住宅・不動産業界で約25年間営業をされてきた松本直之さんは、2020年に株式会社スリーウェイズを設立し、終活のサポートと不動産の仲介を始めました。ゼロからの事業立ち上げとなりましたが、現在では、税理士として開業された奥様と共に、「終活」「相続」「不動産」に関するシニアのお悩みにワンストップで対応できる体制を整えています。
長年、ハウスメーカーの営業として活躍された松本さんは、なぜ終活の事業を始めようと思ったのでしょうか。終活や相続と不動産との関係、志師塾での学びと事業を軌道に乗せるために心がけたこと、不動産業界・終活業界における思いや今後のビジョンについてうかがいました。
1. 3つの事業を掛け合わせたビジネスモデル
松本さん夫妻は不動産事業、終活事業、税理士と3つの事業を行っています。
不動産事業は株式会社スリーウェイズで運営しており、相続時やシニアの方が介護施設等へ入居する際の不動産売買など、終活・相続に関連する不動産売買の仲介を行っています。終活事業を運営する一般社団法人相続終活サポート協会では、ご親族のいないシニアの方々の施設入居時の身元保証サービスや日常生活支援サービスなどの業務を行っています。そして、税理士の奥様が運営する松本メル税理士事務所では不動産や相続を専門とする税務関連業務を取り扱っています。
このように、3社の事業を掛け合わせ、終活・相続への悩みにワンストップで対応できるビジネスモデルを構築しています。
松本さんの肩書は「不動産と終活の悩み解決パートナー」、奥様である松本メルさんの肩書は「不動産専門税理士」。ともにシニアライフカウンセラーでもあります。
2.終活・相続を専門にする不動産屋を開業するまで
2.1 思いかけず訪れた独立のタイミング
長年勤めたハウスメーカーを退社することとなったのは、意外にも独立するためではありませんでした。
「当時のクライアント先の社長が高齢で、『事業承継の後継者として、ウチの事業を継いでくれないか』と誘われたことがきっかけとなり、会社を辞めることとなったのです。しかし、いざ入社してみると、その社長の認知症が進んでしまい、事業承継をできるような状態ではなく、事業承継の話は白紙に戻してもらいました」
松本さんは、転職後たった1か月で無職となってしまったのです。
想定外の状況でしたが、就職活動をしてサラリーマンに戻るという選択は考えにくく、いずれは独立をしたいという思いを内に秘めていた松本さんは、開業の道を選びました。その当時は「やりたいこと」こそありましたが、完全に無計画の独立でした。
2.2 営業マンとして献杯を依頼されるということ
終活に関連する事業を行いたいという思いから2020年6月に株式会社スリーウェイズを設立。その背景には、ハウスメーカー時代、相続対策のアパート建築の営業を通じて出会った多くのお客様への思いがありました。
松本さんは、営業活動を通じて、シニアの方々と相続関連の話をされていましたが、人生の最期に立ち会う場面も多くあったそうです。その際、営業マンという立場にもかかわらず、献杯の挨拶を依頼されることがあったと言います。
「私自身のことを本当によく思っていただけないと、そのような依頼はされないと思いますので、そのお気持ちが本当にうれしかったですね」
その時、松本さんは、人の晩年や最期の場面をお手伝いできるということは、とても素敵だなと感じました。
2.3 シニアの方々の晩年のブレーンになりたい
「最期を迎える時、しっかりと終活や相続の準備をされていると、ご本人も周りの方も悲しみの中にも穏やかな気持ちや悔いのない人生だったという気持ちが伝わってきます」
松本さんは、シニアの方が心置きなく晩年を迎えられるよう支援をしたいという思いが募る一方、ハウスメーカーでは建築の分野でしかサポートできないことに葛藤を感じていました。
「多くの人が人生の最期に喜んでいただけるよう、シニアの方の晩年のブレーン、人生の最期を相談できる伴走者になれたら良いな」
次第に、その思いが膨らんでいき、2020年6月、松本さんは事業承継の話が白紙になったタイミングで「終活」を仕事にしようと決心したのです。
3.志師塾と出会うまで
3.1 仕事がない開業後の3か月
「具体的な計画なく独立したものの、不安はありませんでした」
