企業が研修に出すお金は、1人あたり年間1万円台にとどまります。厚生労働省の調査が示しているこの金額が、企業研修の全体像を物語っています。
限られた予算は「社員を育てたい」という気持ちで動くのではありません。放置できない問題があるところへ、集中して投下されています。同じ内容でも「コミュニケーション研修」として提案すると稟議で止まり、「部下が辞めない指示の出し方」として出すと通るのは、このためです。
この記事では、2026年に企業が実際に研修費を出しているテーマをTOP10で整理し、それぞれについて「なぜ予算が付くのか」「発注するのは誰か」「先生業としてどう当てるか」まで解説します。あわせて、単価と受注導線の設計、予算が付かないテーマの出し方(ワースト3)も扱います。
志師塾は、士業・コンサルタント・コーチ・講師といった先生業に特化したビジネススクールとして、これまでに3,200名を超える方の顧客獲得を支援してきました(2026年8月時点で3,295名)。研修講師として企業から選ばれるようになった卒業生の実例と、厚生労働省・経済産業省の公的データの両方をもとに順位を組んでいます。
読み終えるころには、あなたの専門をどのテーマの枠に置けば企業の予算が付くのか、そして次に誰へ持ち込むべきかが具体的に見えているはずです。まずは全体像を一覧表で確認していきましょう。
ただ、テーマが決まっても「誰に、どう持ち込むか」が決まっていないと、研修は一度きりの講演で終わります。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、企業の担当者側から声がかかる状態をどう作るかを、研修講師・コンサルタントの事例で解説しています。
研修テーマを「企業が予算を出す言葉」に翻訳し、依頼につなげる順番を解説しています。
1. 企業が研修にお金を出すテーマTOP10【2026年版・一覧表】

企業が研修にお金を出すテーマとは、人材育成の理想像ではなく、経営がいま避けたいリスクと、今期の数字に直結する課題のことです。この前提を外すと、どれだけ良い内容でも提案書は通りません。
実際、厚生労働省の能力開発基本調査では、OFF-JT(通常の業務を離れて行う教育訓練)に費用を支出した企業は5割前後、自己啓発支援に費用を支出した企業は3割前後にとどまります。労働者1人あたりの年間OFF-JT費用も1万円台の水準です。企業の教育予算は潤沢ではなく、「やらないと困ること」に集中投下されているのが実態でしょう。
1.1 TOP10一覧表(順位・予算が出る理由・発注部門)
| 順位 | 研修テーマ | 予算が出る主な理由 | 主な発注先 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 管理職・リーダー育成(1on1・マネジメント) | 毎年の予算項目として定着しているため、新規の稟議を起こす必要がない | 人事部・人材開発部 |
| 2位 | 生成AI活用・DXリテラシー | ツール導入済みなのに使われていない。今期の生産性目標に直結 | 経営企画・DX推進・情報システム |
| 3位 | ハラスメント防止・カスタマーハラスメント対応 | 法令上の措置義務。2026年はカスハラ対応の施行が迫っている | 人事部・総務部・労務 |
| 4位 | コンプライアンス・情報セキュリティ | 全社員必須。取引先からの要請や、事故後の再発防止として発生する | 総務・法務・情報システム |
| 5位 | 若手・新人育成(オンボーディング・企画提案力) | 採用単価の上昇。早期離職は採用投資そのものの損失 | 人事部・採用担当・現場部門 |
| 6位 | 営業力強化(商談・提案・価格交渉) | 売上に直結し、費用対効果を社内で説明しやすい | 営業部門長・経営者 |
| 7位 | 評価者研修・目標設定・人的資本経営 | 人的資本の情報開示に伴い、育成の実施を説明する必要が生じた | 人事部・経営企画 |
| 8位 | キャリア自律・リスキリング・シニア活性化 | 65歳・70歳までの就業を前提に人員構成を見直す必要がある | 人事部・労働組合 |
| 9位 | 両立支援・介護離職防止・ダイバーシティ | 法改正で研修の実施自体が措置の選択肢に入った | 人事部・ダイバーシティ推進室 |
