今回お話をうかがったのは志師塾卒業生、メディカルアシスト代表の中條克己(なかじょうかつみ)さんです。
中條さんは精神科医・産業医としてキャリアを積んだ後、労働衛生コンサルタントの資格取得を機に独立を決断。現在は「産業医」「労働衛生コンサルタント」「人事トータルコンサルタント」の3つの顔を持ち、中小企業の職場作りを支援しています。
今回は中條さんが歩んできたキャリアの軌跡や志師塾での学び、今後の展望についてお話をうかがいました。
1.メンタルヘルスケアの専門家による人事支援
1.1 産業医をベースに人事戦略までトータル支援
中條克己さんは「産業医」「労働衛生コンサルタント」「人事トータルコンサルタント」の3段構えで中小企業の職場作り支援をしています。土台にあるのは産業医です。
まず、産業医として企業が取り組む健康施策・健康対策の基盤を整備します。職場で病気や災害が起きないように、衛生面から安全性まで含めて労働者の健康を守ることが役割です。健康診断やストレスチェックを実施して、身体に異常をきたす前に上流で労働者の健康を守ります。
その上の階層にあるのが労働衛生コンサルタント(仕組化コンサルタント)。健康施策・健康対策の基盤を構築した後に、それを体系化して職場に根付かせる役割を担います。職場復帰の仕組みを整え、再発防止策を講じます。
一番上の階層にあるのが、人事トータルコンサルタントです。最近では経営者との関わりを重視しています。
健康施策は経営戦略なので、経営判断がないと上手くいきません。経営者と共に理念の浸透から始めて、定着・育成・採用まで含めて人事をトータルで支援しています。
1.2 個人も法人も治し・支える
中條さんの支援の根幹には、「個人も、法人というヒトも、治し・支える」という想いがあります。休職者や体調不良者の存在は、単なる人材の問題で済みません。
プレゼンティーズム(出勤しているのに、心身の不調により仕事のパフォーマンスが低下している状態)や休職コストは、法人にとっての“見えない出血”です。中小企業においては、年間数百万円単位の損失になり得ます。
中條さんは、“法人の出血”を仕組みによって止める支援(定着支援)を提供しています。この仕組みが整うことで、職場に余力と安定が生まれます。結果として、ようやく育成や職場の活性化に目を向けられるようになるのです。
次の段階では、問活や脳活(社会脳テスト)といった個人の能力開発や人間関係を育てるコンテンツの導入を提案。さらに、ここまでに得られた定着・育成のプロセスや内在資産の可視化データは、採用活動やブランディングに接続していきます。
このように、定着・育成・採用という一貫した人事トータルコンサルティングを得意としています。
2.人生の転機となる労働衛生コンサルタントの資格取得
2.1 精神科医の経験が社員の本音を聞くスキルの原点
中條さんは長年精神科医として臨床現場を支えてきました。カウンセリングを学び、統合失調症、うつ病、発達障害、パーソナリティの問題など様々な患者様との対話を経験。薬物療法や脳生理学よりも、患者様との対話を通じた治療に重きを置き、長年患者様と向き合ってきました。
社員の本音を聞くスキルには、こうした精神科医時代の経験が活きています。患者様と立場が違えども、社員と話している間に、なぜか自分の気持ちを話してくれることが多くあると言います。
人間関係がぎくしゃくしている組織の場合、社員の本音をどう会社に伝えるかも重要です。社長には絶対に話したくないことを、中條さんには話してくれることもあります。そんな時は、そのまま伝えてしまうのではなく、ポイントを加工して、どう伝えたら、両者が上手くいくのかということを常に考えています。
2.2 精神科医から産業医に、そして労働衛生コンサルタントへ
中條さんは東京で20年以上精神科医を経験した後に、2013年に岡山県に移住します。移住と同時に、岡山県内でシェアNo.1の健診会社に就職。そこで産業医という仕事と出会います。
「天職だなと思いました。身体に異常が起きてから治すのでなくて、悪くなる前にアプローチできることに意義を感じました。100社ほど経験しているうちに、これは自分の理想とする形でやっていきたいという気持ちが徐々に芽生えてきたのです」
「そして、『独立して本気でやるにはどうしたらいいか?』と考えた結果、労働衛生コンサルタントという産業医の上位資格の取得を目指すことに決めました。合格率も低く難関の国家試験です。人生最後の挑戦と思って、1年間頑張って取得しました。それが人生の分岐点になりました」
3.志師塾との出会いと自己研鑽の日々
3.1 喜びも束の間、すぐさま志師塾へ入塾
最初に志師塾のことを知ったのは、ちょうど労働衛生コンサルタントの試験勉強をしている時期です。五十嵐塾長の動画を見て興味を抱くものの、時間に余裕がなく、受講は後回しにしていました。
苦労の末、労働衛生コンサルタントの試験に合格。中條さんは喜びを感じると同時に、試験対策の講師からの一言で愕然とします。「あなた方はこれから独立すると思いますが、資格を取ったからすぐに仕事が来るわけでないですよ」“資格を取って終わりでない”という現実に直面します。
「ビジネスのことが何もわからない」、そんな新たな課題に気づいたときに、志師塾のことを思い出します。すぐさま、五十嵐塾長のフロントセミナーを受講。国家試験合格の喜びも束の間、志師塾への入塾を決断します。
「せっかく資格を取ったのだから、これをビジネスに結びつけたい」と考えたのです。当時、勤めていた健診会社を退職して独立を選択。様々な環境変化のもと、中條さんの新たな挑戦が始まります。
