
弁理士がYouTubeを始めると、たいてい出願の流れと費用の解説から入ります。検索されやすい題材ではあります。ところが、問い合わせは価格の質問ばかり。よくある行き止まりです。
手続きと費用の話は、比較サイトと同じ土俵だからです。弁理士にとってのYouTubeは、価格表の代わりではありません。役割は難しい知財の話を噛み砕いて、会う前に「この人なら分かりやすい」と思ってもらうことにあります。知財は言葉が難しい分野。だからこそ、動画で説明できる価値が他のどの業種より大きく効きます。
この記事では、先生業(士業・コンサルタント・コーチ・講師など)の集客・営業支援を専門としてきた志師塾が、弁理士のYouTube集客を4つの手順に整理します。全体像を先に置いておきましょう。
- 手順1:チャンネル設計(「弁理士」ではなく「何の弁理士か」を決める)
- 手順2:話す内容(手続きではなく「取るべきか」の判断を語る)
- 手順3:撮影と編集の線引き(図に凝りすぎて止まらない形にする)
- 手順4:個別相談・セミナーへの導線(動画の中では売らない)
肩書きの決め方から、守秘と新規性をめぐる線引きまで、順番どおりに並べました。まずは、手続き解説の動画が価格の質問しか呼ばない理由から見ていきましょう。
1. 弁理士のYouTube集客が「手続き解説」で行き詰まる理由
弁理士への依頼は、社長や開発担当が「これは守れるのだろうか」と不安になった瞬間に生まれます。不安の正体は手続きではありません。判断がつかないことです。
1.1 費用と手続きの解説は、比較サイトと同じ土俵に立つ
弁理士がYouTubeで最も踏みやすい落とし穴が、ここです。出願から登録までの流れ、特許庁に納める費用、事務所の手数料。丁寧にまとめれば数字は動きます。ただ、そこで集まる人は何を考えているでしょうか。どこが安いかを比べています。
比較の土俵に立った時点で、勝ち方は値下げしか残りません。解説を精密にするほど、価格勝負に引き込まれる逆転が起きます。特許庁も同じ情報を無料で出していますから、正面から張り合う意味もないでしょう。試験の勉強法を扱えば受験生が集まりますが、受験生は顧客ではありません。
1.2 知財は言葉が難しい。だから動画の価値がいちばん大きい
ここは弁理士の強みになる部分です。進歩性、拒絶理由通知、権利範囲、実施権、先使用権。文字で読むと、社長は3行で目を離します。ところが、口頭で例を挙げながら話せば伝わってしまう。
たとえば権利範囲の広さは、土地の境界線にたとえると一気に飲み込めます。「境界を広く取ると隣とぶつかりやすく、狭く取ると隣に迂回されます」。難しい言葉を、その場で身近なものに置き換えて見せる。これができる弁理士かどうかは、動画なら数分で伝わります。文章の記事では、そもそも最後まで読んでもらえないのです。
紹介を受けた社長が会う前に名前を検索するのも、いまや当たり前でしょう。この点は紹介で来た人も、あなたのSNSを見ていますでも触れました。検索した先に「分かりやすく話す姿」が並んでいれば、初回面談は品定めの場ではなく確認の場に変わります。
1.3 依頼が動くのは「取るべきか、取らざるべきか」で迷ったとき
相談が生まれる瞬間を思い浮かべてください。新製品の発売が決まったとき。展示会に出す直前。取引先から「特許はお持ちですか」と聞かれたとき。似た商品を出されたとき。そして、店名やサービス名を決めたとき。
どれも共通しているのは、進む道を選べずに止まっている点です。手続きの方法ではなく、そもそも権利を取るべきかどうかが判断できない。ここに動画が届けば、相談は自然に生まれます。解説すべきは手順ではなく、判断のほうです。
2. 手順1:弁理士のチャンネル設計と肩書きの見せ方
最初に決めるのはチャンネル設計です。撮影より前、企画より前に固めます。ここが曖昧だと、動画が増えるほど散らかっていきます。
2.1 「弁理士」ではなく「何の弁理士か」を決める
「弁理士の○○と申します」。正確ではあるものの、社長の記憶には残りません。資格は知財を扱える証明にはなります。反面、大勢いる弁理士からあなたが選ばれる理由にはならないのです。
