
問い合わせは来る。面談もできる。ところが見積もりを出したところで話が止まる。社労士の営業でいちばん多い詰まり方は、集客の手前ではなく、そのあとにあります。集客を頑張って面談の数を増やしても、この詰まりを直さないかぎり手応えは変わりません。
この記事では、先生業(士業・コンサルタント・コーチ・講師など)の集客・営業支援を専門としてきた志師塾が、社労士が面談の席に着いてからの進め方を4つの手順に整理して解説します。先に全体像を確認しましょう。
- 手順1:初回面談。金額の話に入る前に、現状を見る場にする
- 手順2:顧問料の決め方。作業量ではなく、範囲と責任で組む
- 手順3:提案の運び方。案を3つ出して、選んでもらう
- 手順4:値上げと解約。長く続けるための手入れ
選ばれる理由づくりや、紹介と発信で相談を集める仕組みについては社労士の営業4つのポイントで詳しく解説しています。この記事は、その先。相談が来たあとの受注と価格の話に絞ります。
1. 社労士の営業でつまずくのは「面談のあと」
まずは、どこで何が起きているのかを確認しましょう。詰まる場所が分かれば、直す場所も決まります。
1.1 問い合わせは来る。見積もりを出すと止まる
「顧問をお願いしたいのですが、おいくらですか」。この電話に、多くの社労士がその場で答えてしまいます。従業員数を聞き、料金表の該当欄を読み上げ、では検討しますと言われて電話が切れる。そして、二度とかかってきません。
何が起きたのでしょうか。相手は複数の事務所に同じ電話をかけていて、あなたはそのうちの1件として金額だけを記録された。それだけです。金額を先に出した瞬間、比較の軸は金額しか残りません。
1.2 手続き業務は、中身の差が見えない
この構造が生まれるのは、社労士の仕事の見え方に理由があります。労働保険や社会保険の手続き、給与計算。どこに頼んでも、依頼者の手元に届くものはほとんど同じに見えます。
中身で差が分からなければ、比べる物差しは料金だけになります。反対に、就業規則の設計、採用と定着、労務トラブルの予防は、答えが会社ごとに違う領域です。どちらの土俵で話を進めるかが、面談の最初の分かれ目になります。
1.3 相見積もりの土俵に乗ると、安いほうへ流れる
相見積もりを頼まれること自体は、悪い話ではありません。問題は、同じ条件で並べられる形の見積もりを出してしまうことです。従業員数と月額だけが書かれた紙は、比較表の1行として扱われます。
そして、その表のなかであなたが選ばれる理由は生まれません。安い事務所は必ずどこかにあります。勝ち目のない土俵に乗る前に、土俵そのものを変えるのが受注力です。手順1から順に、その変え方を見ていきましょう。
1.4 値付けを避けてきた人ほど、あとで苦しくなる
もうひとつ、開業まもない時期に起きやすいことがあります。実績がないうちは強気に出られず、言われた金額で受けてしまう。ひとまず仕事を取ることが優先になるのは自然な判断です。
ただ、その金額は数年後もそのまま残ります。顧問先が増えて手一杯になったころ、単価の低い契約ばかりが並んでいることに気づく。ここから抜け出すには、値上げか解約の話をするしかありません。そうなる前に、決め方と伝え方を先に持っておきたいところです。
2. 手順1:初回面談を「見積もりの場」ではなく「現状を見る場」にする
受注の8割は、初回面談の進め方で決まります。ここを型にしておきましょう。
2.1 最初の30分で聞く順番を決めておく
面談で何を聞くかは、毎回考えるものではありません。順番を決めておけば、相手の話がどこへ流れても戻ってこられます。おすすめは次の順です。
- 今日の相談のきっかけ:何が起きて連絡したのか。ここに本当の課題があります
- 会社の状態:従業員数、雇用形態の内訳、直近1年の入退社、給与の締めと支払い
- いまの体制:手続きを誰がやっているか、給与計算はどこで、就業規則の最終改定はいつか
- 過去のつまずき:労務で困った出来事、社員から出た指摘、監督署とのやりとり
- これからの予定:採用計画、事業の拡大、制度の見直し
順番の意味は、最後の2つにあります。過去のつまずきと今後の予定を聞くと、相手は自分の口で不安を語ることになる。こちらが指摘するより、本人が話した課題のほうが、はるかに強く残ります。
2.2 その場で金額を出さない。持ち帰る理由を先に伝える
面談の冒頭で金額を聞かれたら、こう返してください。「御社の状況を伺わないと、必要な範囲が決まりません。今日は現状を見せていただいて、後日あらためてご提案します」。
この一言は、単なる引き延ばしではありません。会社ごとに答えが違う仕事だと宣言する行為です。即答する事務所は、どの会社にも同じものを売っていることになる。持ち帰ると言える人が、比較表から抜け出せます。相手が急いでいるときは、面談の最後に幅だけ伝えて、正式な金額は後日にしましょう。
2.3 困りごとを、金額に換算して返す
顧問料が高いか安いかは、比べる対象によって変わります。他の事務所と比べれば高く見えますが、避けられる損失と比べれば話が違ってきます。
