書き手:志師塾編集部|公開日:2026年5月15日|更新日:2026年10月23日
「士業は3年以内に9割が廃業する」。この数字に、公的な裏づけは見つかりませんでした。
国の統計で公表されているのは、日本全体の年間の廃業率が3.7%(2024年度)という水準です。9割とは桁が違います。
ただ、これは「独立すれば大丈夫」という話ではありません。数字を調べていくと、別の問題が顔を出します。よく引かれる廃業率は、人を雇わず、ひとりで開業した先生を数えていないのです。そして士業の世界には、「廃業はしていないが、食べていけてはいない」人がどれだけいるかを示す数字が、ほとんど公表されていません。本当に知りたいのは、「自分も独立して食べていけるのか」のほうでしょう。
この記事で扱うのは、次の6つです。
- 公的データで見た開業率・廃業率と、その数字に士業が入っていない理由
- 資格別に公表されている「登録が消えた数」。抹消の件数を出しているのは、調べた範囲で2つの資格だけ
- 「3年で9割」のような説を、図書館が本気で調べた記録
- 廃業ではなく「稼げていない」側に落ちる3つのパターンと、その逆を行く4つの打ち手
- 独立前に、いくらの資金を何か月分用意しておけばいいのか
- 個人事業主で始めるか、法人をつくるか。何を見て決めるのか
まとめたのは、士業・コンサルタント・コーチ・講師といった先生業に特化して、これまでに3,200名を超える方を支援してきた志師塾です。
読み終えるころには、廃業率という数字との付き合い方と、あなたが「食べていける側」に回るために今日から変えることが見えているはずです。まずは、土台になる数字から確かめます。
資格ではなく、選ばれる理由で仕事が来る状態へ
この記事では、廃業率という数字の読み方を確かめます。そのうえで仕事が来る状態をつくるのは、何の専門家として選ばれるかを決めて、それを見込み客に届けること。その順番が、志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーで分かります。
1.士業の独立廃業率は本当に9割?最新データで実態を検証
士業の独立廃業率とは、独立開業した有資格者が、事業をやめた割合のことです。結論から言うと、この割合を正面から示した公的な統計は見つかりませんでした。代わりに確かめられる数字が3種類あるので、順に見ていきます。日本全体の廃業率、資格ごとの登録抹消の件数、そして売上の分布です。
1.1 日本全体の開業率は3.8%、廃業率は3.7%(2024年度)
中小企業庁の『2026年版 中小企業白書』(第1部第1章第7節「開業、倒産・休廃業」第1-1-38図)によると、2024年度の開業率は3.8%、廃業率は3.7%です。もとになっているのは、厚生労働省の「雇用保険事業年報」です。
「3年で9割が消える」というイメージとは、まるで違う水準でしょう。1年で100社のうち4社弱が消え、同じくらいの数が生まれている。それが、国の統計に映っている日本の姿です。
なお、士業がどの業種に分類されるかは決まっています。総務省の日本標準産業分類(令和5年7月改定)では、大分類L「学術研究、専門・技術サービス業」の下にある中分類72「専門サービス業(他に分類されないもの)」に、法務に関するサービス、財務・会計監査、税務に関するサービスが含まれると明記されています。
ただ、この分類別の廃業率を持ってきても、士業の実態には届きません。理由は次の項にあります。
1.2 その廃業率に、ひとりで開業した士業は入っていない
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。白書の開廃業率は、事業所の雇用関係をもとに数えた数字で、ひとりで開業した先生は分母にも分子にも入っていません。
白書自身が、注でそう説明しています。
「雇用保険事業年報をもとにした開廃業率は、事業所における雇用関係の成立、消滅をそれぞれ開廃業とみなしている」
「企業単位での開廃業を確認できない」「雇用者が存在しない、例えば事業主1人での開業の実態は把握できない」
(出典=中小企業庁『2021年版 小規模企業白書』、『2020年版 中小企業白書』)
雇用保険の適用事業所で雇用関係が成立したら開業、消滅したら廃業。そう数えているので、人を雇っていない事業所は、最初から視界に入りません。白書は、会社の設立登記をもとにした会社ベースの率を、別の表で分けて載せています。数え方が違うものを、分けて示しているということ。
士業の独立は、自宅の一室とパソコン1台から始まることが珍しくありません。人を雇うのは、仕事が回り始めたあとです。独立したばかりの先生のほとんどが、この統計の外にいます。