チャンネルを開いた人が数秒で知りたいのは、資格の有無ではありません。「自分の分野を分かっている人か」を見ています。資格名は、その問いに何も答えていません。必要なのは、扱う分野を示す一文のほうでしょう。
2.2 肩書きは「誰の・どの分野で・何を守るか」で言い切る
ポジショニングは難しく考えなくて構いません。「誰の」「どの分野で」「何を守る」弁理士なのか。この3つを言い切れれば、輪郭は立ち上がります。手を動かす順番は次のとおりです。
- 手順A:これまで扱った案件を書き出す。技術分野、依頼元の規模、権利の種類(特許、実用新案、意匠、商標)
- 手順B:そのうち「感謝され、しかも自分が面白かった」案件に印を付ける。件数が少なければ企業内での経験でも構いません
- 手順C:印を付けた案件に共通する「分野」「依頼元のタイプ」「守りたかったもの」を掛け合わせ、一文にまとめる
「食品メーカーの製法とブランドをまとめて守る弁理士」といった形(あくまで例です)。ここまで絞れば、頼みたい相手の顔が浮かびます。その一文を知人に読んでもらい、「誰を紹介すればいいか」がすぐ思い浮かぶかどうかを確かめてください。浮かばないなら、まだ絞り切れていません。
2.3 特許と商標は、再生リストで分けておく
肩書きが決まったら、見た目に落とし込みます。触る場所は4か所。
- チャンネル名:「氏名|○○分野専門の弁理士」の形にする。一覧でも何の人か一目で分かる
- アイコン:顔写真を使う。ロゴやイラストは、個人で信頼を得たい先生業には向きません
- バナー:2.2で決めた一文をそのまま置く。飾り文句はいらない
- 再生リスト:特許と商標を必ず分ける。相談してくる人がまるで違うためです
最後の1点は、弁理士ならではの注意点になります。特許の相談は法人の開発担当や経営者から来ますが、商標は個人事業主や小さな会社の方も探しています。「この名前、使って大丈夫ですか」という問いは、ほとんど生活者の言葉です。同じチャンネルに混ぜて並べると、どちらの人も自分向けだと感じにくくなります。
そのうえで、名刺・事務所案内・ホームページ・セミナーの自己紹介と、まったく同じ言葉を使ってください。接点ごとに名乗りが違う人は、何の専門家か覚えてもらえません。志師塾がポジショニング先行を大切にするのは、この一貫性が第一想起を生むからです。
手数料で比べられない「選ばれる型」を最短で身につけたい方に向けて、志師塾では弁理士をはじめ先生業に特化したWeb集客セミナーを開催しています。
2.4 顔出しは必要か、専門を絞ると仕事は減るか
チャンネル設計の相談では、必ず2つの質問が出ます。ひとつは顔出し。弁理士の場合、顔を出したほうが早く進みます。依頼者が選んでいるのはあなたという人であって、法律の情報ではないからです。
もうひとつは「絞ると仕事が減るのでは」という不安。実際には逆で、絞るからこそ思い出してもらえます。「どの技術分野でも対応します」は、相手の記憶の中では「何の専門家でもない」と同じ扱いです。狭く決めたチャンネルのほうが、幅広い相談を連れてきます。
3. 手順2:何を話すか。相談でつまずく言葉が最良のネタ
器が決まったら、次は中身です。ネタ切れの不安はよく聞きます。ただ、弁理士に限ればネタは探すものではありません。すでに手元に山ほどあります。
3.1 面談で説明し直している言葉を、そのまま1本にする
相談の場で、毎回かみ砕いて説明し直している言葉があるはずです。「拒絶理由通知が来ました、と伝えると必ず落ち込まれる」「権利範囲を広く取りたいと言われる」「実用新案と特許の違いを聞かれる」。同じ説明を3回したなら、それは動画1本分の価値がある話です。
やることは記録だけ。面談のあと、説明し直した言葉を1行メモに残しておく。1か月も続ければ、20本分のリストができあがるでしょう。相手がつまずいた言葉は、そのまま検索窓に打ち込まれる言葉でもあります。企画は机上でなく、現場のメモから拾うものです。
3.2 「取るべきか、取らざるべきか」の判断に踏み込む
1.1で触れた落とし穴を避ける鍵が、この節にあります。ここを語れる弁理士は、そう多くありません。
