今回、お話をうかがったのは志師塾卒業生、遠山総合特許事務所の遠山敬一さんです。遠山さんは起業家向けに商標権・特許権の取得をサポートしビジネスを加速する、「知財コンシェルジュ」として活躍されています。
食料品製造会社・工作機械メーカー・大手特許事務所など異なる組織で働き、また副業として物販ビジネスを行うなど豊富な経験を活かし、2022年4月に独立した遠山さん。起業家、特に独立開業を目指す士業の方に活躍してもらいたい、という強い思いを持って活動されています。
今回の取材を通じて遠山さんの起業に対する思いと、ビジネスの方向性を掴むきっかけとなった志師塾についておうかがいしました。
1. 起業家向け知財コンシェルジュとして活躍
1.1 知的財産とは事業の核そのもの
「知的財産というと難しく聞こえるのですが、発明・ブランドなど、身の回りにあるビジネスの肝となる部分なんですよ」と笑顔で語ってくれたのは、起業家を対象に知財コンシェルジュとして活躍されている遠山さん。
知的財産とは、人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物など財産的な価値を持つものです。発明やブランド、著作物など多様なものがあり、なかでも特許権など法律で規定された権利として保護されるものは知的財産権と呼ばれます。アイデアやブランドなどの知的財産は、ビジネスの提供価値の源泉となるため、知的財産の創出・保護・活用が、ビジネスにおける起業・事業拡大の道筋と重なるといいます。
とはいえ、知的財産と聞いて具体的に何をどうしたらいいのかわからず、知的財産権を取得することなくビジネスを始めてしまう方が多いそうです。そのため、せっかく認知された自分のブランド名を他人に無断で使用されてしまうこともあるそうです。場合によっては、自分のブランド名について他人に商標権を取得されてしまい自分のブランド名が使いにくくなったりと、ビジネスに大きな支障が生じてしまうといいます。
「知的財産について相談できる人が身近におらず、そもそも知的財産の保護・活用のエキスパートが弁理士であることを知らない方も多いのが実態です。また、知っていてもどのように相談すればいいのか、誰に相談すればいいのかわからないことも多い。そのような敷居の高さが問題だと考えています」
弁理士としての高いスキルと、自ら物販ビジネスを立ちあげるなど起業家としての側面もある、遠山さん。知的財産を特許権や商標権などの形で権利化することについては専門家としてノウハウを確立しているので、あとは何をどのような知的財産権にするか、どう活用するか戦略を立てて起業の段階からビジネスモデルに織り込めるかどうかだといいます。
1.2 起業家を対象とする理由
遠山さんは、工学部で電気工学を学んだもののマーケティングや経営・人事にも興味があり、大学卒業後は、理系出身でもマーケティング部門や経営企画部門、人事部門に進む道があるメーカーに就職して工場実習生として働き始めました。その後、技術者(理系)と法律家(文系)の両方の素養が求められる知的財産の専門家、弁理士という仕事を知り、「自分の天職だと直感した」と遠山さんは回想します。
仕事を続けながら、難関資格である弁理士資格を取得、メーカーの知財部や特許事務所で実務経験を積む一方、米国法科大学院の知財プログラムに留学し米国弁理士資格試験にも合格するなど、弁理士としてのスキルを着実に磨き上げてきました。特に、アメリカでは米国弁護士と組んで特許裁判を担当するなど、特許権の取得から活用まで携わり、「海外の特許権取得と活用スキルについては自信がある」といいます。
「知的財産をビジネスに織り込む戦略をクライアントに提案できる。特にまだビジネスモデルが固まっていない初期の段階、つまり起業段階から知的財産の保護・活用を戦略に織り込まないと、手遅れになる」
「新規参入者である起業家は、既に存在している競合と徹底的に差別化しないと大手企業に勝てない。差別化する要素、それはすなわち起業家が持つ固有の知的財産に他ならない。起業家こそ、知的財産の保護・活用をビジネスモデルに織り込むべきです」
