専門家派遣は「実績のある人が登録する制度」だと思われています。ところが制度の中身を読むと、実務経験が足りない人のための代替ルートが、わざわざ公式に用意されています。つまり実績ゼロは、専門家派遣の入口で失格になる理由にはならないのです。
この記事では、独立したばかりの士業・コンサルタント・講師・コーチが、公的な専門家派遣の仕組みを使って最初の案件3件を取るまでの流れを、5つの手順に分けて解説します。窓口の選び方、実績ゼロで登録要件を越える方法、選ばれるプロフィールの書き方、実質の営業先はどこなのか、そして3件を本業の顧客につなげる設計までを順番に扱います。
志師塾は、士業・コンサルタント・講師・コーチといった「先生」と呼ばれる仕事の方を専門に支援してきたビジネススクールです。これまでに3,200名を超える先生業の方を支援し、独立直後の受注の作り方を数多く見てきました。本文では中小企業庁・経済産業省などの公的機関が公開しているデータと、志師塾の卒業生が実際に歩んだ道筋の両方を使って説明します。
ただし、公的な派遣は3回前後で必ず終わります。3件を取ったあとに何が手元に残るかは、入る前の設計で決まります。
自分の経験を、企業の課題の言葉に翻訳して選ばれる方法が分かります。
1. 専門家派遣とは何か|実績ゼロの先生業にこそ入口がある理由

専門家派遣とは、公的機関が中小企業の相談に専門家を派遣し、その謝金の全額または一部を公費で負担する支援制度です。企業は低額または無料で専門家に相談でき、専門家は公的機関から謝金を受け取ります。
独立直後の先生業にとって、この制度の価値は謝金ではありません。価値は3つあります。生の相談事例が手に入ること、「公的機関の登録専門家」という肩書きが持てること、そして顧客の声を集められることです。この3つは、独立初期にいちばん足りないものです。
1.1 専門家派遣の窓口は1つではなく5層ある
多くの人が最初につまずくのは、ここです。「専門家派遣」で検索すると国の制度が出てきますが、実際の窓口は階層が分かれています。どこか1つに登録すれば全国の案件が回ってくる、という仕組みではありません。
| 窓口の層 | 特徴 | 実績ゼロの通りやすさ |
|---|---|---|
| 国の専門家派遣(中小企業庁のミラサポplus等) | 企業側は年数回まで無料で利用できる | 資格があれば可。経験のみだと年数の壁あり |
| よろず支援拠点 | 都道府県ごとにコーディネーターを公募 | 選考制。実務経験を重視されやすい |
| 商工会議所・商工会 | エキスパートバンク等。会議所ごとに別制度 | 地域差が大きい。開いている年度を狙う |
| 都道府県・市の公社/産業振興財団 | 事業ごとに登録専門家を募集 | 年度単位の募集が多く、入口になりやすい |
| 県の商工会連合会 | 経営指導員の相談に同行する形が多い | 資格取得直後に登録できる例もある |
5層のどこから入るかで、必要な書類も、声がかかるまでの期間も変わります。最初にやるべきは登録書類を書くことではなく、「自分が通りやすい層を選ぶこと」です。
1.2 専門家派遣の謝金と回数を数字で押さえる
金額と回数の感覚を先に持っておきましょう。たとえば公益財団法人東京都中小企業振興公社の専門家派遣事業では、派遣1回あたりの費用が23,500円で、そのうち企業の負担は11,750円と公開されています(2026年10月時点の公開情報)。大阪商工会議所のエキスパート派遣は、同一企業への派遣が最長5回までという設計です。
また、中小企業庁が運営する中小企業向け支援情報サイトミラサポplusの専門家派遣では、企業が無料で利用できる回数が年3回まで(事業承継などのテーマでは年5回まで)とされています。
ここから分かることが2つあります。1つは1回あたりの謝金は2万円前後が相場で、民間のコンサルティング単価より明らかに低いこと。もう1つは、公的支援は「1社あたり3回前後」で必ず終わる設計になっていることです。
だからこの記事のゴールは「案件3件」なのです。3件は、公的支援の標準的な1サイクルとほぼ同じ分量です。3件で食べていこうとすると失敗します。3件で「次につながる材料」を取りに行くと成功します。
1.3 専門家派遣を「稼ぐ場所」と考えると必ず行き詰まる
謝金2万円の仕事は、移動と準備を含めれば半日が消えます。これを月に数件こなしても、事業として自立しません。公的案件だけで何年も走った結果、単価が上げられなくなるという相談は、志師塾にもよく届きます。