だから面談のなかで、換算して返してください。「採用して半年で辞めた方が去年3名いましたね。求人広告と面接と教育にかかった時間を合わせると、1人あたりどれくらいでしょうか」。金額はこちらが決めつけず、相手に言ってもらうのがコツです。自分で口にした数字は、あとで自分を説得する材料になります。未払い残業の指摘、助成金の取り逃し、トラブルが表沙汰になったときの影響。どれも同じやり方で扱えます。
2.4 受けない基準を、先に持っておく
すべての相談を受ける必要はありません。合わない顧問先を1社抱えると、時間と気力がそこに吸われて、他の顧問先への手当てが薄くなります。
基準は、面談の場で見えます。法令を守るつもりがない。社員を数としてしか見ていない。約束した資料が出てこない。連絡のたびに高圧的になる。断る勇気は、残った顧問先へのサービスになります。「うちより合う事務所があると思います」と伝えるのも、立派な仕事のうちです。
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3. 手順2:顧問料の決め方。作業量ではなく範囲と責任で組む
次は値付けです。ここを勘で決めていると、値上げの相談も断りの判断もできなくなります。
3.1 相場に合わせると、いつまでも相場のまま
顧問料を決めるとき、多くの人が近隣の事務所の料金表を見ます。判断材料としては自然です。ただ、それを基準にすると、あなたの価格はいつまでも他人が決めたものになってしまう。
先に決めるべきは、必要な売上のほうです。生活費と事務所の経費、税と社会保険、そこに事務所を伸ばすための投資を足す。その合計を、無理なく持てる顧問先の数で割る。そこで出た数字が、あなたの顧問料の下限です。この計算をしないまま相場に合わせると、件数だけが増えて手取りが増えない状態になります。
3.2 料金表は「人数」と「範囲」の二軸で組む
従業員数だけで料金を決めている事務所は少なくありません。分かりやすい反面、仕事の重さを言い当てられない決め方です。従業員10名でも、パートの入退社が毎月ある会社と、5年間ほぼ動きのない会社では手間がまるで違います。
そこで、二軸で組みます。縦に従業員数の帯を3つか4つ。横に契約の範囲を3段。範囲は、たとえば次のように分けられます。
- 手続き中心:入退社の手続き、年度更新、算定基礎。決まった作業を確実に回す段
- 手続き+相談:上に加えて、労務の相談にいつでも応じる。就業規則の軽微な見直しまで
- 相談+予防:定例で訪問し、規程と運用のずれを点検する。採用や制度の設計まで一緒に考える
この形にすると、金額の説明が変わります。「10名だからこの金額です」ではなく、「どこまでを一緒にやるかで3段あります」と言える。相手の判断は、頼むか頼まないかではなく、どの段にするかに変わります。
3.3 範囲外を先に書く。揉めない設計の要
顧問契約でいちばん揉めるのは、含まれるかどうかが曖昧な仕事です。助成金の申請、労使トラブルの対応、監督署の調査の立ち会い、給与計算、就業規則の全面改定。どれも重い仕事なのに、顧問料の範囲だと思われていることがあります。
だから契約書と提案書に、範囲外の一覧を先に書いてください。そのうえで、範囲外の仕事にはその都度の見積もりを出す、と明記する。先に線を引いておけば、断る場面が「請求の話」ではなく「確認の話」で済みます。線が引かれていない契約は、頼まれるたびに関係が少しずつ削られていく。
3.4 スポットの単価は、顧問より高く置く
手続きや助成金のスポット依頼は、顧問先を増やす入口として役立ちます。ただし、単価の置き方には注意が必要です。
スポットを安くすると、顧問契約を結ぶ理由が消えます。「困ったときだけ頼めばいい」と思われたら、そのとおりになるからです。逆に、同じ仕事でも顧問先なら割安になる形にしておけば、継続する側に理由が生まれます。顧問料は、いつでも相談できる状態への対価。そう説明できるように、価格の並びを組んでください。
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4. 手順3:提案の運び方。案を3つ出して、選んでもらう
値付けが決まったら、渡し方です。同じ金額でも、出し方ひとつで返事が変わります。
4.1 一案だけ出すと「やるか、やらないか」になる
提案を1つだけ持っていくと、相手の判断は二択になります。頼むか、見送るか。二択のとき、人は決断を先送りしがちです。
案を3つ並べると、判断の中身が変わります。どれにするか、という問いに置き換わるからです。3.2で作った3段の範囲が、そのまま提案の3案になります。
4.2 松竹梅ではなく、守り・整え・伸ばしで分ける
3案を金額の大小だけで並べると、安いものが選ばれます。並べる軸を変えてください。目的で分けるのです。
- 守りの案:法令違反と手続きの遅れを起こさない。最低限の土台をつくる
- 整えの案:規程と実際の運用のずれを直す。未払い残業やトラブルの芽を先に摘む
