「コーチング 法人契約」で検索すると、上位に並ぶのは契約書のひな形と、弁護士による解説記事ばかりです。けれど、コーチが法人契約を取れずにいる本当の理由は、契約書の書き方ではありません。企業がどうやってコーチングを買うのか、その買い方を知らないからです。
この記事では、コーチが法人契約を取るための7つの手順を、企業側の購買プロセスから逆算して解説します。あわせて、個人向けの単価のまま法人へ提案してしまう失敗を避け、単価を3倍に設計し直すための考え方も扱います。
志師塾は、コーチ・コンサルタント・士業・講師といった先生業に特化したビジネススクールとして、これまでに3,200名を超える方の顧客獲得を支援してきました(2026年8月時点)。その中には、個人向けセッションだけだった状態から、企業との顧問契約や研修契約へ移行したコーチが何人もいます。本記事では、支援の現場で繰り返し確認されてきた型に、厚生労働省や中小企業庁の統計、民間シンクタンクの調査データを重ねて整理します。
読み終えるころには、「次に誰へ、何を持って、どんな順番で会いに行けばいいのか」が具体的に決まっているはずです。まずは、多くのコーチが法人契約でつまずく3つの理由から見ていきます。
1. コーチが法人契約を取れない3つの理由

コーチの法人契約とは、企業と直接結ぶコーチングサービスの契約のことです。個人クライアントとの契約と決定的に違うのは、お金を出す人・導入を決める人・実際にセッションを受ける人が、それぞれ別人になる点にあります。ここを理解しないまま個人向けと同じ売り方をすると、コーチングの腕をどれだけ磨いても受注には届きません。
1.1 企業は「良いコーチ」を探しているわけではない
法人営業でよくある勘違いが、「自分の実力が伝われば選ばれる」という思い込みです。しかし企業の担当者が探しているのは、腕のいいコーチではありません。社内で説明できる解決策です。
「このコーチは傾聴力が高い」「国際資格を持っている」では、稟議は通りません。担当者が上司に説明するときに必要なのは、「管理職の1on1が形骸化していて若手の離職が続いている。この施策で半年後にこう変える」という筋書きです。
志師塾ではこれを「選ばれる理由(キラーコンテンツ)」と呼んでいます。資格名や手法名をそのまま名乗っている状態は、相手から見れば「他の先生でもいいや」と言われる状態と同じです。コーチング資格を持つ人は年々増えていますから、資格名は差別化にならないと考えたほうが現実的でしょう。
1.2 「1時間いくら」で売っている限り、コーチの単価は上がらない
個人向けのセッションは、1回◯◯円、月◯回という時間単位の値付けが一般的です。この発想のまま法人へ提案すると、見積書は「セッション単価×人数×回数」という掛け算にしかなりません。
掛け算のままだと、企業側は必ず「回数を減らせませんか」「人数を絞れませんか」と削りにきます。時間を売っている限り、値引き交渉は時間の削減としてしか着地しないのです。
志師塾では、営業時間や資料作成の時間まで含めた正味の時給を「ガチ時給」と呼んでいます。提案書づくりに10時間かけて30万円の契約を取っても、セッション実施が20時間なら、ガチ時給は1万円です。法人契約は個人契約より手間がかかるぶん、単価の設計をやり直さないと、忙しくなるだけで手残りが増えません。
1.3 契約書より先に「稟議」という関門がある
冒頭で触れたとおり、「法人契約」というキーワードで出てくる情報のほとんどは契約書に関するものです。しかし契約書は、社内の合意が終わったあとの事務手続きにすぎません。
企業がコーチングを導入するまでには、担当者が課題を認識し、社内で予算を確保し、比較検討の材料を揃え、決裁者の承認を得る、という工程があります。コーチが勝負すべきなのは、この工程の入口です。
ここを飛ばして「まずは体験セッションを」と提案しても、担当者は個人的に感動するだけで終わります。感動と稟議は別物です。志師塾のメルマガでも「ありがとうと感謝されたけれども、結局契約に至らなかった」という失敗パターンが繰り返し指摘されています。
2. コーチの法人契約が単価3倍になる仕組み

単価3倍という数字は、値札を3倍に書き換えることではありません。売る単位を「1時間」から「組織の課題」に変えると、結果として単価がそのくらいの幅で動く、という話です。ここでは、その仕組みを分解します。
2.1 コーチの個人契約と法人契約では、値札の単位が違う
コーチングスクールや人材開発支援を手がける事業者が公表している相場感を並べると、おおよそ次のような差があります。いずれも公的統計ではなく各社が示している推計ですから、幅のある目安として見てください。
| 項目 | 個人向けコーチング | 法人向けコーチング |
|---|---|---|
