北海道岩見沢市で作業療法士として23年間、医療や介護の現場で患者一人ひとりの人生と向き合ってきた三宮孝太(さんみやこうた)さん。現在は株式会社DIALOGの代表取締役として、培った知識や経験とITを組み合わせ、地元の中小建設業を中心に支援しています。
その原点となったのは、病気を抱えながらも働き続けた父の姿と、高齢患者と接して実感した若いうちから健康に向き合うことの大切さです。
志師塾でビジネスの構造を学び、自らの経験と価値観を言語化した三宮さんに、起業を決意するまでの歩みと想い、そしてこれからの展望について、お話をうかがいました。
1.株式会社DIALOGの事業
1.1 働く人の健康支援で中小企業の持続可能性を高めたい
2026年5月、北海道の病院で23年間、作業療法士として勤務してきた三宮孝太さんは、株式会社DIALOGを設立しました。
社名である「DIALOG(ダイアログ)」に込めた想いは、目の前の経営者との対話を何よりも大切にしたいというものです。
北海道の中小建設業に特化し、作業療法士としての医学的知見とITデータを融合させた現場介入型の事業支援サービスを複数展開しています。主な事業は次の3つです。
- 人手不足解消を目的とした採用・定着型の健康経営支援ぱとす
- 企業訪問型のフィットネス提供
- AIを活用した業務効率化・AIに関する研修事業
「働く人の健康支援で、中小企業の持続可能性を高めていく」これがDIALOGのミッションです。
1.2 「健康」×「医学」×「IT」を駆使した健康経営支援「ぱとす」
その中でも事業の中心となるのは健康経営支援「ぱとす」です。アリストテレスの説いたパトス(情熱)、ロゴス(理論)、エトス(倫理)の中で、三宮さんが最も大切にしている「情熱(パトス)」に由来して命名されました。
ぱとすでは、三宮さんの強みである健康、医学、ITを掛け合わせ、医学的アプローチに基づく健康経営の効果をITで可視化します。昨今、多くの企業が健康経営に取り組む一方で、成果指標が見えにくく組織改革や成長への貢献を実感しにくいという課題がありました。
そこで、アンケートにより従業員が働く中で抱える健康上の問題を調査し、それがもたらす労働損失額を算出します。欠勤やパフォーマンス低下による損失を円単位で可視化するのです。
例えば国内における腰痛による年間労働損失額は、東京大学の試算で3兆円と言われています。さらに社員の働きがいをワークエンゲージメントとして点数化して可視化します。こうしたデータを明確に示すことで、経営者は労働生産性の現状を正確に把握し、実効性のある対策を打てるようになります。
生産性の向上は組織の魅力を高め、結果として優秀な人材の採用や、不必要な離職を防ぐ「定着」へとつながっていきます。

2.起業を決意するまでの歩みと想い
2.1 人生を全うして最後まで生きる
「人生を全うして最後まで生きる」これは三宮さんが働くうえで大切にしている価値観です。その原点となった出来事が2つあります。
一つは三宮さんの父の姿です。三宮さんの父は建設関係の仕事に就き、重機のオペレーターやダンプの運転手として、朝から晩まで、時には24時間戦うように働いて家族を支えてくれました。
「糖尿病や血管の病気を抱えながらも70歳まで仕事を続けた父は、退職した途端に元気をなくし、することも希望も失ったように見えました。そのような姿をみて、言葉にできない切なさを覚えました」
そのように三宮さんは当時を振り返ります。
もう一つは病院で出会った高齢患者たちとの経験です。三宮さんが関わる患者の平均年齢は90代。病気なのか老いなのか、その境目が曖昧になる中で治療に全力を尽くしても結末を変えられない歯がゆさや、年老いてから健康に投資しても若い頃に比べて得られる効果が圧倒的に少ないというジレンマを日々感じていました。高齢になってからの健康投資には限界があり、人生を全うするには若いうちから健康への投資が欠かせません。
「働く人々が健康であるということがすごく重要なのだと実感しています」
2.2 作業療法士として働いた23年間
三宮さんは作業療法士として23年間、延べ5万人以上を支援してきました。その間、患者一人ひとりと真剣に向き合う中で、作業療法という仕事がその人の生き方に大きな影響を与えるということを実感するようになりました。
「作業療法とは、仕事や遊び、日常生活から休むことまで、人が行うすべての活動や作業を通じて、自分らしく生きることをサポートする仕事なのです」
しかし、作業療法士は理学療法士と混同されやすく、三宮さんはその専門性や本当の価値をうまく社会に伝えられないもどかしさを抱えていました。
作業療法士の専門的な奥深さを正しく伝えたいと考えた三宮さんは、学び直すために大学院へ進学します。勉強と研究を重ねる中で、作業療法には医療現場のみならず、一般社会のさまざまな場面で生きづらさの解消やより良い生き方の実現に役立つ可能性があると確信しました。
この可能性をビジネスとして社会実装したいという強い想いが、のちに起業を決意する際、三宮さんの背中を大きく後押しすることになります。
2.3 突然の閉院がきっかけで起業を決意
転機は勤め先の病院の閉院でした。別の病院との統合が決まり、三宮さんが働いていた病院のスタッフは新しい病院に再就職するか退職するかの選択を迫られます。
「将来を見据えて大学院にも通い、仕事にビジョンを持って取り組んでいたからこそ、突然、先が見えなくなりました」
再就職や異動の可能性も考えながら、三宮さんは約1年間悩み続けました。そして三宮さんの心に最後まで残ったのは、「組織の状況や誰かのせいにして流されるのではなく、自分の決断で人生の舵を握る当事者として生きたい」という強い想いでした。
同時に、かつて炭鉱閉山とともに基幹産業が失われ、人口が激減し衰退していった地元の歴史を思い返しました。
「産業がなくなるということは、その街の終わりに直結します。地域を守るためには、その土台である地元の会社や産業を守らなければならない。そのためには、働く人の健康を守る当事者になるべきだ」
そう考え、2026年5月、DIALOGを創業します。
3.志師塾での学びと成長

