
司法書士の営業には、他の先生業と決定的に違う点があります。回りたい相手のところには、すでに別の司法書士がいる、ということです。
不動産会社にも、金融機関にも、税理士事務所にも、長年付き合っている先生がいます。だから挨拶に行っても「今のところ間に合っています」で終わる。ここで報酬の安さを持ち出せば話は聞いてもらえますが、その先に待っているのは値段だけの関係です。
司法書士の営業は、新規開拓ではなく入れ替え戦。この前提に立つと、やるべきことがはっきりします。
この記事では、先生業(士業・コンサルタント・コーチ・講師など)の集客・顧客獲得支援を専門としてきた志師塾が、司法書士が紹介依存から抜けるための営業を3つの型で解説します。紹介元との関係づくり、個別相談の進め方、受けた1件を次につなげる設計まで、取り組む順番に並べました。
1. 司法書士の営業は「新規開拓」ではなく「入れ替え戦」
型に入る前に、市場の形を押さえておきましょう。ここを見誤ると、努力の方向がずれてしまいます。
1.1 紹介元には、すでに付き合いのある司法書士がいる
不動産の決済は、日程が決まってから動きます。担当者にとって最優先は、その日に確実に登記が通ること。実績のある先生を使い続けるのは、自然な判断でしょう。
そこへ後から入っていくわけですから、「よろしくお願いします」だけでは何も動きません。相手が乗り換えを考える理由を、こちらから用意する必要があります。
1.2 だから比べられる物差しが、報酬額になりやすい
違いが見えない相手を比べるとき、人は数字を使います。登記は「正しく完了すれば同じ」に見える仕事。差が見えなければ、比較の軸は報酬に寄っていきます。
ここで値下げに応じると、件数を増やさなければ回らなくなる。件数が増えれば1件に割ける時間が減り、さらに違いを出せなくなります。安さで入った関係は、より安い相手が現れた瞬間に終わります。
1.3 入れ替わりが起きる瞬間を知っておく
では、どこに勝機があるのか。関係が動く瞬間は、だいたい決まっています。
- 担当者が代わったとき:前任の関係を引き継がない担当者は珍しくありません
- 難しい案件が出たとき:名義が古い、相続人が多い、当事者が高齢。手に負えない案件で声がかかります
- 連絡がつかなかったとき:急ぎの相談に折り返しが遅れた。この一度で候補が入れ替わります
- 相手の事業が変わったとき:相続案件を扱い始めた、法人向けに広げたなど
営業の実態は、この瞬間に思い出してもらう準備です。訪問の回数ではなく、思い出される状態をどう保つかで決まると考えてください。
2. 型1:紹介元に選ばれる理由を、相手の仕事から逆算する
1つ目の型は、紹介元との関係づくりです。ここは「自分を売り込む」発想を捨てるところから始まります。
2.1 不動産会社が本当に恐れているのは「決済が飛ぶこと」
不動産の仲介担当者にとって最悪の事態は、決済当日に手続きが止まることです。売主と買主と金融機関の予定を合わせた一日が、やり直しになる。信用も報酬も同時に傷つきます。
だから担当者が司法書士に求めているのは、安さより確実さと速さ。書類の不足を前日までに洗い出せるか。当日、想定外が出たときに現場で判断できるか。連絡が付くか。相手の恐れているものを取り除ける人が、選ばれます。
2.2 相手が変われば、求められるものも変わる
紹介元をひとくくりにしないでください。相手ごとに、価値の中身が違います。
- 金融機関:抵当権の設定を、決められた手順どおりに滞りなく。組織として説明できる安心感
- 税理士:相続税の申告と、名義の手続きの段取りが噛み合うこと。顧問先への説明を一緒に引き受けてくれること
- 弁護士:紛争が収まったあとの登記を、確実に処理すること
- ハウスメーカー・工務店:施主の不安に、専門用語を使わずに答えてくれること
挨拶に行く前に、相手の一日を想像してください。その人が困る場面を1つ挙げられれば、話は始まります。
2.3 持っていくのは、事例ではなく「手順」
他の先生業なら、実績を語って力量を示します。司法書士にその道は使いにくい。案件の中身は、家族の相続や会社の資本構成そのものだからです。
そこで持参するものを変えます。「相続がらみの売買で、決済までに確認しておく項目」を一枚にまとめて渡す。「登記が必要になる会社の動きと、その期限」を表にして置いてくる。相手の実務がそのまま楽になる紙です。渡した紙が机に残る限り、あなたは思い出され続けます。
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3. 型2:個別相談の60分を、型にする
2つ目の型は、依頼者と向き合う場です。相談に来た人は、頼むかどうかをすでに半分決めています。残り半分を、この60分で確かめに来ている。
3.1 相談者は「頼んでいいのか」を確かめに来ている
相続の相談者が抱えているのは、手続きの疑問だけではありません。「こんな家の事情を話しても大丈夫か」「怒られないか」「高い費用を請求されないか」。
だから冒頭の一言が効きます。「今日は売り込みではなく、進め方を整理する時間です。分かる範囲でお答えしますので、気になることから話してください」。この宣言で、相手の身構えはほどけていく。
3.2 60分の配分を決めておく
行き当たりばったりで臨むと、話を聞くだけで時間が終わるか、逆に手続きの説明ばかりになります。志師塾では、おおよそ次の配分をおすすめしています。
- 最初の5分:この時間の目的を伝える。売り込みの場ではないと言い切る
- 次の20分:状況を聞く。誰が亡くなり、相続人は何人で、不動産はどこに、話はどこまで進んでいるか。ここは聞き役に徹する
