2026年8月3日、AI研修を提案してきた講師にとって、前提が一つ変わりました。人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」が改正され、これまで当然のように助成対象と考えられていたタイプのAI研修が、対象から外れたのです。
ただし、AI研修が丸ごと助成金の対象外になったわけではありません。外れたのは、職務に間接的にしか結びつかない内容と、職種を問わず共通して必要な内容です。裏を返せば、提案書の書き方次第で対象に残せます。
この記事では、今回の改正で何が変わったのかを厚生労働省の公表資料をもとに整理し、研修講師が提案書のどこを直せばいいのかを3点に絞ってお伝えします。志師塾は先生業に特化したビジネススクールとして、研修講師・コンサルタント・士業の方が企業から直接依頼を受けるための支援を続けてきました。卒業生には、上場企業を含む複数社から研修を任されている方もいます。読み終えるころには、いま提案中の案件をどう組み直せばいいかが具体的に見えているはずです。まずは、何が対象外になったのかから確認します。
1. AI研修が助成金の対象外になった2026年8月3日改正の中身

今回の改正は、人材開発支援助成金のなかの「事業展開等リスキリング支援コース」に対するものです。新規事業への進出やDX化・GX化に対応するための訓練に、経費と賃金の一部が助成される制度で、AI研修の提案でもっともよく使われてきた枠です。
1.1 対象外になったのは「職務に間接的にしか必要でない訓練」
厚生労働省は2026年(令和8年)8月3日付で、同コースの変更点を公表しました。ここで示されたのが、DX化・GX化に関する訓練のうち、次の2つに当たる内容は助成の対象外とする、という線引きです。
- 職業または職務に、間接的にしか必要とならない知識・技能
- 職業や職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となる知識・技能
(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)
この2行だけを見ると抽象的ですが、研修の現場に置き換えるとかなり具体的です。その研修を受けたら、その人の目の前の仕事が変わるのか。ここが判定の軸になったと考えてください。
1.2 「AI研修はすべて対象外」ではない|線引きは職務直結かどうか
見出しだけが独り歩きしていますが、AI研修そのものが一律で助成金から外れたわけではありません。実務解説の多くは、対象外に当たりやすい例として「全社員向けのAIリテラシー研修」「業種も職種も問わない汎用的なプロンプト講座」を挙げています。これらは厚生労働省が名指しで例示したものではなく、改正文言からの解釈として語られている点には注意してください。
逆に、経理担当者が請求書処理を生成AIで効率化する、営業事務が見積書作成のフローをAIで組み替える、といった「この職務のこの作業」に踏み込んだ内容であれば、引き続き対象になり得ます。今回の改正は、AI研修の禁止ではなく、総論を売ってきた講師と各論を売れる講師を分けにきた改正です。
1.3 eラーニング型のAI研修は同一労働者につき年度1回まで
もう一つ、見落とされがちな変更があります。eラーニングによる訓練について、同一の労働者が助成対象として受講できるのは年度1回まで、という制限です。動画教材やサブスクリプション型でAI研修を提供してきた講師にとっては、こちらのほうが売上への影響が大きいかもしれません。毎月の動画配信をまとめて助成対象に、という組み立ては通らなくなります。
1.4 どの案件から新ルールか|基準日は管轄労働局に確認する
ここは正直にお伝えします。新ルールがどの案件から適用されるかについて、実務解説の記述が割れています。「職業訓練実施計画届の提出日」を基準とし、8月2日までに提出済みの計画は従来どおりとする説明がある一方で、「契約・申込みの日」を基準とする説明も見られます。
いずれにせよ、いま提案中・見積提出中の案件は、ほぼ新しい基準の側にあります。顧客に「助成金が使えます」と伝える前に、管轄の労働局に基準日と対象可否を確認してください。ここを他社の記事や人づての情報で済ませると、次にお伝えする最悪のケースを踏みます。