志師塾では、理想の見込み客を「小人(こびと)さん」と呼び、誰の、どの痛みを解決する専門家になるのかを先に決めることを教えています。専門家派遣は、その小人さんが本当に存在するか、本当にお金を払うほど困っているかを確かめる仮説検証の場として使うのがいちばん効率が良いのです。
机の上で100点の商品を作ろうとしても、小人さんの頭の中にしか答えはありません。30点でも早く持って行き、生の反応で直す。この高速PDCAサイクルを回す相手を、公費で用意してもらえる制度だと捉え直してください。
2. 手順1:専門家派遣の窓口を選ぶ|開いている窓口の見分け方

手順1でやることは「自分が今年エントリーできる窓口を3つ見つけること」です。登録書類を書き始めるのは、この後です。
2.1 国の制度名から入らず、地元の支援機関から当たる
専門家派遣の制度は、国の事業名が数年単位で切り替わります。制度名で検索して出てきたページが現役かどうかを素人が判断するのは難しく、終了した事業の情報に時間を使ってしまうことがよくあります。
そこで順番を変えます。制度名ではなく、地元の支援機関から当たるのです。具体的には、(1)住んでいる市区の商工会議所・商工会、(2)都道府県の中小企業支援センター(公社・産業振興財団)、(3)都道府県のよろず支援拠点、の3つに当たります。この3つは地域に必ず存在し、国の事業が切り替わっても窓口自体は残ります。
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営するJ-Net21の支援情報ページには、各地の支援機関が出している登録専門家の募集案内が随時掲載されています。地域名と「登録専門家 募集」「専門家登録 申請」で探すと、現役の募集に行き当たりやすくなります。
2.2 専門家派遣の募集は「開いている年度」がある
見落としがちな事実があります。窓口は常に開いているわけではありません。登録専門家が足りている年度は新規受付を止める機関があり、実際に大阪商工会議所のエキスパート派遣は、新規のエキスパート登録の受付を停止している状態が続いています。
一方で、神戸市産業振興財団のように年度ごとの専門家登録申請を公募している機関もあります。つまり、「開いている窓口を見つけること自体が、この手順の実力」です。1つ断られても制度に向いていないわけではなく、隣の機関では募集中ということが普通に起こります。
2.3 募集時期は年度の切り替わりに集中する
多くの機関は、翌年度の登録専門家を1月〜3月に募集し、4月から名簿を動かします。ここを逃すと1年待ちになる機関もあります。1月になったら地元3機関のサイトを週1回見る、とカレンダーに入れておくだけで取りこぼしが減ります。
加えて、年度途中でも「この分野の専門家が足りない」という理由で追加募集が出ることがあります。追加募集は告知が小さいので、次の手順で説明する担当者との関係があるかどうかで、情報が届くかどうかが変わります。
2.4 窓口選びで見るべき4つの条件
複数の窓口が開いていた場合は、次の4点で比べてください。
- 登録要件:実務経験年数が必須か、資格で代替できるか
- 案件のテーマ:自分が解決したい痛みと近いテーマの派遣が多いか
- 派遣の形式:単独で訪問するのか、経営指導員に同行する形か(同行型は実績ゼロでも入りやすい)
- 回数の上限:1社あたり何回まで関われるか
このうち、独立直後にまず見てほしいのは同行型があるかどうかです。同行型は、相談の進め方を現場で学べるうえ、担当者があなたの仕事ぶりを直接見ます。次の派遣で名前が挙がる確率が、単独訪問より上がります。
3. 手順2:実績ゼロで専門家派遣の登録要件を越える2つのルート

手順2は、登録要件の「実務経験」という壁をどう越えるかです。ここで諦める人がいちばん多いのですが、越え方は制度側に用意されています。
3.1 資格ルート:公的資格で経験年数を代替する
1つめは資格ルートです。国の専門家派遣の登録要件では、中小企業診断士、税理士、公認会計士、弁護士、社会保険労務士などの資格保有者について、経験年数の要件とは別枠で該当しうる取り扱いが示されています(詳細は中小企業庁のミラサポplus・専門家登録に関するFAQを確認してください)。
実務経験のみで申請する場合は「中小企業支援の経験10年」のような長い年数が求められるのに、資格があればそこを問われない。資格を取ったばかりで仕事がない人ほど、このルートの恩恵が大きいわけです。資格を「取っただけで食えない」と嘆く前に、資格が鍵として機能する扉を探してください。