だから「日本全体の廃業率が3.7%だから、士業も3.7%くらい」とは読めません。低く見えるのは、士業が強いからではなく、士業の多くが数えられていないからという面があります。この統計で安心するのも、不安になるのも、どちらも的を外しています。自分が続けられるかどうかの確率は、外から借りてこられないのです。見るべき数字は、全国の率ではなく、自分が食べていける額と、それを払う見込み客の数、そして収入がゼロでも回る月数(4.4)のほうです。
では、ひとりで開業した先生の実態は、どこに映るのか。士業の世界で手がかりになるのは、ただ1つ。資格の「登録が消えた数」です。
1.3 資格別に「登録が消えた数」を見る
登録の抹消は、その人が事業をやめたことに最も近い公的な記録です。ところが、年間の抹消件数を公表しているのは、調べた範囲では行政書士と税理士の2つだけでした。ほかの資格は、登録者の総数までは分かるものの、1年でどれだけ抹消されたかが確認できていません。
| 資格 | 公表されていて確認できた数 | 出典 |
|---|---|---|
| 行政書士 | 登録者54,186人(令和8年4月1日)。令和6年度は新規登録3,298人、登録抹消2,183人(うち廃業の届出1,799人、死亡366人、そのほか18人) | 総務省「表1 行政書士の登録状況(令和6年度)」 |
| 税理士 | 令和6年度末の登録者81,696人。令和6年度は新規登録2,499人、登録抹消2,083人(うち業務廃止1,350人、死亡717人、欠格条項15人、登録取消1人) | 日本税理士会連合会がまとめた令和6年度の登録事務の集計 |
| 社会保険労務士 | 登録者47,407人(令和8年8月31日現在)。年間の抹消件数は確認できず | 厚生労働省「第58回社会保険労務士試験の合格者発表」 |
| 司法書士 | 登録会員数23,505人(2026年4月1日現在)。年間の抹消件数は確認できず | 日本司法書士会連合会「会員数データ」 |
| 中小企業診断士 | 登録者数の原典を確認できず。抹消件数も確認できず | - |
※行政書士の「廃業」「死亡」は、行政書士法 第7条 第1項 第2号・第3号による抹消を読み替えた呼び方です。税理士の集計は、連合会の機関紙に載った内容を業界メディアが報じたもので、一次の原典そのものではありません。
この表から割合を出すと、こうなります(いずれも志師塾の計算)。
- 行政書士:登録抹消は年度当初の登録者51,619人に対して4.2%。廃業の届出だけなら3.5%
- 税理士:登録抹消は年度当初の登録者81,280人(年度末81,696人から新規登録を引き、抹消を戻した数)に対して約2.6%。業務廃止だけなら約1.7%
年間で100人に2~4人。「9割」とはやはり桁が違います。
ただし、ここで止まると判断を間違えます。この数字で分かるのは「登録をやめた人」の数だけです。開業して何年目の人がやめたのかは分かりません。登録を続けながら、仕事がほとんどない人が何人いるのかも分かりません。
そして、社会保険労務士・司法書士・中小企業診断士については、その「やめた人の数」すら公表された形で確認できませんでした。士業の廃業について、誰も数字で語れていない。それが、調べた結果です。「士業の廃業率は○%」と書かれた記事を見たときは、何をどう数えた値なのかを疑ってください。
1.4 「3年で9割」はどこから来たのか
「3年で9割」の発生源は、特定できませんでした。中小企業庁や経済産業省が「この説は誤り」と公式に否定した記述も、見つかっていません。出どころが分からないまま、言葉だけが流通している状態です。
参考になる記録が1件あります。国立国会図書館が運営するレファレンス協同データベースに残された調査記録です(提供館=さいたま市立中央図書館、2024年9月21日登録)。
「企業の生存率が10年後6.3%」という数字の裏づけを知りたい、という質問に対して、司書がインターネット、書籍、学術リポジトリ、白書の各年版まで調べています。結果は、裏づけとなる公的統計は見つからなかった。
そのうえで司書が代わりに示した公的な数字が、次の2つでした。
- 中小企業白書2017年版:創業5年後の生存率81.7%
- 中小企業白書2016年版:10年後72%
俗説が「10年後6.3%」、公的統計が「10年後72%」。一桁違います。
この記録が扱っているのは「10年後6.3%」説で、「3年で9割」そのものではありません。ただ、同じ種類の説を専門家が本気で調べても、裏づけは出てこなかったという事実は、押さえておく価値があります。