松本さんは独立当時のことをそう振り返ります。しかしながら、売上はほとんどありません。以前勤めていた会社には、「他の会社を任されることになった」と伝えて退職した手前、元同僚にもその会社を1ヶ月で退社し、独立したことを伝えておらず、これまでのツテを頼ることはできませんでした。
この状況は当初の想定よりも厳しく、3か月間は売上がほぼゼロに近い状態で、これからどのようにして仕事を獲得していくのか本当にわからない状態に陥っていました。
3.2 妻の税理士開業準備
「ある時、Facebook上で志師塾のセミナーの案内を見つけました。『先生業のためのビジネススクール』というキャッチコピーを見て、当時、税理士法人に勤めていた妻の独立準備に役立つのではないかと思い、新宿まで案内セミナーを受講しに行きました」
セミナーを受け、松本さんは良いビジネススクールだなと感じたそうです。そのことを税理士である奥様に説明しましたが、決して安価ではないビジネススクールに一度は疑念を示されました。
その後、「一度自分で聞いてみてはどうか?」との松本さんの勧めで、志師塾の案内セミナーを受講すると、仕事柄疑い深いところもあるという奥様も「効果のありそうな講座だ」と判断され、結果的に夫婦二人で志師塾を受講することとなりました。
この時は、税理士法人と終活事業が上手くかみ合えば良いなという思いこそありましたが、具体的な構想や明確な言語化はできていない状態でした。
4.志師塾で学んだこと
4.1 「できること」と「やりたいこと」そしてもう一つの重要なピース
当初、松本さんは、「終活の専門家」として自身を売り出していくつもりでした。
「ただ、終活事業はできることであり、やりたいことでもあるのですが、軌道に乗せるのにとても時間がかかるという点が懸念でした。その時、志師塾の講師の方から『不動産を前に出して、稼いでいかないとだめだよ』という助言をいただきました。そこで、不動産をメインに据え、『不動産屋が終活の分野も扱う』という方針に変えることとしました」
志師塾では「できること」、「やりたいこと」、「儲かること」の重なるところでビジネスを行うことが重要だと言われます。ビジネスモデルを考える際、これら3つのいずれかに偏ってしまうことが多いと思いますが、「3つのバランスを意識したビジネスモデルを作りなさい」という言葉が松本さんにはとても腹落ちした言葉となりました。
4.2 言語化のプロセスを用いて、成約率が5倍改善
志師塾では受講してまもなく、肩書やプロフィール、キャッチコピーを作成します。「これまで、自分のプロフィールを作りこまないといけないという発想がなかったのですが、自分でビジネスを始めるとき、土台となる自分自身を言語化することが大切だということを初めて学びました」と松本さんは振り返ります。
「その言語化のプロセスを用いて、チラシや資料を作成したところ、これまでゼロに近かった売上が、2か月程で目に見える形となってきました」
不動産の一括査定サイトを利用する場合、成約率は一般的に5%と言われています。松本さんは、志師塾での学びを素直に取り入れたところ、成約率が約25%に上昇しました。自分自身をお客様に伝えることが、同業他社との差別化につながりました。
4.3 人脈の力でおよそ9割が紹介案件に
「志師塾の良さの一つは、仕事につながる人々との出会い(人脈作り)です」
松本さんは、人脈を広げることでビジネスの成長スピードが加速することを経験し、経営者としての人脈作りはこれほど大切なのかと実感しました。志師塾では、約20名の同期と講師陣に加え、卒業生との交流も盛んに行われます。それらを通じて、相続を専門にしている士業の方をはじめとした様々な方とつながることができました。
一方で、松本さんは人脈作りをする上での注意点も教えてくれました。
「志師塾で人脈を広げる機会を得られることは間違いありませんが、特にコロナ禍でほとんどがオンラインでの集まりという状況を考えると、受身の姿勢では売上に反映することは難しいかもしれません」
受身ではチャンスをつかめないと感じた松本さんは、志師塾で整えた自分の肩書や商品体系を持って、相手のビジネスを理解するためにその方のセミナーを受講し、自発的に連絡を取ることで、信頼関係を築き上げました。