3.2 研修代替ルート:研修と試験で実務経験の不足を埋める
2つめは研修代替ルートです。専門家派遣そのものではありませんが、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の認定基準では、中小企業支援の実務経験が不足している場合に、中小企業大学校等の研修を修了し判定試験に合格することで要件を満たす扱いが明記されています(経済産業省 関東経済産業局が公開する認定基準を参照)。
認定支援機関になると、補助金申請の確認書を出す立場になり、支援機関の名簿にも載ります。「実務経験がないから何もできない」ではなく、「実務経験の代わりに公的な研修を受ける道が制度上ある」のです。これは、専門家派遣の登録でも通用する信頼材料になります。
3.3 経験ゼロではなく「棚卸しが終わっていない」だけ
要件の話とは別に、心理的な壁もあります。「書ける実績がない」という壁です。志師塾の講座で最初にやるのは、3万字規模の自己棚卸しです。会社員時代に担当した仕事、改善した業務、助けた相手、失敗から学んだこと。これを全部書き出すと、ほとんどの人は「支援できることが無い」のではなく「言語化が終わっていない」だけだと分かります。
自分に大きな失敗の経験がなければ、身近な人の困りごとを原点にしてもかまいません。幼なじみが相続でもめて家族が離散した。その光景が忘れられないから、相続で苦しむ人を減らしたい。こうした原点は、あなたの専門分野を選ぶ理由として十分に機能します。
3.4 背伸びして受けて、受けてから追いつく
志師塾では「腕に自信がないのに案件を取ってよいのか」という質問を何度も受けます。答えは、背伸びして受けてよいです。受けたらその分野の本を10冊読む。10冊読めば、少なくとも相談相手より詳しくなります。あとは成果を出すために必死に動く。背伸びしている期間に、足腰が強くなります。
志師塾代表の五十嵐も、独立時にWebマーケティングのコンサルタントと打ち出しましたが、当時はSEOという言葉すら知らなかったところから始めています。準備が完了してから動く人より、動きながら整える人のほうが早く仕事になります。
4. 手順3:専門家派遣で選ばれるプロフィールの書き方

手順3は書類です。専門家派遣の登録では専門分野を記入した1枚のプロフィールを出すことになり、企業への紹介時にもこの1枚が使われます。つまりこの紙が、あなたの営業資料です。
4.1 専門分野は「資格の言葉」でなく「企業の課題の言葉」で書く
落ちる書き方と通る書き方は、はっきり分かれます。
| よくある書き方 | 選ばれる書き方 |
|---|---|
| 人事労務全般に対応します | 従業員50名前後の製造業で、採用した人がすぐ辞めてしまう状態を、評価制度の作り直しで改善します |
| 経営改善、販路開拓、IT活用 | 注文が電話とFAXで属人化している小売店の、受注の流れを見える化します |
| 誠実に対応いたします | 初回訪問で現状を図に書き出し、翌週に優先順位を1枚で提出します |
支援機関の担当者は、相談してきた企業の困りごとを聞いた直後に名簿を見ます。そのとき頭にあるのは資格名ではなく「この社長が今言っていた言葉」です。企業の課題の言葉で書いておけば、その瞬間にあなたの名前が浮かびます。
4.2 小人さんを決めないとプロフィールは必ずぼやける
課題の言葉で書くには、先に相手を決める必要があります。志師塾でいう小人さん、つまり理想の見込み客です。業種、規模、役職、抱えている痛み、口にしている言葉まで具体化します。
法人向けだから個人像が描けない、という方がいますが、法人という人はいません。意思決定するのは、中小企業なら社長、研修なら人事部長という個人です。その個人の悩みをえぐり出してください。
絞るのが怖いという気持ちは誰にもあります。それでも絞らなければ選ばれません。一点に集中して勝ってから、全面展開すればよいのです。
4.3 実績ゼロのビフォーアフターは「約束」として書く
プロフィールに成果事例の欄があると、実績ゼロの人は手が止まります。ここでの考え方はシンプルです。実績の記載は、過去の報告ではなくお客様との約束だと捉えてください。
あなたはその悩みを、どういう状態にして差し上げるのか。何を、いつまでに、どこまで。約束できなければ、誰も相談に来ません。過去の数字がないなら、提供する手順と到達点を書き切る。これだけで書類は埋まります。