- 次の15分:聞いた話をその場で整理して返す。「確かめる点は3つあります。戸籍の範囲、遺言の有無、そして名義の履歴です」。この15分が、無料の相談と有料の価値の分かれ目
- 次の10分:進め方の選択肢を並べ、自分でできる線と任せたほうがよい線を引く
- 最後の10分:費用と期間を伝える。金額は言い切って、そのあと黙る
肝は真ん中の15分です。相談者は、自分の家の状況を自分の言葉で整理できていません。それを目の前で整理して見せられた瞬間に、「この先生に頼もう」が決まります。
3.3 費用を伝えるときの順番
報酬の話で言葉が多くなる方は多いものです。説明を重ねるほど、自信のなさが伝わってしまいます。
順番はこうです。まず何が含まれるかを言う。次に実費との内訳を分ける。そのうえで総額を一度だけ言い切り、黙って相手の反応を待つ。値下げを求められたら、価格ではなく範囲で調整してください。「戸籍の収集をご自身でしていただければ、その分は下げられます」。これなら単価は守られます。
相見積もりを取られている場面では、なおさら焦らないこと。ここまでの60分で、他の事務所が渡していないものをすでに渡しています。
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4. 型3:受けた1件から、次の相談を生む
3つ目の型は、受注後です。司法書士の営業がいちばん報われるのは、実はここ。単発で終わる仕事を、続く関係に変えていきます。
4.1 完了報告は、次の相談の入口になる
登記が終わり、書類を郵送して終わり。この形が、いちばんもったいない終わり方です。完了報告の場は、相談者がもっとも心を開いている瞬間でもあります。
だから最後にひとつ聞いてください。「この先で、気になっていることはありますか」。空き家の始末、次の世代への引き継ぎ、認知症が心配な親の財産。相続登記の先には、遺言、家族信託、後見と続く相談が並んでいます。この並びは、依頼者の人生の順番とほぼ重なるのです。
4.2 会社設立は「任期」で必ず戻ってくる
法人側には、もっと明確な続きがあります。役員の任期です。設立から数年で改選の時期が来て、本店移転や増資、目的変更と、経営が動けば登記も動きます。
設立の時点で、任期の満了時期を書いた管理表を渡しておいてください。数年後、その紙を見た社長から電話が鳴ります。オンラインの安価な設立サービスが増えたいまこそ、その後の数年を一緒に見る立場を最初に取ることが効いてきます。
4.3 紹介を頼むときは、条件まで具体的に伝える
「何かあったら、よろしくお願いします」。この頼み方では、相手は何も思い出せません。人が紹介できるのは、条件が具体的に思い浮かぶときだけです。
だから言い方を変えます。「ご実家の名義が親のままで気になっている方がいたら、声をかけてください」。ここまで絞ると、聞いた人の頭に特定の顔が浮かびます。紹介は、相手に思い出す手がかりを渡す作業だと考えてください。
5. 司法書士の営業で、やってはいけないこと
最後に、司法書士だからこそ気をつけたい線を挙げておきましょう。ここを踏み外すと、積み上げたものが一度で崩れてしまう。
5.1 職務上請求は、営業には使えない
戸籍や住民票を職務上請求できるのは、受任した事件の処理に必要な場合に限られます。見込み客を探すため、あるいは相続人がいそうな家を調べるために使うことはできません。
当たり前に思えても、線が曖昧になる場面はあります。相談段階でどこまで調べるのか。受任前にどこまで動くのか。迷ったら、依頼者の明確な依頼と同意を先に取る。この原則を外さないでください。
5.2 比較・断定・煽りは、規程の外にある
日本司法書士会連合会には業務広告に関する規程があり、事実に反する表現、誇大な表現、他の司法書士との比較、品位を損なう表現は避けることになっています。「他より安い」「必ず通ります」といった言い方は取らない。
紹介元への説明でも、同じです。前任の事務所を下げて自分を上げる話し方は、その場では効いても長くは続きません。担当者は「この人も、どこかで自分を下げるだろう」と感じ取ります。
5.3 紹介料や名義の扱いには、慎重に
案件を回してもらう見返りに金銭を渡す形は、司法書士会の会則や規程で制限されています。資格のない事業者と組んで業務を進める形も同じです。
営業が苦しいときほど、こうした話は魅力的に見えます。ただ、そこで得た案件は資格そのものを危うくしかねません。組み方に迷ったら、所属の司法書士会に確認するのが確実です。近道に見える道ほど、確認してから進む。
6. まとめ:司法書士の営業は「思い出される準備」
司法書士の営業で押さえる型を、3つに整理しました。
- 型1:紹介元が恐れているものから逆算し、事例ではなく手順を渡す
- 型2:個別相談の60分を型にする。真ん中の15分でその場で整理して見せる
- 型3:完了報告と任期で、受けた1件から次の相談を生む
紹介元にはすでに付き合いのある先生がいます。それでも、担当者の交代や難しい案件で関係は動く。その瞬間に思い出される準備をしておくことが、司法書士の営業の実態です。
紹介だけに頼らない道をつくりたいなら、Webからの入口もあわせて設計してください。組み立て方は司法書士のWeb集客4つの手順と司法書士の集客方法6選にまとめました。独立後の収入の組み立て方は司法書士が独立開業で年収1,200万円を目指す方法もどうぞ。
今日から手をつけるなら、この3つから始めてみてください。
- 直近1年で案件を回してくれた相手を書き出し、その人が困る場面を1つずつ挙げる
- 相手の実務が楽になる一枚を作り、次の訪問で置いてくる
- 個別相談60分の配分を紙に書き、次の相談から真ん中の15分を意識して使う
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