| 10位 | 財務・数字が読める人材育成 | 原価高・金利上昇で、現場の採算判断の精度が問われている | 経営者・経営企画・管理部門 |
1.2 順位の根拠にしている3つの観点
この順位は「流行っているかどうか」では決めていません。企業の稟議が通るかどうかを、次の3点で見ています。
- 義務性:やらないと法令違反・取引停止・訴訟リスクになるか
- 数字との距離:売上・離職率・採用コストなど、今期の数字に直結して説明できるか
- 期日:施行日・開示時期・人事異動といった、今期中にやる理由の有無
3つすべてに当てはまるテーマが上位に来ます。逆に「あったらいい」で止まるテーマは、どれだけ内容が優れていても後回しになります。
1.3 一覧表の使い方(自分の専門をどこに置くか)
一覧表は「自分が教えたいテーマ」を探すために使うものではありません。自分の専門知識を、表のどの行の言葉に翻訳できるかを考えるために使います。
志師塾では、強みを2種類に分けて考えます。相手がいま解決したい悩みに応える間口の強みと、本来の専門性である奥行きの強みです。一覧表の上位テーマは、ほぼそのまま間口の強みの候補になります。
たとえばコーチングを強みにしている方が「コーチング研修」を売ると競合は無数にいますが、1位の管理職育成の文脈で「1on1が雑談で終わる管理職の面談設計」として出せば、発注部門と予算の出口がはっきりします。同じスキルでも、置く棚を変えるだけで通り方が変わります。
2. 企業が研修にお金を出すテーマ 10位〜6位

まずは10位から6位です。この帯は「予算が出ないテーマ」ではなく、単独で売りにくい・継続しにくいテーマという意味での下位です。切り口を変えれば十分に戦えます。
2.1 【10位】財務・数字が読める人材育成
財務研修とは、部門損益や投資回収を現場の管理者が自分で判断できるようにする研修です。原材料費や人件費が上がり、金利のある世界に戻った今、現場の採算判断の甘さがそのまま利益を削ります。
ただし単独テーマだと「経理がやればいい」と判断されやすく、優先順位が落ちます。通るのは管理職研修の一科目として組み込む形か、自社の決算書・部門別損益を教材にする形です。簿記の授業にした瞬間に「今じゃない」と言われます。会計事務所・中小企業診断士が最も入りやすい枠でもあります。
数字を扱うなら、求められている役割も押さえておきたいところです。企業が欲しいのは数字を整理する人ではなく、数字を使って現場を動かす人。研修の目的を「読める」から「判断して言える」まで引き上げると、単価の根拠が変わります。
2.2 【9位】両立支援・介護離職防止・ダイバーシティ
この領域が無視できなくなったのは、法改正で研修の実施そのものが企業の措置の選択肢に入ったからです。改正育児・介護休業法では、2025年4月から介護離職防止のための雇用環境整備が義務化され、研修の実施や相談体制の整備などから措置を講じる必要があります。
40代・50代の社員比率が高い企業では、介護の問題は「いつか」ではなく今期のテーマです。社会保険労務士やキャリアコンサルタントが、制度説明+当事者になる前の準備という形で提供すると、総務・人事の両方から呼ばれます。制度の話で終わらせず、上司側の対応(相談された側の初動)まで入れると価値が上がります。
2.3 【8位】キャリア自律・リスキリング・シニア活性化
65歳までの雇用確保措置の経過措置が終わり、70歳までの就業機会確保も視野に入った結果、企業は役職定年後・50代後半の社員にどう働いてもらうかという現実的な問いを抱えています。
このテーマは「やる気を出してもらう研修」にすると失敗します。本人が納得していないのに研修室に集められた状態からスタートするためです。志師塾では、人の行動を妨げる要素を前進力・ブレーキ・無意識の罠の3つで整理して捉えますが、シニア層ほどブレーキ(今から変わっても評価されない、という諦め)が強く出ます。研修の設計段階でここを扱わないと、当日の空気が重くなります。
つまり、この帯で必要になるのは知識の提供ではなく、思考の前提を扱う技術です。脳の使い方を切り口に自己実現を支援する自己実現メンタルコーチ・平真理子さんの取り組みのように、心理面・思考習慣から入るアプローチを持っている方は、キャリア研修の文脈で強みが立ちます。
