1899年(明治32年)に「特許代理業者登録規制」が施行され、特許の代理業者が登録されたのが始まりです。
弁理士は特許、商標、意匠などの知的財産法に精通しています。従来は特許庁への申請代行が主な業務でしたが、2000年に弁理士法の全面改正が行われ、知的財産に関する仲介業、差し押さえの代理業、コンサルティングなどが弁理士の独占業務として追加されています。
知的財産の保護・活用によって、科学技術立国日本の産業、経済を土台から支える職業とも言えます。しかしその知名度は低く、有資格者数も11,519人(2021年5月末現在)と、同じ法律の専門家である弁護士や司法書士と比べても少ない状況です。
本記事では、弁理士の仕事の内容と、年収を如何に増やしていくかについて解説します。
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1.弁理士の仕事の実態
1.1 主な仕事
弁理士有資格者の独占業務として、最も需要が多いのは特許庁への申請代行になります。申請には主に特許、商標、意匠の3つがあり、このうち特許申請が年間で約30万件(2019年実績)と最も多いです。特許出願のうち9割以上が弁理士による代理出願と言われており、約27万件の取り扱いになります。
次に多いのが商標であり、年間で約19万件(2019年実績)です。このうち6割弱が弁理士による代理出願となり、約11.4万件の取り扱いになります。最後に、意匠は年間で約3万件(2019年実績)の申請があり、そのうちの7割強が弁理士による代理出願となり、約2.1万件の取り扱いになります。単純にこれらの件数だけを合算すると、年間で約40万件の申請代行需要があると言えます。
出願報酬以外には、知財コンサルティングとして技術相談から企業の特許戦略の策定や開発方針の検討を行う顧問契約、特許出願前や新製品開発の前に行う先行技術調査、さらに工業所有権等に関するライセンス契約等の仲介・代理、税関への輸出差し止め申立て代理業務、工業所有権に関する事件の仲裁手続きの代理業務などが挙げられます。これらの内、申立てや仲裁手続きの代理業務は年間でも数百件と件数が少ないため、主業務となる事は少ないと言えます。
大企業の多くには知財部門が設置されており、顧問弁護士を抱えるケースが多いので、弁理士事務所が大企業を顧問企業にする事は非常に稀だと言えます。大企業は複数の技術分野の知的財産を持つケースが大半で、それぞれの技術分野に精通する必要もある事から顧問となる事は現実的に難しいと考えられます。
顧問契約のニーズがあるのは一部の中小企業、あるいはベンチャー企業などに限られます。こういった会社で顧問として適切な知財戦略を示して信頼を得て、その後の企業の成長を共にできれば知名度も上がり、他の企業からの引き合いも増えていきます。
1.2 報酬金額
以前は弁理士報酬額表によって弁理士の報酬が決められていました。2001年の法改正でこの報酬額表は廃止されて、現在では依頼者との合意を持って自由な報酬体系、金額を設定できます。
特許申請ではその技術内容、特許請求項の数、難易度によっても変わりますが、日本弁理士会が公開している標準的なモデル案件での特許出願報酬は25~30万円/件となります。さらに、特許申請が通った場合には成功報酬も入ります。同様のモデルで商標登録出願では6~8万円/件、意匠登録出願では10~12万円/件になります。
前項で挙げたそれぞれの出願件数を元にすると、特許出願の市場規模は810億円、商標登録出願は91億円、意匠出願は25.2億円となります。金額ベースにしても、特許出願が約87%と最も大きいです。
企業の顧問の場合、単純な出願相談かそれとも知財戦略の構築をするかなどの業務内容により毎月の報酬が変わります。月当たりの顧問業務時間を何時間とするかでも報酬が変わりますが、多くの弁理士事務所は月額3万円から10万円程度となる事が多いようです。一般的には大きな会社ほど顧問料が高くなります。ただし、顧問契約を結んでいる企業からの出願時には、報酬の割引を行う事もあります。
1.3 特許市場の需要と弁理士の供給の推移
日本における特許出願件数は1990年代後半には毎年40万件を超える水準にありましたが、2006年から減少傾向にあり、2019年には30万件台へと落ち込んでいます。しかし、特許出願が認められて権利化された特許件数を数えると、平成18年には16.3万件でしたが平成26年には18.4万件と微増しています。
これらの傾向から、企業側が特許出願時に慎重になっている、知財戦略において量から質への転換が進んでいると言えます。企業が慎重になり特許の出願件数が減る事は、弁理士にとって市場縮小を示します。一方で質への転換に目を向けると、後述する品質の高い出願書類を作成する事への需要が増えているとも言えます。
1900年代には弁理士数の増加数が毎年100人未満で1999年時点の弁理士数は4,309人でした。しかし2000年以降は免除規定や政策により合格率が向上した事で2005年には単年で568人も増加しています。そのような結果、令和3年5月末時点での弁理士数は11,519人となり、約20年で約2.5倍にもなりました。
以上の通り特許出願数が減り市場縮小する一方で弁理士数が増えた事から、2000年から20年もの間で弁理士の平均収入が低下傾向にあったと考えられます。
1.4 働き方の形態と年収
弁理士の資格を取った後の働き方としては、企業の知財部門勤務、特許事務所勤務、独立開業となどの形があります。日本弁理士会が2013年に出版した弁理士白書によると、弁理士全体に占める企業勤務の弁理士数は21%、特許事務所勤めは29%、特許事務所の経営者は24%となっています。資格を直接的に活かせる特許事務所で働く人が29%と最も多いですが、特許事務所の経営者も24%もいるため企業や特許事務所での特許出願業務を一通り覚えた後には独立開業する人が多いと考えられます。
1.4.1 企業内弁理士の場合