3.1 ビジネス知識「ゼロ」からの出発と「先生業」との出会い
医療現場一筋で20年以上を歩んできた三宮さんにとって、起業を決意した時点でのビジネス知識は、文字通り「ゼロ」からの出発でした。医療の専門家として、健康支援の確かな技術はあっても、それをどう世に広め、ビジネスとして利益につなげればよいのか。マーケティングや営業のノウハウは皆無だったため、事業の展開方法に深く頭を悩ませていました。
そのような中、SNS広告で「先生業」という言葉を目にしたことが、志師塾を知るきっかけでした。「先生業って何だろう」と広告をクリックし、セミナーに参加したことから入塾へと進みます。
志師塾での最大の成果は、感覚や気合いに頼るのではなく、ビジネス全体の構造が見えるようになったことです。この変化は、経営者との交流の場で強く実感しました。
経験豊富な経営者の話であっても、そのビジネスモデルや内容が以前より深く理解できるようになったのです。相手の考えのどこが妥当で、どこに課題があるのかを自分なりの基準で判断できるようになりました。
3.2 自己棚卸しで気づいた「ゼロから仕組みを生む力」
「長く苦しい作業でしたが、このプロセスを経て自らの原点を論理的に説明できるようになりました」
志師塾のカリキュラムの中でも特に大変だったという自己棚卸しを行った時の三宮さんの感想です。自己棚卸しでは、これまでの体験や感動したこと、大切にしている価値観などを極限まで掘り下げ、絞り出すように言語化するというものです。これが現在の事業におけるミッションやバリューの確立にもつながっています。
さらに、過去の経験を振り返る中で、ゼロから仕組みを作ることが得意で、何より好きなのだと気づきました。その代表例が、病院時代に立ち上げた「摂食嚥下チーム」です。
当時、専門職がいない中で、適切なケアを行うことで国から支払われる追加の報酬(診療報酬の加算)を受け取れる仕組みを独力で構築しました。この仕組みはその後10年以上にわたり病院に定着し、年間数百万円単位の利益をもたらし続けることに成功したのです。
3.3 かけがえのないメンターや仲間との出会い
志師塾での学びを行動に移す上では、メンターの存在も非常に大きなものでした。行政書士のメンターは、オンライン面談だけでなく、経営者交流会に参加する際には、毎回、横須賀から北海道まで足を運ぶなど、約半年間にわたって継続的に支援してくれました。
「目標に向かって行動していると、一人ではどうしても立ち止まってしまう瞬間があります。そんなとき、メンターが一緒に前へ進めるよう支えてくれました。起業後、最初の四半期で売上を立てることができたのも、メンターの存在があったからこそだと思います」
深い感謝の気持ちを込めて語ります。
北海道在住ということもあり、志師塾での活動は基本的にオンラインが中心でした。しかし、物理的な距離を一切感じさせることなく、全国の仲間たちとグループ勉強会や個別面談を精力的に重ね、お互いに事業構想を話し合って切磋琢磨し、学びを高めていきました。
このように、仲間と深く関わり、お互いの成長に貢献しようとした積極的な姿勢が評価され、受講生間の投票で見事MVPに選出されました。

4.社会課題を解決できるゼブラ企業を目指して
「志師塾で学んだマーケティングや営業は、まだ自社の活動の一部にしか生かせていません。これからは学んだことをさらに実践し、売上を伸ばして事業に投入できる資本を増やしながら、DIALOGの事業を加速させていきたいです」
5年後に目指すのは、地域の中小企業にとって欠かせない健康パートナーになることです。
「採用、定着、健康経営といえば、まずDIALOG」と真っ先に思い出してもらえる地域ナンバーワンの存在を目指しています。さらに10年後には、人口減少が進む地域において、中小企業をはじめとする地域産業を残していくことに貢献したいと考えています」
三宮さんが目指しているのは、単に自社の成長や利益だけを追求する企業ではありません。
「社会課題の解決と持続可能性を両立するゼブラ企業として、人と組織と地域という3つの異なるレイヤーを、健康という縦串で貫いていきたいのです。将来は介護予防事業などにも展開し、企業と従業員の健康に関する唯一無二の専門家になりたいと思っています」
最後に、起業や独立を検討している人たちへ、三宮さんは次のようなエールを送ってくれました。
「必ずしも全員に起業を勧めるわけではありません。しかし、起業という選択肢でなければ解決できない課題があることもまた事実です。大切なのは、まず自分が本当にやりたいことを具体化し、とことん自分と向き合うこと。必要であれば、志師塾のような場所で人の力を借りるのも良いと思います。自分が納得できる答えを出すまで徹底的に考え抜くことこそが、人生の満足度を大きく変えてくれるはずです」
文:杉本剛(中小企業診断士/東京都)/編集:志師塾編集
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