4.4 標準パッケージを先に作ると書類が強くなる
もう1つ効くのが、支援の標準手順を1枚にしておくことです。「コンサルティングは案件ごとに違うから標準化できない」と言う方は多いのですが、標準がないと、相手は何が標準で何が追加なのか判断できません。
初回で何を見て、2回目で何を決めて、3回目で何を残すのか。この3回分の設計を先に書いておくと、専門家派遣の回数上限とぴったり噛み合います。実際にカスタマイズするのは当然ですが、標準を先に示すほうが主導権を保てます。
プロフィールと標準パッケージができたら、次は「誰に見せるか」です。ここが専門家派遣でいちばん誤解されている部分です。
なお、書類の完成度を上げる前に押さえておきたい受注の全体像については、志師塾の資料『先生業の顧客獲得を成功させる7つの能力』でも7つの能力の整理として公開しています。
5. 手順4:専門家派遣の実質の営業先は支援機関の担当者

手順4が、この記事でもっとも伝えたいところです。専門家派遣で、あなたを選ぶのは企業ではなく、支援機関の担当者です。
5.1 案件が決まる本当の順番
流れを分解すると、こうなっています。
- 企業が支援機関の窓口に相談する
- 経営指導員やコーディネーターによる聞き取り
- 担当者が登録名簿から候補を1〜3名挙げる
- 企業が候補の中から選ぶ、または担当者の推薦で決まる
- 派遣が決定し、ようやく専門家に連絡が来る
決定的なのは3番です。候補に挙がらなければ、企業はあなたの存在を知ることさえありません。登録したのに声がかからないという人の多くは、名簿に載っているだけで、担当者の記憶に載っていないのです。
5.2 「紹介を出すチャンスを狙う」という発想に切り替える
では担当者とどう関係を作るか。ここで役立つのが、志師塾が紹介について教えている発想です。
生命保険業界で年収1億円規模の成績を出し続けるトップ層に「どうやって紹介を増やすのか」を聞くと、返ってくる答えは「紹介を出すチャンスを常に狙っている」です。普通の人は逆で、紹介をもらうチャンスを狙っています。貢献する側に回る人のところに、結果として紹介が集まります。
支援機関の担当者に対しても同じです。担当者は、企業の課題に合う専門家を探すのが仕事で、常に手札が足りていません。だからあなたが「自分では解決できないが、知り合いの専門家なら解決できる」案件を担当者に渡せる存在になれば、立場が変わります。情報をもらう相手から、情報を交換する相手になるのです。
5.3 担当者に覚えてもらう3つの接点
具体的な動き方は、次の3つに絞ってかまいません。
- 登録後の挨拶訪問:書類を出して終わりにせず、担当部署に顔を出す。プロフィール1枚と標準パッケージ1枚を持参し、「どんな相談が多いですか」を聞いて帰る
- セミナー・相談会への参加と協力:支援機関は年間で多数のセミナーを開催しています。講師が足りない枠は常にあり、小さな枠でも引き受けると一気に覚えられます
- 派遣後の報告を丁寧に出す:報告書を期限内に、読みやすく出す。これができない専門家が一定数いるため、きちんと出すだけで次の候補に入ります
この3つは、どれも売り込みではありません。志師塾では、集客や営業を売り込みだと捉えている人に考えを改めてもらいます。やるのは情報提供であり、その結果として相手が動くのです。
5.4 断られる理由を先に潰しておく
担当者も企業も、あなたを選ばない理由を持っています。志師塾では、断られる理由を「なぜ買うのか/なぜあなたから買うのか/なぜ今買うのか」の3分類で洗い出して、先に潰すことを教えています。専門家派遣に当てはめると、こうなります。
| 分類 | 担当者の心の声 | 先回りの手 |
|---|---|---|
| なぜ必要か | この相談は専門家を出すほどか | 典型的な相談の「放置すると何が起きるか」を事例で伝えておく |
| なぜあなたか | ベテランに出すほうが安全では | 対応テーマを狭く深く示す。同行型から入り、仕事ぶりを見てもらう |
| なぜ今か | 次の機会でもよい | 受けられる枠と時期を具体的に伝える(月に受けられる件数を明示) |
とくに2つめの「なぜあなたか」は、実績ゼロの人が必ずぶつかります。ここで効くのが、他者と比べられない狭い専門テーマです。幅広く対応できますという言い方は、担当者には「決め手がない人」に見えます。
