今回お話をうかがったのは志師塾卒業生、Ordinary Family Food & Life Ltd. 代表取締役の井上由紀さんです。井上さんはカナダ東部の自然豊かなノバスコシア州在住、ひとり起業に関心があるも経営経験のない50歳前後の女性にビジネスコーチングやパートナーシップコーチングを行っています。
1997年にカナダへと渡った井上さんは、造園業界からキャリアをスタートさせ、2013年に起業、2016年にビジネスサポート活動を開始。
今回の取材を通じて井上さんのコーチングに対する想いと、ビジネスの方向性を掴むきっかけとなった志師塾についてお伺いしました。
1. 決断コーチの仕事
1.1 ティーチングとコーチングの違い
「なんでも聞いてくださいね、お役に立てるなら」インタビュー冒頭、井上さんが笑顔でこう話すと、その場に不思議な安心感が生まれました。
「コーチングというと目標達成を目指すイメージが強いと思うのですが、ゴールが変わることは頻繁にあるのです。どのような形であれご本人が成長され、自分が本当にやりたいことが明確になる、そのお手伝いをするのが私のスタイルです」
コーチングは、答えを教えるティーチングとは異なり、相手に合わせたアプローチが必要となります。
「クライアントの理想の状態に近づくように行動促進して一緒に進むのが基本です。クライアントのペースに合わせて、本人が見えていない部分を補ってあげる。時には何も言わないで、自身の中で起こる居心地の悪さを感じてもらうこともあります。だからコーチングに正解なんてないのです」
1.2 クライアントがコーチに求めるもの
井上さんのクライアントは、経済的な自立を求め起業する女性が多いといいます。
起業したものの「本当に間違っていないのだろうか」「突っ走っていないだろうか」と一人で不安を持っている方も、井上さんに相談することによって、自身が持っている不安を俯瞰できるようになる。このプロセスが安心感につながるようです。
実際に、「あなたはどう思いますか?」と井上さんに聞かれると、その言葉が自分自身にグッと入り込み、物事を自分事として考えることができる感覚になりました。
井上さんは、クライアントとのコーチングセッションの場が「楽しかった」で終わることを目標にしていません。
クライアントがセッション後に自身をしっかり振り返ったうえで、「私はこれをやる」、という決断の言葉が出てくる。これが井上さんの大きな喜びです。
1.3 密着型のコーチングスタイル
井上さんは、クライアントの成長のために、徹底して応援することを大切にしています。
コーチングを始めた当初は「密着型は自分にとっては費用対効果が良くないのかもしれない」と悩むこともあったようです。しかし、試行錯誤を重ねたうえで、「やはり私は何があっても結局は密着してコーチングするのだろう。これが本質的にやりたいことなのだろう」と受け入れるようになりました。
自身のコーチングスタイルへの悩みを乗り越え、密着型でいくと決断すると、井上さん自身にも変化がありました。クライアントを徹底的に応援することで、それが自分自身の学びにつながり現在進行形で成長している、そのような大きな手ごたえを感じるようになりました。
2. 決断コーチへの道のり
2.1 焦燥感からカナダへ旅立つ
井上さんがカナダに来たのは20代半ばのころ。新卒で入社した食品会社では充実した日々を過ごしていたものの、もともと仕事に集中しすぎてしまうタイプ。プライベートでは漠然とした不安がありました。
「このままだと、自分は何もない存在になってしまうのでは。何とかして現状を変えないと」カナダへの語学留学は夢を追い求めたものではなく、「自分を鍛えなければ」という焦燥感からの決断でした。
いざカナダに来てみると、まず周囲との常識の違いに仰天したと言います。カナダは移民の国、井上さんだけが違うのではなく、カナダ人みんなそれぞれ違う常識を持っているのが当たり前。
日本では情報過多で頭でっかちになっていたという井上さん。カナダでは何があってもみんながみんな違う。そのような環境の中で「私も、ただその中の一人なんだ」と良い意味で楽になったと振り返ります。
2.2 カナダで造園業のキャリアをスタート
1年間の語学留学終了後、知り合いの紹介でカナダの造園会社に就職、作業員としての力仕事から始まって、徐々にデザインの仕事をするようになり、とにかくすべてが楽しかったと言います。
大学時代に日本文化を勉強し、禅に興味を持っていた井上さんは、日本庭園が持つ精神性の浸透に気づくようになります。庭園のデザイン一つ一つに理由がある、そのような行動心理学を用いた空間づくりを学んでいきます。
「庭を作るときに日当たりのよい場所にどのような植栽を配置するでしょうか」「人間も同じで、自分の性質を活かせない環境で伸びることができないのは当然ですよね」
造園の仕事に関わったことは、今の井上さんに大きな影響を与えました。
2.3 ノバスコシアで起業
井上さんは造園業を内陸部のカルガリーで10年ほど続けた後、東部の大西洋に面するノバスコシア州へ拠点を移しました。
友人と日本食のワークショップを始めたことをきっかけに起業し、ワークショップの開催や食材の共同購入を手掛けています。とはいえ、初めての起業で営業に苦戦。なんとかしなければと、営業やマーケティングの勉強をするために日本の起業塾に参加しました。
カナダでは副業が当たり前で、個人事業主の数もとても多いといいます。井上さんはカナダの地元で勉強会を開催し、その起業塾で得た学びをカナダ人の個人事業主に教えるようになりました。その活動が評判を呼び、スモールビジネスサポートを事業として掲げるようになりました。
