
行政書士として独立開業した直後、多くの方が同じところでつまずきます。事務所の登録は済んだ。名刺も作った。それで、明日から誰に会いに行けばいいのか分からない。
資格試験では、営業のやり方を教わりません。勤務していた事務所から独立した方でも、仕事は所長が取ってきていたという場合が多いはずです。ただ、ここで飛び込み営業や電話営業を思い浮かべると、話が苦しくなります。行政書士の営業は、売り込むことではなく、依頼が流れてくる経路をつくることだからです。
この記事では、先生業(士業・コンサルタント・コーチ・講師など)の集客・顧客獲得支援を専門としてきた志師塾が、行政書士の営業を4つの経路に整理して解説します。先に全体像を示しておきましょう。
- 経路1:紹介元をつくる(同業ではなく、隣の業界)
- 経路2:公の場に立つ(相談会・商工会・業界団体)
- 経路3:Web経由の「今すぐ客」を受ける
- 経路4:受任した先を、次の依頼につなげる
まずは、営業を売り込みと考えるとつらくなる理由から確認しましょう。
1. 行政書士の営業が「売り込み」だとつらくなる理由
営業という言葉に苦手意識を持つ方は多いものです。ただ、苦手なのは営業そのものではなく、頭に浮かんでいるやり方のほうかもしれません。
1.1 実績も人脈もない状態から始まる
独立開業した直後は、看板になる実績がありません。「これまで何件やりましたか」と聞かれて答えに詰まる。この時期をどう越えるかが、最初の関門です。
ここで多くの方が選ぶのが、価格を下げる道です。実績がないぶん安くする。気持ちは分かりますが、この入り方には落とし穴があります。安さで来た依頼者は、次も安さで選ぶからです。最初に付けた値段が、そのあと数年の水準を決めてしまいます。
もうひとつ、開業直後に効いてくるのが手元の資金です。登録の費用や事務所まわりの準備は避けられませんが、いちばん大事なのは依頼が来るまでを支えるお金のほうです。ここが薄いと、安い仕事でも受けざるを得なくなります。資金の余裕が、そのまま単価を守る力になります。
1.2 売り込むと、価格の話にしかならない
「行政書士の○○です。許認可から相続まで幅広く対応しています。何かあればお声がけください」。開業の挨拶でよくある形です。ただ、これを聞いた相手には、比べる材料が値段しか残りません。
行政書士は登録している人数が多く、扱える業務も重なります。だから「何でもやります」と言った瞬間に、他の事務所と同じ棚に並ぶ。抜け出す道は、扱う手続きを絞って「この件ならこの人」と覚えてもらうことのほうにあります。
1.3 営業は「経路をつくる仕事」だと考える
視点を変えましょう。行政書士の依頼は、必要になった瞬間に発生します。元請けから許可を求められた日、親が亡くなった日、外国人を採用すると決めた日。
その瞬間に自分の名前が挙がるかどうか。営業とは、そのための経路をあらかじめ用意しておく仕事です。会いに行くのは今すぐ依頼したい人ではなく、依頼が生まれる場面に先に立ち会っている人のほう。ここが分かると、動き方が変わります。
2. 経路1:紹介元をつくる(同業ではなく、隣の業界)
1つ目の経路が、紹介です。行政書士の仕事は、依頼者が困る前に他の誰かが気づいていることが多くあります。その誰かとつながることが、開業直後の最初の仕事です。
2.1 誰に会うかを、専門分野から逆算する
開業直後は、つい同業の集まりに顔を出します。心強い相手ですが、仕事を持ってきてくれる相手ではありません。会いに行く先は、専門分野の隣にあります。
- 建設業許可なら:建設会社の役員、元請けの担当者、機材や保険の営業、業界団体の事務局
- 相続・遺言なら:不動産会社、金融機関の担当者、保険の代理店、葬儀社、地域の福祉の窓口
- 在留資格なら:外国人を雇う企業の人事、人材紹介の担当者、日本語学校、国際交流の団体
- 自動車・運送なら:自動車販売店、整備工場、運送会社の管理者
どの相手も、依頼者に先に会っている立場です。名刺の数を増やすより、この線に沿って10人と深くつながるほうが早く回り始めます。