2.4 【7位】評価者研修・目標設定・人的資本経営
評価者研修とは、管理職が部下の目標設定とフィードバックを適切に行えるようにする研修です。2023年3月期以降、有価証券報告書で人材育成方針や社内環境整備方針の記載が求められるようになり、上場企業は「育成をやっている」と説明する責任を負いました。経済産業省も人的資本経営の実現に向けた検討会を通じて、経営戦略と人材戦略を連動させることを企業に求めています。この流れが、人事制度と育成をセットで見直す動きを押し上げました。
先生業にとっては最も継続契約になりやすい領域です。制度を作れば運用研修が必要になり、運用すれば評価者のばらつきを埋める面談同席が必要になります。単発の登壇で終わらず、年間の顧問契約へ接続しやすい構造になっています。
2.5 【6位】営業力強化(商談・提案・価格交渉)
営業研修は、効果を数字で説明しやすいという点で予算が出やすいテーマです。価格転嫁が避けられない局面では、値上げ交渉の研修に単独で予算が付くこともあります。
一方で、成果が見えるぶん結果責任も問われます。「研修をやったのに受注率が変わらない」と言われたら次はありません。だからこそ、ロールプレイングの反復と現場同行をセットにする設計が有効です。最近は、想定顧客の属性と難易度を設定したAIロールプレイング用のボットを用意し、研修後も各自が練習を続けられる形にする講師も増えています。登壇日だけで勝負しないことが、このテーマで生き残る条件です。
3. 企業が研修にお金を出すテーマ 5位〜1位

ここからが上位帯です。義務・数字・期日の3つが重なっているテーマが並びます。参入者も多い領域ですが、切り口のずらし方次第で十分に差別化できます。
3.1 【5位】若手・新人育成(オンボーディング・企画提案力)
若手育成に予算が出る理由は、育成の理想ではなく採用コストの回収です。1人の中途採用に数十万円以上の費用がかかる時代、入社1〜2年での離職は投資そのものの消失を意味します。
新人マナー研修は供給過多ですが、「配属後3年目までの企画提案力」「指示待ちから提案に変わるまでの思考習慣」といった角度は空いています。実際に志師塾の卒業生でも、大手メーカーのマーケティング部門での経験を土台に、20代・30代社員の企画提案力に特化して企業研修を提供している方がいます(後述の事例を参照)。対象年齢を絞り切ると、研修の目的が発注側にも説明しやすくなります。
補足すると、若手育成は人事が主導するケースと、現場部門が「うちの若手をなんとかしたい」と言い出すケースの2つがあります。後者のほうが決まるのは早い。現場の課長が困っている場面を言い当てられるかどうかが、受注の分かれ目になります。
3.2 【4位】コンプライアンス・情報セキュリティ
コンプライアンス研修は、全社員必須として毎年実施される定番枠です。近年は取引先からセキュリティ体制の確認を受けるケースが増え、「研修を実施している」こと自体が取引条件になることもあります。
注意点は、eラーニングに置き換わりやすいことでしょう。人が話す研修として予算が付くのは、事故や通報が起きた直後の再発防止、経営層向け、業界特有の法令対応といった場面に限られてきています。だからこそ、顧問としての関わりの中に研修を組み込む形が現実的になります。企業の社外法務部という立ち位置で経営に関わっている新潟で企業の法務を支援する弁護士・田村芳枝さんの取り組みは、その典型と言えます。
3.3 【3位】ハラスメント防止・カスタマーハラスメント対応
ハラスメント防止研修は、法令上の措置義務に直結するため、予算の性質がそもそも違います。パワーハラスメント防止の措置義務は2022年4月から中小企業も対象となり、現在はすべての企業が対応を求められています(厚生労働省:職場におけるハラスメントの防止のために)。
そして2026年版でこのテーマを3位に置いた最大の理由が、カスタマーハラスメント対策です。2025年6月に公布された労働施策総合推進法等の改正により、顧客等からの著しい迷惑行為に対する雇用管理上の措置が新たに義務付けられ、公布から1年6か月以内の施行が予定されています。2026年は「カスハラ対応の社内体制をどう整えるか」で企業が動く年になります。