| 1セッション単価 | 5,000円〜30,000円程度 | 30,000円〜100,000円程度 |
| 契約期間 | 3ヶ月〜6ヶ月が中心 | 6ヶ月〜年間契約が中心 |
| 契約の単位 | 1人・1回 | 対象者層・プロジェクト |
| 支払いの判断者 | 受ける本人 | 人事責任者・経営者 |
注目したいのは単価の数字そのものではなく、契約の単位が「1人・1回」から「対象者層・プロジェクト」へ変わっていることです。単価差は、この単位の違いから生まれています。
2.2 企業の教育投資は一人あたり年1.5万円しかない
ここで、企業側の財布の実態を確認しておきます。厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」(令和5年度の実績を調査したもの)によると、企業がOFF-JT(通常の業務を離れて行う教育訓練)に支出した費用は労働者一人あたり年間1.5万円でした。さらに、OFF-JTまたは自己啓発支援に費用を支出した企業は54.9%。裏を返せば、4割以上の企業は、教育訓練にまったくお金を使っていないことになります。
一人あたり1.5万円という数字を前にすると、「全社員向けのコーチング研修」という提案がいかに無謀かが分かります。100人の会社なら年間150万円が教育予算の相場で、そこには既存の階層別研修もコンプライアンス研修も入っているからです。
だからこそ逆に、対象を経営者・役員・管理職に絞るほど、一人あたりの単価は跳ね上がります。役員1名に半年で100万円を投じる判断は、全社員一律の研修より通りやすい。理由は簡単で、経営に効く金額が読めるからです。
2.3 教育予算ではなく「すでに動いている原資」を見る
教育予算が薄いなら、別の財布を見ればいい。ここが法人開拓の発想の転換点です。
厚生労働省の令和5年「雇用動向調査」によると、常用労働者の離職率は15.4%でした。単純計算で、100人の会社なら年間15人が辞めている計算になります。そのぶん採用広告を出し、人材紹介会社にフィーを払い、入社後の教育をやり直している。ここにはすでに、まとまった金額が毎年動いています。
志師塾が法人開拓で繰り返し伝えているのが、「お客さんが、すでに払っているお金(=原資)に乗っかる」という鉄則です。ゼロから「コーチングに払う予算」を作ってもらうのは大仕事ですが、採用費・定着施策・管理職育成といった既存の費目の一部を振り向けてもらうのなら、社内の説明も通りやすくなります。
提案するときは、こう聞けば十分です。「昨年、若手の採用と入れ替わりに、どのくらいの費用がかかりましたか」。この一言で、相手の頭の中の財布が教育費から採用費へ切り替わります。
2.4 高額商品の3条件を、コーチの法人契約に当てはめる
志師塾では、高額商品が成立する条件を3つで整理しています。
- 強いニーズ・悩みが存在する(「なんとなくあればいい」程度では高額化できない)
- 高額を支払う能力がある(支払余力のない相手を狙っても高単価にはならない)
- 競合に勝てる分野である(比較されたときに選ばれる理由がある)
コーチの法人契約が伸び悩むとき、多くは1つ目でつまずいています。「社員の成長を支援したい」は正しい志ですが、企業にとってはいつやってもいい課題です。いつやってもいい課題に、高い金額はつきません。
一方、「来月から新任管理職が12名配属されるが、現場に教える人がいない」「昨年度の若手離職が8名出た」といった課題には、「今、動く理由」があります。強いニーズと原資、この2つが揃った瞬間に、はじめて高額商品の話ができるようになります。
3. コーチが法人契約を取る7手順の全体像

ここからが本題です。コーチが法人契約を取る7手順を、企業の購買プロセスに沿って並べます。まず全体像を押さえてください。
3.1 コーチの法人契約7手順の一覧
| 手順 | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 1 | 売る相手を「決裁者と予算」で決める | 「経営者全般」と広く置いてしまう |
| 2 | 業務特化のドアノック商品をつくる | いきなり顧問契約を提案する |
| 3 | 最初の1社を取りに行く | 実績ゼロで大企業に当たりに行く |
| 4 | コーチングの言葉を企業の言葉に訳す | 手法の説明に終始する |
| 5 | 稟議が通る提案書を用意する | 口頭の提案で終わらせる |
| 6 | 単価を3倍に設計し直す | 1社目の安い価格が固定される |
| 7 | 点の受注を面の受注に変える | 毎年ゼロから新規を探し続ける |
3.2 順番を飛ばすと、コーチの法人契約はどこで止まるか
この7手順で多いのは、手順1と2を飛ばして手順3から始めてしまうケースです。誰に何を売るか決まらないまま交流会や商談に出ていくと、名刺は増えるのに提案が形にならない状態になります。
