
セミナーを開いても席が埋まらない。埋まっても、終わったあとの相談につながらない。不動産鑑定士がこの2つでつまずくとき、原因は話し方の巧拙ではありません。
先に結論を書きます。つまずきの正体は、「鑑定士に何を頼めるのか」が知られていない状態を飛ばして、セミナーの中身から考え始めていることのほうです。不動産といえば売買や賃貸の仲介を思い浮かべる人が大半で、鑑定の使いどころは広く知られていません。認知度の不足は、国土交通省と日本不動産鑑定士協会連合会の会議でも業界の課題として名指しされているほどです。
この記事で扱うのは、次の4つの手順です。
- 手順1:誰に向けて開くかを決める
- 手順2:話す中身を、相手の判断に寄せる
- 手順3:集め方と開催方法の選び方
- 手順4:個別相談につなぎ、その先の継続の関係まで設計します
前半には、国土交通省の統計から「そもそも誰に向けて開くのか」を置きました。後半は当日の組み立てと出口の設計、そして志師塾の卒業生2人が実際にやったこと。先生業(士業・コンサルタント・コーチ・講師など)の集客・顧客獲得支援を専門としてきた志師塾が、公的な統計と公開済みの実例をもとに解説します。読み終えるころには、次の一回を「誰のために・何をゴールに」開くかまで決まっているはずです。
目次
知られていない仕事は、場を持った人から順に相談が入ります。ただ、開く前に決めることが1つあります。誰に向けて開くのか、です。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、その相手の決め方を先生業の実例で扱っています。
1. 不動産鑑定士のセミナー集客が効く4つの理由
不動産鑑定士のセミナー集客とは、鑑定の使いどころを知らない相手に自分から場をつくって伝え、そこから相談を生む集客手法のことです。志師塾では、先生業がWebで集客するには関係性を構築する仕組みが要るとお伝えしています。目に見えないサービスを、それなりの金額で提供する仕事だから。Webで関係を育て、リアルの接点へつなぐ。その接点のひとつがセミナーです。
1.1 仕事の中身が知られていないぶん、伝える場に価値がある
不動産鑑定士は、その名のとおり不動産を鑑定する仕事です。ただ、「鑑定」の中身や目的まで知っている人は多くありません。相続の場面で使えること、共有物の分割や立退きの交渉で根拠になること、事業承継や同族間の売買で税務の裏づけになること。知らなければ、依頼という発想自体が生まれないままです。
これは感覚の話ではありません。国土交通省と公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会がまとめた「業務領域の拡大等を通じた不動産鑑定士の担い手確保に向けて(論点整理)」(令和7年3月)には、鑑定士へのヒアリング結果として「地方では不動産鑑定士の認知度がまだまだ不十分である」「何かあったときの不動産の相談は不動産鑑定士に、ということを国民の皆さんに認識してもらうことが重要である」という声が並んでいます。打ち手として同じ発言のなかで挙がっていたのは、無料相談会の開催や、地域のイベント等で相談ブースを出すといった取組です。
知られていない仕事は、知ってもらった人が最初の依頼者になります。セミナーは、その「知ってもらう」を一度に複数人へ届けられる場です。しかも、聞いた人が自分の知り合いに話すことで、認知はさらに広がっていきます。
1.2 顧客から見ると「無料の個別相談」はハードルが高い
無料の個別相談は、先生業の営業手法としてよく使われる形です。無料で相談に乗るのだから、相手にとっても得なはずだと考えます。ただ、顧客の側から見て本当に「無料」でしょうか。
「無料ほど高いものはない」という言葉があるように、相談の後には「しつこく営業されるのでは」という不安がつきまといます。無料相談は原則としてマンツーマンの対面です。断るときのことを考えると、申し込むのに勇気が要ります。
セミナーの利点は、参加者が複数いることです。周囲に人がいるだけで、一人ひとりの警戒感はやわらぎます。無料相談を敬遠していた相手でも、セミナーなら足を運びやすい。営業を感じさせる空気が、個別相談より薄いのです。
1.3 セミナーは「先生」の立場をはっきりさせる
セミナーに参加した人は、登壇者を「先生」という目で見るようになります。主催するのがあなたなら、講師の立場は自然に手に入ります。
開催前、参加者と講師の間には心理的な距離があるもの。講師をよく知らない相手なら、その距離はなおさら大きくなります。ところが、あなたが参加者にとって役立つ話をした瞬間、その人の頭の中で講師は「先生」に変わります。この瞬間が、セミナーが顧客獲得につながる理由です。参加者が自分から「この先生にお願いしよう」と思えば、営業をしなくても依頼が生まれます。

1.4 「何を頼めるか分からない」のは、自治体や専門家も同じ
4つ目は、意外に見落とされている点です。認知の不足は一般の方に限った話ではありません。先ほどの論点整理には、地方公共団体へのヒアリング結果として「不動産鑑定士にどのような業務を依頼できるのか、地方公共団体に十分に認識されていない」という一文が載っています。公有財産を売るか貸すかの検討でも鑑定士への相談ニーズはある、というのが同資料の見立てです。事業用地の買収で地権者に説明する場面でも、専門家のサポートを求める声が出ていました。
発注する側が「頼めること」を知らないなら、伝える場をこちらから用意すればよい。ここが、セミナーという手法が不動産鑑定士に効く4つ目の理由です。相手は一般の方だけでなく、自治体の担当者、税理士、弁護士、金融機関の担当者にも広がります。セミナーを「集客の手法」ではなく「認知をつくる装置」と捉え直すと、開く相手の候補は一気に増えます。
2. 不動産鑑定士のセミナーは「誰に開くか」を数字で決める
不動産鑑定士のセミナーの相手選びとは、感覚ではなく公的な統計から「誰に向けて開くか」を決める作業のことです。セミナーの成否は、告知文でも会場でもなく、誰に向けて開くかでほとんど決まります。ここを思い込みで決めると、努力の方向がずれたまま回数だけが積み上がる。材料は感覚ではなく統計から取れます。国土交通省が毎年公表している不動産鑑定業者の事業実績と、先ほどの論点整理。この2つから、セミナーの相手選びに直結する4つを取り出しました。