2. 研修講師の本当のリスクは「10時間割れ」で助成金がゼロになること

対象外の項目が増えただけなら、その分だけ助成額が減る話で済みます。ところが、この制度にはそうならない構造があります。
2.1 事業展開等リスキリング支援コースはOFF-JT10時間以上が支給要件
このコースの支給要件には、OFF-JT(通常の業務を離れて行う訓練)で10時間以上、という時間の下限があります。助成率は中小企業で経費の75%、大企業で60%。加えて中小企業には賃金助成として1人1時間あたり1,000円が支給されます(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」)。この「10時間以上」が、講師にとっての落とし穴になります。
2.2 総論パートが控除されると助成額が丸ごと消える
たとえば12時間のAI研修を組んだとします。冒頭の3時間が「生成AIとは何か」「DXの潮流」といった総論で、この3時間が対象外と判断されたとしましょう。助成対象として残るのは9時間です。9時間は下限の10時間を割りますから、減額ではなく不支給になります。カリキュラムの1割が原因で、10割の助成金が消えるということです。
2.3 「助成金が使えます」で受注した講師が負う説明責任
この事故が起きたとき、顧客の担当者はまず講師に説明を求めます。提案書に「助成金対象」と書いたのは講師だからです。研修自体は予定どおり実施され、請求も発生している。それなのに、見込んでいた75%が入らない。金額の問題だけでなく、社内で稟議を通した担当者の立場を傷つけることになります。次年度の指名は、まず来ません。
2.4 防衛策はカリキュラムに時間のバッファを持たせること
対策はシンプルです。職務直結と言い切れるパートだけで10時間を超える設計にしておくこと。総論を入れたいなら、助成対象の枠外に置きます。提案書の段階で「助成対象12時間+オリエンテーション2時間(対象外・別建て)」のように時間を分けて書いておけば、労働局の判断が想定より厳しくても下限を割りません。
ここまでは制度の話です。ただ、制度を読み込んだ先で必ず突き当たる問いがあります。助成金という理由づけが弱くなったとき、企業はどんなAI研修に予算を出すのか。判断は「受けたあと、現場で本当に使えるようになるか」に寄っていきます。志師塾のAI伴走士養成セミナーでは、専門知識にAIを掛け合わせ、企業に伴走しながら成果を出す立場のつくり方をお伝えしています。
AI研修を「教える」だけで終わらせず、導入後まで伴走できる講師になるための考え方を1回で整理できます。
3. AI研修を助成金対象に残す|研修講師の提案書3つの修正点

ここからが本題です。いま手元にある提案書のテンプレートを開きながら読んでください。直すのは3か所です。
3.1 修正1:対象者を「全社員」から「特定職務の担当者」へ絞る
提案書の対象者欄に「全社員」「管理職以上」「希望者」と書いてあるなら、まずここを書き換えます。「経理部で月次決算業務に従事する担当者」「製造部で生産計画を作成する担当者」のように、職務名まで落とす。人数は減りますが、対象になるかどうかの判定はここでほぼ決まります。
国の側も、DXに必要な人材を「職務(ロール)」単位で整理しています。経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が公表した「デジタルスキル標準」では、DX推進を担う人材を「ビジネスアーキテクト」「データサイエンティスト」「ソフトウェアエンジニア」などの役割ごとに定義し、役割別に求められるスキルを並べる構成になっています(出典:経済産業省・情報処理推進機構「デジタルスキル標準」)。誰の、どの役割を伸ばすのかが先で、教える内容は後。提案書もこの順番に揃えたほうが通ります。
あわせて、対象者と訓練内容がかみ合っていない場合も不支給の典型例です。新入社員にマネジメント研修、といったミスマッチが該当します。企業側は雇用契約書などで職務を確認できる状態にしておく必要がありますから、提案の段階で「この研修は御社のどの職務の方が対象になりますか」と先に聞いておく。この一言が、後の事故を防ぎます。
