北村卓也(きたむらたくや)さんは、日本や欧州の保険業界で長年にわたりご活躍の中、2024年11月に独立し、株式会社TKリスク&コンサルティングを設立しました。
そこでは、保険代理店への研修/コーチングとコンサルティングを通じ、M&A時のリスクヘッジ手段として用いられる表明保証保険の普及に取り組んでいます。
本インタビューでは、北村さんが取り扱っている表明保証保険の意義と日本における各種課題、および志師塾入塾のきっかけや学びの内容、そして今後の展望についてお話を伺いました。
1.表明保証保険の概要
表明保証保険とは、M&A(Mergers and Acquisitions、企業の吸収・合併)の場面で活用される保険です。では、どんな保険内容なのでしょうか。
M&Aにおいて、売り手の立場なら、「会社を可能な限り高く売り、早期に資金を獲得したい」買い手の立場なら、「その会社を買っても大丈夫かを確認し、妥当な金額で企業を買収したい。そして買収後もトラブルがないようにしたい」と多くの人が考えるはずです。
M&A契約の中で、売り手は売買を円滑に進めるため、買い手に対しM&A対象会社の財務状況や事業内容・法令遵守などに関する一定の事実を表明し、保証する旨の条項を定めます。これを表明保証条項といいます。
この表明保証条項は、買い手と売り手を含めた当事者間で交渉や調整を経て内容が決定され、契約書の中に落とし込まれることでM&Aの取り組みを推進していきます。
前述の表明保証保険は、売り手が提供した表明保証条項を違反した際に買い手が被る経済的損害を、言わば売り手の補償責任を肩代りする形で補償する保険です。
売り手にとってのメリットは、対象会社売却後の法的責任や経済的負担を軽減できること。他方、買い手にとってのメリットは買収後の予期せぬ損失を最小限に抑え、買収後の経営に集中できることです。
このように表明保証保険は、M&Aにおける買い手と売り手双方のリスクを吸収・軽減する役割を果たすものです。
2.表明保証保険普及への思い
北村卓也さんは、日本長期信用銀行に入行後、世界的大手保険ブローカーであるAON日本法人で7年在籍し、その後ヨーロッパに約8年赴任。そして2015年からAIG損害保険株式会社にて表明保証保険のアンダーライター(保険の審査・条件決定を行う専門職)を約10年間務めました。
北村さんはアンダーライターの当時から、日本での表明保証保険の利用率に問題意識を持っていました。
「欧米やオーストラリア、シンガポールなどの金融先進国では、M&A案件の10〜15パーセントで表明保証保険が活用されていると言われています。しかし、日本では年間4500件から5000件のM&A案件があるにも関わらず、この保険が使われているのはわずか100件から150件程度。つまり、利用率は2〜3パーセントに留まっているのが現状です」
また、保険を利用する企業規模や、ステークホルダーの保険認知度についても問題意識をお持ちでした。
「当時在籍していた会社では、買収金額が100億円を超えるような大型のM&A案件に係わる保険引受が中心でした。しかし、M&A案件のボリュームゾーンとして捉えている、買収金額が3億円から30億円規模の案件に関与する企業の多くが、表明保証保険の存在を知らないのではないかと考えています」
「保険は、保険会社と顧客だけでなく、保険仲介を行う保険代理店や保険仲立人も関与しますが、これらの人たちの多くも表明保証保険のことを知らないのではないかと」
北村さんは、表明保証保険を日本でもっと普及させたいとの思いから、2024年11月に独立し、株式会社TKリスク&コンサルティングを設立しました。
北村さんのビジネスモデルは、保険代理店に対する研修とコンサルティングを軸としています。
「まず代理店の方々に表明保証保険の中身を知っていただき、どうやって顧客に提案できるかを研修でお伝えします。そして実際の案件では、専門的な実務のアドバイスやサポートを行っています」とのことです。
現時点で開業から1年未満という短期間ながら、3社の保険代理店/保険仲立人企業と業務委託契約もしくは顧問契約を結んでいます。
3.志師塾での学びとビジネスの深掘り
3.1 志師塾との出会い―事業推進に向けた対話機会の重要性
志師塾との出会いは、起業後の2025年1月のことでした。
「Facebookで無料説明会の広告を見かけました。場所が新宿で、自宅への帰り道だったので、軽い気持ちで説明を聞きに行きました」
説明会の中で、学ぶ内容として挙げられたウェブ活用やセミナー企画は、独立したばかりの北村さんにとって新しい分野でした。
「前職でもセミナーは何回かしたことがありましたが、自分主体でやるのは初めてでした。また、独立を検討している方々との交流を通じて、新しい発見があるのではないかという期待もありました」
加えて、志師塾への参加を決めた背景には、一人で事業を進めることの難しさがありました。
「会社組織にいれば、異なる部門の人とも対話し、様々な協議を通じて進めるプロセスがありますが、一人でやっていると話す相手が必然的に少なくなります。似たような立場の方々と共通のテーマについて話せる環境は貴重だと思いました」
3.2 50人余りの同期と共に歩む学びの場
講座は毎月1回、新宿のオフィスでリアル開催されます。
「18時30分から21時30分までの3時間しっかり学ぶ場があり、その後1時間程度の懇親会もあります。月1回という頻度が私には合っていました」
北村さんが学んだ第123期は同期が50人を超え、他の期と比べ多くの仲間に恵まれています。
「正直なところ、同期全員を深くは把握しきれていません。ただ、私のビジネスについて親和性を感じていただける方も何人かいらっしゃったのと、関係が薄いかもしれないと思った方でも、対話してみると今まで考えていなかった可能性を感じられたりもして、多くの方々と相互理解を深める機会が得られたのは有意義でした」と同期との出会いの重要性を語ります。
また、特に効果的に感じていたのは、1対1ミーティングでした。