もうひとつ、数字の怖さが分かる例があります。「52.8%」という同じ値が、あるサイトでは「3年目の生存率」として、別のサイトでは「3年目の廃業率」(つまり生存は47.2%)として引用されている。意味が逆転したまま流通しているのです。どこで見た数字かをたどれないなら、その数字は使わないほうが安全でしょう。
数字の整理はここまで。本当に見るべきものは、別のところにあります。
1.5 「廃業率」より見るべきは「稼げている率」
廃業率が低いことと、食べていけることは、別の話です。志師塾が3,200名を超える先生業を支援するなかで見えてきたのは、いちばん人数が多いのは「廃業はしていないが、稼げていない層」だということ。
これは印象ではなく、売上の分布に表れています。
開業社労士の年間売上(1事務所あたり)
- 平均:1,657.9万円
- 中央値:550万円
- 1,000万円未満が約6割
出典=「2024年度社労士実態調査」(全国社会保険労務士会連合会 社会保険労務士総合研究機構。2024年4月24日から6月9日に実施、対象45,401人、有効回収25,408人=回収率56.0%)
平均と中央値が3倍も離れています。一部の大きな事務所が平均を引き上げていて、真ん中にいる人は年間売上550万円。経費を引く前の金額です。
開業司法書士の売上
- 200万円未満が約11%(0円が2%、1万円から199万円が9%)
出典=日本司法書士会連合会「第2回 司法書士全国調査」(2020年実施、『司法書士白書2021年版』収録、回答約1,900件)
この2つを並べると、見えてくるものがあります。廃業はしていない。でも、食べてはいけていない。登録は残っているので、どの統計にも「廃業」としては出てきません。
ここで、よく見かける数字の取り違えを1つ正しておきます。「開業社労士の約6割が失敗する」という説を目にすることがありますが、一次情報は見つかりませんでした。正体は、おそらく上の調査の読み違えです。「6割が失敗」ではなく、「6割が売上1,000万円未満」。出どころをたどれない数字が、意味を変えて独り歩きする。その実例がここにあります。
だからこの記事では、「廃業しない方法」ではなく「独立して、ちゃんと食べていける先生になる方法」という視点で進めます。
廃業しない側ではなく、食べていける側へ
分かれ目は、資格の種類ではありません。選ばれる理由を自分で設計できているかどうかです。その設計から、継続的に依頼が届く状態までの順番を、志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーで、先生業の事例つきでたどれます。
2.失敗する士業に共通する3つのパターン
失敗する士業の共通点とは、資格に頼る、営業から逃げる、専門を絞らない、の3つです。志師塾がこれまで多くの先生業を支援してきた経験から見て、稼げない状態に陥る人には、驚くほど同じ特徴が出ます。
先に、3つを貫く「1本の根」を言っておきます。症状は違っても、原因は同じ。自分(供給側)を起点に考えていて、お客様があなたを選ぶ理由を設計していない。これ1つです。資格神話も、営業回避も、何でも屋も、同じ間違いの別の顔にすぎません。
2.1 共通点1「資格があれば食える」と思い込んでいる
1つ目は、資格神話を信じきっていることです。難関資格を苦労して取った人ほど、この罠にはまりやすい。
「これだけ難しい試験を突破したのだから、お客様は自然に来るはず」「税理士という資格があれば仕事に困ることはない」。こう思って独立すると、ほぼ確実に厳しい現実が待っています。
志師塾代表の五十嵐和也(中小企業診断士)も、独立直後はまったく同じ罠にはまりました。中小企業診断士の資格を取り、コンサル部門で3期連続NO.1の成績を上げて「自分は優秀だ」と自負していた。ところが独立して仕事を取ろうとした瞬間、声がかからない。やっと取れた研修講師の仕事は、準備と当日を合わせて時給833円。高校時代のアルバイトより安かったそうです。
なぜこうなるのでしょう。理由は単純です。お客様には、あなたの「腕」が判断できないから。資格や経験は、業界の内側では評価されます。でもお客様の目には、差が見えません。
「税理士の腕の差」を、一般の中小企業の社長が判別できるでしょうか。難しいですよね。だから資格だけでは選ばれない。むしろ「資格があるから大丈夫」という油断が、致命傷になります。
資格名をそのまま名乗ることの難しさは、独立開業は資格を名乗ると失敗する?HHIで考える士業業界の現実で、業界の集中度から整理しています。
2.2 共通点2「営業したくないから士業になった」と公言する