3.2 修正2:カリキュラムを職務直結のタスクで書き、総論は対象時間から外す
カリキュラム表の各コマのタイトルを見てください。「生成AIの基礎」「プロンプトの書き方」「AI時代のビジネス」といった見出しが並んでいたら、今回の改正がもっとも嫌う書き方です。
「請求書データの読み取りと仕訳案の作成」「問い合わせメールの一次回答文の作成」「議事録から次アクションを抽出する手順」。教える中身が同じでも、コマ名を業務のタスク名にするだけで、提案書の意味は変わります。そのうえで、総論に当たるコマは助成対象時間の外に出します。
職務別に作り分ける手間が増える、と感じるかもしれません。その負荷はAIを使って圧縮できます。具体的な進め方は研修講師のAI活用術7選(教材づくりの時間を3分の1にする方法)で解説しています。
3.3 修正3:助成金を外しても成立する価格と効果のロジックを併記する
3つ目が、いちばん効きます。提案書の投資対効果の欄が「助成金75%活用で実質負担◯円」の一行だけになっていないでしょうか。この一行に依存していると、制度が変わるたびに提案が崩れます。
併記すべきは、研修そのものが生む効果です。「対象10名が月に◯時間の作業を短縮し、年間◯時間分の工数に相当する」。助成金は、あればなお良い、の位置に下げる。そのうえで「対象外と判断された場合の代替案」まで書いてあれば、稟議を通す担当者はあなたを信頼します。
研修を一本足で終わらせないという意味では、士業がAIで新しい収益の柱をつくる3つの方法(月額顧問・研修・DX支援)の考え方がそのまま使えます。研修単発ではなく、導入後の伴走までを商品にしておくと、助成金の有無で受注が揺れなくなります。
3.4 プランB:3時間以上10時間未満なら東京都の助成制度という選択肢
国の制度に乗らない短時間のAI研修には、別の受け皿があります。東京都と東京しごと財団が実施する「DXリスキリング助成金」は、都内の中小企業を対象に研修費用の一部を助成する制度で、対象となる研修時間が3時間以上10時間未満と、国の「10時間以上」とちょうど裏返しの設計になっています(出典:東京しごと財団「DXリスキリング助成金」)。補助率・上限額・申請期限は年度ごとに変わりますので、提案に使う前に必ず最新の募集要項で確認してください。
国の助成金は10時間以上、都の助成金は10時間未満。この2枚を持っているだけで、顧客の予算と時間の制約に合わせて提案を切り替えられます。
4. 2027年3月末で終わる助成金を、AI研修の提案にどう使うか

4.1 事業展開等リスキリング支援コースは令和8年度末までの時限措置
意外と知られていませんが、このコースは令和4年度から令和8年度末までの時限措置として設けられたものです。予定どおりであれば2027年3月末で終了します(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。今回の改正は、終了に向けて対象を絞り込む動きとも読めます。
4.2 計画届は訓練開始の1か月前まで|逆算するとやり直しは効かない
職業訓練実施計画届は、訓練開始日の1か月前までに提出する必要があります(6か月前から受付)。研修の設計・合意・稟議・届出まで含めると、顧客側の準備期間は2〜3か月。制度の終了時期から逆算すると、この枠で提案できる案件はそう多く残っていません。労働局から内容を差し戻されて組み直す時間まで見ておくなら、なおさらです。
4.3 「制度が終わる前に」を煽りではなく設計提案に変える
ここで「終わるので今のうちに」と急かすと、値引き交渉と同じ土俵に乗ります。伝え方はこうです。「この制度で組めるのは実質あと◯回です。ですから今年度は助成金を使って対象職務から着手し、来年度以降は社内講師が回せる形に切り替える設計にしませんか」。制度の締切を、複数年の育成計画を提案する理由に変える。研修講師として選ばれ続ける人は、この転換ができます。
提案の土台になる力については、研修講師で成功する3つの能力にまとめています。
5. 志師塾卒業生の事例|助成金に頼らず企業研修で選ばれる2人

助成金が使えるかどうかで受注が決まる講師と、そうでない講師の違いはどこにあるのか。志師塾の卒業生の例で見ていきます。