小売・サービス・医療・自治体の現場では、対応マニュアルと研修を同時に求められます。社労士・弁護士・接客経験者が組める、期日が明確な数少ないテーマです。しかも「マニュアルを作る」「相談窓口を設計する」という作業が付随するため、研修1回で終わらず業務支援へ広がりやすい。先生業にとっては、入口と本題を分けて設計しやすいテーマでもあります。
3.4 【2位】生成AI活用・DXリテラシー
生成AI研修とは、ツールの操作を教える講座ではなく、自社の業務のどこにAIを入れるかを決めて定着させる支援です。この違いが、単発で終わるか継続するかを分けます。
多くの企業はすでに有料版を契約済みで、痛みは「ツールは入れたが使われない」に移っています。だからこそ、志師塾では業務を集客・営業・サービス提供・CS管理・マネジメントの5分類で洗い出し、顧客提供価値とAI適合度のマトリクスで導入の優先順位を決めるところから入ることを勧めています。操作方法から入ると、研修後に元の仕事の仕方へ戻ってしまいます。
導入の順番にもコツがあります。説明されても、人は動きません。目の前で自分の仕事が楽になるところを見て、はじめて「うちでもやりたい」になります。研修の冒頭で理屈を語るより、参加者の実際の業務をその場で一つ片付けてしまう。これが定着率を大きく変えます。人から人へ渡っている業務(申請、確認、報告)から手を付けると、効果が目に見えやすいという傾向もあります。
もう一つ重要なのが役割分担です。AI時代に人間側へ残るのは、責任を取る・実行に伴走する・感情をサポートするの3機能です。志師塾では「AIに仕事を奪われるのではなく、AIを使いこなす人に仕事が奪われる」と言い続けてきました。研修の現場でも同じことが起きています。知識を渡すだけの講座はAIと比較され、「それAIで聞けますよね」と単価を下げられる。AI伴走士という考え方は、この前提に立っています。AI伴走士とは、お客様のビフォーアフターへお連れする手段を専門知識 × AI × 伴走支援の3点セットで組み立てる専門家のことで、AI導入コンサルに転向することではありません。あなたの専門分野を土台に置いたまま、AIを掛け合わせて現場に定着させる。ここが研修講師としての差別化になります。
なお、どの業務がAIに置き換わり、どこに人の価値が残るのかは職種ごとに違います。業務単位で整理した士業のAI代替率ランキングと生存戦略も、研修の構成を考えるときの材料になります。
3.5 【1位】管理職・リーダー育成(1on1・マネジメント)
1位は管理職研修です。理由は単純で、ほとんどの企業で毎年の予算項目としてすでに枠が確保されているからです。新規でゼロから稟議を起こす必要がなく、離職率・ハラスメント・業績のすべてに効くと説明できます。
管理職の負荷は年々増えています。多様な雇用形態の部下を持ち、労務管理に気を配り、成果も求められる。企業が本当に困っているのは「マネジメント理論を知らないこと」ではなく、厳しいことを言えない管理職が増えていることです。
供給も最も多い領域なので、テーマ名はずらします。「管理職研修」ではなく「中途入社比率が高い組織の1on1」「ハラスメントと言われずに改善を伝える指示の出し方」のように、発注者が抱えている具体的な場面に寄せると比較の対象から外れます。言語化を切り口に個人と組織の力を引き出している言語化トレーナー・山内麻衣さんの事例のように、自分の得意技を管理職の現場課題に翻訳する発想が有効です。
4. 企業の研修予算が動く3つの理由|ランキングの裏側
ランキングを見るだけでは、来年のテーマ変動に対応できません。予算が動く理由そのものを押さえておけば、順位が入れ替わっても自分で判断できます。
4.1 理由1:義務(やらないとリスクになる)
最も強いのは法令です。ハラスメント防止、安全衛生、介護離職防止のように措置義務に紐づくテーマは、担当者が社内説明に困りません。「やらないと指導対象になります」で稟議が通るためです。
先生業にとっての利点は、売り込みが不要になることです。制度の説明をするだけで、相手が自分で必要性を理解します。志師塾では「先生業の営業とは、情報提供である」と伝えていますが、義務系テーマはまさにそれが成立する領域です。逆に注意点は、法改正の施行時期に合わせて需要が立ち上がり、過ぎると落ちることです。情報の鮮度を保ち続ける必要があります。