2つ目は、営業・集客から逃げていることです。
「営業が苦手だから資格を取った」「ペコペコするのが嫌だったから士業を選んだ」。こう口にする先生は、いまだに少なくありません。
気持ちは分かります。ただ、これは独立する人が口にしてはいけない言葉です。独立とは、自分でお客様を獲得することそのものだから。営業せずに食べていけるのは、よほどの紹介ルートを持っているか、勤務時代の顧客が大量に付いてきてくれる場合だけでしょう。
「営業しなくていい」と思って独立した先生がたどる道は、だいたい決まっています。
- 知人・前職関係に声をかけて、最初の数件を獲得
- 半年から1年で見込み客が枯れる
- 慌ててホームページを作るが、書き方が分からず反応ゼロ
- 異業種交流会へ。名刺を配るだけで終わる
- 資金が尽きて、再就職か副業化
大事なのは、営業=お願い営業ではないということ。志師塾では、先生業に向く集客は「お願いされて売れる」状態をつくることだと教えています。情報発信を通じて関係をつくり、お客様のほうから「先生、お願いします」と言われる仕組み。これなら、営業が苦手な先生でも進められます。
2.3 共通点3「何でもできます」と幅広さをアピールする
3つ目は、見せ方の罠です。専門領域を絞れず「何でもできます」と打ち出してしまうパターン。
独立直後は、目の前の仕事を逃したくない。だから「相続も会社設立も顧問も対応できます」と言いたくなる。でもこれが、選ばれない最大の原因になります。
あなたが相続で困っている人だとして、次の2人の税理士のうち、どちらに相談したいでしょうか。
- A:「法人税・所得税・相続税・国際税務、何でも対応します」
- B:「相続専門。年間30件の遺産分割を扱う相続税のスペシャリスト」
ほぼ全員がBを選びます。能力が同じでも、見せ方ひとつで結果が変わる。これが先生業の怖いところです。
志師塾ではこれを「一点集中・全面展開」と呼んでいます。実際にやる業務は絞らなくていい。ただ、認知してほしい業務はぎゅっと絞る。一点で旗を立てて関係ができたら、そこから全面展開していく。先生業のセオリーです。
とはいえ、絞るのは怖い。仕事を逃しそうな気がする。この心理のブレーキこそが、多くの士業を「埋もれる存在」にしている正体でしょう。
3.なぜこの3つが士業にとって致命傷になるのか
3つの共通点が致命傷になる理由は、先生業というビジネスの3つの特性と、真正面からぶつかるからです。表面的な「失敗あるある」で終わらせると、対策も表面的になります。
3.1 先生ビジネスには3つの特性がある
先生業(士業・コンサル・講師・コーチなど)には、ビジネスとして次の3つの特性があります。
| 特性 | 中身 | そこから生まれる難しさ |
|---|---|---|
| 高額 | 単価が万円から数百万円の単位 | 必ず比較・検討される |
| 分かりにくい | サービスの中身が目に見えない | 品質を判断してもらえない |
| 営業しにくい | 先生という立場上、売り込みづらい | 押せば押すほど信頼を失う |
普通の物販なら、商品を見せれば良し悪しが伝わります。でも先生業のサービスは、契約してみないと品質が分からない。だからお客様は「期待値」で買うんです。期待値を作れない先生は売れない。
この3つは、突きつめると1つの言葉に集約できます。お客様が、買う前に良し悪しを判断できない。経済学では、こうした商品を「信頼財」と呼びます。医療や教育と同じで、素人には品質が見抜けない。だから比較され(高額)、中身が見えず(分かりにくい)、押せば逃げる(営業しにくい)。3つの難しさは、この一点から生まれています。
そして、この「判断できなさ」を消せるのは、時間をかけて信頼をつくること、つまり関係型の集客だけ。あとで出てくる戦略3がなぜ効くのか、その答えもここにあります。
3.2 3つの共通点は、先生ビジネスの3特性と最悪の相性
さきほどの3つの失敗パターンを当てはめてみると、ぞっとするほど噛み合います。
- 共通点1「資格があれば食える」 × 分かりにくい。お客様には資格や腕が判別できないので、資格は決め手になりません
- 共通点2「営業したくない」 × 高額。高額商品ほど関係づくり(=広い意味の営業)が要るのに、それを放棄しています
- 共通点3「何でもできます」 × 営業しにくい。差別化できず、お願い営業や価格競争に巻き込まれます
3つの失敗パターンは、先生ビジネスの特性を分かっていない人がやってしまう行動そのもの。だから致命傷になります。
3.3 廃業しない人がやっている3つの逆転発想
では、食べていけている先生は何をしているのか。3つの共通点を、真逆に置き換えています。