2.1 鑑定評価の依頼元は7割が法人。個人からの直接依頼は4.9%
まず見ておきたいのが、鑑定評価そのものの依頼元です。「一般の方向けの相続セミナーを開こう」と考える前に、この内訳を知っておく価値があります。

| 依頼先 | 合計 | 大臣登録業者 | 知事登録業者 |
|---|---|---|---|
| 不動産関連事業法人等 | 34.8% | 58.7% | 11.6% |
| その他民間法人 | 20.6% | 13.4% | 27.7% |
| 地方公共団体等 | 18.9% | 3.5% | 33.8% |
| 金融機関 | 15.2% | 21.2% | 9.4% |
| 国・独立行政法人等 | 5.6% | 2.1% | 9.0% |
| 個人 | 4.9% | 1.1% | 8.6% |
出典:国土交通省「不動産鑑定業者の事業実績」令和7年・依頼先別の集計。不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価(価格評価)77,420件の件数構成比。
民間法人の3区分を合わせると70.6%。個人からの直接依頼は4.9%にとどまります。ここだけを見ると「一般向けのセミナーは筋が悪い」と読めそうです。
ただ、登録区分で割ると景色が変わります。知事登録業者に限れば個人からの依頼は8.6%で、大臣登録業者の1.1%の約7.8倍。地方公共団体等も33.8%を占めています。地場の事務所にとって、個人と自治体はどちらも現に依頼が来ている相手です。大臣登録業者が不動産関連事業法人等だけで58.7%を占めるのとは、立っている市場がまるで違います。
2.2 コンサル業務まで含めると、個人の比率は25.4%まで上がる
ここからが、セミナーを考えるうえで最も大事な数字です。鑑定評価だけを見ると個人は4.9%。ところが、鑑定評価の前後で発生する相談・コンサル業務まで含めると、比率は大きく変わります。
論点整理には、コンサル業務に取り組んでいる不動産鑑定業者へのアンケート結果が載っています。221業者から386件の業務について回答が集まったもの。その受注先の内訳が、民間企業165件(42.7%)、公共(自治体等)123件(31.9%)、そして個人が98件(25.4%)でした。

出典:国土交通省「不動産鑑定業者の事業実績」令和7年(鑑定評価の依頼先別)/国土交通省・公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会「業務領域の拡大等を通じた不動産鑑定士の担い手確保に向けて(論点整理)」令和7年3月・コンサル業務アンケート(221業者・386件)。集計の対象と単位が異なるため、傾向を並べて比べる目的で掲載しています。
同じ「不動産鑑定士の仕事」でも、鑑定評価では4.9%だった個人が、コンサル業務では5倍の25.4%まで上がる。この差が意味することは、はっきりしています。個人は鑑定評価書を買いに来るのではありません。「この土地をどうすればいいのか」という相談を持ち込んでくるのです。
セミナーは、その相談が生まれる手前に置く場です。評価書の説明会を開いても人は集まりません。困りごとの解き方を話す会なら、集まります。個人向けにセミナーを開く根拠は、鑑定評価の依頼構造ではなく、相談業務の依頼構造のほうにある。ここを取り違えると、「うちは法人相手だからセミナーは要らない」という結論に早まってしまいます。
2.3 知事登録業者の案件は、半分以上が5,000万円以下の不動産
3つ目は、扱っている不動産の規模です。「一般の方が持っている不動産に、鑑定士へ頼むほどの案件があるのか」という疑問に、数字が答えてくれます。

| 1件当たりの鑑定評価額 | 知事登録業者 | 大臣登録業者 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 26.7% | 3.6% |
| 1,000万〜3,000万円 | 17.3% | 3.8% |
| 3,000万〜5,000万円 | 10.0% | 2.6% |
| 5,000万〜1億円 | 12.5% | 4.7% |
| 1億〜5億円 | 18.6% | 19.3% |
| 5億〜25億円 | 10.3% | 35.1% |
| 25億円超 | 4.5% | 30.8% |
出典:国土交通省「不動産鑑定業者の事業実績」令和7年・1件当たりの鑑定評価額別の集計。不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価(価格評価)の件数構成比。
知事登録業者では、5,000万円以下の案件だけで54.0%。半分を超えています。対する大臣登録業者は、5億円超が65.9%。同じ資格でも、日々向き合っている不動産の大きさが桁違いです。
5,000万円以下の不動産とは、都市部の戸建てや相続した実家、地方の宅地や農地といった、一般の方が現に持っている規模のもの。地場の事務所が一般向けに開く会は、思いつきではなく実際の案件分布に合った選択です。
2.4 テーマの当たりは「利活用」と「相続」。同業も同じ方向を見ている
4つ目は、セミナーのテーマ選びに直結します。論点整理のアンケートは、今後有望と考える/積極的に行いたいと考えているコンサル業務の分野も聞いていました。

| 分野 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 不動産の利活用に関する相談 | 128件 | 22.0% |
| 相続に関する相談 | 124件 | 21.3% |
| 鑑定評価に先立っての鑑定評価の条件、対象確定等の相談 | 76件 | 13.0% |
| 公的土地評価実施にあたっての相談 | 65件 | 11.1% |
| 都市開発・まちづくりに関する相談 | 60件 | 10.3% |
| 市場調査・需要予測等の相談 | 58件 | 9.9% |
