今回お話をうかがったのは志師塾卒業生、一般社団法人和モダン水引協会・代表理事の重田恭子(おもだきょうこ)さんです。
重田さんは、「水引で人と人、企業と顧客、企業と企業を結ぶ」をキャッチコピーに、「水引伝道師」として日本の伝統工芸である水引の講座開催・資格試験実施や、水引商品開発・水引アート制作などを行っています。
取材を通して、ご自身の原体験とそれまでのキャリアがどのように起業につながったのか、そして志師塾との出会いでビジネスがどのように広がっていったのかを紐解いていきました。
1.一般社団法人和モダン水引協会 代表理事としての活躍
1.1 水引の魅力を世の中に広めたい
「水引という伝統工芸を国内外に伝えていきたい」という思いから、2019年に一般社団法人和モダン水引協会を設立した重田さん。現在は、水引教室の運営と、水引作品の販売事業をメインとして活動しています。
「水引というのは飾りの素材としての紐のことで、その水引を使っていろいろな作品を作ることを教え、認定講師の育成をしています。また、講師となるだけでなく作品を販売したいという生徒のニーズに応え、現在は浅草に小さな店舗を構えているほか、百貨店などでの期間限定店や、成田空港内のショップでの取り扱いなど、販路を広げています」
水引というと、ご祝儀袋が思い浮かびます。しかし実際には、色とりどりの水引を使った実に多種多様な作品が生み出されていました。最近では、企業からデザインの委託を受けて百貨店のウィンドーディスプレイを手がけるなど、事業の範囲を広げています。
1.2 伝統を守るために変えていく必要
水引の歴史は古く、起源は1400年前と言われています。もともと上流階級で用いられていたものが、江戸時代後半から明治時代にかけて一般庶民にまで広がりました。
現代でも水引の製造業者は江戸時代からの伝統的な手法で水引を生産し、従来は主に結納品を作って販売していました。しかし最近は結納をする人がめっきり減り、ある業者では、以前は売上のほとんどを占めていた結納品が、今ではたった5%ほどになってしまったそうです。
「私はそれを聞いて、ずっと同じやり方を続けるだけでなく、もっと私たちの生活に合ったスタイルにしていかないと、若い人にも受け入れられず、伝統が廃れてしまうのではと思いました。水引を教えるにしても、自分たちの生活に密着していなければやる気になれないというか、広がっていかないのではないかと」
「それであえて『水引協会』ではなく『和モダン水引協会』という名前の協会をつくり、現代のいろいろなものとコラボレーションをして水引の可能性を広げようと考えたのです」
1.3 「講師」ではなく「大使」
「和モダン水引協会」が他と異なりユニークなのは、水引の認定講師を“インストラクター”ではなく“アンバサダー”と位置づけ、名称も「水引大使」として認定資格にしている点です。古くからの伝統を守り続けるだけでなく、さまざまな文化との融合を目指すという外向きの姿勢がうかがえます。
「でも、忘れてはいけないのは、伝統工芸としての歴史や基礎をしっかり学ぶということです。レッスンでは意外と地味な作業もしますよ。水引発祥のストーリーなど、昔の話も織り交ぜながら、ベースの知識や技術を習得していきます。そうして基礎を固めてから、和モダンの雰囲気など、自分オリジナルの世界観を作品で表現していけるとよいと考えています」
何か面白そう、といった気軽さを入口に、その歴史や文化の奥深さを学んだうえで、自分らしい自由な表現を広げていく。そのようなステップを踏むことで、伝統工芸に対する理解が深まり、「大使」として広めようという意欲も増すことでしょう。
2.ビジネスとしての協会立ち上げ
2.1 水引との出会い
「最初は本当に気軽な感覚だったのです。主人の転勤で金沢に住んだ時に、たまたま水引を教えているという方と知り合って、せっかくだからと行ってみました。その頃は私もご祝儀袋についている飾りくらいのイメージしかなかったのですが、水引の紐でこんなにいろいろなものができるのだと知りました」
その後、どんどん水引の世界にのめり込んでいった重田さん。選ぶ色の組み合わせによって全く違うものになる楽しさもさることながら、ひとつひとつの結びにも意味があり、ストーリーがあることに、昔の人々の生活を想像し、その面白さに惹かれていきました。
2.2 ブルーオーシャンに気づくベンチャーマインド
それまで、水引の世界には資格制度などが存在していませんでした。そこに着目した重田さんは、「技術を習得するなら目標があった方が人は頑張れるのでは」と考え、級や資格を取得できる体系的な講座をつくることを思い立ったのです。
「水引の歴史は古いのですが、流派や家元などがある伝統工芸とは異なり、水引屋を営んでいる家の職人さんが代々、結納セットを作っているというような世界だったのです。なので『人に教える』という感覚があまりなかったのですね」