ここまでの手順は、公的な派遣に限った話ではありません。民間企業に直接提案して契約を取る流れも、相手と入口が違うだけで考え方は同じです。法人を相手に単価を上げていく設計はコーチが法人契約を取る7手順の記事でも解説しています。
とはいえ、ここまで読んで「担当者に会いに行く前に、自分の説明がこれで通るのか自信がない」と感じた方もいるはずです。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、専門性をどう言い換えれば相手の頭に残るのかを、先生業の実例で解説しています。
6. 手順5:専門家派遣の3件を本業の顧客につなげる設計

手順5は出口の設計です。専門家派遣は必ず終わります。年3回、最長5回という上限は、制度の側で決まっています。終わった後にどうなっているかを、入る前に決めておきます。
6.1 回数上限が切れた瞬間が本当のスタート
3回の派遣が終わるとき、企業には必ず「続きをどうするか」という状態が生まれます。課題は見えたが、手を動かす人がいない。ここが、あなたの本業の商品が必要になる瞬間です。
だから初回訪問の時点で、3回で終える範囲と、その先に残る範囲を分けて伝えます。「3回で現状の見える化と優先順位づけまで。その先の実行は別の形になります」と最初に言っておく。これをやらずに3回で全部やろうとすると、感謝はされますが次がありません。
6.2 教えたがり病に気をつける
志師塾では、先生業がかかりやすい病気を「教えたがり病」と呼んでいます。良い話、役に立つ話をどんどんしてしまう病気です。その結果どうなるか。「先生、ありがとうございます。一度自分でやってみます」と言われて、そこで関係が終わります。
対策は、情報の総量を減らすことではなく、比率を変えることです。志師塾では問題提起7割、ノウハウ教育3割の黄金比を教えています。満足度は100点ではなく80点を狙い、「もっと知りたい」を残す。
とくに公的派遣では、無料で相談できる場だからこそ全部出してしまいがちです。全部出すのは親切ではなく、相手の実行を止める行為だと覚えておいてください。相手が自分でやり切れないと分かる瞬間を、きちんと作るほうが支援になります。
6.3 顧客の声を集める段取りを先に入れておく
3件の最大の収穫は、顧客の声です。ところが、終わってから依頼すると集まりません。コツは2つあります。
1つは、始まる前に許諾を取ること。成果が出たら、社名・担当者名・写真と感想を使わせてもらえるかを先に確認します。2つめは、こちらで文章の下書きを渡すこと。相手は文章を書くのが面倒なので、サンプル文を渡せばそのまま、あるいは少し直して返ってきます。
集めた声は、実名と具体的な属性があるほど強く働きます。ここで集めた3件の声が、次の年度の登録書類でも、自分のサイトでも、ずっと効き続けます。
6.4 3件で終わらせず、仮説検証を止めない
3件やってみると、思っていた痛みと実際の痛みがずれていることに気づきます。これが収穫です。志師塾では、机上で考える100時間より、3人の見込み客に直接会うほうが早いと伝えています。
契約に至らなかった相談でも、終わらせません。「今日いただいたご指摘を踏まえて直してきます。もう一度お話を聞いていただけませんか」と戻る。ある卒業生は、高級旅館への提案でこの流れを実行し、3日後に30分のアポを取り直して60万円の研修を受注しました。言われたことを直してすぐ持って行く姿勢そのものが、信頼になります。
なお、3件の支援先同士をつなげたり、学び合う場を作る動きも相性が良い打ち手です。関心があればオンラインサロン・コミュニティ運営の記事も参考になります。
7. 専門家派遣で陥りやすい4つの落とし穴
5手順の全体像が見えたところで、現場でよく起きる失敗も押さえておきましょう。専門家派遣は使い方を間違えると、独立のスピードを落とす側に働きます。
7.1 公的案件の単価に慣れてしまう
1回2万円前後の仕事を続けると、その価格が自分の基準になります。すると民間に提案するときも値づけが下がり、値上げの言葉が出てこなくなります。
志師塾では、高額商品の目安を「小人さんの月給1ヶ月分くらい」と考えます。50万円の商品でも、その結果500万円が手に入るなら高くありません。価値を金額に換算して説明できるかどうかが、値づけの力です。公的案件の謝金は、あなたの商品の価格ではありません。
7.2 自分で集客する力が育たない
派遣案件は、担当者が持って来てくれます。楽ですが、自分で見込み客を集める筋肉はつきません。制度が変わったり、担当者が異動したりすると、仕事がゼロに戻ります。