4.2 理由2:数字(今期の経営指標に直結する)
営業研修や若手の定着支援は、受注率・離職率・採用コストという数字で語れます。経営者に直接提案する場合は、こちらが圧倒的に強い。研修費ではなく投資として見てもらえるからです。
ここで大事なのは、ビフォーアフターを数字で置くことです。「コミュニケーションが良くなる」では投資判断ができません。「入社3年以内の離職を減らす」「見積提示後の失注理由を価格以外に変える」のように、追える指標まで下ろします。
4.3 理由3:期日(今期中にやる理由がある)
法改正の施行日、人的資本の開示時期、4月の新人配属、10月の下期スタート。企業の研修は、カレンダーで動きます。
したがって提案のタイミングは、相手が予算を組む時期の手前です。多くの企業は決算期の3〜4か月前に次年度の教育計画を固めます。4月開始の企業であれば、11月から1月が勝負どころ。良いテーマを持っていても、3月に持ち込めば「来年度に検討します」で終わります。
4.4 痛みで入り、理想で続ける(研修を単発にしない設計)
志師塾では、顧客の成長シナリオを設計するときに入り口は痛み訴求、リピートは快楽訴求という使い分けを勧めています。今つらいから動く、という痛みの力は強いのですが、痛みだけで引っ張り続けると顧客が疲弊して離れます。
研修も同じです。ハラスメントやカスハラのように「放置できない痛み」で初回を受注し、2年目以降は「こういう組織にしたい」という理想に向かうテーマへ切り替える。この順番を設計しておくと、単発登壇の積み上げから抜けられます。
とはいえ、ここまで読んで「テーマは分かったが、最初の1社をどう見つけるのか」が引っかかっている方も多いはずです。研修は、相手から相談が来る状態を作れるかどうかで難易度が大きく変わります。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、価格ではなく専門性で選ばれる伝え方と、企業から声がかかる導線の作り方を解説しています。
5. 自分の専門を企業研修のテーマに変える4ステップ

ここからは実務です。あなたの専門知識を、企業が予算を出す言葉へ翻訳する手順を4つに分けて整理します。
5.1 ステップ1:企業側の持ち場を決める
最初にやるのは、自分がどの業務領域を扱う人なのかを決めることです。志師塾の業務5分類(集客・営業・サービス提供・CS管理・マネジメント)で考えると、自分の専門が企業のどこに当たるのかがはっきりします。
注意したいのは、欲張って全部を扱わないことです。「組織も営業も数字も見られます」は、発注側から見ると何の専門家か分かりません。研修は社内で説明が必要な買い物なので、担当者が一言で上司へ伝えられる状態にしておく必要があります。
5.2 ステップ2:発注者の肩書で言い換える
次に、テーマ名を発注する人が使っている言葉へ置き換えます。人事部長が社内で使う言葉、営業部長が使う言葉、経営者が使う言葉はそれぞれ違います。
たとえば「アンガーマネジメント研修」は、人事部に出すなら「ハラスメント相談を減らす管理職の感情対応」。営業部長に出すなら「クレーム対応で現場が折れない体制づくり」。中身は同じでも、相手の課題名に合わせるだけで検討の土俵に乗ります。
5.3 ステップ3:ビフォーアフターを数字で置く
研修の価値は、受講者の満足度ではなく受講後に何が変わるかで決まります。志師塾ではこれをビフォーアフターの設計と呼び、どの商品設計でも最初に固めます。
「最短90日で、刺さる企画提案ができる社員に変わる」のように、期間と変化の中身がセットになっていると、発注側は社内で説明できます。研修のゴールを受講者の行動で書く。これだけで提案書の説得力が変わります。
5.4 ステップ4:第一想起を取るための発信を続ける
研修の発注は、思い出された人に行きます。担当者が「カスハラ対応、誰かいたよな」と考えたときに名前が出るかどうか。これが第一想起です。
そのためには、選んだテーマで発信を続けるしかありません。ブログ・セミナー・紹介のどこを使うにしても、テーマを頻繁に変えないことが条件になります。半年ごとに看板を替える人は、誰の記憶にも残りません。