2.4 コーチングとの出会い
ビジネスサポート事業が楽しくなってきた頃、とあるマスターのコーチング概念に出会いました。井上さんは、「直感的なものを感じて」日本で開催する週末のセミナーにカナダから強行日程で参加しました。ここからがコーチングの本格的な勉強の始まりです。
井上さんはこれまでのキャリアの中で、社長を支える仕事をいくつも経験してきました。社長の意思決定を支えるために必要なオプションを準備しておく、井上さんの職場ではそのようなチームワークがいつも自然にできていて、裏方で支えることの喜びを感じていました。
これまで参加した起業塾のコミュニティなどで2000人以上の起業家を見てきた井上さん。決してすべての方々が大きく成功しているわけではありません。
「私は、もう少しがんばって継続したら次のステージに行けるかもしれない方々の力になれるのではないかと思うようになりました。特に、企業勤務経験がなく起業した方は『自信のなさ』が出てしまうのですが、『やらないと自信なんてつかないから』と言って応援しています」
3. 志師塾との出会い
3.1 志師塾を知ったきっかけ
志師塾を知ったきっかけは、井上さんのクライアントの1人が志師塾とは別の起業塾の情報を持って相談に来たことです。
結局、その起業塾はその方には合っていないとアドバイスをしましたが、「ではどのようなものが合っているのか、自分が知らないのにクライアントに勧められない」と、志師塾の説明会に参加。そのクライアントが先生業を営んでいたため、「先生ビジネス開発講座」に参加しました。
3.2 志師塾で得た学び
これまでにも2つの起業塾に参加した経験がある井上さん。ノウハウの基本的な部分は共通していることを再確認できたと言います。
それよりも、志師塾で出会った方々とのネットワークにこそ金額以上の価値がありました。このコミュニティでは、学んだことの実践事例がリアルタイムでシェアされています。人生の半分近くをカナダで過ごしてきた井上さんにとって、「コミュニティを通じて、今の日本の方々の感覚が分かってきた」と言います。
「志師塾は卒業して終わりではなく、むしろ卒業した後の方が楽しい。せっかく6ヵ月学んだのにそこで終わりにするのではなく、それぞれが事業を継続していくことで更に見えてくる価値もあります」
井上さんは塾生の仲間向けに勉強会を開催し、「あきらめないで、続けてみようよ」と伝えているそうです。この勉強会の開催や、志師塾での学びをコーチングの現場に照らし合わせることで、自身のレベルアップに繋がったと言います。
3.3 志師塾で得た学びの成果
志師塾ではこれまでの自分を棚卸しして、志やキャッチコピーを磨いていくセッションがあります。井上さんも5年ほど考え続けて悩んでいるビジネスコンセプトがようやくまとまりつつあります。
「人間は不器用な面や不完全な面があって当然で、それを前提として、『それもいいな』と思うことで、前向きに発展的に何かを生み出す力が出る。それを私はコーチングで応援していきたい」そう確信が持てるようになりました。
「私はこれまでコンテンツビジネスを学んできてしまったのですが、自分がやりたいのはそうではなくて、密着型の少数精鋭のコーチングスタイル、これに取り組みたいという結論にたどり着きました」
4. 決断コーチが描く未来
4.1 生まれ変わってもやりたい仕事
井上さんは、コーチングの仕事について「人生をやり直すとしても、もう一度やりたい」と真っすぐ前を見つめながら話してくれました。
「私は子供の頃から、物事を知識として分かっているだけでなく、それを自分が実践できるまで落とし込んで人に伝えられる、そういう人でありたいと考えてきました。だから、これまでの学びを多くの人に伝えられるように、この先をもっと長く楽しんでいきたいと思っています」
「ただ、これまでに学んだことを全部忘れてイチからやり直すのはちょっと」と笑います。
4.2 密着型のコーチングの先に見えてくるもの
井上さんの現在の目標は、いまサポートしているクライアントにできる限りの支援をすることです。そして、その方々にどのような変化が起こるのかを楽しみにしています。
井上さんは密着型のコーチングスタイルなので、サポートできてもあと僅か1~2名。「ご縁があった方に120%、いや200%関わっていきたい。その先に、自分にも見えてくるものがあると直感的に感じています」
4.3 困難に前向きに立ち向かう人を増やしたい
「私は生きていて毎日が楽しいです。もちろん、みなさんと同じように、私もすべてがうまくいっているわけではありません。次に何が起こる?それに対して自分がどう対応する?このプロセスを1つ1つ乗り越えていくと、自分の中で力が湧いてきて、気がついたら笑顔になってしまいます」と井上さんは頬を緩めます。
「今の状況はチャレンジだけど、それが楽しい。その考え方に気づくと生きていくことが楽しくなる。楽しいと前に進めるようになりますよね?クライアントにもそうなってもらえるよう意識しています」
井上さんが描くゴールは関わったすべてのみなさんが笑顔になれるように。それは決して、お金があるから、不自由がないからということではありません。どんな状況にあっても、そこから何が生み出せるのかなと発想できる姿勢になることです。
日本から1万km離れたカナダから、井上さんの真摯な想いが伝わってきました。
文:石川直紀(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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