- 資格に頼らず、独自の選ばれる理由(ポジショニング)をつくる
- 営業ではなく、関係づくり型のマーケティングをする
- 「何でもできる」ではなく、一点集中で旗を立てる
これだけです。単純ですが、徹底できている先生は意外と少ない。次の章で、打ち手に落とし込みます。

打ち手に入る前に、自分にどの能力が足りていないかに見当をつけておくと、次の章の読み方が変わります。志師塾の著書の一部を無料で読める資料『先生業の顧客獲得を成功させる7つの能力』は、先生業に要る受注力を7つの能力として整理したものです。資料をダウンロードして読む
4.廃業しない士業になるための4つの実践戦略
廃業しない士業になるために決めることは、選ばれる理由、ポジショニング、集客の型、資金の4つです。狙いは「廃業しないこと」ではありません。1章で見た、いちばん人数の多い「廃業していないが稼げていない層」から、食べていける側へ移ること。
4.1 戦略1「なぜあなたから買うのか」を文字で答えられるようにする
志師塾では、独立する先生に必ずこう問いかけます。
- なぜ、買うのか?(絶対価値)
- なぜ、あなたから買うのか?(相対価値)
この2問に、文字で・はっきり・短く答えられるか。ここが最初の関門です。
東京・八王子で起業支援に特化する税理士・上田洋平さんは、こう答えます。
- なぜ買うのか:本業に集中したい起業家が、税務に時間を取られず、創造的な仕事に向かえるから
- なぜ上田さんから買うのか:八王子・立川エリアで起業支援に特化した、唯一の若手税理士だから
上田さんは製造業で経営企画の仕事をしていた人で、独立開業の直後は、監査法人や税理士事務所に知り合いがいませんでした。顧問先もゼロ、確定申告などのスポット業務の受注もゼロ。そこから「若手×起業支援特化」というポジショニングを決め、エリアを八王子・立川に絞ってホームページに反映します。結果は、開業3か月で顧問契約17件、独立開業から半年で月商100万円(税理士が独立開業に成功!年収・開業費用・事前準備を徹底解説より)。
たった2問です。でも、答えが書けないまま独立すると、お客様は比較する材料を持てません。
4.2 戦略2 ポジショニングで「無競争状態」をつくる
ポジショニングとは、無競争状態で、顧客から選ばれる、独自の場所を選ぶことです。サッカーで言えば、ディフェンスがいない場所にポジションを取ること。
押さえる原則は2つです。
| 原則 | 中身 |
|---|---|
| 一点集中 | 「何でもできる」は「何もできない」と同じ。見せ方を1つに絞る |
| NO.1 | 広い領域では1番を取れない。ニッチ×ニッチでNO.1を意図的につくる |
志師塾の統括講師でもある清永健一さんは、「展示会営業コンサルタント」と名乗ることで、星の数ほどいる営業コンサルタントの中に唯一無二の場所を取りました。展示会×営業の掛け算で旗を立てた形です。名乗りを絞って見せ方を変えた赤松亮さんは、単価が2倍になり、顧客は75社ほどに広がりました(5.1)。
「絞ると仕事が減るのでは」という不安は分かります。ここで止まる先生がいちばん多いので、はっきりさせます。絞るのは「入口の見せ方(認知)」だけ。実際に受ける仕事は、これまでどおり幅広くて構いません。相続で旗を立てて出会ったお客様から、顧問も会社設立も相談される。絞るのは看板、広げるのは中身。だから、絞っても仕事は減りません。入口が明確になるぶん、むしろ増えます。
4.3 戦略3「衝動型」ではなく「関係型」の集客導線をつくる
志師塾では、顧客獲得の経路を「衝動型」と「関係型」の2つに分けて整理します。
- 衝動型:今すぐ欲しいと思っている人に、直接売る(DM、リスティング広告で即注文を狙う等)
- 関係型:そのうち客に情報提供で関係をつくり、必要になったタイミングで選ばれる
衝動型を選ぶと、ほぼ必ず価格競争に巻き込まれます。今すぐ欲しい人は他社とも比べるので、安いほうに流れていくから。顧問料を極端に安く打ち出す税理士が現れるのは、衝動型の市場では自然なことです。
関係型は、情報提供を通じて「この先生にお願いしたい」という状態を先につくります。会う前に判断が終わっているので、いざ会ったときに競合と比較されない。価格競争から抜け出す道は、ここしかありません。
やることは地味です。ブログ・メルマガ・セミナー・YouTubeなどで情報を出し続け、見込み客の頭の中に「困ったら、この先生」を置く。第一想起を取る、という言い方もします。進め方の全体像は、士業の集客方法 完全ガイド|営業せず選ばれる仕組み7ステップにまとめています。
4.4 戦略4 独立前に「収入ゼロでも回る資金」を準備する