出典:国土交通省・公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会「業務領域の拡大等を通じた不動産鑑定士の担い手確保に向けて(論点整理)」令和7年3月・今後有望と考えるコンサル業務(選択式・複数回答可、合計583件)。上位6分野を掲載しています。
上位2つは「不動産の利活用」と「相続」。どちらも、当事者の困りごとの言葉そのもの。相続には裏づけも取れます。国税庁の令和6年分 相続税の申告事績の概要によれば、相続財産の金額24兆5,415億円のうち土地が7兆4,074億円で30.2%、家屋を足せば35.0%を占めます。相続税の課税割合は10.4%で、前年から0.5ポイントの上昇。相続財産の3割超が不動産だということは、話し合いでも不動産の比重が大きくなると考えられます。
ここで気をつけたいのは、この表が「同業も同じ方向を向いている」ことも示している点。有望と答えた鑑定士が多い分野は、そのぶん先に手を打っている事務所も多くなります。だからテーマ自体を避けるのではなく、同じ「相続」でも切り口をずらす。誰の相続か、どの場面の相続か。ここを次の章で詰めていきます。
統計そのものは、同業も同じページを開けば手に入ります。分かれるのは読み方のほうです。ここから「では自分は誰に向けて、どんな会を開くのか」という一行を出せるかどうか。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、市場の数字を自分の的の絞り込みに変える手順を、先生業の実例で扱っています。
3. 不動産鑑定士のセミナー集客の手順1:誰に向けて開くかを決める
不動産鑑定士のセミナー集客の手順1とは、テーマより先に「誰に向けて開くか」を決める工程のことです。ここからが本題です。闇雲に開けばよいわけではありません。取り組む順番は、下の4つで固定です。

3.1 一般の方・民間企業・公的機関では、求めるものが違う
2章で見たとおり、不動産鑑定士の依頼元は幅広く、一般の方や民間の事業者だけでなく公的機関もクライアントになります。相手によって関心はまったく違うもの。相続で困っている個人が知りたいことと、資産の再評価を検討する企業が知りたいことは、重なりません。
一般的な営業手法だけで集客がままならないのは、この幅の広さも一因です。全員に向けたセミナーは、結果として誰にも届きません。
選ぶときの目安を、3つの層で整理しておきます。
| 相手 | その人が抱えている問い | セミナーの向き不向き |
|---|---|---|
| 一般の方(相続人・地主・オーナー) | この土地をどう分けるか、貸し続けるか売るか | ◎ 悩みが生活の言葉になっていて集めやすい |
| 専門家(税理士・弁護士・司法書士・金融機関) | 顧客に不動産の話が出たとき、誰に渡すか | ◯ 人数は少なくても1人あたりの波及が大きい |
| 自治体・法人の担当者 | 公有財産や社有不動産の扱いをどう判断するか | △ 公募や研修の形が中心で、開催の自由度は低い |
3つとも狙いたくなりますが、最初の1回は1つに絞ってください。相手が変われば、集める場所も、話す言葉も、終わったあとの出口も全部変わります。3種類に流用しようとすると、どれも中途半端になるのです。
3.2 「誰の・どんな不動産の悩みを・どう解決するか」で言い切る
相手が決まったら、次は立ち位置を言葉にすること。志師塾では事業コンセプトを「誰に・何を・どのように」の3点で言い切るようお伝えしていますが、鑑定士の場合は「誰の」「どんな不動産の悩みを」「どう解決する」鑑定士なのか、と置き換えると考えやすくなります。この3つが埋まれば、セミナーのタイトルは自然に決まります。
「兄弟で相続した土地の分け方に困っている方へ」といった一言(あくまで例です)なら、当てはまる人はすぐ「自分のことだ」と気づくもの。「不動産鑑定の基礎知識セミナー」では、誰が来ればいいのか分かりません。
「絞ると人が集まらないのでは」という不安は自然なものです。実際は逆で、絞るからこそ「これは自分のためのセミナーだ」と思ってもらえます。志師塾では、道具や施策に手を付ける前にこの設計を固めるポジショニング先行の考え方を大切にしています。ポジショニングとは、無競争状態で顧客に選ばれる独自の場所を決めることです。
ここで注意したいのが、実際にやる業務まで絞る必要はないということ。絞るのは、お客様に認知してほしい場所だけです。「賃料改定のことなら、あの鑑定士」と覚えてもらったうえで、相談が来てから相続や売買の依頼につながる。認知の入口を1つにするのと、仕事の幅を狭めるのは、別の話になります。
3.3 2つの軸を掛け合わせて「1万人に1人」の場所をつくる
2.4で見たように、「相続」を有望と考えている鑑定士は同業にも多くいます。そこで効くのが、志師塾がニューコンビネーションと呼んでいる考え方です。1万人に1人のものを一から生み出すのではなく、100人に1人のものを2つ掛け合わせる。掛け算の結果として1万人に1人の場所ができる、という発想になります。
不動産鑑定士なら、たとえば次のような軸が使えます。
- 場面の軸。相続の遺産分割、賃料の改定、共有物の分割、立退き、事業承継、同族間売買といった「どの場面か」
- 依頼元の軸:相続人本人、賃貸オーナー、税理士、弁護士、金融機関、自治体
- 地域・資産の軸:市街化調整区域、山林、区分所有、借地権つき土地、農地
- 経歴の軸:建設、金融、行政、不動産仲介。鑑定士になる前の職歴も、立派な軸になります
この中から2つを選んで掛けます。「賃料の据え置きに悩む賃貸オーナー」「借地権つきの土地を相続した人」「山林を含む相続を扱う税理士」。軸は2つが基本で、3つ以上に増やすと相手が覚えられなくなります。分かりやすさが最優先です。
掛け合わせが決まれば、セミナーのタイトルはほぼ自動的に決まります。営業面の設計は、不動産鑑定士の営業の記事で詳しく解説しています。
3.4 目指すのは「土地のことなら、あの先生」という第一想起
第一想起とは、見込み客の頭の中で最初に思い出される状態のことです。相続や共有の話が出た瞬間に、あなたの名前が挙がるかどうか。ここが分かれ目になります。
そのためには、名刺・ホームページ・SNS・セミナーの自己紹介を、すべて同じキーワードでそろえてください。接点ごとに名乗りが違う人は、何の専門家か覚えてもらえません。志師塾では、ブランディングをポジショニングと時間の掛け算だと説明しています。牛の刻印と同じで、1回では消えるのです。