会社の人事方針によって配属される部署が変わってきます。弁理士として知財部門にずっと留まる場合や、数年ごとに部署が変わる事もあります。同じ部門で専門性を活かし高める事と様々な部門で組織を俯瞰的に把握する事を考えるとどちらも一長一短ではあります。自分自身の希望と合う事が理想なので、会社の人事方針の確認や上司へ希望するキャリアプランを伝える事が大切になります。
知財部員として期待される事は、知財創出の支援、出願権利化、権利活用、他社特許の監視と分析、自社の知財戦略の立案と実行などが挙げられます。年収については会社規模、業種、社内での役職によっても変わりますが知財部門がある会社は大企業が多く平均600万~1,000万円と言われています。
1.4.2 弁理士事務所に勤める場合
自分自身が得意とする技術分野を扱う事務所に入所するケースが一般的です。あるいは、今後も技術発展が見込まれるAI技術や再生医療に関する特許出願を得意とする事務所に入所する事も今後の収入を増やすという点では非常に有利と言えます。
特許事務所では補助者及び事務員を雇うのが一般的で、そのため弁理士が本来の仕事に専念しやすい環境とも言えます。年収については事務所の地域や規模、主とする出願内容にもよりますが、平均700万~1,000万円と言われています。
1.4.3 独立して特許事務所の経営者となる
経営者になる場合、技術的な専門スキル以外に顧客を確保して継続的に依頼をもらえる関係性を構築するスキルが必要となります。独立直後で顧客がいない場合、独立前に勤めていた会社の取引先などに仕事の依頼を頼みたくなるところです。しかし、そうして仕事を受けると顧客収奪行為となり、訴えられる場合があります。
そのため独立前には異業種交流会などで人脈を広げておくと、独立後の営業活動も円滑にできます。営業活動の方法として企業向けにDM を送る事、飛び込みで営業する事も考えられますが、信頼関係が無い状態でこのような営業活動を行っても契約に結び付ける事は難しいです。
そのため無料セミナー・相談会を通じて顧客との関係性を作り、その後の契約へと結び付ける事が一般的な流れとなります。仕事をきちんと行い実績を積み上げて、信頼を得る事ができれば、その後の他社の紹介にも繋がります。
年収については、一人だけの個人事務所であれば1,500万円程度が上限と考えられます。しかし、経営者として顧客を確保して弁理士を雇い売上を増やす事ができれば、より多くの収入が期待できます。
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2.高収入を目指すための3つのポイント
弁理士として収入を増やすには、依頼量の増加と報酬単価の向上が必要になります。ここでは3つのポイントを紹介します。
2.1 品質向上
弁理士の主な仕事は特許出願です。企業からの依頼に応じて技術開発者の元へ行き、技術内容のヒアリングを行います。技術者に開発した技術内容を説明してもらい、その技術的思想(いわゆるアイデア)を理解して特許出願します。単に聞いた内容をまとめただけでは、他の弁理士との差別化ができません。差別化のためには品質を高める事、「強い特許」である事が重要となります。
「強い特許」は、発明の技術的範囲ができるだけ広い事と、発明の要旨が限定されている事の相反する2つを満たします。相反する2つをバランス良く満たすためには企業の経営戦略や得意とする製品を把握している事と、その技術分野での高い専門知識を身に付けている事が必要になります。品質向上ができれば顧客の満足度が上がり、依頼の増加や他社の紹介にも繋がり収入を高める事ができます。
2.2 語学力の向上
日本国内の特許出願件数は減少傾向にありますが、全世界の特許出願件数は2008年に200万件足らずだったのが2018年には330万件と約1.6倍になっています。経済成長率の高い海外市場が重視されている事から、2000年代前半には1万件足らずだった外国出願が、この20年の間に5万件にまで増加しています。
外国出願をする場合、その国での特許要件を確認するために先行技術調査を行う事が必要となり、高い語学力が求められます。高い語学力を持っていれば、年々ニーズが高まっている外国出願において報酬単価を引き上げる事を顧客に交渉する事が期待できます。
2.3 ベンチャー企業の支援
特許事務所を開いた場合、収入を増やすためには顧客と依頼を増やす事が大事ですが、既存企業はすでに他の特許事務所との繋がりもあるため、出願件数が減少傾向の中で依頼を増やす事は困難です。そこで取引先として有望になるのが新分野の企業です。AI、VR・AR、バイオなどの分野では特許出願件数が増えており、ベンチャー企業も増えています。
成長が見込まれる分野での専門知識を高めて、ベンチャー企業の知財相談・支援を行う事で、依頼を受ける事が可能となります。信頼関係ができれば、他の会社を紹介してもらえる可能性も高まります。成長が見込まれる分野に特化する事で、顧客企業や新業種の成長に合わせて、より多くの仕事を受注できる事が期待できます。
3.これからの弁理士のニーズ
現在はVUCA時代の時代と呼ばれており、インターネットによる情報共有が進み欧米に加えて中国・インドの技術発展も著しく、論文数・特許件数が世界的に増えています。今後も技術発展がますます加速していき、日本もこれまで以上に厳しくなる世界との技術競争に勝ち抜く必要があります。
天然資源が乏しく、人口も減少している日本にとって、製品の模倣を防ぎ、製品の付加価値を高める知的財産は重要な経営資源と言えます。
特許出願時には会社の製品バリエーションや経営戦略に基づいた特許請求の範囲を提案する事や他の特許の侵害にならないように請求する事が弁理士には求められ、AI等による代替も容易には進まない業務と考えられます。そのため、当分の間は現状のニーズを維持していくと考えられます。
「高収入を目指すための3つのポイント」を参考に、弁理士の年収を高めていただけると幸いです。
文:向井 裕人(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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