マインドや戦略の前に、お金の準備で詰む先生がとても多い。士業の独立でつまずく理由として、ありふれていますが資金不足が挙がります。
仕事が数か月で取れても、入金は完了報酬や月末締め翌月払いになりがちです。最低でも次を確保してから独立してください。
- 生活費:3か月から6か月分
- 事務所運営費:3か月から6か月分
- マーケティング・自己投資費:ホームページ制作、学習コスト、ツール費用など50万円から100万円
※この目安は志師塾が支援の現場で使っているもので、統計の数字ではありません。
なお、登録・入会にかかる費用は資格ごとに違います。金額は、所属する予定の会の案内で確かめてください。
「自己投資する余力がない」状態で独立すると、必要な情報や仕組みにお金を回せず、独学で時間を失います。時間切れになる前に学んで動く。ここが分かれ目です。
4.5 個人事業主で始めるか、法人をつくるか
士業として起業するとき、個人事業主で始めるか、法人をつくるかという判断があります。どちらが有利かは、売上・経費・家族の状況で変わるので、一般論では決まりません。
判断の材料になるのは、次の4つです。
- 売上と利益の見通し。独立直後の数字と、3年後に置きたい数字は違う
- 取引先が法人との契約を求めるか。法人でないと取引口座を開けない相手もいる
- 人を雇う予定があるか。雇用が前提なら、形を先に決めておいたほうが動きやすい
- 設立と維持にかかる手間とお金。作るときの費用だけでなく、毎年の手続きも続く
資格によっては、その資格に応じた法人の形が用意されています。自分の資格でどの形が選べるかは、所属する会の案内で確かめてください。
税や社会保険の有利不利は、金額を入れて比べてはじめて答えが出ます。ここは税理士に相談して決めてください。独立前の相談なら、将来の顧問先探しも兼ねられます。最初から法人にするか、個人で始めてあとから法人にするかも、そこで決められます。
5.士業の独立を軌道に乗せた志師塾卒業生の事例
志師塾の卒業生が独立後に変えたものは、それぞれ違います。引いているのは、公開済みのインタビュー記事に書かれている事実だけです。
5.1 赤松亮さん|サービスは変えず、見せ方を変えて単価が2倍
福岡県北九州市の会計ドットコム株式会社代表・赤松亮さんは、税理士や公認会計士の資格を持たないところから、不動産投資家向けの黒字経営支援と融資コンサルティングで立っています。民間企業での経理・財務12年、会計事務所での8年を組み合わせ、「大家さん黒字化支援コンサルタント」という名乗りで選ばれる立場をつくりました。
このキャッチフレーズは、志師塾のカリキュラムの中で、受講生同士の話し合いを重ねて固まったものです。そのあとに変えたのは、サービスの中身ではなく、顧客への説明と提案の仕方でした。本人の言葉を借りれば「仕事のサービス自体は何も変わっていません。しかし、顧客への見せ方と言いますか、顧客への響かせ方が変わりましたね」。
結果、単価を2倍に上げています。それでも仕事は取れていて、顧問契約も増えているとのこと。顧客は75社ほど。
資格の一般名称で勝負せず、経験の点と点をつなぐと、独自の選ばれる理由が見えてくる。戦略1と戦略2が、そのまま形になった例です。
5.2 熊岡政道さん|プロフィールに人生の背景を足して、受給件数が月2件から4件か5件に
横浜市を拠点にする社会保険労務士・熊岡政道さんは、年金のなかでも手続きが複雑な障害年金に特化しています。
もとは交通関連企業の会社員。転職先で社会保険労務士に出会い、45歳で資格取得を決意します。4度の不合格を越えて5回目で合格し、2年後に事務所を立ち上げました。実務経験ゼロからの開業です。開業当初は実績も紹介もなく、障害者施設へFAXや電話で何百件もアプローチしたといいます。
志師塾で取り組んだのは、伝え方でした。プロフィールページに自分の人生のストーリーを足し、チラシに自己紹介を加え、名刺にQRコードを載せる。「以前は『年金に詳しい社会保険労務士』としてしかみられていなかった。でも、人生の背景を知ったうえで相談されると、相手の安心感が全然違う」。
そのあと、受給件数は月2件から4件か5件へ。売上もおよそ2倍になりました。
専門性が高い分野ほど、同業からの相談も集まります。熊岡さんのもとには、対応できない社会保険労務士からの依頼も届きます。
5.3 村川雄三さん|経歴の言い方を、お客様の利益に言い換えた
村川雄三さんは、東京国税局・税務署に17年勤務し、相続と不動産の税務調査に携わってきた税理士です。2023年に独立。そのときの状態を、本人はこう振り返ります。営業経験ゼロ、集客のノウハウもゼロ、紹介してくれる人もゼロ。