6. 企業研修の単価と受注導線の設計
テーマが決まったら、次は売り方です。同じテーマでも、商品の組み方で年商は何倍も変わります。
6.1 単発登壇・シリーズ研修・伴走型の3段構え
企業研修の商品形態は、大きく3つに分かれます。
| 形態 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 単発登壇 | 半日〜1日の研修を1回実施 | △ 入りやすいが積み上がらない。登壇が止まれば売上も止まる |
| シリーズ研修 | 3〜6回の連続講座+課題実践 | ◎ 行動変化が出るため成果を語れる。単価も上がる |
| 伴走型(顧問+研修) | 年間契約で研修+個別セッション+制度支援 | ◎ 最もLTVが高い。経営層との関係が前提になる |
志師塾では、先生業の仕事を作業・アドバイス・伴走の3段階で捉えています。資料を作る、研修を実施するといった作業の請け負いと、相手の行動まで一緒に進める伴走では、単価が10倍変わることもあります。研修も同じで、登壇という作業を売るか、組織が変わるまでの伴走を売るかで価格の天井が違ってきます。
加えて、新規顧客を獲得するより既存顧客からリピート受注するほうが営業コストは5分の1で済みます。研修講師として長く続いている方は、ほぼ例外なくシリーズ型か伴走型を持っています。
6.2 最初の1社をどこから取るか
実績ゼロから始める場合、現実的な入り口は3つです。
- 既存の人脈・過去の取引先:新規獲得のコストは既存接点の数倍。まずは名刺とSNSのつながりの棚卸しから
- 公開セミナー:自分でテーマのセミナーを開き、参加した経営者・人事から社内研修の相談を受ける流れを作ります
- 紹介・経営者コミュニティ:法人研修は紹介が最速。1分で言い切れる自己紹介の形
法人開拓では、いきなり年間契約や顧問契約を狙わないのが鉄則です。志師塾ではこれを業務特化戦略と呼び、採用・補助金・人事評価のように「今、動く理由」がある業務に合わせたドアノック商品を作ることを勧めています。研修でいえば、カスハラ対応や評価者研修が、まさにそのドアノック商品になります。
いずれの入り口でも、最初に試されるのは「この人は何の専門家か」が一言で伝わるかです。志師塾ではこれを「話すだけで仕事が増える1分自己紹介」と呼んで、講座の初回で必ず作り込んでもらいます。
6.3 人材開発支援助成金を会話に入れる
研修費の負担を下げる仕組みとして、厚生労働省の人材開発支援助成金があります。訓練内容や計画の要件を満たすと、経費や訓練中の賃金の一部が助成されます。
ただし、助成金を前面に出した売り方は勧めません。安く済むことが決め手になった案件は、価格で比較され続けます。あくまで「予算が足りない」と言われたときの選択肢として持っておく位置づけが適切です。要件は年度で変わるため、必ず最新の公表内容を確認してください。
6.4 研修を継続に変える「実践と振り返りの間隔」
研修が単発で終わる最大の理由は、学んだことを現場で試す前に記憶が薄れることです。人が学びを定着させるサイクルは、研修で学ぶ→現場で実践する→経験する→感じたことを振り返る、の繰り返しで回ります。
志師塾では、この振り返りの間隔を1〜4週間に置くことを基準にしています。3か月空けると前回の内容を覚えていません。研修を2回目・3回目へつなげたいなら、提案書の段階で「実施後1か月のフォロー面談」を組み込んでおく。継続は、受注後の交渉ではなく最初の設計で決まります。
7. 企業研修で予算が付かないテーマの出し方【ワースト3】

最後に、よくある失敗を3つ挙げます。いずれも内容ではなく、テーマの出し方の問題です。
7.1 ワースト1:スキル名だけのテーマ名にする
「コーチング研修」「ロジカルシンキング研修」「傾聴研修」。スキル名だけのテーマは、発注者から見ると何が解決するのか分かりません。比較できる要素が講師の知名度と価格しか残らないため、値下げ競争に巻き込まれます。
処方箋は、スキル名を場面に変えることです。「傾聴研修」ではなく「退職を言い出す前のサインを拾う面談」。これだけで、誰が何のために買うのかが明確になります。
7.2 ワースト2:自分の経歴からテーマを決める