セミナーが第一想起づくりに向いているのは、同じ相手に何度も会える形にしやすいから。年に1度の相続セミナーを3年続ければ、参加者の頭の中で「不動産の相談先」の席はあなたのものになります。単発の講演を毎回違う相手に向けて話すより、同じ層に繰り返し届けるほうが効きます。
4. 不動産鑑定士のセミナー集客の手順2:話す中身を「相手の判断」に寄せる
不動産鑑定士のセミナー集客の手順2とは、話す中身を鑑定の解説から参加者の判断の助けへ切り替える工程のことです。相手が決まったら、次は中身です。ここで多くの人が、鑑定の仕組みを丁寧に解説してしまいます。
4.1 制度の解説ではなく、判断の助けになる話をする
参加者が知りたいのは、鑑定評価の理論ではありません。目の前の不動産をどうすればよいかです。「この土地を兄弟でどう分けるか」「この賃料は妥当なのか」「税務署に説明できる根拠がほしい」。悩みの形で語られる問いに、まっすぐ答えてください。
専門的な話は、その答えの裏づけとして少しだけ添えれば十分です。難しい話をわかりやすく話せる人は、それだけで信頼されます。原価法・取引事例比較法・収益還元法という3手法の説明を冒頭に置きたくなりますが、参加者にとっては後回しでよい情報。まず判断、あとから根拠、という順番を守ってください。
4.2 身近な入口から、鑑定の使いどころを見せる
鑑定が力を発揮するのは、当事者どうしの話し合いが行き詰まった場面です。相続での遺産分割、共有物の分割、同族間の売買、立退きの交渉、賃料の見直し。どれも切実な話でしょう。
「こういう場面で、第三者の評価があると話が前に進む」。この使いどころを、実際の流れに沿って見せてください。参加者は、自分の状況と重ね合わせながら聞きます。知らなかったことが分かった瞬間に、相談したい気持ちが生まれます。

2章のデータと合わせて読むと、話す場面の選び方も見えてくる。知事登録業者の案件の54.0%が5,000万円以下。この規模で起きるのは、大型の開発案件ではなく家族のあいだの話し合いです。志師塾がこれまでの支援で見てきた範囲では、扱う金額が小さいほど、揉めごとの温度は高くなりがち。ここを扱う会には、人が集まります。
4.3 タイトルと告知文は「1文目で2文目を読ませる」
中身が決まっても、告知文が弱いと席は埋まりません。志師塾がコピーライティングで教えているのは、滑り台効果という考え方です。1文目の目的は、2文目を読ませること。2文目の目的は3文目を読ませること。この繰り返しで、読み手を最後まで滑らせます。
告知文に入れる要素は、10原則として整理されています。鑑定士のセミナーで使いやすいのは、次の5つ。
- ターゲットの明確化:「相続した土地を兄弟で分ける予定の方へ」と冒頭で名指しする
- 具体性:数字を入れる。「話し合いが10年止まっていた土地が、3か月で分割まで進んだ理由」
- 好奇心:常識とのギャップを見せる。「路線価で分けると、損をする人が出ます」
- 問いかけ。「その賃料、10年変えていませんか」と読み手に考えさせます
- フューチャーペーシング:参加後の姿を先に描く。「帰り道には、次に誰へ相談すべきかが決まっています」
タイトルで大事なのは「誰が・何を持ち帰れるか」の2つが読み取れること。「不動産鑑定セミナー」では、どちらも読み取れません。
4.4 台本は4つのかたまりで組む
当日の流れも、行き当たりばったりでは組めないもの。志師塾が顧客獲得型セミナーとして教えている台本は、大きく4つのかたまりに分かれます。鑑定士のセミナーに当てはめると、次のとおりです。

- つかみ:参加者の悩みを、参加者の言葉で言い当てる。「路線価の額を見て、これで分けていいのかと不安になった方はいませんか」
- 問題の可視化。放っておくとどうなるかを、事例で見せる。ここで初めて鑑定という道具が登場します
- 解き方の提示:何をどの順でやれば前に進むのかを渡す。ただし全部は渡しません(4.5で詳述)
- 次の一歩の案内:個別相談でも資料の受け取りでも、進み方を1つだけ示して終わる
1分の自己紹介も、同じ考え方で組めます。志師塾では興味喚起・仕事概要・選ばれる理由・行動要請の4パーツ、全体300字から350字が目安。冒頭の10秒で問いを投げると、その場の空気が変わります。
4.5 満足度は80点前後を狙い、参加者の不安は先回りで消す
ここは、まじめな鑑定士ほど外しやすいところ。志師塾が繰り返し伝えているのは、セミナーの満足度は100点狙いではなく80点前後を目安にするということです。
理由は単純で、100点の会をやると参加者は「よく分かりました。自分でやってみます」となるから。専門家に頼む理由が、会場で消えてしまいます。コンテンツは幅広く浅くではなく、狭く深く。空白を意図的に残しておくのがコツです。
鑑定士の場合、残すべき空白ははっきりしています。「どの手法を使うか」「その物件の個別事情をどう織り込むか」は、現物を見なければ答えが出ない領域。ここは会場で答えきれないと最初に伝えておけば、隠しているという印象にはなりません。渡すのは判断の地図で、答えそのものではない。この線引きを守ってください。
もうひとつ、当日の場で効くのが不安の先回りです。不動産の悩みを抱えた人は、質問すること自体をためらいます。「こんな初歩的なことを聞いたら恥ずかしい」「うちの事情を話したら、そのまま営業されるのでは」。冒頭で「よくある質問」を3つほど挙げて答えてしまい、終盤で「今日は売り込みをしませんので、気になることは何でも聞いてください」と一言添える。不安が消えた瞬間に、質問は一気に出てきます。
志師塾では、断られる理由を「なぜ買うのか」「なぜあなたから買うのか」「なぜ今買うのか」の3つに分けて、あらかじめ台本へ埋め込むようお伝えしています。鑑定士にとって「なぜ今か」の材料は、申告期限や決算期、更新時期といった外部の事情です。「なぜあなたからか」は、地域の相場観と現場を見た経験。断られてから説明しても、言い訳に聞こえます。出た質問はメモしておき、次の会の構成に組み込めば、内容は回を重ねるごとに参加者の関心へ近づいていくはずです。