だから並行して、自分の集客の階段を1段ずつ作ります。志師塾が教える順番は、まず身近な人への声かけと交流会、次にそれをWebに載せる(サイト・ブログ)、その次にメールやLINEで継続的に届ける仕組み、さらに動画や広告へ。全部を同時にやると必ず破綻します。順番を守って1段ずつ上がってください。
7.3 受けてはいけない相手まで受けてしまう
実績が欲しい時期は、誰でも受けたくなります。しかし志師塾では、受けないほうがよい相手の基準を明確に教えています。親や周囲の悪口を言い続ける人、他のコンサルタントの批判ばかりで自分の実行責任を取らない人、こちらの話を聞かず一方的に話し続ける人です。
この3つに当てはまる相手を売上のために受けると、時間も評判も削られます。選別することが、長期的な品質と評判を守ります。
7.4 断られ続ける時期に心が折れないために
登録が通らない、声がかからない、提案が通らない。この時期は必ずあります。志師塾では、独立期のメンタルを守るために「自己評価」という考え方を教えています。
他者からの評価だけで生きていると、成果が出ない時期に心が折れます。そこで、結果ではなく行動で自分を評価する基準を先に決めます。「今月は支援機関3つに挨拶に行く」と決めたら、3つ回れた自分を認める。成約したかどうかは、そのときの相手の事情にも左右されるからです。
起業初期のメンタルは軽視できません。行動の基準を自分で持っている人のほうが、結果として長く続き、長く続いた人が受注します。
8. 実績から専門分野をつくった志師塾卒業生の事例
ここからは、公的な制度の話から少し離れ、「自分の経験を専門分野に組み替えて仕事にした」志師塾卒業生を紹介します。専門家派遣そのものの事例ではありませんが、プロフィールと商品の作り方という点で、手順3・手順5の具体像になります。
8.1 社会福祉士・大澤和子さん|延べ1万件以上の相談経験を商品に組み替えた
新潟県新発田市で社会福祉士事務所SORAを運営する大澤和子さんは、介護施設での約5年の実務経験を経てケアマネージャーの資格を取得し、組織で15年間、介護保険の仕事に携わってきました。施設・組織で働いた期間に積み上げた相談実績は、延べ1万件以上です。
2019年にケアマネージャーとして独立しますが、介護保険制度の枠では高齢者の悩み全体に応えられないもどかしさがありました。そこで志師塾在学中の2023年に社会福祉士事務所を立ち上げ、終活サポートという形で、おひとり様の「認知症になったとき支援する人がいない」「亡くなった後にお墓にどう入るか」「遺言書の書き方が分からない」といった相談に応える事業を始めています。
注目したいのは、ゼロから新しい専門性を獲得したわけではない点です。1万件の相談経験という素材は元からあり、それを介護保険の外側まで広げた商品に組み替えた。実績の棚卸しが、商品設計に直結した例です。
8.2 社会保険労務士・塚元雄平さん|課題の言葉で商品名を決めた
ネクストステップ社会保険労務士事務所の塚元雄平さんは、社会保険労務士試験に10回挑戦して合格し、社労士事務所で実務経験を積んだ後、30代で独立しました。
塚元さんが志師塾で3万字の自己棚卸しに苦労しながら形にした商品は、「人事部立ち上げ支援」です。対象は従業員50人以上で、これから採用したい企業や、採用・定着に課題を抱える企業。評価制度を作り直して離職率を下げ、社会保険料や退職金も整備し、助成金も活用しながら採用につなげる、という流れで支援しています。
この商品名は、まさに手順3で説明した「企業の課題の言葉」になっています。「人事労務に対応します」ではなく「人事部を立ち上げる」。相談を受けた担当者の頭に残る言い方です。
さらに独立前の仕事ぶりを見ていた顧客から「直接、塚元さんにお願いしたい」と声がかかり、グループ企業全体の顧問を任されることになりました。目の前の仕事を丁寧にやることが、独立後の顧客につながったという点も、手順4の報告を丁寧に出す話と重なります。
8.3 (参考)教育事業・大森善郎さん|情報発信を仕組みにして集客を安定させた
別業種の参考例として、大森善郎さんの例も挙げておきます。大森さんは40歳で学習塾を開業し、50歳で通信制高校サポート校の経営を始め、独立から21年間で1,000名以上の生徒を支援してきました。
掲げているキャッチコピーは「日本一アットホームな教室で、不登校の高校生を笑顔に導き、高校資格を取るまで徹底サポート」。3つの教室でInstagramを平日毎日更新し、5~6年以上継続。YouTube、TikTok、ブログ、複数のサイトと、情報発信を仕組みとして回しています。