「20年営業をやってきたので営業研修」という発想は自然ですが、ここで止まると売れません。経歴は信頼の材料であって、買う理由にはならないからです。
順番を逆にします。企業が予算を出すテーマを先に見て、その中で自分の経歴が最も効く場所を選ぶ。志師塾でポジショニングを先に固めるのは、この順番を間違えると発信も商品も全部作り直しになるためです。
7.3 ワースト3:満足度アンケートで終わる設計にする
当日の満足度は高かったのに次年度に呼ばれない、という相談は非常に多いです。原因は、成果の定義を「満足度」に置いてしまったことにあります。
処方箋は、受講後に追う指標を発注時に合意しておくこと。実施3か月後に行動がどう変わったかを一緒に確認する場を作るだけで、翌年の継続は格段に通りやすくなります。研修は、終わった瞬間からが本番です。
8. 志師塾卒業生の事例|企業研修のテーマで選ばれた3人

ここまでの内容を、実際に企業研修で選ばれている志師塾卒業生の例で確認します。3人とも、持っていた経験は変えずに「出し方」を変えて結果を出しています。
8.1 経営経験そのものを研修テーマにした美容室経営コンサルタント・佐藤圭さん
美容師として34年、経営者として19年の実績を持つ美容室経営成長コンサルタント・佐藤圭さんは、4店舗・スタッフ20人の組織を運営し、2024年2月にM&Aで会社を売却しました。現在は上場企業を含む9社から研修講師として選ばれ、リーダーシップ・マネジメント・財務・マーケティングと幅広い分野で登壇しています。
選ばれる理由は明快です。「研修講師はたくさんいるけれど、会社を立ち上げて経営していた研修講師は稀」と言われたとのこと。理論と実践の両方を持っていることが、そのまま差別化要素になっています。
志師塾で学んだのは言語化でした。特にプロフィールを全面的に見直し、自分を大きく見せるのではなく顧客目線と共感を軸に書き換えたこと。その結果、BNIで月20〜40回の1to1を重ね、6月に受講を始めて8〜9か月で受講料を回収しています。
8.2 対象を20代・30代に絞り切った企画提案力コーチ・矢澤滋人さん
サントリーホールディングスに42年勤務し、マーケティング部門で誰もが知る飲料ブランドを担当してきたインプレスビジョン株式会社代表・矢澤滋人さんは、定年退職後、20代・30代社員の企画提案スキル向上に特化した研修プログラムを提供しています。
キャッチフレーズは「最短90日間で“刺さる企画提案”がひらめく社員に変身」。ケースメソッド、アート思考、インサイト調査という3つのメソッドで洞察力と創造力を鍛える構成です。対象年齢を絞り、期間と変化を言い切っている点が、本記事のステップ3そのものです。
「人間がAIより優れているのは洞察力と創造力」という設計思想も、AI活用が進む企業にとって説明しやすい論点になっています。
8.3 セミナーテーマの言い換えで集客が変わった前田英志さん
IBMに27年在籍し、サーバ系エンジニアから経営企画・戦略コンサルタントまで務めたフィンファイ株式会社代表・前田英志さんは、「経済的自立請負人」としてデータサイエンスを活かした教育事業を展開しています。
注目したいのは、集客の転換点です。当初はフロントセミナーで苦戦していました。お金の領域は疑わしい話が多く、差別化ができずに集客できない状況が続いたとのこと。そこでセミナーの内容を「大学生のための株価データ分析超入門」に変更したところ、株価データの分析をしたい層の信頼を獲得し、大学生と社会人で20名ほどの集客に成功。ビジネスが軌道に乗りました。
その後開塾した「寺子屋塾」は7週間の集中講義と3か月のフォローで構成され、2023年9月のⅠ期生から計41名を送り出しています。扱う専門知識は変えずに、テーマの名前と対象を変えただけで結果が変わった例です。
3人に共通しているのは、特別なスキルを新しく身につけたわけではないという点です。すでに持っていた経験を、企業が予算を出す言葉に翻訳し直しただけです。あなたの経験も同じように置き換えられます。その翻訳の手順と、研修の相談が届く導線づくりは、志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーで具体的に解説しています。
企業研修のテーマに関するよくある質問
研修テーマは1つに絞るべきですか?