ここまでが、セミナーの中身をつくる話です。セミナーはまだ早い、その前に先生業の顧客獲得の土台をまとめて押さえておきたい。そう感じた方には、無料の書籍「先生業の顧客獲得を成功させる7つの能力」(一部ダウンロード)が向いています。会を開く前の準備運動としてどうぞ。
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5. 不動産鑑定士のセミナー集客の手順3:集め方と開催方法を選ぶ
不動産鑑定士のセミナー集客の手順3とは、誰と組んで集めるかと、どの形で開くかを決める工程のことです。中身が決まったら、どう集めて、どう開くか。ここで結果が大きく分かれます。
5.1 一人で集めようとせず、組む相手を考える
一般の方を自力で集めるのは、簡単ではありません。ここで効くのが、同じ相手と接している専門家との連携です。税理士、司法書士、弁護士、金融機関の担当者。相続や事業承継の相談を受けても、不動産の評価までは自分で扱えない人たちが周りにいます。
志師塾では、こうした組み方をJV(ジョイントベンチャー)として3つのモデルに整理しています。紹介が右脳のアプローチだとすれば、JVは左脳型の、論理的でビジネスライクな仕掛けです。

- 目玉モデル:相手が持っている見込み客リストに対して、こちらが目玉講師として登壇する。税理士事務所の顧問先向け相続セミナーで、不動産パートを担当する形
- パッケージモデル:相手のサービスに自分のサービスを同梱。相続手続きのパック商品への、簡易な価格調査の組み込み
- 回遊魚モデル:相手から自分へ、自分から相手へ。顧客が行き来する導線をつくります
パートナーの探し方には、コツがあります。理想の顧客が、すでにお金を払っている先から逆引きするのです。相続した土地に困っている人は、その前に誰へ相談しているか。税理士、葬儀社、金融機関の相続窓口、地元の司法書士。「土地の話が出たら渡せる先」として覚えられていれば、共催も紹介も自然に生まれます。労力を分け合えるうえに、参加者にとっても信頼できる場になる。
5.2 自治体・専門家向けの勉強会という入口もある
1.4で触れたとおり、「鑑定士に何を頼めるか」を知らないのは一般の方だけではありません。論点整理は、各地域会や各都道府県の不動産鑑定士協会が、発注者である自治体等と日常的な交流を持ち、不動産鑑定士について周知を図るよう、連合会が働きかけるべきだとまとめています。無料相談会の積極的な開催や他士業との連携も、コンサル業務の受注機会の拡大につながる取組のひとつ。
ここから読み取れるのは、業界全体が「知ってもらう場づくり」を打ち手として認めているということです。協会の活動に手を挙げるのも一つの道ですが、待つ必要はありません。税理士会の支部研修、金融機関の勉強会、商工会議所の実務セミナー。参加者が5人でも、その5人が全員「顧客に不動産の話が出たら渡す側」なら、一般向け50人の会より波及します。
専門家向けの会で話す内容は、一般向けとは変えてください。求められているのは相続の基礎知識ではなく、「どういう案件を、どのタイミングで、どう渡せばいいか」という実務の線引きです。
5.3 紹介は「感情」で生まれる。メリットだけでは動かない
共催や紹介を待つだけでは、話は動きません。志師塾では、紹介が生まれる引き金を5つの感情で説明しています。自慢、感謝、面白さ、感動、そして金銭的なインセンティブ。相手にメリットがあるだけでは、紹介は出ないのです。
鑑定士がいちばん使いやすいのは「自慢」でしょう。紹介する側は、自分の顧客に対して「珍しい人を知っている」と言いたい。だからこそ、3.3の掛け合わせが効いてきます。「賃料改定に強い鑑定士」「山林の評価までできる鑑定士」なら、紹介者は自慢しやすくなります。
加えて、紹介してほしい相手を具体的に伝えておくこと。「どなたか紹介してください」では、相手の頭に誰も浮かびません。「相続した土地の分け方でご家族が揉めている、という話を聞いたら教えてください」なら、相手は心当たりを探せるはずです。紹介者は数より濃さで、薄い付き合いの100人より、あなたの仕事を理解している10人のほうが実際に案件は動きます。
5.4 自主開催と招聘型、オンラインとリアルを選び間違えない
ここに落とし穴があります。セミナーの開催方法は大きく2つ。自分で企画して人を集める自主開催と、他社の会に講師として呼ばれる招聘型です。この選び方を間違えると、どれだけ良いセミナーをしても営業につながりません。関係性を深め、先生の立場を得たとしても、そこで流れが途切れてしまうのです。
見分ける目安はひとつ。参加者の連絡先が自分の手元に残るかどうかです。招聘型では参加者名簿は主催者のもので、良い会になっても、こちらから次の案内を送れません。登壇の依頼を受けるときは、終了後にどう連絡が取れるかを先に決めておいてください。
どちらから始めるかは、いま自分に相談が来ている相手で決まります。個人からの相談が現に入っているなら、まず自主開催を1本持つのが先です。小さくても自分の名簿が残り、次の会にも個別相談にもつなげられます。逆に、税理士や金融機関からの紹介が中心なら、招聘型のほうが早い。相手の顧客リストにいきなり届くからです。集客そのものの進め方は、士業セミナー集客の教科書の記事にまとめています。
そのうえで、オンラインかリアルか。オンライン開催なら、場所を選ばずに参加してもらえます。相続の相談は、遠方に住む家族が関わる場面も多いもの。反面、リアルの会場のほうが、その場での質問や終了後の立ち話が生まれやすい。関係を一段深めるには、対面が向いています。最初はオンラインで広く知ってもらい、関心が高まった人に対面の場を用意する。この二段構えなら、労力をかけずに接点を増やせます。地方の事務所ほど、オンラインの効き目は大きい。山林や区分所有といった得意分野を打ち出せば、商圏は県内に限られません。
6. 不動産鑑定士のセミナー集客の手順4:個別相談と継続の関係につなげる
不動産鑑定士のセミナー集客の手順4とは、会が終わったあとの個別相談と、その先の継続的な関係までを設計する工程のことです。最後の手順は、セミナーの出口です。ここを設計しないと、良い会だったで終わってしまいます。