「塾では、同期や期をまたいだ方との1対1の対話が推奨されていて、実際に何人かの方とお話させていただきました。グループや全体で話すよりも、相手を深く知ることができ、自分のことやビジネスも詳細に理解してもらえました」
懇親会での交流も貴重な時間でした。
「講座期間中、グループメンバーは同じですが、懇親会では様々な方と対話ができます。より砕けた感じで話し合いができ、同期の別の一面が見られることも良かったと思います」と振り返ります。
自分自身を見つめ直すプロセスにも、北村さんは価値を感じていました。
「毎回、事前課題として提出が求められる内容があり、自分自身がどういう人間かをしっかり見つめ直すプロセスが大きかったです。思い出したくない過去も含めて、目を背けずに向き合うことが、先につなげていく上で重要だと感じました」
見つめ直す過程で、“志”という概念の重要性も再認識しました。
「目先のもうけよりも、日本の経済や企業の成長、安定的な将来に向けて何ができるかを考えたい。M&Aという自分が携わるテーマの中で、それが一つの志なのかもしれません。志がないビジネスは長続きしないし、ブレやすいと思います」
3.3 事業承継への新たな視点と同期との協業可能性
志師塾での学びを経て、北村さんは事業承継への理解を深めました。
「起業前から、事業承継が関わるM&A案件が存在し、今後も増えると認識していました。しかし、事業承継には承継後の運営や、社員やステークホルダーの幸福など、もっと長い時間軸で考える必要があり、かつ複雑で大きなテーマがあることを理解しました」
「株式譲渡や事業譲渡が発生するタイミングで、できる限り関係者皆さんがハッピーになるために、リスクヘッジがなされ、問題が起きにくい状態を作るところに、私が手がける表明保証保険が貢献できるのではないかと考えています」と志に基づいた思いを語ります。
また、北村さんは、志師塾で用いるキーワードの“ジョイントベンチャー”という概念の重要性を実感しています。“ジョイントベンチャー”は、他の人と組んで事業を成功させる発想を指します。
志師塾の中には事業承継をテーマに考えている方も少なからず存在しており、その中には税理士・公認会計士の方々もいます。
「地域に特化した活動をされている税理士や会計士の方であれば、その地域の中小M&A案件でサポートしていくこともあり得ます。そういう場面で表明保証保険の存在が役立つ可能性があり、潜在的なジョイントベンチャーの可能性を感じています」と期待を語ります。
4.今後の展望
4.1 オープンマインドでいられる場への参画
北村さんは、「オープンマインド」という言葉をよく用います。周囲の意見を素直に柔軟に受け止める心遣いの表れかもしれません。そして、北村さんのヨーロッパのご経験に関連し、最近ネットワークの場として活用しているのが、在日フランス商工会議所です。
会員の半数近くはフランスの外資系企業ですが、日本の一般企業や大手企業も参加しています。北村さんは多様性を感じられる拠点と捉えています。
在日フランス商工会議所では、定期的に会員が集まり議論する場があり、テーマが気候変動やモビリティ、物流など、一見すると北村さんのビジネスに直結しないようなテーマが取り扱われています。
参加者は、弁護士や金融機関といった、北村さんのビジネスに関係しそうな方々だけでなく、テーマに関する専門家の大学教授や有名企業の社長も含まれ、普段会えない方々の考え方に触れられることについても有意義に感じています。これからもオープンマインドでいられる出会いの場として今後も定期的に参加する予定とのことです。
4.2 高い志で社会課題解決に挑む
北村さんは将来ビジョンについて、「日本のM&A案件における表明保証保険の利用率を、現在の2〜3パーセントから10パーセント程度まで引き上げたい。これが実現すれば、自分の会社を立ち上げた意味があると思います」と意気込みを語ります。
北村さんは直接の顧客である保険代理店だけでなく、それ以外にも積極的にアプローチしています。弁護士、会計士、中堅クラスのプライベート・エクイティ投資ファンド、銀行、ファイナンシャルアドバイザーなど、M&Aに関わる様々なステークホルダーと意見交換を重ねています。
「表明保証保険の必要性や有用性を理解してもらうことが、結果的にマーケット全体の拡大につながると考えています」と語り、自分の利益のみにこだわらず、社会課題の解決に志を遂げようとする意思を感じます。
今後のビジネス拡大に向けては、現在の一人体制からの脱却も視野に入れています。
「売上1,000万円というのは、それほど難しい話ではないと思います。その先で大きくなる時は、一人の力では限界があります。フランチャイズ形式などの、同じ目線を持つ人との広域連携的な仕組みも検討しています」と将来の展望を語ります。
志師塾で学ばれたターゲット設定や顧客理解の重要性も、今後の事業展開に生かす予定です。
「ランディングページなどをどこまで準備するかは検討中ですが、相手に刺さる提案やサービスにしていくという基本は変わりません」
北村さんの根底にあるのは、単なる利益追求ではなく、日本経済への貢献という大きな視点です。
「事業承継を商売のための局面として考えるのではなく、日本経済をしっかり支えていくための貢献として取り組みたい。少子高齢化や技術継承の問題もある中で、本当に困っている人に向き合う姿勢が重要だと思います」
表明保証保険という専門分野で独立を果たされた北村さん。志師塾での学びを通じて事業の軸を固め、同期との協業可能性も見いだしています。
M&Aのリスクヘッジという仕組みを通じて、日本企業の未来を支える北村さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。
文:木内義貴(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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