2.2 渡すのは「どんなときに声をかけるか」
紹介が起きない理由の多くは、相手が「いつ声をかければいいか」を知らないことにあります。何ができるかを伝えても、思い出す引き金にはならないのです。
だから、場面のほうを渡してください。「お客様が事業を法人にすると言ったら、許可の取り直しが要るかもしれません。そのときに一度声をかけてください」。この形なら、相手はその場面が来たときに思い出せます。渡すのは能力の一覧ではなく、思い出す引き金です。
2.3 他士業との連携が、そのまま営業力になる
登記なら司法書士、税額の判断なら税理士、労務なら社労士、争いになれば弁護士。行政書士は扱えない領域がはっきりしている資格です。ここを弱点だと思わないでください。
相談を受けたときに「それは自分の担当ではありませんが、任せられる方をご紹介します」と言える人は、相談の一次窓口として選ばれます。相続なら登記と税、外国人雇用なら労務、事業承継なら税と法務。受け止めて渡せる人のところに、次の相談も集まります。
売り込まずに依頼が届く経路のつくり方を知りたい方に向けて、志師塾では行政書士をはじめ先生業に特化したWeb集客セミナーを開催しています。
3. 経路2:公の場に立つ(相談会・商工会・業界団体)
2つ目の経路は、人が集まる場に立つことです。開業直後でも入れる場があるのが、行政書士の恵まれているところでしょう。
3.1 開業直後でも入れる場がある
所属する会が開いている無料相談会、自治体の相談窓口、商工会や商工会議所の相談日、支援機関の専門家派遣。実績を問われずに手を挙げられる場が、いくつもあります。
報酬はないか、あってもわずかです。それでも入る価値があります。相談の場数が積めること、地域で名前を覚えてもらえること、そして「どんな困りごとが持ち込まれるか」が分かること。開業直後に足りないのは案件ではなく、相談の経験のほうだという見方もできます。
補助者として事務所に勤めた経験がある方は、その時期の人間関係も棚卸ししてください。前の事務所の顧客へ営業をかけるのは筋が通りませんが、業界の知り合いや取引先との縁は残っています。
3.2 その場では売らない
無料相談の場で自分の事務所を売り込むのは、避けてください。場を用意してくれた側の信用に関わりますし、相談に来た人も身構えます。
やるべきことは、目の前の相談に丁寧に答えることだけです。答えきれない部分があれば正直に伝え、どこへ行けばよいかを示す。その姿を見た人が、後日あらためて連絡してきます。売らない人のほうが覚えられる、というのはこの場でも同じです。
3.3 一度立ったら、次につなげる
相談員や講師を一度務めたら、そこで終わらせないでください。担当者に「またお声がけください」と伝え、扱える手続きを一枚にまとめて渡しておく。次の依頼が来る確率が変わります。
話す場を増やしていきたい方は、共催のセミナーという道もあります。集客を相手に持ってもらえるので、名簿のない開業直後でも開ける形です。進め方は行政書士のセミナー集客で詳しく扱っています。
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4. 経路3:Web経由の「今すぐ客」を受ける
3つ目は、検索から来る人です。行政書士の強みは、この経路がはっきり存在することにあります。困った人が自分から探しに来てくれるからです。
4.1 検索から来る人は、営業しなくても決まっている
「建設業許可 新宿 費用」と調べている社長は、頼むかどうかをすでに決めています。あとは誰に頼むかを選ぶだけ。ここに説得は要りません。
必要なのは、選ぶための材料を置いておくことです。料金、日数、対応地域、扱ってきた困りごと。この4つが見えれば、そのまま連絡が来ます。受け皿の整え方は行政書士のホームページ集客、狙う言葉の決め方は行政書士のWeb集客で扱っています。
4.2 会う前の準備で、ほとんど決まる
問い合わせが来てから受任するまでの間に、やっておきたいことがあるのです。相手の状況を先に調べておくことです。