効果的な知的財産の保護と活用は、起業家のビジネスの成功確率を高め、成功した起業家を見た人が新たに独立起業を志す。ビジネス創出サイクルが回る活力がある社会の実現につながる、と遠山さんは語気を強めます。
「日本社会を活性化するために、もっと独立・起業する人を増やしたい。起業の成功確率を高める手段として、知的財産権の取得と活用は起業の段階から必要なんです」
2. 志師塾との出会い
2.1 独立への意識の芽生え
遠山さんが所属していた大手特許事務所のクライアントの大部分は大企業でした。仕事にやりがいを感じつつも、クライアントの事業が大きいこともあり、一つひとつの知的財産がどのようにビジネスに生かされているのか見えにくかったといいます。また特許事務所が提供するサービスが標準化されていたために、所属する弁理士が考えた個々の独自サービスを提供しにくく、物足りなさも感じ始めたそうです。
「大手特許事務所は所属する事務員も多いため一定の売り上げが必要です。そのため、大口の顧客である大企業の案件を優先し、数もこなさなくてはいけない。独立・開業して、自分が極めた海外の特許権取得と活用スキルをビジネスに生かせるサービスを提供したい」そんな思いから、遠山さんは独立を意識し始めました。
「ただ、独立資金がなかったんです」遠山さんは苦笑いをする。「そこで、独立資金を得るために、もともと興味があった物販ビジネスを副業としてはじめました」「興味だけではうまくいくわけはないと思い、物販や輸入販売に関する勉強会に参加するようになったんです。仕入れや営業、在庫管理から会計まで、物販に必要な様々な知識を得るために勉強会に参加するうちに、同じ勉強会に参加している個人事業主や起業家と仲良くなりました」
物販で充実感を得ながらも、弁理士として独立開業したいという思いが募り、新しい学びやきっかけを求める過程で、志師塾と出会いました。
2.2 強みの徹底した棚卸しとターゲットの深堀
弁理士をはじめとする士業に特化した塾と聞き、早速、フロントセミナーを受講した遠山さんは入塾を即断します。士業が、高い再現性で成功するためのメソッドが「ここなら学べる」「迷いを払拭できるようになる」と直感したからでした。
入塾したのは2019年4月。入塾後はワークを繰り返す日々が続いたといいます。
「このワークこそが、その後の進むべき方向性を決めることになった」「志師塾では徹底的に自分のキャリアや強みの棚卸しをして、受講生みんなで共有します。自分の強みはこれで、だから誰に、何を、どのように提供するか、自分の構想を説明します」「誰に、何を、どのように。この事業コンセプトを作っては、仲間と一緒に検討しては練り直し、また作って練り直しを、徹底的に繰り返します」
「私にとっては、特に「誰を」を尖らせていく感覚でした。世間的には、ペルソナというのかもしれませんが、私たちは『小人さん』といっていました。常に自分の頭の中にいて、四六時中考えることができる人という意味です。具体的にイメージしやすく、本当に頭の中にいるような感覚でした」
また、この過程で一番難しかったのは、自分が持っていた強みをいったんわきに置くことだったと振り返ります。遠山さんのように経験が豊かな参加者ほど、多様なスキルを持っているため「あれもこれも、なんでもできます」となってしまい、絞り切れなくなりがちです。志師塾では「一点突破の全面展開のために、誰に、何を、どのように、を尖らせる」ことを繰り返し叩き込まれ、仲間と一緒にこの困難な過程を突破します。
遠山さんは、海外の特許権取得・活用について尖ったスキルを持っていましたが、あえてわきに置きます。そして、削りに削って最後に仲間と一緒に見つけた「誰に、何を、どのように」が、「起業家向け知財コンシェルジュ」だったのです。
2.3 「誰に」は目の前に
志師塾では、理論や知識を勉強するだけの講座はありません。参加者でグループを作ってワークを繰り返します。ワークといっても毎回課題が出され、和気あいあいとした中にも緊張感がある「真剣勝負」だったそうです。