公的な派遣に頼らず自力で集客を安定させている例として、落とし穴7.2の裏返しになっています。
3名に共通しているのは、自分の経験を相手の課題の言葉に翻訳できたことです。あなたが今持っている経験も、翻訳が済んでいないだけかもしれません。その翻訳のやり方を順番立てて学べるのが、志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーです。
9. 専門家派遣についてよくある質問
9.1 資格がなくても専門家派遣に登録できますか
できる場合があります。ただし資格がない場合は実務経験の年数で判断されるため、要件が厳しくなりがちです。資格以外の道としては、認定支援機関の認定基準にあるような研修と判定試験で要件を補うルートや、経営指導員への同行型から入るルートを検討してください。要件は機関と年度で異なるので、必ず最新の募集要領で確認します。
9.2 専門家派遣の謝金はいくらですか
機関と年度で異なります。公開情報の例では、東京都中小企業振興公社の専門家派遣は1回23,500円(企業負担11,750円)、大阪商工会議所のエキスパート派遣は1回21,000円(経費込み)とされています。おおむね1回2万円前後が目安です。民間単価より低いことを前提に、実績と事例づくりの場として位置づけるのが現実的です。
9.3 登録したのに声がかからないのはなぜですか
多くの場合、名簿に載っているだけで担当者の記憶に載っていないからです。専門家派遣では、企業が名簿をながめる前に、担当者が候補を挙げます。登録後の挨拶訪問、セミナー講師の協力、報告書を期限内に丁寧に出すこと。この3つで候補に入る確率が変わります。
9.4 専門分野は複数書いたほうが有利ですか
不利になりやすいです。幅広く書くと「決め手がない人」に見え、同じ名簿にいるベテランと比較されたときに選ばれません。狭く深く1つを立て、その領域の相談なら必ず名前が挙がる状態を作るほうが早く仕事になります。
9.5 案件3件のあと、どうやって自分の顧客にすればよいですか
派遣の初回で、3回で終える範囲とその先に残る範囲を分けて伝えておくことです。全部やってしまうと「自分でやってみます」で終わります。問題を見える化するところまでを公的支援の範囲とし、実行の伴走は自分の商品として設計しておきましょう。
10. まとめ:専門家派遣で案件3件を取る5手順
実績ゼロから専門家派遣で案件3件を取るまでの手順を、もう一度整理します。
- 窓口を選ぶ:国の制度名から入らず、地元の商工会議所・公社・よろず支援拠点の3つを当たり、開いている窓口を探す
- 登録要件を越える:資格ルートか、研修で実務経験を代替するルートを使う。自己棚卸しで「書ける経験」を掘り出す
- プロフィールを作る:資格の言葉ではなく企業の課題の言葉で書き、標準パッケージを先に1枚にする
- 担当者と関係を作る:実質の営業先は企業ではなく支援機関の担当者。紹介を出す側に回り、断られる理由を先に潰す
- 3件を本業につなげる:回数上限を前提に範囲を切り、教えたがり病を避け、顧客の声を仕組みで集める
公的な専門家派遣は、稼ぐ場所ではありません。名乗れる実績と、生の相談事例と、顧客の声を仕入れる場所です。3件終わったあとに何を持っているかを決めてから入るかどうかで、結果は真逆になります。
そして3件のあとに必要になるのは、自分の力で見込み客を集め、自分の商品で契約する力です。ここが決まっていないと、制度が変わった瞬間に仕事がゼロに戻ります。
公費の3件を、自分の顧客に変える
3件で得た相談事例を、自分の商品に変えるのが次の一歩です。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、専門分野の決め方と伝え方を先生業の事例で解説しています。(参加費は無料です)
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この記事について
この記事は、先生業専門のビジネススクール『志師塾』が執筆・監修しています。志師塾は、士業・コンサルタント・講師・コーチといった先生業の方を専門に、これまで3,200名を超える受講生を支援してきました。卒業生コミュニティでは、独立初期の受注づくりから顧問契約の拡大まで、実践の知見が日々共有されています。