- 伸ばしの案:採用と定着の設計まで一緒に考える。人が辞めない会社にしていく
そして、面談で聞いた課題に沿って「御社の状況なら、真ん中が現実的だと考えています」と1つ勧めてください。全部を並べて選ばせるだけでは、専門家に相談した意味がありません。選択肢を出したうえで意見を言うのが、頼れる先生の返し方です。
4.3 値引きを求められたら、値段ではなく範囲を下げる
「もう少し安くなりませんか」。この一言に、金額だけを下げて応えてはいけません。一度下げた金額は元に戻せませんし、値引きに応じる人だと記憶されます。
返し方はひとつです。「金額を下げるなら、範囲を減らす形になります。訪問を隔月にする案でしたら、この金額です」。値段と範囲はセットで動く。この原則を崩さないでください。ここを守れる事務所は、数年後の単価が確実に違ってきます。
5. 手順4:値上げと解約。長く続けるための手入れ
最後は、契約したあとの話です。ここを放っておくと、忙しいのに手取りが増えない状態になります。
5.1 顧問料は据え置きのまま、仕事だけが増えていく
契約した時点で従業員5名だった会社が、3年後に20名になっている。手続きの件数も相談の頻度も増えているのに、顧問料は最初のままというのはよくある話です。
これを防ぐには、契約の時点で見直しの条件を書いておくのがいちばん確実でしょう。「従業員数が帯を超えたときは、翌月から次の帯の金額に改定します」。先に書いてあれば、あとの話し合いは確認だけで済みます。書いていない場合は、次の項の運び方になります。
5.2 値上げは、理由と時期をセットで伝える
値上げの相談で失敗するのは、たいてい伝え方です。言い出しにくさから前置きが長くなり、申し訳なさが前に出て、結局こちらが折れる。この流れを避けるために、順番を決めておきましょう。
- 1.事実を並べる:契約時と現在の従業員数、月あたりの手続き件数、相談の回数
- 2.改定の内容を言う:新しい金額と、適用を始める月。ここは短く、はっきりと
- 3.変わらないことを言う:これまでどおり続ける対応を並べる。相手の不安はここにあります
- 4.余裕のある時期を置く:3か月ほど先から適用する。準備の時間があると、話が穏やかに進みます
謝らないことも大事なところです。値上げは、増えた仕事に見合う対価をもらう手続きであって、迷惑をかける行為ではありません。申し訳なさそうに切り出すほど、相手は交渉の余地があると受け取ります。
5.3 値上げの前に、渡すものを増やしておく
値上げが通りやすいかどうかは、当日の話し方より、それまでの半年で決まります。頼まれていないことを月に1つ渡す習慣があるかどうかです。
今月動いた制度の要点。同業他社が最近つまずいている論点。求人票で気になった書き方。どれも大した手間ではありません。ただ、こちらから渡すものが毎月ひとつあるだけで、顧問料の意味が「作業への支払い」から「先回りしてもらえる関係への支払い」へ移っていきます。定型の作業をAIやクラウドソフトで短縮し、浮いた時間をこの観察に回すのも有効でしょう。取り入れ方は社労士のAI活用の記事で解説しています。
5.4 解約の予兆と、失っても構わない顧問先
解約は、ある日突然やってくるように見えて、たいてい前ぶれがあります。相談の連絡が減った。担当者が代わってから接点が薄くなった。訪問の日程がなかなか決まらない。心当たりがあれば、こちらから連絡を入れてください。
そのうえで、すべての顧問先を守ろうとしないことも必要です。単価が低く、要求が多く、こちらの助言を聞かない契約が抜けた分だけ、新しい相談に向ける時間が生まれます。顧問先の数ではなく、単価と相性で並べ直す。それが、社労士の営業を長く続けるための手入れです。集客の全体像は社労士の集客方法6選、卒業生の取り組みは社労士の成功事例インタビューで読めます。
6. まとめ:社労士の営業は「値付け」と「伝え方」で決まる
面談の席に着いてからの進め方を、4つの手順でお伝えしました。
- 手順1:初回面談は現状を見る場。その場で金額を出さず、困りごとを金額に換算して返す
- 手順2:顧問料は人数と範囲の二軸で組み、範囲外を先に書く
- 手順3:案は3つ。守り・整え・伸ばしで分け、1つを勧める
- 手順4:値上げは理由と時期をセットで、謝らずに伝える
値引きせずに選ばれる事務所と、価格で比べられる事務所の差は、話術ではありません。決め方と伝え方を先に用意してあるかどうか。ここだけです。用意さえあれば、面談は説得の場ではなく報告の場に変わります。
明日からの一歩として、この3つを試してみてください。
- いまの顧問先を、単価の高い順に並べてみる。下から3件の契約時期と、その後の従業員数を確かめる
- 顧問契約の範囲外にあたる仕事を、思いつくかぎり紙に書き出す
- 次の面談で使う「聞く順番」を、5項目のメモにして手元に置く
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