止まる場所はだいたい決まっています。名刺交換までは進むのに「今度ぜひ詳しく」で終わる。体験セッションまでは進むのに「社内で検討します」で止まる。どちらも、相手の社内で語れる言葉を渡せていないのが原因です。手順1と2は、その言葉を用意する工程にあたります。
逆に、手順1と2さえ固まっていれば、手順3以降はかなり機械的に進みます。法人開拓が上手い先生業ほど、会う前の設計に時間をかけているというのが、志師塾が支援の現場で見てきた共通点です。
3.3 「創って・売って・作る」の順番でコーチの商品を組み立てる
もう一つ、順番で大事なことがあります。志師塾では商品開発の順序を「創って・売って・作る」と表現しています。
- 創る=誰のどの課題を解決するか、サービスの骨格を決める
- 売る=その骨格のまま提案し、受注できるか検証する
- 作る=受注してから、教材・ワークシート・運用の仕組みを作り込む
売れるかどうか分からない段階で、研修スライドを100枚作り込むのは順番が逆です。売れてから作る。これだけで、法人開拓にかけられる時間が何倍にもなります。
7つの手順を並べてみると、どれも「コーチングの腕を上げる」話ではないことに気づくはずです。決めるのは、誰に・何を持って・どの順番で会いに行くか。ここが定まらないまま名刺交換だけを増やしても、法人契約には届きません。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、この「誰に・何を」を先に固めて、依頼が生まれる導線に落とし込む手順をお伝えしています。
「誰に・何を」が決まらないまま動いている方へ。法人に選ばれる打ち出し方を、先生業の実例で解説しています。
4. 【手順1〜3】コーチが法人契約の入口をつくる3ステップ

最初の3手順は、提案より前の準備にあたります。ここが法人契約の勝敗を分けます。
4.1 手順1:コーチが売る相手を「企業」ではなく「決裁者と予算」で決める
「法人向けにコーチングを提供したい」と言うとき、多くの方は業種や規模でターゲットを考えます。しかし企業は、業種では買いません。買うのは、決裁権と予算を持っている人です。
志師塾ではターゲット設定を「小人(こびと)の設定」と呼んでいます。同じ技術・同じ腕でも、誰のどの悩みに当てるかを変えるだけで単価が何倍にも変わる、という考え方です。実際、箏の演奏家が訴求先を福祉施設の課題に合わせて設定し直したことで、時給800円だったものが1回30万円になった事例があります。腕は一切変えていません。変えたのは小人の設定だけです。
では、その小人をどこに置くか。ここで押さえておきたいのが企業の数の分布です。中小企業庁が毎年公表している中小企業白書が示すとおり、日本の企業の99.7%は中小企業であり、雇用のおよそ7割を担っています。大企業の人材開発部門は競合も多く、選定プロセスも長い。一方、中小のオーナー企業は社長と一度会えれば、その場で導入の可否がほぼ決まります。実績が少ない段階ほど、意思決定の速い側を主戦場にしたほうが結果が出ます。
この前提に立つと、コーチが法人開拓で狙いやすい「小人」は、次の3つに集約されます。
- 従業員100〜300名規模の企業の、人事責任者(外部に頼る必要があり、かつ意思決定が速い)
- 創業10年以上のオーナー社長(相談相手がおらず、経営判断の壁打ち相手を求めている)
- 1on1を導入済みだが回っていない企業の、現場責任者(すでに予算が付いており、立て直しの必要がある)
3つ目が特に有望です。パーソル総合研究所の1on1ミーティングに関する定量調査では、1on1の実施率は55.7%に達する一方で、3人に1人は効果を実感できていないという結果が出ています。またリクルートマネジメントソリューションズの1on1ミーティング導入の実態調査では、従業員3,000名以上の企業で導入率75.7%、100〜699名でも57.7%という数字が示され、課題の上位には「上司の面談スキル不足」「上司の負荷の高まり」が挙がっています。
導入済みで、うまくいっていない企業。ここはコーチにとって、もっとも説明コストが低い見込み客です。ゼロから「コーチングとは何か」を説く必要がなく、すでに動いている施策の立て直しとして提案できるからです。
4.2 手順2:コーチングを前面に出さず、業務特化のドアノック商品をつくる
志師塾が法人開拓で最初に伝えるのは、「いきなり顧問契約を狙わない」という原則です。企業にとって、初対面の相手と継続契約を結ぶのはハードルが高すぎます。
そこで使うのが業務特化戦略とドアノック商品という考え方です。業種ではなく「業務」に特化し、その業務特有の入口商品を用意します。コーチの場合は、こんな形になります。
| よくある打ち出し | 業務特化したドアノック商品 |
|---|---|
