今回お話を伺ったのは志師塾卒業生、株式会社トータルクオリティサポート代表の原田善夫さんです。原田さんは、ソニー株式会社(以下、ソニー)でプロジェクトマネージャーとして20年以上にわたり、世界15か国、20企業、30工場以上の設計製造委託による製品開発に携わってきた経験を活かして、製造業の高収益化達成コーチ型プロデューサーとして活躍されています。
これまでの経験を活かして起業を果たした原田さんの「独自サービスを構築できるように至るまでの経緯」や「独自メソッド」についてお話を伺いました。
1.製造業の高収益化達成コーチ型プロデューサーとして活躍
「自分の経験を還元することで、日本の製造業を元気にできる」原田さんは自信をもって語ります。
原田さんは、2019年11月に株式会社トータルクオリティサポートを創業し、製造業の高収益化達成コーチ型プロデューサーとして、「今ある経営リソースで、投資をせずに短期間で利益を改善したい」と考えている製造業を対象に、マネジメント層向けの研修を通じた企業の利益改善に取り組んでいます。
研修内容は、ソニーでの32年間の経験で培った独自のチームビルディングの手法と業務遂行手法を業務密着型のワークを通じて身に付けるものです。原田さん独自の手法ですが、脳科学と心理学の理論にも裏付けられており、生産性が3倍以上に上がった例もあるなど実績もお墨付きです。
2.ソニーでの業務経験から生み出された独自の利益改善メソッド
原田さんは世界15カ国、20企業、30工場で、R & D、設計、製造、アフターサービス、品質改善等製造に関わるすべての業務に取り組んできました。自身の経験の中では、10億円の利益を出すこともあれば、クビになってもおかしくないぐらいの損失を出してしまったこともあったといいます。
原田さんは、「この極端な成果の差は何なのか︖」と強く疑問を抱き、原因究明と対策を考えました。
この数年間で手離れが良く後戻りが生じない設計製造委託手法や、自社チームの作り方と社員教育の在り方の仮説検証を重ね、独自のチームビルディングと業務遂行の手法を確立されました。
これまで、アジア各国、アメリカのベンチャー企業、大手の半導体やグラフィックボードの工場、フランスの軍事工場やノルウェーの設計拠点といった、異なる文化や考え方を持つ場所での経験をもとに生み出した手法は、全世界で普遍のものであると言います。
その中でも印象的なエピソードを教えていただきました。
2.1 目標が達成できない苛立ちと焦り
PC製造開発の初期、会社から与えられた目標は、「市場不良率1%以下」。当時のPC業界の市場不良率は10%程度が当たり前の時代、何万個というパソコン部品の中で、原田さんが担当していたタッチパッドでは、不良率100 ppm (1万分の1の不良)以下という厳しい目標でした。しかも、当時ソニーはAV機器メーカーで、パソコンの部品や製造のノウハウが社内にありませんでした。
原田さんも発注者として、部品メーカーを厳しく監査しましたが、なかなかうまくいきません。時間が過ぎていく中で焦りを感じながらも、これまでのノウハウをすべて注ぎ込み指示を出し続けました。しかし、それでも目標に遠く及ばなかったことから、別のメーカーに変更することも考えたといいます。
そんな時、原田さんは、ふと立ち止まって考えました。「こうしなければダメだ」「何でできないんだ」「ソニーの常識だと、そんなの簡単にできるはずだろう」と、自分の考えを押し付けているのではないか。相手の言うことを「できないことに対する言い訳」として切り捨てていたのではないかと。
2.2 “問いかけ”が関係を変えた
そこで、今までのやり方がすべてうまくいかなかったのだから、新しいやり方で取り組んでみようと考え、翌日原田さんは、「こういうことをやってほしいんだけど、どう思う?」と、相手に問いかけてみました。
すると現場からは、「このままでは難しい。ただ、このラインをこう変えればできるかもしれない。」と初めて建設的な回答が返ってきました。
その後も機会があるごとに問いかけを続けていくと、段々と、「うちはここまでしかできないよ」や「そうか、お互いの事情はわかったけど、こういう方法はどうなの」と議論ができるようになり、それに伴い、製品品質がどんどん高まりました。
最終的には、年間市場不良率0ppmを3年以上に渡って達成することができたのです。
「実績が上がり、みんなが笑顔になる。お互いの言いたいことが伝わり、信頼関係で結ばれる。そこまでくるともう損得ではなくて、お互いが『いいものを作ろう』という原点にベクトルが向き、本当にいいものが作れるようになる」と原田さん。
一方通行ではなく、相互のやりとりができるようになって初めて、お互いの信頼関係の大切さに気付いたのです。
原田さんは言います。「自分の見る物差しが0から100まであって、20%ができていないと、「なんでここができてないんだ」と指導する上司が多いと思います。私もそれまでは、20%のできていないところをどうするかばかり考えていたのですが、80%の部分ができているんだったら、そこを応用して、違うアプローチを考えることが大事だと気付くきっかけになりました」
そして、成功した時も、「俺の言った通りにやったからうまくできただろ」と言うのではなく、「これをあなたがちゃんと考えてやってくれたからできたんだよ、ありがとう」と言うことが大事だと言います。
2.3 志師塾との出会い
試行錯誤する中で、手離れが良く後戻りが生じない設計製造委託手法と、それを実現するキーパーソンとの信頼関係を構築する方法を探っていき、段々と体系づけてプログラムにできるところまでこぎつけた頃のことです。
知人が興味を持っていたことから、志師塾の存在を知ります。慎重な原田さんは、志師塾のフロントセミナーに2度参加して、内容、期間、金額、参加者の雰囲気などを検討したうえで、お世話になろうと決めたそうです。