単に水引教室を開くだけでなく、法人を設立し資格制度を整えた重田さん。すぐにその発想が浮かんだのは、それまでのキャリアの影響でした。
「大学卒業後、ベンチャーキャピタル業界で働いていました。小さな会社を資金的に支援して上場させる仕事です。それで、何か事業をやるならば法人を立ち上げなくちゃ、と自然と思ってしまったのです。個人事業のようなスモールビジネスという方法があったことには後から気付きました」
そう言って笑う重田さん。始めるならば大きくアクセルを踏んで成長させる。これまでの経験から、そんなベンチャーマインドが培われていたのでした。
3.志師塾で得たもの
3.1 もっと早く出会いたかった
ビジネス経験が豊富な重田さんも、いざ自分で法人を立ち上げるとなると、分からないことの連続でした。重田さんが志師塾に入塾したのは法人を設立して3年ほど経ってからのこと。「立ち上げの頃に志師塾を知っていたらよかったのに」と悔やむ重田さんですが、入塾のきっかけは偶然でした。
「たまたまパソコンを見ていたら広告が流れてきて。先生向けのプログラムということで、書かれていた先生業の課題が自分のことのようで、前のめりになりました。無料のセミナーがあるということで、ちょっと聞いてみようと申し込んでみたのです」
個人向けの講座開催を進め、生徒数も増え忙しくしていた重田さんでしたが、成長のためにはより大きな企業向け案件も獲得しなければいけないと考えていました。そのノウハウが学べるという志師塾に、それなら、と入塾を決めました。
3.2 後回しにできない、お尻を叩かれる一年間
入塾当初、宿題の多さに大慌てだった重田さん。日常の業務も忙しい中、こなしていくのは簡単ではありませんでした。それでも、たくさんの課題に取り組むことで強みや本当にやりたいことが整理され、自身の可能性にも気付くことができ、とてもよかったと回想します。
「やっぱり、行くのと行かないのでは全然違うなと思いました。一人だと、忙しいからとどうしても後回しにしてしまいますよね。でも志師塾のメンバーと定期的に会って進捗報告をするとなると、何もやっていませんとは言えないので、必要以上に頑張るのです。お尻を叩かれているようなものですね。他の人たちも頑張っているので、私だけ『忙しかった』とは言えないな、と思って」
そのようなムードの中、刺激たっぷりの一年間を過ごした重田さん。講師やコンサルタントから都度得られるアドバイスにも有効なヒントを見出し、自身の事業に向き合うモチベーションが育まれていきました。その年の売上は、なんと前年の1.7倍以上となったとのことです。
3.3 出会い、つながり、広がるご縁
「塾生の間でさまざまに紹介をし合う機会も多くありました。今、浅草に持っている小さな店舗も、実は志師塾のクラスメイトから紹介された物件です。本来、店舗を持つというのは大変なことですが、とてもよい条件の話をいただけて」
「ほかにも、志師塾メンバーからの紹介で、日本文化舞台支援機構の代表の方とも知り合うことができ、日本のさまざまな文化に携わる方々との交流が一気に増え、仕事の幅も広がりました」
共に学んだ仲間という、顔の見える関係性と信頼があるからこそ得られる様々な人脈は、生涯に渡りお金には代えられない財産となるに違いありません。
4.後輩へのメッセージ
「やっぱり、継続は力なりだと思います。ちょっとやってダメだと諦めずに、継続してみる。もちろんやってみてうまくいかなかった時は何がいけなかったのか振り返りも大事ですが、一回で諦めずにまたチャレンジすることです」
継続していくうえで、ずっと同じことをやるのではなく、変わりながら続けることが重要だと、重田さんは強調します。
「これがダメならこっちにしてみようとか、思い切って変えることでうまくいくこともあります。とにかくやめないこと。私、結構しぶといのだと思います。うまくいかなかったら形を変えて提案したりして、しぶとく続けたことでつながっていきました。諦めないことが大事です」
5.おわりに
重田さんの場合、志師塾に通ったことで即座に目に見えて大きな変化が生まれたわけではなかったものの、そこで学んだ仕事への向き合い方や考え方、人とのご縁といったものが、じわりじわりと効果を生み、確実に業績アップへとつながっていきました。
今後さらなる成長に向けて、現在も志師塾の面談制度を活用し、自身の課題と向き合っている重田さん。大きなビジョンを描きながらも、ビジネスパーソンとしての地に足の着いた言葉が印象的でした。
美しい日本の文化の一つである水引が今後どのような広がりを見せるのか、とても楽しみです。
文:青柳紗千子(中小企業診断士)/編集:志師塾編集部
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