6.1 ゴールは契約ではなく「次の一歩」
セミナーのゴールを契約に置くと、話の後半が売り込みに寄ります。参加者はその空気を敏感に察知するもの。ゴールは、個別相談の申し込みでも、資料の受け取りでも構いません。セミナーの役目は決めさせることではなく、決める材料を渡すことです。
Webからの相談申し込みにためらいがあった人も、セミナーで距離が縮まれば動きやすくなります。案内は最後に一度だけ、はっきり伝えてください。
6.2 個別相談は6つのステップで進める
セミナーの後に設ける個別相談は、解決策を教える場ではありません。問題点を明らかにし、解決したいという意欲を高める場です。ここを取り違えて親切に答えきってしまうと、相手は満足したまま「1回自分でやってみます」と帰っていくのです。
志師塾が教えている個別相談の進め方は、6つのステップに分かれています。鑑定士の相談の場にも、そのまま当てはめられる型です。

- 関係性の想起:「セミナーはいかがでしたか」から入り、教える側と教わる側という枠組みを立て直す
- 個人的な関係構築:現在の状況から過去へさかのぼり、また現在へ戻す。相手の背景が分かるほど、評価の前提も正確になります
- 目的の合意:「今日は問題点を明確にするところをゴールに進めますが、よろしいですか」と最初に確認する
- 問題の深掘り:「なぜですか」で縦に掘り、「他にありませんか」で横に広げる。同じ話が回り始めたら、そこが相手にとっての最深部
- 本気度の確認:「それが本当に問題だとご自身で思われますか」と、相手の言葉で言ってもらう
- 選択肢の提示:提案ではなく、選択肢を並べる。「ご自身で進める方法もありますし、こちらで評価書までお出しすることもできます。どうされますか」
効くのは3番目と6番目です。入口で目的をそろえ、出口では押さない。この2つを守るだけで、相談の空気はまるで変わります。売り込まれていないのに前へ進む、という状態が自然につくれるからです。
6.3 「高くても選ばれる理由」を先に言葉にする
鑑定評価は、相手にとって決して安い依頼ではありません。だからこそ、金額の前に価値が伝わっている必要があります。語るべきは、資格や手法ではなく相手に起きる変化です。「鑑定評価書を作成します」ではなく「話し合いが止まっていた状態から、全員が納得できる根拠を持って前に進めます」。
手に入る結果が具体的に見えるほど、金額は判断材料の中で小さくなります。安いから選ばれるのではなく、この人にお願いしたいと思われる。その理由を、セミナーの本編のうちに用意しておきましょう。個別相談の場で慌てて説明しても、そのときにはもう遅いのです。
6.4 鑑定評価書と価格調査を、分けて案内する
出口を1つしか用意しないと、参加者は「頼むか、頼まないか」の二択で考えます。ここで効くのが、入口の段差を下げておくこと。
国土交通省の事業実績から1件あたりの平均報酬を計算すると、鑑定評価基準に則った鑑定評価は約42.2万円(77,420件・326億6,215万円)、基準に則らない価格等調査は約12.3万円(96,902件・118億9,397万円)。同じ「価格を出す仕事」でも、単価は3倍以上ちがいます。
出典:国土交通省「不動産鑑定業者の事業実績」令和7年・依頼目的別の集計をもとに、報酬総額を件数で割って算出(1,000円未満を四捨五入)。業者単位の集計値からの平均のため、個別の受注価格を示すものではありません。
裁判所や税務署への提出に使うなら鑑定評価書が要ります。身内での話し合いの材料が欲しいだけなら、簡易な価格調査で足りることが多い。まず軽いほうで関係をつくり、必要になった段階で正式な評価へ進む。志師塾の言い方をすれば、フロントとバックエンドの設計です。セミナーの最後に高額な依頼だけを案内すると、相手は逃げたくなります。
この2つを混ぜて「一律いくら」と答えると、高いほうの仕事まで安い相場で値踏みされます。案内では必ず分けてください。
6.5 一度きりで終わらせず、接点を保つ
鑑定の依頼は、単発になりやすい仕事です。だからこそ、終わった後の接点を残しておきましょう。地価の動向や制度の変更をまとめて届ける、年に一度の勉強会に招く、連携先の専門家として顔を出し続ける。
この点は、相手の側も求めているものです。論点整理の地方公共団体ヒアリングには「不動産鑑定業務についても、顧問弁護士のように年間を通じて相談できる体制があることが望ましい」という声が載っていました。他の士業資格者へのヒアリングでも、単発の依頼になりがちな不動産鑑定評価と異なり「継続的な顧問契約になりやすく、顧客からの相談を受けやすいのではないか」という指摘が出ていました。相手は継続的な相談相手を求めているのに、こちらが用意していないだけという構図です。
もうひとつ、値付けの話も添えておきます。同じアンケートでは、回答のあった386件のコンサル業務のうち98件(25.4%)が報酬ゼロでした。理由の上位は「あくまで無償サービスとして行いたいから」(24件・19.7%)、「コンサル業務から報酬を得ること自体検討したことがなかったから」(23件・18.9%)、「コンサル業務に係る報酬の見積り方法がわからないから」(21件・17.2%)。値切られた結果ではなく、こちらが値段を付けていないだけです。
出典:国土交通省・公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会「業務領域の拡大等を通じた不動産鑑定士の担い手確保に向けて(論点整理)」令和7年3月。報酬を得ていない理由は選択式・複数回答可で、合計122件。
セミナーの出口に置くのは、契約書だけとは限りません。決算期ごとの資産評価の見直し、賃料改定の相談、相続対策の棚卸し。節目に合わせて「次に会う理由」を用意しておくだけでも、関係は途切れなくなります。不動産に関わる出来事は、人生や事業の節目に何度も訪れるからです。日常の発信については不動産鑑定士のFacebook集客の記事で解説しています。
7. セミナーと勉強会を活かした不動産鑑定士2人の実例
志師塾とは、先生業に特化して集客と顧客獲得を教えるビジネススクールです。ここで紹介する2人は、いずれもそこで学んだ不動産鑑定士。手順1から手順4が実際にどう形になるのか、公開済みのインタビュー記事から引いて見ていきます。