講座の中では、自分自身の棚卸がこれまでよりも深くできたことで、自分の起業の意義と理由付けが大変明確になり、「これは自分のチームにだけ置いておくのはもったいない。ぜひこのノウハウを必要としてくださるところに提供して、喜んで頂きながらお金を頂けたらいいのでは」と、独立起業を決意しました。
さらに、同期の仲間の温かいフィードバックに、とても勇気付けられるなど、志師塾が起業人脈の核になっているそうです。
3.3つの習慣化による利益改善研修
こうして完成したのが「マインドセット」「相互信頼関係」「未然防止」の「3つの習慣化」で「高収益化ビジネス改革」を実現する研修メニューです。
「3つの習慣化」の詳細について教えていただきました(図表1)。
図表1 原田さんが提唱する3つの習慣化
3.1 マインドセットで、ぶれないセルフイメージを持つ
まずは、マインドセットです。マインドセットにより、ぶれない自分のあり方(セルフイメージ)を作りあげることで、周りから見た時に「この人が言っていることは一貫している。ゴールがしっかりわかっている」と感じてもらえるような、ぶれないマネジメントを目指します。
考え方に一貫性があると、部下も「あの人はこう考える人だから、こうすればよいかな」と理解して行動してくれるようになります。
そのために、自分自身を分析し、人生の目標について考えてもらいます。目標を設定したら、NLP(神経言語プログラミング)のタイムラインという手法を用いて、目標を「実現した」という成功のセルフイメージを脳にインプットして、自己肯定感を高めていきます。
自己肯定感を高めると、ぶれない自分軸ができあがると、原田さんは言います。
3.2 相互信頼関係を築いて建設的なチームを構築する
次に相互信頼関係の構築です。原田さんの体験談でもあったように、相互信頼関係があるとチームとして同じ方向を向き、補完し合うことで業務を遂行できるようになります。
最も重要なのがコミュニケーションです。コミュニケーションのベースには、「自分を認めてくれる人を、人は認めます」という考えがあると原田さんは言います。
「私のことを分かってもらっている」と感じている部下は、自分から上司に話してくれるし、上司の言ったことをしっかり理解して実行します。逆にいくら指示をしてもやってくれない部下がいるとしたら、それはあなたが部下に信用されていないのです。
また、会話においても、人それぞれ個性が異なるので、画一的な方法はありません。相手によって、言葉を選ぶ必要もあります。
原田さんの研修の特徴は、業務に密着した形式で相互信頼関係を構築するコミュニケーションが身に付くことです。大手の研修会社が実施する研修は、統計学に従ったフレームワークを利用した研修や業務と直接関係の無いプログラムを行い後から業務に結びつけるスタイルが多いのに対し、原田さんの研修は、各個別企業の業務に当てはめた研修プログラムになっています。
原田さんの研修は、ワークを多用した体験型のプログラムです。理論を理解して、簡単なワークで実体験化し、自身の業務の問題点に当てはめることで、すぐに実業務に反映できるプログラムになっています。
すぐに実業務で活かすことができるからこそ、習慣化していくことができるのです。これを6ヶ月の講座の中で経験し、月1回のコンサルで成果を確認しながら進めていく。手間暇を惜しまない、確実で丁寧な指導です。
3.3 未然防止で問題点を先取りする
3つ目は、「未然防止」です。多くの企業で未然防止が十分にはできていないと、原田さんは言います。
品質管理や業務管理における改善方法として、PDCAサイクルを用いている企業が多いですが、製造現場では、計画(P)を立てる時点で既に問題が起きており、その改善を行っていることが多いそうです。改善自体は立派なことですが、「そもそも不具合が発生しないように未然に防止しよう」というのが原田さんの考えです。
未然防止を行い、手戻りの無い業務遂行の仕組みを構築できれば、生産性が向上し、不具合の是正に要するロスコストの改善につながります。
そのために、過去の事例などを徹底的に解析します。過去に発生した不具合は氷山の一角に過ぎず、真因は氷山の底に隠れています。その真因にメスを入れることで、氷山をまるまる無くし、潜在的な不具合もまるごと摘むことができるという考え方です。
3.4 習慣化で恒常的に効果が継続する
マインドセット、相互信頼関係、未然防止の3つが一回りすると、ぶれない指針が立てられます。チームメンバーの相互理解が深まり、補完し合える体制ができ、事前にミスを減らすことができるようになります。
これを無意識レベルで遂行できるぐらい習慣化することで、高収益体質かつ自律的な組織を作っていくことができる、と原田さんは言います。
4.今後のビジョン
現在、原田さんは、「人と人の強く信頼にあふれたコミュニケーション文化を発信し、協調、自律、笑顔に満ちた世界の創造と継続」をミッションに掲げ、高収益化達成コーチ型プロデューサーの仕事を拡大させようとしています。
プロデューサーではなく、あえてコーチ型と付けているのは、あくまで主役はクライアントと考えているからです。原田さんの手法を押し付けるのではなく、クライアント様が自ら実行し、気付きを得て目標達成するためのサポートをあらゆる面から徹底的に行って総合的な品質アップを行う(社名のトータルクオリティサポートの由来にもなっています)。これが原田さんのスタンスです。
「まずは、今の理論に沿ったご支援を通じて喜んでくれる人を増やしたいです」と原田さんは語ります。仕事の中で一番記憶に残っているのが、マレーシアの工場で工場長が「あなたが来てくれて工場が非常に良くなった。ありがとう」と言って、握手をしながら笑ってくれたこと。
「これからも日本の製造業全体を元気にできる、強い経済復活の下支えをしていくことが私の志です」原田さんの挑戦は続きます。
文:柏村斉(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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