その結果、現在では、売上の9割ほどが紹介案件となっています。
4.4 正解はお客様の頭の中のみにある
松本さんは、志師塾に参加している全員が成功できているわけではない事実に気が付きます。
「売上を上げている人たちには『行動力がある』という共通点がありました。他の人が1か月掛かることを1週間で、1年掛かることを数か月でやってしまうような人もいて、その事業のとても速い成長スピードを目の当たりにし、『行動した者勝ち』だということに気が付きました」
その気づきを踏まえ、例えばチラシを作る場合、プロのデザイナーが作るような100点満点のチラシではなく、50点の出来でも配り始め、周囲に伝えることを心がけるようになったとのこと。その結果、すぐに仮説検証ができるようになったのです。
「売れると思っていたサービスが実際は顧客に求められていなかったことや、想定していなかった顧客のウォンツやニーズ等のお客様の声を聞くことができたことなど、フィードバックをすぐに手に入れられるようになりました」
「特に終活事業に関しては、サービス開発や料金設定などすべてが一からの取組みだったので、仮説検証を繰り返すことはとても重要でした。その中で、女性のためのシニアライフ相談サロン「さんせっと」という事業は、お客様からの「あったらいいな」という要望を形にできたサービスです。
さらに、1年程で受けた仕事の内容と顧客の満足度を振り返り、不動産事業も終活・相続関連に狭めていこうと決断しました」
これまでの松本さんは、頭で考えて計画を作り上げてから実行に移すタイプだったそうです。しかし、できるだけ早く顧客からフィードバックをいただくことを重視し、仮説検証を繰返したことで、松本さん夫妻の良さが出る形へ変えていくことができました。
5.シニアの方々が安心できる世の中を作るために
5.1 相続不動産のプラットフォーム構想
「これまでの不動産業界の慣習には少なからず疑問を持っています」松本さんは表情を曇らせます。
「特にシニア向けとなると、不動産屋とお客様の情報格差はとても大きく、適正価格での売買が阻害されているケースもあります。シニアの方々は不動産業者を信頼して仲介を依頼しているにもかかわらず、不動産業者側が適切な情報共有を行わず、不動産屋だけが儲かるような話もよく聞きました」
この状況を変えていきたいという思いがある一方、松本さんは自分一人で取組むことの限界も感じていました。
「多くの人を幸せにするためには、同じ考えや志を持った人たちと一緒に仕事ができる環境を作る必要があります」
松本さんは、全国の行政書士、税理士、司法書士などの士業の方々が不動産の売り手となるシニアの方々のセカンドオピニオンの役割を担っていけるよう、相続関連の不動産について相談し合える場となる相続不動産系プラットフォームを作る準備を進めています。
5.2 仕事はかっこよく、誠実に
終活・相続業界でも、残念ながら、シニアの方をだます事件が起きています。
「悲しい事例の一つに、ご年配の姉妹がリフォーム会社からの営業を受けて、不必要なリフォームの契約を何度も結ばされたケースがあります。老後資金として貯蓄していた約4,000万円を失っただけに留まらず、自宅まで競売に掛けられました。晩年にそのような状況になってしまうのはとても悲しいことで、弱者を騙だます業者は絶対に許せません」
シニア向けの業界は、相場が広く知れ渡っているとは言えず、シニアをサポートする存在が不可欠です。
「私たちが携わった方々には、安心して笑顔で晩年を過ごしてもらいたい。そして、同様の志を持つ方と一緒に、シニアのセカンドオピニオンとして、誰もが真っ当な取引ができるような世界を作るべく、かっこいい仕事をしていきたい」
正直・誠実の心を大切にし、社名の由来である「三方よし」をモットーとする松本さんは人生の晩年を彩る伴走者として、笑顔を生み出す支援の輪をつないでいきます。
文:玉木 涼太郎(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
年商1,000万円以上を目指したい士業・コンサル・講師・コーチ・セラピストなどの先生業の方は、松本さんも学んだWebを活用し、高単価で安定的に顧客獲得するためのノウハウを、学んでみてくださいね。