3.2 独立後の新たな発見
独立後、お客様と向き合う中で、どのように自分の専門性とスキルを伝えるべきかを課題と感じていました。
「志師塾へ入った後は、講師の話がスポンジのようにどんどん入ってきた」と中條さんは言います。
自分の価値を見つけて、いくつかの事業を仕分けしたこと。自分自身やサービスにネーミングをつけたこと。ポジショニング戦略を考えたことなど、1つ1つのことが新鮮に感じられました。
自己棚卸しのレポート作成にも取り組みます。課された文字数は3万文字以上。これだけの文字数を言語化して、レポートとしてまとめるのは初めての経験でした。
想定外なことに、自己棚卸しに取り組む数週間の間に人生初の不整脈を発症。「命がけのつもりはありませんでしたが、結果的に命がけになってしまいました」と笑いながら当時を振り返ります。
3.3 本講座では味わえない充実のオプション講座
中條さんはメイン講座の他に、オプション講座を6つ受講します。これほど多くのオプション講座を受けている人は多くありません。
受講したオプション講座は、採用、郵送DM、リアル営業、法人コンサル、人事トータルコンサル、問活。採用に関わったこともなく、郵送DMというマーケティング手法も未知の領域です。
リアル営業ではどのようなトークスクリプトを、どのように伝えたら相手に響くのかということを学びました。人事トータルコンサルも同様です。目の前の課題を見つけ出し、解決策を提示して、それで終了でなく、いかに次につなげていくかを学びます。
「どの講義も濃厚で、志師塾の本講義を補完する以上の唯一無二の学びばかりなんですよ。講師陣はそれぞれ個性が全く異なるのですが、共通してどの講師からも『走りながら考える』ということを教えてもらいました」
「われわれ先生は完璧主義な人が多く、例えばセミナーの資料作りでも完璧を目指してしまうんですね。そうでなくて、6割ぐらい完成したら、まず行動して相手の声を聞く。このような視点は志師塾以前には全くありませんでした」
3.4 メンターの一言が今のビジネスを形作るヒントに
メンターにも恵まれました。志師塾では、以前に受講された先輩がメンターとしてサポートをしてくれます。
当時、中條さんはセミナー集客で苦戦をしていました。受講した人事はよいと評価してくれたものの、最終的な社長の決裁が下りず成約にいたらない商談が、約20社続いていたのです。
一般の産業医は、仲介業者任せだったり、提案するのも人事までです。経営者と話すのは未知で怖さも感じていました。
そんな時に、メンターは中條さんに言います。「中條さんは産業医がベースにあって、人事マネージャーと一緒に仕事をしていますよね。それはそれでいいんですが、私はスタンスが違うんですよ。私はその上の経営者の横に“経営者の夢のパートナー”としているんですよ」
メンターの一言が、中條さんの悩みの解消につながりました。人事の視点から経営者の視点にステージアップするきっかけになったのです。いくら人事にやりたいと言われても、社長に直接提案しないと成約しにくいという事実を知りました。
経営者の目線になったことで、社長に対する印象も変化。漠然と怖いと感じていた社長も、直接話す機会が増えるうちに、常に経営のことを真摯に考えている、自分と同じスタンスの人達なんだなと思えてきたのです。困っていた時に、いいタイミングで助言をもらえたことが、今のビジネスの土台を構築するヒントになりました。
4.未来を見据えた中條さんの新たな挑戦
4.1 士業の仲間と仕組みを広めていきたい
中條さんは自身のビジネスが秘める可能性に確かな手ごたえを感じています。この仕組みが現在の数%から20%くらいまで全国に広がれば、社会が大きく変わるだろうと確信しています。
しかし、1人でやるのでは、30社前後が限度です。「この仕組みを志師塾で出会ったような全国の士業の方にも伝授して、一緒に広げていきたい」と今後の展望を語ります。最近では異業種の業界団体にも果敢に飛び込み、積極的に発信を続けています。
4.2 「衛生」と「安全」の架け橋に|新たな分野への挑戦
もう一つ中條さんが新たに挑戦しているのが「安全」の領域です。「労働衛生コンサルタント」と「労働安全コンサルタント」は似たような言葉ですが、仕事の内容は大きく異なります。
労働衛生コンサルタントが関与するのは、主に長期曝露による慢性疾患などの防止対策。一方で労働安全コンサルタントが関与するのは、主に建設業など危険な作業現場における、突発的な事故や死亡災害の防止対策。両者の間にすみ分けがあり、深い溝があると感じています。
中條さんは安全も衛生も本質は同じだと気づきました。事故が起きてから被害を最小限に抑えることや、なってしまった病気を治すことよりも、そもそも事故や病気が起きないような対策をしていくことが本質的で大事なことです。
本質が同じだと気づけている人は、どちらの分野にも意外と少ないのです。だからこそ両分野に関わるようになり、架け橋になっていきたいと考えています。
インタビューを通して、終始、中條さんの充実した仕事ぶりがうかがえました。精神科医からスタートして、産業医、労働衛生コンサルタント、人事トータルコンサルタントへとたえず新しい分野を切り拓いています。
中條さんの挑戦はまだまだ始まったばかりです。
文:豊田裕史(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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