7.1 坂田一郎さん|「誰に向けて開くか」を決めきり、売上200万円増
新潟県を拠点に、合同会社坂田不動産鑑定を営む坂田一郎さん。地元の大手ゼネコンで営業を中心に30年、地盤改良会社の現場で12年。40年以上の現場経験を鑑定眼に変えようと50歳過ぎから勉強を始め、8年かけて資格を取得し、60歳で独立されました。
独立後は官公庁の案件を中心に実績を重ねます。転機になったのは、ベテラン鑑定士との共同鑑定で力量の差を痛感したこと。「不動産鑑定士として上達するには、とにかく案件の数をこなして知見やノウハウを蓄積するしかありません。そのためには、官公庁の案件だけでは限界があるので、民間案件の獲得が必要と考えました」。ところが新潟には民間案件が少なく、多くの鑑定士が営業を断念している地域です。坂田さんも苦戦が続きました。
志師塾で最初に取り組んだのが、自分の人生を3万字で書き出す課題でした。「自分のことは、意外と自分では分かっていないものです。書くことによって、自分がどのような人間で、何を大切にしてきたのかが見えてきました。鑑定の判断に長年の現場経験が活きていることを再認識し、独自のポジショニングの土台になりました」。
そこから定めた顧客像が「賃料の据え置きに悩む不動産オーナー」。借主との関係や交渉の難しさから賃料を上げられずにいるオーナーに、鑑定士として論理的な根拠を渡し、交渉のパートナーになる。3.3でいえば「場面の軸(賃料の改定)」と「依頼元の軸(オーナー本人)」の掛け合わせです。オーナー向けの雑誌『家主と地主』を購読して市場のニーズを分析し、Facebookでは漫画形式で賃料改定の重要性を発信されました。
もう1つの軸も持っておられます。全国の不動産鑑定士およそ8,000人のうち、ドローンの実務に精通した45人のひとり。国土交通省が定める最上位資格「一等無人航空機操縦士」を取得し、10万平米規模の山林の空撮など、従来では難しかった調査に使っています。100人に1人を2つ掛け合わせるという考え方が、そのまま形になった例です。
学びの場のつくり方も参考になります。同じ班のメンバーと自主勉強会を開き、受講生どうしが語り合う場にも足を運ぶ。坂田さんは、そこにも積極的でした。「他者から客観的な意見をもらうことで、視野が広がっていきました」。場を開く側に回ると、自分の立ち位置が磨かれていく。セミナーを開くことの副産物が、ここに出ています。
結果は、200万円以上の売上増加。ホームページを作って待つだけの営業から、顧客の要望から逆算して強みを提示する形へ切り替えたことが効きました。いまは売上高1,500万円を2倍にすることを中期目標に掲げています。詳しくは坂田一郎さんのインタビュー記事をご覧ください。
7.2 入村匡哉さん|自ら会を主催する側に回り、紹介が6割
「全国の不動産価値の裁判官的役割を果たす不動産鑑定士」として活動する入村匡哉さん。平成21年に入村不動産鑑定を設立し、現在は吉祥寺と神田の2拠点で事業を展開。不動産鑑定の実績は800件を超えます。業務の柱は3つ。土地建物の相続・贈与・財産分与、家賃地代の交渉、そして士業や法人向けの不動産評価サポートです。
注目したいのは、お客様の6割が紹介だということ。交流会やコミュニティに参加するだけでなく、自ら交流会を主催し、そこからの問い合わせをサポートにつなげておられます。5.1で見た「集める側に回る」を、地でいく形です。参加する側は他人の場に呼ばれるのを待ちますが、主催する側は誰を呼ぶかを自分で決められます。
会の中身を組み立てる力も、学びの場で身につけたものです。志師塾の動画・Zoomマスター講座について、入村さんはこう振り返っています。「動画・Zoomのアプリケーションの使い方は他社の講座で学び、Zoomのセミナーができるくらいのスキルは教えてもらいました。ただ、講座を作るとかマーケティングをするというところまでは教えてくれていませんでした」。
受講後に手に入れたのは、企画の立て方でした。「動画については、どうやって企画を立てるのかを教えてくれました。狙いと意図を定めて動画をつくらないと、良い動画にはならないことを確信しました」。とりわけ効いたのが、教育動画・集客動画・ブランディング動画という3つの整理。目的の違う中身を1つの場に詰め込むと、どれも届かなくなる。セミナーの設計と、そのまま重なる話です。
実際の動きも徹底しています。YouTubeの動画は3日間の合宿で100本を撮影し、顔を出して話すことも意識されました。相談に来た方から「動画のイメージそのものですね」と言われることが多いそうです。会う前に人となりが伝わっている状態は、セミナーがつくるものと同じ。現在は多い時で月に30件弱の相談があり、動画・SNS・ホームページ経由の問い合わせが4割を占めます。
いまは弁護士・税理士へのダイレクトなアプローチに力を入れ、士業向けの教育動画や顧問プランも準備しておられます。「私たちの業界、不動産鑑定士は知名度が低いです。色んなことができますが、自分から提案していかないと業界自体が成長しないと感じています」。詳しくは入村匡哉さんのインタビュー記事で読めます。
7.3 2人に共通していたこと
拠点も年齢も、得意分野もばらばら。それでも重なる点がありました。
- 待つ側から、開く側へ回った:坂田さんは自主勉強会、入村さんは交流会。人の場に呼ばれるのを待っていません
- 誰に向けるかを、先に決めた:賃料の据え置きに悩むオーナー、士業と法人。相手が決まってから中身をつくっています
- 目的の違う場を、混ぜていない:入村さんの動画3分類がその典型。集める場と教える場と信頼を積む場は別物
※上記は志師塾を受講された方の実例です。同様の成果を保証するものではありません。
2人とも、話術で選ばれているわけではありません。共通しているのは、来た人が次に何をすればいいか分かる形を用意していたことです。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでも、その出口のつくり方を自分の事務所に当てはめながら確かめられます。
8. 不動産鑑定士のセミナー集客でよくある質問
8.1 一般の方と専門家、どちらに向けたセミナーから始めるべきですか?