建設業の相談なら、会社の登記情報や許可の有無をあらかじめ確認しておく。相続なら、聞かれそうな点を整理しておく。準備した状態で会うと、最初の10分で話が進みます。面談の成否は、会う前の準備でほとんど決まります。
4.3 個別相談は、売り込む場ではない
面談の場でやることは、提案ではありません。まず、相手の事情を聞くこと。次に、要件を満たすかどうかを一緒に確かめること。そのうえで、進め方と費用と日数を示すこと。
断る勇気も持っておきましょう。要件を満たさない案件、期限に間に合わない案件、報酬に見合わない案件。無理に受けると、あとで自分も相手も困ります。「今回はお引き受けできませんが、こうすれば道が開けます」と伝えた相手が、半年後に戻ってくることもあるのです。
費用の伝え方にも順番があります。先に金額を出すと高く感じられるので、何をどこまでやるかを示してから金額を置く。「役所への往復も、書類集めも、こちらで引き受けます」と伝わっていれば、同じ金額でも受け取り方が変わります。
5. 経路4:受任した先を、次の依頼につなげる
最後の経路が、いちばん見落とされます。すでに依頼してくれた人からの、2件目です。行政書士の仕事は単発で終わりやすいので、ここを設計すると経営が安定します。
5.1 更新の期限を一覧にする
建設業許可の更新、決算変更届、在留期間の更新、産廃の許可更新。扱う手続きの多くには期限があります。この性質が、そのまま営業の道具になるのです。
やることは単純で、受任した案件の期限を一覧にしておくだけ。数か月前に自分から連絡すれば、相手にとっては「忘れずに教えてくれる人」になります。単発の許認可が、期限のたびに戻ってくる関係に変わります。届出をまとめて引き受ける形にすれば、毎年の収入として見込めるようになるでしょう。
5.2 単価の線を、最初に決める
独立を考える方から、収入の相談をよく受けます。ここで効いてくるのが、1件あたりの単価です。安い手続きを数でこなす道を選ぶと、時間が埋まったところで頭打ちになります。
逆に、単価の高い分野で経路を持てば、件数が少なくても成り立ちます。専門を絞る意味は、ここにも出てくるわけです。単価を上げる考え方は行政書士の専門特化|単価10万の領域7選、収入の設計は行政書士で年収1000万円を達成する3ステップで詳しく解説しています。
5.3 相手の側から声がかかる状態をつくる
丁寧に仕事をした相手は、次の場面でも思い出してくれます。相続を終えた方が遺言を考えるとき、許可を取った会社が新しい営業所を出すとき。そこで最初に浮かぶ名前になれるかどうかです。
そのために必要なのは、手続きが終わったあとに関係を切らないこと。年に一度の便りでも、制度が変わったときの短い連絡でも構いません。実際に独立後の仕事を積み上げた行政書士の話は行政書士の成功事例インタビューで読めますし、開業までの流れは行政書士として独立開業するにはにまとまっています。
連絡の口実は、こちらで作れます。制度が変わった、様式が新しくなった、期限が近づいた。行政書士の仕事には、自然なきっかけがいくつも埋まっています。
6. まとめ:行政書士の営業は「経路づくり」から
行政書士の営業を、4つの経路でお伝えしました。
- 経路1:紹介元は同業ではなく隣の業界。渡すのは「どんなときに声をかけるか」
- 経路2:開業直後でも立てる公の場がある。その場では売らない
- 経路3:検索から来る人には説得が要らない。会う前の準備で決まる
- 経路4:更新の期限を一覧にし、終わったあとも関係を切らない
独立開業の直後は、何をしても手応えがない時期が続きます。それでも、4つの経路を少しずつ太くしていけば、ある時期から依頼のほうが向こうから来るようになる。売り込まなくても、経路があれば仕事は流れてきます。全体の組み立ては行政書士の集客方法8選にまとめました。
明日から手をつけるなら、この3つからどうぞ。
- 自分の専門分野の「隣にいる業界」を3つ書き出し、会える人を1人ずつ探す
- 「どんなときに声をかけてほしいか」を、相手に渡せる一文にする
- 受任済みの案件の更新期限を一覧にして、直近3件に連絡する日を決める