経歴は十分でした。それでも契約には結びつかなかったといいます。「営業に行った時には、経歴はすごいですねと言われますが、契約には結びつきませんでした」。
志師塾で変えたのは、言い方です。「私は元国税調査官です」ではなく、「私は国税での税務調査の経験があるからこそ、税務署が疑問を持ちにくい適切な申告書を作成できます」と伝える。同じ経歴が、お客様にとっての利益に変換されました。
これは2.1で見た「お客様には腕が判断できない」への答えでもあります。判断できないのだから、判断できる言葉に翻訳して渡す。それだけのことが、結果を変えます。
5.4 林勲さん|定年退職の翌月に独立。昔からのつてを辿って3社を獲得
林勲さんは、信託銀行に38年勤めたあと、2023年9月末に定年退職し、翌月10月1日に独立開業しました。社会保険労務士事務所での実務経験はありません。
独立を決めた直後に志師塾へ。最初は「集客のノウハウが全くなかったので困っていた」状態でした。そこで受けた助言は、付き合いの長い昔からのつてを辿るべきだというもの。ゼロから顧客を開拓しようと考えていた林さんに、その発想はありませんでした。
行動に移した結果、ハローワークの求人原稿の作成代行や社会保険労務士としての顧問契約など、独立早々に3社から仕事を獲得しています。
もうひとつ変わったのが、専門の軸です。3万文字近い自己棚卸しで人生を振り返り、自分の強みは社会保険労務士の業務より資産運用だと気づきます。そこから、中小企業向けの企業型確定拠出年金へ軸を移しました。
5.5 稲谷誠人さん|独立後に受注が伸びず、自己棚卸しで財務の強みを見つけた
うまくいかなかった時期の話も載せます。稲谷誠人さんは、大和銀行(現りそな銀行)に約30年勤め、2019年に中小企業診断士として独立開業しました。
ただ、独立後は順調ではありませんでした。個人での経営コンサルタント業務では、受注不振が続いたといいます。志師塾の指導内容は書籍やインターネットで追っていて、頭では理解していた。それでも行動が伴わなかった、と本人は振り返ります。
志師塾で取り組んだのは、自己棚卸しでした。感想を添えて30,000字ほど書くうちに、自分の中で当たり前すぎて気づかなかった「財務」の強みを認識します。「他の人からのフィードバックもあります。説明で詰まってしまうと具体性がないと指摘され、修正することになります。そのおかげでターゲット、価格、サービスなど、マーケティング戦略をスラスラ答えられるようになりました」。
独立してから詰まる人は少なくありません。詰まったときに見直すのは、資格の数ではなく、自分の棚卸しのほうです。
5人に共通するのは、独立後に「何の専門家か」と「その伝え方」を作り直したこと。資格を増やした人は1人もいません。
単価が2倍になった赤松さんも、受給件数が月2件から4件か5件に増えた熊岡さんも、定年退職の翌月に独立して早々に3社から仕事を得た林さんも、やったことの順番は同じです。その順番を先生業の事例で一つずつ追うのが、志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーです。自分は何を言葉にすれば選ばれるのかを決めるところから、動き出せます。
6.士業の独立・起業でよくある質問
6.1 士業として起業するのに、いくら用意すればいいですか?
志師塾が目安にしているのは、生活費3か月から6か月分、事務所運営費3か月から6か月分、マーケティングと自己投資に50万円から100万円です(統計の数字ではなく、支援の現場で使っている目安です。内訳は4.4)。これに加えて、資格の登録・入会の費用がかかります。金額は資格と地域で違うので、所属する予定の会の案内で確認してください。
6.2 個人事業主と法人、どちらで始めるべきですか?
一般論では決まりません。売上と利益の見通し、取引先が法人との契約を求めるか、人を雇う予定があるか、設立と維持の手間とお金。この4つで判断します(4.5)。税や社会保険の有利不利は金額を入れて比べるものなので、税理士に相談して決めてください。個人で始めて、あとから法人にする順番でも進められます。
6.3 未経験・実務経験ゼロでも独立できますか?
志師塾の卒業生には、実務経験ゼロから始めた人がいます。熊岡政道さんは、社会保険労務士として実務経験のないまま事務所を立ち上げました(5.2)。林勲さんも、社会保険労務士事務所での実務経験がない状態で独立しています(5.4)。ただし、登録できる条件は資格ごとに決まっています。自分の資格の要件は、所属する会に確認してください。
6.4 何年くらいで食べていけるようになりますか?