ワークをともに真剣に取り組んだ学び仲間は、まさに「同志」となるといいます。また、「塾長はじめ、講師陣もみんな温かく見守ってくれて、話しやすい人ばかりだった」だからこそ、一体感のある雰囲気が醸成され安心して自分の構想や思いを開示し、参加者がお互いを高めあえる環境だったといいます。
卒業後も「同志」となった参加者は交流が続き、学びを継続することができます。さらに、学び仲間から仕事の依頼や紹介があったといいます。
「ワークを通じて、私は『誰に』を『起業家』にしましたが、志師塾に集う学び仲間の皆さんは起業家なんです。私は、『小人さん』達と一緒に『小人さん』を探していたことになります。そう考えると、不思議な感じがします」
知識や理論の理解だけでなく、ワークの結果が様々な形で実のあるビジネスに結びつくことも、志師塾の魅力だといいます。
3. おわりに
3.1 独立、そして起業家の身近な存在に
志師塾卒業後、独立していなかったものの「起業家向け知財コンシェルジュ」を開始。起業家に寄り添った相談しやすい知財専門家として、ビジネス構想の段階から知財戦略を織り込む遠山さん。志師塾の学び仲間や物販ビジネスを通じた知り合いや、仲間から紹介された起業家からの依頼が順調に増えました。
そこで手ごたえを得て、自信を持って2022年4月に独立、横浜市で遠山総合特許事務所を開所しました。志師塾での学びで得た方向性にも自信があり、独立にためらいはなかったそうです。
特に、独自サービスを展開する起業家にとって、そのサービス内容を示すブランド名について商標権を取得することは、「ビジネスの肝」です。一方、そのようなサービスの内容がわかる名称は、多くの人が商標権を取得しようと考えるため、一般的には商標権の獲得が難しいとされています。
遠山さんは、起業家のビジネス構想を丁寧にヒアリングし、そのビジネスの尖った部分、差別化要素をうまく伝えられ、かつ商標権を取得しえる名称が何か、丁寧にアドバイスしているといいます。そして、かつての遠山さんのように、資金が十分でない起業家が商標権取得に挑戦できるように、商標登録できなかったら、一部費用を返金するサービスも提供しています。
「その方が、起業家が商標登録に踏み切りやすくなることはもちろん、自分も権利の取得が難しい案件を受任しやすく、思い切って審査に対応できる」遠山さんが手掛けた商標登録出願には、「マネーコンシェルジュ協会」「筋肉占い」「経理デザイン・ラボ」「招運術」などサービスの内容がわかりやすいものが多く、マーケティングツールとしてクライアントである起業家のビジネスを加速しているといいます。
3.2 夢に向かって、再び志師塾の門を叩く
念願の独立を果たした遠山さん。今後も起業家に寄り添った知財コンシェルジュとして、起業家のビジネスを加速することで社会に貢献していきたいと意気込みます。さらに将来的には、自ら起業家を育てていければと、遠山さんは思いを語ります。
「私が特許事務所に勤務していたころ、スキルもあり独自サービスの構想もあるのに独立に踏み切れない弁理士が多くいました。本当にもったいないと思います。自分が独立して成功することで、道筋を作れればよいと思っています。まだ私一人しかいない特許事務所ですが、将来は弁理士を雇って育成し、いずれ独立していってもらえる。そうですね、知的財産専門家を育成するプラットフォームのような事務所にしたい。そうなるためには、もう一歩、先のビジネスを考えたい」と熱く夢を語る姿が印象的でした。
遠山さんは夢の実現に向けて、再び志師塾の先生ビジネス開発講座に参加し、今度は1年間、じっくり取り組むとのことです。遠山さんの今後のさらなる活躍が、起業家のビジネスの成功確率を高め、起業に挑戦する人を増やすことで、活力のある社会を作っていくことでしょう。
文:大池俊輔(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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