看板は1つに絞り、提供できる範囲は複数持つのが現実的です。思い出してもらうための看板が2つ以上あると、誰の記憶にも残りません。一方で、受注後に関連テーマを求められるのは普通のことなので、対応できる幅自体は広く持っておいて構いません。外に見せる顔を絞り、中の引き出しは増やすという考え方です。
登壇実績がない状態で、最初の企業研修はどう取るのですか?
既存の人脈から始めるのが最短です。過去の取引先や元同僚の会社に、「課題のヒアリングに付き合ってほしい」という切り口で話を聞かせてもらうところから入ります。そこで出てきた困りごとに合わせて小さく提案する。完璧な研修プログラムを作り込んでから営業するより、先に相手の言葉を集めたほうが早く決まります。
研修の単価はどう決めればいいですか?
登壇時間ではなく、解決する課題の大きさで決めます。同じ3時間でも、新人のマナー研修と経営層向けのリスク対応では、企業が得る価値が違います。また、単発登壇だけを価格表にすると比較されやすいので、シリーズ型や年間伴走型の選択肢を先に用意しておくことをお勧めします。
助成金を使うと受注しやすくなりますか?
補助的には有効ですが、決め手にはしないほうが良いです。助成金が理由で選ばれた案件は、次も価格で比較されます。要件や手続きは年度で変わるため、提案時には必ず厚生労働省の最新情報を確認し、申請実務まで請け負うかどうかの線引きも事前に決めておきましょう。
AIの研修は、専門が別の分野でも扱えますか?
扱えます。むしろ強いのは、自分の専門業務でAIを使い込んでいる人です。企業が困っているのはツールの操作ではなく、自社の業務にどう入れるかという判断の部分です。自分の効率化のために覚えたことが、そのまま顧客への商品になります。専門分野を土台に置いたまま、AIを掛け合わせる形で組んでください。
9. まとめ|企業が研修にお金を出すテーマは「避けたいこと」から決まる
2026年版のTOP10を振り返ります。上位に来たのは、管理職育成、生成AI活用、ハラスメント・カスハラ対応でした。いずれも義務・数字・期日の3つが重なっているテーマです。
押さえておきたい点を整理します。
- 企業が予算を動かす動機は「育てたい」ではなく「放置できない」
- テーマ名は、発注する人が社内で使っている言葉に翻訳する
- ゴールの置き方は、満足度ではなく受講後に追える指標
- 入り口は痛み訴求、2年目以降は理想に向かうテーマへ切り替える
- 単発登壇だけで組まず、最初の設計からシリーズ型・伴走型を入れておく
そして、ここまでの内容はすべて「相手に見つけてもらえている」ことが前提です。どれだけ的確なテーマを持っていても、担当者が困ったときに思い出されなければ依頼は来ません。テーマ選びと同じ比重で、知ってもらう仕組みに手を入れてください。
研修テーマは決まった。あとは「誰に、どう届けるか」です
TOP10のどのテーマを選んでも、企業の担当者に見つけてもらえなければ登壇の機会はゼロのままです。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、研修講師・コンサルタントが企業から先に声をかけられる状態をどう作るか、ポジショニングの決め方から集客導線の設計までを事例で解説しています。参加費は無料です。
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この記事について
この記事は、先生業専門のビジネススクール「志師塾」が執筆・監修しています。志師塾は、士業・コンサルタント・コーチ・講師といった先生業の顧客獲得支援に特化し、これまでに3,200名を超える方を支援してきました(2026年8月時点で3,295名)。卒業生コミュニティには、企業研修や顧問契約で成果を上げている先生業が多数在籍しています。