特許は取れば公開されます。つまり、権利を得る代わりに中身を世の中へ差し出すことでもあるわけです。だからこそ「あえて取らずにノウハウとして抱える」判断があり得ます。製法のように外から分解しても分かりにくいものは、その典型でしょう。取らない選択肢まで示せる弁理士は、手続き屋ではないと伝わります。
商標なら「先に登録されていたらどうなるか」「名前を変えるべき分かれ目はどこか」。売り込まない姿勢そのものが、専門家としての誠実さを伝えます。手続きの一覧は検索すれば出てきますが、この判断は出てきません。
3.3 話す順番の型を決めておく
テーマが決まっても、しゃべり出しで固まる方は多いものです。順番を型にしておきましょう。次の4つで組み立てれば、どんなテーマでも形になります。
- 最初の30秒:質問を読み上げ、結論を先に置く。「拒絶理由通知は、断られた通知ではありません」
- 次の2分:なぜそうなるのかの理由。判断の物差しを見せる場所です
- 次の3分:身近なものへの言い換えを1つ。図を使うならここで1枚だけ
- 最後の30秒:明日できる一歩をひとつ。「まず、自社の商品名を特許情報プラットフォームで検索してみてください」
結論を先に置く理由は単純です。相手は忙しい。5分見ないと答えの出ない動画は、途中で閉じられます。
3.4 守秘と新規性。話してはいけないことの線引き
弁理士の発信には、他士業にない危うさがあります。出願前の発明は、公にした時点で新規性を失いかねません。守秘義務はもちろんですが、それ以前に依頼者の権利そのものを壊してしまう恐れがあるのです。ここは他のどの業種より慎重に扱ってください。
安全な線引きは単純で、動画で扱うのは公開済みの情報と一般論だけに絞ることです。具体的な相談内容は、たとえ抽象化しても触れない。使うなら公開公報や、すでに世に出ている製品の話にとどめましょう。
そのうえで判断を伝えるには、条件を先に置く言い方が効きます。「創業3年目、まだ製品を発表していない会社を前提に話します」。前提をはっきりさせてから語れば、断定を避けつつ内容は具体的になります。締めに「実際の可否は個別に調査してください」と添えれば十分でしょう。
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4. 手順3:撮影と編集の線引きと、続ける仕組みのつくり方
ここが分かれ道です。YouTubeを始めた弁理士の多くは3本で更新が止まりますが、原因は忙しさではありません。1本目に手をかけすぎて、2本目が重くなっているだけ。最初に線を引いておきましょう。
4.1 凝りすぎて止まるのが、最大の失敗
照明を買い、マイクを買い、テロップを勉強する。準備そのものは楽しい時間です。ところが、手をかけた分だけ1本が重くなる。1本に5時間かかるチャンネルは、期限が重なる時期に必ず止まります。
目安を持ってください。撮影と編集を合わせて1本60分を超えたら、設計が重すぎます。そろえるのはスマートフォンと三脚とピンマイクで足ります。凝ったオープニングも細かいテロップも、依頼者は求めていません。
4.2 図は1枚だけ。紙とペンで足りる
弁理士が時間を吸い取られやすいのが、図の作り込みです。権利範囲を説明したい、出願の流れを図解したい。気持ちは分かりますが、ここに凝ると1本が一気に重くなります。
紙に手書きした図を1枚、カメラに向けて掲げる。それで十分に伝わります。説明図の美しさより、その場で描いて見せる手つきのほうが人柄を運びます。作り込んだスライドを何枚も流す動画は、資料の朗読に近づいてしまうでしょう。
4.3 台本は書かない。見出し3つだけ用意する
全文の台本を書くと、準備に時間がかかるうえ、読み上げた声はどうしても不自然に聞こえます。相談の場で原稿を読む弁理士はいないでしょう。動画も同じです。
用意するのは、紙に書いた見出し3つだけ。3.3の型でいえば「結論」「理由」「言い換え」になります。あとはカメラの向こうに相談者がひとり座っていると思って話しましょう。少し言いよどむくらいのほうが、人柄は伝わるものです。
4.4 1本を使い回す。本数より継続が効く
続ける仕組みの本命は、1本の使い回しです。次のように展開します。
- ブログ記事:文字起こしを整えれば、そのまま1記事になる。動画も一緒に埋め込む