いま受けている依頼の構成で決めてください。国土交通省の令和7年の統計では、鑑定評価の依頼元は民間法人3区分で70.6%、個人は4.9%。ただし知事登録業者に限れば個人が8.6%、地方公共団体等が33.8%です。個人の相談が現に入っているなら一般向けから、法人・自治体が中心なら税理士会の支部研修などの専門家向けから。迷ったら、直近3件の依頼が誰から来たかを見てください。
8.2 参加者が数人しか集まりませんでした。開催する意味はありますか?
あります。不動産鑑定の1件あたりの平均報酬は、鑑定評価基準に則った鑑定評価で約42.2万円。3人のうち1人から依頼が生まれれば割に合う計算です。人数の少ない回は、むしろ一人ひとりの事情を聞ける機会。出た質問を次の告知文に使えば、回を重ねるごとに集まりやすくなります。集まらなかった原因は当日ではなく、告知の相手選びにあることがほとんどです。
8.3 セミナーは有料にすべきですか、無料でよいですか?
目的で分けてください。認知をつくる段階なら無料でよく、参加のハードルを下げることを優先します。名前が知られていて、本気度の高い人だけと会いたい段階なら有料が向いています。注意したいのは、無料相談を延々と続ける形になっていないかどうか。論点整理のアンケートでは、コンサル業務386件のうち98件(25.4%)が報酬ゼロでした。どこまでが無料で、どこから有料かを先に決めておけば、その場で悩まずに済みます。
8.4 守秘義務があるなかで、事例をどこまで話してよいですか?
物件と当事者が特定されない形に置き換えれば、話せる範囲は十分に残ります。地域名を「地方都市の住宅地」に、金額を概数に、時期を「数年前」に。そのうえで、参加者が知りたいのは物件の詳細ではなく判断の分かれ目がどこにあったかだと押さえてください。複数の案件を混ぜた仮想事例として話す方法もあり、その場合は仮想である旨を最初に伝えます。
8.5 セミナーのテーマは、どう決めればよいですか?
3つの材料を組み合わせます。1つ目は、自分に実際に来ている相談。2つ目は市場が向いている方向で、論点整理のアンケートでは「不動産の利活用に関する相談」が22.0%、「相続に関する相談」が21.3%と上位でした。3つ目が2つの軸の掛け算です。相続は同業も狙うため、「借地権つきの土地を相続した人」のように場面と依頼元を掛けてずらします。テーマは相手が決まってから決まるもので、順番を逆にすると誰にも刺さりません。
8.6 セミナーから鑑定の依頼につながるまで、どのくらいかかりますか?
答えは、相手によってかなり違うところです。相続の申告期限や賃料改定の時期が迫っている参加者なら、当日から数週間で個別相談へ。「いずれ実家をどうにかしないと」という段階の方だと、半年から数年かかることも珍しくありません。1回の会で決まる人と、3年後に思い出す人。この両方を受け止められる形にしておいてください。
9. まとめ:不動産鑑定士のセミナー集客は「知ってもらう場」から
不動産鑑定士のセミナー集客の手順を、4つに分けてお伝えしました。
- 手順1:誰に向けて開くかを決める。相手を絞るから、自分ごとだと思ってもらえます
- 手順2:制度の解説ではなく、相手の判断の助けになる話をする。満足度は80点前後で止めます
- 手順3:隣接分野の専門家と組み、開催方法を選び間違えない
- 手順4:ゴールは契約ではなく、次の一歩。終わったあとの接点を保つ
前半に置いた統計が示していたのは、思い込みで相手を決める必要はないという事実でした。鑑定評価の依頼元は7割が法人でも、コンサル業務まで含めれば個人は25.4%まで上がります。知事登録業者の案件は半分以上が5,000万円以下の不動産で、一般の方が持っている規模のもの。市場が向いているテーマの上位は、利活用と相続でした。
仕事の中身が広く知られていないことは、弱みのようでいて強みでもあります。知ってもらった瞬間に、あなたが最初の相談先になれるからです。裏を返せば、先に場を持った人から順に席が埋まっていくということ。セミナーは、その最短の道です。
明日からの一歩として、この3つを試してみてください。
- 直近3件の依頼が誰から来たかを書き出し、次の会を開く相手を1つ選ぶ
- 「場面の軸」と「依頼元の軸」を1つずつ選んで掛け合わせ、タイトルを一行で書いてみる
- 無料で答える範囲と、有料の価格調査に移る線を、紙に書いて決めておきましょう
あわせて読みたい記事です。
- 不動産鑑定士の集客|選ばれ続ける6つの方法|手法別の全体像はこちら
- 不動産鑑定士のWeb集客5つのポイント|会う前に見つけてもらう土台づくり
- 不動産鑑定士の成功事例インタビュー一覧|卒業生の取り組みをもっと読む
セミナーの結果を決めるのは、当日の話し方ではありません。開く前に誰を選び、終わったあとをどうつなぐか。とくに出口は、一回きりの会と継続の関係を分けるところです。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、個別相談から継続へ運ぶ出口の設計を、先生業の実例で扱っています。
セミナーを一回きりで終わらせたくない不動産鑑定士の方へ
会のあとに個別相談があり、その先に継続の関係がある。この出口までつながって、初めて1回の会が仕事になります。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーで、その組み立て方を確かめてみてください。参加費は無料です。
この記事について
監修:志師塾(株式会社エクスウィルパートナーズ)。士業・コンサルタント・コーチ・講師といった「先生業」に特化した集客・顧客獲得支援を行い、これまでに3,200名を超える先生業の方を支援してきました。本記事は、不動産鑑定士の受講生・卒業生への支援で得た知見と、国土交通省・公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会・国税庁の公表資料をもとに構成しています(公的データの確認日:2026年8月27日/支援人数の原本確認日:2026年8月16日)。