年数を示した公的な統計は見つかりませんでした。白書の開廃業率は事業所の雇用関係をもとにした数字で、ひとりで開業した士業は入っていません(1.2)。卒業生の例では、上田洋平さんが独立開業から半年で月商100万円(4.1)、林勲さんが独立早々に3社から受注(5.4)。反面、稲谷誠人さんは独立後に受注不振が続いています(5.5)。いずれも一人ひとりの実績です。年数を置くなら、1章で見た売上の分布(開業社労士の中央値は年間550万円)を頭に入れて、資金の月数を決めてください。
6.5 勤務先の顧客を連れて独立してよいですか?
勤務先との契約や就業規則、資格ごとの職務上の決まりに関わる話なので、勤務先と、所属する(予定の)会の両方に確認してください。
そのうえで、志師塾の見方を1つ。前の職場の看板で来ていた仕事は、独立後も続く保証がありません。考えるべきは「連れていけるか」より、自分の名前で選ばれる理由をつくることです。実際に、勤務時代の顧客がゼロの状態から立ち上げた卒業生がいます(5.3の村川雄三さん、4.1の上田洋平さん)。
6.6 廃業したら資格はどうなりますか?
事業をやめるときは、登録を抹消する手続きになります。令和6年度の件数で見ると、行政書士の廃業の届出が1,799人、税理士の業務廃止が1,350人でした(1.3)。試験に合格した事実そのものが消えるわけではありません。ただ、再び登録できるかどうかと、その手続きは資格ごとに決まりが違います。所属していた会に確認してください。
7.まとめ|士業の廃業率に怯える時代から、自分の足で立つ士業へ
- 日本全体の開業率は3.8%、廃業率は3.7%(2024年度・中小企業白書)。「3年で9割」とは桁が違う
- ただし、その廃業率は事業所の雇用関係をもとにした数字で、ひとりで開業した士業は入っていない。「3.7%だから士業も同じ」とは読めない
- 年間の登録抹消を公表しているのは、調べた範囲で行政書士(抹消4.2%・廃業の届出3.5%)と税理士(抹消約2.6%・業務廃止約1.7%)の2つだけ
- 「3年で9割」の出どころは特定できなかった。同じ種類の説を図書館が調べた記録でも、裏づけは出てこなかった(公的統計では創業5年後の生存率81.7%、10年後72%)
- 本当の問題は、廃業ではなく稼げていないこと。開業社労士の年間売上は中央値550万円、1,000万円未満が約6割。開業司法書士は200万円未満が約11%
- 失敗する3つのパターンは、(1) 資格があれば食えると思い込む (2) 営業したくないから士業になったと公言する (3) 何でもできますと幅広さをアピールする
- 逆転の3つは、(1) ポジショニングで独自の選ばれる理由をつくる (2) 関係型のマーケティングで「お願いされて売れる」状態をつくる (3) 一点集中・全面展開で旗を立てる
- 独立前に、生活費と事務所運営費を3か月から6か月分、自己投資の余力を確保しておく
廃業率という数字に怯えても、現実は動きません。しかも、その数字はあなたを数えていない。
読み終えたいまできる最初の一歩を、1つだけ。紙を1枚用意して、「なぜ、お客様はあなたから買うのか」を1行で書いてみてください。書けなければ、そこが伸びしろです。戦略1の入口は、この1行から始まります。
その1行を、仕事が来る言葉に変えたい士業の方へ
その1行は、机に向かって一人で考えても出てきにくいものです。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーは、オンラインで開催している無料のセミナーです。予算ゼロ・見込み客ゼロの状態から、Webで高単価の顧客を継続的に獲得していく進め方が分かります。
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この記事について
書き手:志師塾編集部(株式会社エクスウィルパートナーズ)。志師塾は、士業・コンサルタント・コーチ・講師といった「先生業」に特化したビジネススクールで、これまでに3,200名を超える先生業を支援してきました。
公開日:2026年5月15日/更新日:2026年10月23日
この記事の統計は、中小企業庁、総務省、厚生労働省、日本税理士会連合会、全国社会保険労務士会連合会、日本司法書士会連合会、国立国会図書館が運営するレファレンス協同データベースの公表資料によります。「志師塾の計算」と書いた割合は、公表値から計算したものです。4.4の資金の目安は志師塾が支援の現場で使っているもので、統計の数字ではありません。
卒業生の事例は、公開済みのインタビュー記事に書かれている事実だけを引いています。肩書と数字は各記事の公開時点のもので、同じ成果を保証するものではありません。
登録・入会の費用や手続き、法人の形に関する決まりは、資格ごとに違い、変わることもあります。手続きの前に、所属する(予定の)会の最新の案内を確認してください。