5.1 上場企業を含む9社から選ばれる|美容室経営成長コンサルタント・佐藤圭さん
美容師として34年、経営者として19年。4店舗・スタッフ20人の組織を運営し、2024年2月にM&Aで会社を売却した佐藤圭さんは、現在、美容室経営成長コンサルタントとして活動しながら、上場企業を含む9社から研修講師として選ばれています。リーダーシップ、マネジメント、財務、マーケティングと、担当分野は多岐にわたります。
「研修講師はたくさんいるけれど、会社を立ち上げて経営していた研修講師は稀」。選ばれる理由は、理論と実践の両方を持っていることでした。志師塾では自身の経験の言語化、とりわけプロフィールの作り直しに取り組み、BNIでの1to1につなげています。6月に受講を始め、8〜9か月で講座金額を回収しました。(佐藤圭さんのインタビュー記事を読む)
5.2 AIにできない力を研修にした|“ひらめき人財”育成コーチ・矢澤滋人さん
インプレスビジョン株式会社代表の矢澤滋人さんは、サントリーホールディングスに42年勤務し、マーケティング部門で誰もが知る飲料ブランドを多数担当してきました。定年退職後、20代・30代社員の企画提案スキルを高める研修プログラムを提供しています。
「人間がAIより優れているのは洞察力と創造力」。ケースメソッド、アート思考、インサイト調査という3つのメソッドで、「最短90日間で“刺さる企画提案”がひらめく社員に」というキャッチフレーズを掲げています。AIの使い方を教えるのではなく、AIが普及した前提で人間側の価値を定義したこと。それが、対象を20代・30代に絞り込む設計につながりました。(矢澤滋人さんのインタビュー記事を読む)
5.3 2人に共通するのは「制度ではなく実績で選ばれている」こと
2人とも、提案の中心に助成金の話はありません。誰の、どの仕事を、どう変えるのか。それが先にあり、その研修に企業が予算を付けています。今回の改正が求めている「職務直結」は、選ばれる講師がもともとやってきたことと同じです。
あなたも、制度の追い風があってもなくても指名される側に回れます。では、専門知識にAIを掛け合わせて企業に伴走する立場は、どこから組み立てればいいのか。その順番はAI伴走士養成セミナーで具体的にお伝えしています。
まとめ|AI研修の助成金改正は、研修講師の選別イベント

2026年8月3日の改正で押さえるべき点を整理します。
- 対象外になったのは、職務に間接的にしか必要でない内容と、職業人として共通して必要な内容。AI研修が一律で外れたわけではない(厚生労働省「人材開発支援助成金」)
- 提供側の最大のリスクは、対象外時間の控除でOFF-JTが10時間を割り、助成金が丸ごと不支給になること。職務直結パートだけで10時間を超える設計にして防ぐ
- 提案書の修正は3点。対象者を職務名まで絞る/コマ名を業務タスクで書き総論は対象外に出す/助成金を外しても成立する効果と価格を併記する
- 10時間に届かない短時間の研修は、3時間以上10時間未満を対象とする東京しごと財団「DXリスキリング助成金」を代替案として持っておく
制度は2027年3月末で終わる予定です。総論のAI研修は、助成金という後押しを失って価格勝負に沈みます。残るのは、顧客の職務まで踏み込んで設計できる講師です。
ここまで読んで、カリキュラムの直し方より先に「そもそも企業から直接依頼される立場をどうつくるか」が課題だと感じた方も多いはずです。研修会社の下請けでいる限り、対象者もカリキュラムも決めるのは自分ではありません。今回のような制度変更に、自分の判断で対応できなくなります。
助成金が使えるかどうかで、AI研修の受注を揺らさない
提案書を職務単位に直しても、決めるのが元請けのままでは制度変更に振り回され続けます。志師塾のAI伴走士養成セミナーでは、あなたの専門知識にAIを掛け合わせ、企業の現場に伴走しながら継続的に依頼される立場をつくる方法をお伝えします。参加は無料です。
この記事は、先生業専門のビジネススクール「志師塾」が執筆・監修しています。志師塾は、士業・コンサルタント・研修講師・コーチなど「教える仕事」に特化して集客と商品設計を支援してきました。卒業生は業種を越えたコミュニティを形成し、研修講師として企業から直接依頼を受ける方を数多く輩出しています。