- メルマガ:導入部分を短くまとめ、続きは動画で見てもらう
- SNS:印象に残る一節を切り出して投稿し、動画へつなぐ
- 依頼者への案内:よく聞かれる質問は「この動画をご覧ください」と渡せる。説明の時間が減る
この下ごしらえは、AIと相性のよい作業です。文字起こしの整形、記事の見出し案、SNS用の切り出し。ここをAIに寄せれば、1本の動画が4つの発信に育ちます。ただし、話す中身はあなたが決めてください。相談でつまずいた言葉も、依頼者が言い淀んだ本音も、AIの手元にはありません。下ごしらえはAIに、判断と語りは人に。弁理士ならではの取り入れ方は弁理士のAI活用術で解説しました。
5. 手順4:YouTubeから個別相談・知財顧問へつなぐ導線設計
最後は導線です。ここを決めておかないと、動画は増えたのに相談が来ないという状態に陥ります。
5.1 動画の中では売らない。次の一歩だけを置く
動画の終わりに長い宣伝を差し込むと、そこまで積んだ信頼が目減りします。視聴者は学びに来ているのであって、売り込みを聞きに来たわけではありません。置くのは案内の一言で足ります。「もっと詳しく知りたい方向けに、無料のセミナーを用意しています。概要欄からどうぞ」。この程度で十分に伝わります。売らない動画のほうが、結果として相談を連れてきます。
5.2 概要欄・固定コメント・終了画面の役割を分ける
導線の置き場は3か所。それぞれ役割が違うので、分けて考えましょう。
- 概要欄の1行目:この動画で分かることを短く。下に無料セミナーやメルマガの案内を置く
- 固定コメント:動画の要点と、次に見てほしい動画のリンク。目に留まりやすい場所です
- 終了画面:関連動画1本とチャンネル登録。外部リンクを詰め込むと、かえって押されません
ここで気をつけたいのが、コメント欄の扱いになります。知財の動画には「私の発明は登録できますか」と中身を書き込む人が現れがちです。公開の場で答えると新規性を損ないかねませんから、返信は「個別にご相談ください」の一言に絞ってください。YouTubeは出会いの場、セミナーは理解の場、個別相談は決断の場。役割を分ければ、それぞれが無理なく働きます。セミナーの組み立て方は弁理士のセミナー集客にまとめました。
5.3 出願で終わらせず、知財顧問とLTVにつなげる
動画から相談が来るようになったら、次は受注後の設計です。出願は終われば関係も切れます。件数を積む働き方は、案件が途切れた月がそのまま収入の谷になるでしょう。
ここでも動画が働きます。「新商品を出す前に確認する3つのこと」を1本にしておけば、提案の場で見せるだけで顧問の中身が伝わるからです。リアルの営業との組み合わせ方は弁理士の営業3つのコツ、中小企業を知財で支えている卒業生の話は至誠国際特許事務所・木村高明さんのインタビューで読めます。
6. まとめ:弁理士のYouTube集客は「手続き」より「噛み砕く力」
弁理士のYouTube集客を、4つの手順でお伝えしました。
- 手順1:チャンネル設計。肩書きは資格名ではなく「誰の・どの分野で・何を守るか」
- 手順2:話す内容。手続きではなく「取るべきか、取らざるべきか」の判断を語る
- 手順3:撮影と編集は1本60分まで。図は手書き1枚で足りる
- 手順4:動画の中では売らず、セミナーを挟んで個別相談と知財顧問へつなぐ
相談が集まっているチャンネルは、派手な演出をしていません。同じ立ち位置から、同じ相手に話し続けています。だから、守るべきものが生まれた瞬間に名前が浮かぶ。再生数が伸びなくても、必要なひとりに届いていればいいのです。本数より一貫性が効きます。志師塾も先生業向けのチャンネルを運営しており、その様子は先生業向けのYouTube、再開してますで紹介しています。
明日から手をつけるなら、この3つからどうぞ。
- 直近1か月の相談で説明し直した言葉を、思い出せるだけ紙に書き出す
- 自分の肩書きを「誰の・どの分野で・何を守るか」の一文にして、知人に読んでもらう
- その言葉リストから1つ選び、身近なものにたとえてスマートフォンで5分だけ撮ってみる
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