| コーチング研修 | 形骸化した1on1を立て直す半日ワークショップ |
| 管理職向けコーチング | 新任管理職の最初の90日を支える面談設計プログラム |
| エグゼクティブコーチング | 後継者が幹部をまとめるまでの6ヶ月伴走 |
| キャリアコーチング | 入社3年以内の離職を止める若手面談の仕組みづくり |
右列に共通しているのは、社長の3大お悩み(ヒト・カネ・売上)のうち「ヒト」に直結していること、そしてすでに予算が動いている領域に乗っていることです。採用費をかけて採った若手が辞めていくなら、その原資はすでに動いています。ゼロから「コーチングに払う予算」を作ってもらう必要がありません。
この「原資に乗っかる」という発想は、補助金や助成金を入口にする法人開拓でも同じです。制度を切り口に企業と接点をつくり、本命の支援につなげていく流れは、補助金を切り口にした法人開拓の7戦略でも具体的に整理しています。
4.3 手順3:コーチが最初の1社を取りに行く3つのルート
実績ゼロから法人契約を取るときは、ルートを選ぶ順番が大事です。おすすめは次の3つです。
ルート1:既存の個人クライアントの勤務先
もっとも近い法人は、すでに目の前にいます。個人セッションを受けている管理職や経営者に、「同じ悩みを抱えている方が社内にいませんか」と聞くところから始まります。本人が効果を実感しているので、社内で推してもらいやすい。このとき大事なのは、いきなり提案書を出さないこと。まずは「社内では今、どの層がいちばん苦しんでいますか」と聞いて、課題を一緒に言語化する側に回ります。
ルート2:研修エージェント・商工会議所・自治体
エージェント経由は単価が抑えられますが、実績と登壇回数を短期間で積めるという利点があります。志師塾の原典でも、研修講師が研修会社経由だと1日5〜10万円のフィーであるのに対し、企業から直接受注できれば1日20万円の水準になる、と整理されています。最初はあえて安いルートで実績を積み、直接受注へ移行する設計にしておくのが現実的です。商工会議所や自治体のセミナーは、参加企業の名簿がそのまま見込み客リストになる点でも価値があります。
ルート3:士業・コンサルタントとの相互紹介
志師塾には「先生業の一番の顧客は隣の先生業」という言葉があります。社労士は人事制度の相談を受けますし、税理士は社長の右腕不在の悩みを聞いています。彼らにとって、信頼して渡せるコーチは貴重な存在です。ただし、初対面でいきなり「紹介してください」と言わないこと。紹介は紹介者にとってリスクだからです。知ってもらい、信頼してもらい、そこで初めて紹介が出ます。
順番としては、ルート1で1社目の事例をつくり、ルート2で場数を踏み、ルート3で継続的な流入をつくる。この並べ方なら、最初の半年の動き方が具体的に決まります。
5. 【手順4〜5】コーチが法人契約を受注する提案の進め方
入口ができたら、次は提案です。ここで多くのコーチが、自分の得意なやり方(対話)に引きずられて失敗します。
5.1 手順4:コーチングの言葉を、企業の言葉に翻訳する
「傾聴」「承認」「アクノレッジメント」「GROWモデル」。これらはコーチ同士では通じますが、人事担当者の稟議書には1行も書けません。書けるのは、次のような言葉です。
| コーチの言葉 | 企業の言葉 |
|---|---|
| 傾聴スキルを高める | 1on1の実施率と部下の納得度を上げる |
| 自己認識を深める | 管理職の意思決定スピードを上げる |
| 目標設定を支援する | 期初に立てた計画の実行率を上げる |
| 心理的安全性をつくる | 入社3年以内の離職を減らす |
ここで使えるのが、志師塾の「間口の強み/奥行きの強み」という考え方です。間口の強みとは、相手が今すぐ解決したい悩みに答えるもの。奥行きの強みとは、本来の専門性です。
コーチにとっての奥行きの強みは、対話を通じた行動変容の支援でしょう。けれど、最初にそれを前に出しても伝わりません。まず間口の強み(離職、1on1、新任管理職の立ち上がり)で入り、信頼を得てから奥行きを提案する。この2段階を意識するだけで、商談の通り方が変わります。
5.2 手順5:コーチが稟議を通せる提案書を、こちらから用意する
法人契約の商談で、あなたが最後に会話する相手は担当者です。しかし決めるのは、その先にいる決裁者です。つまり担当者は、あなたの代わりに社内でプレゼンをする人になります。
ここで志師塾が繰り返し言っているのが、「形になっていないから伝わらない」という一言です。どれだけ良い話をしても、担当者の記憶の中にしか残らなければ、社内では再現されません。だから提案書は、あなたのためではなく担当者が社内で使うために作ります。
稟議で必要になる要素は、おおむね決まっています。
- 現状の課題(数字で書く。離職者数、1on1実施率、管理職の平均在任年数など)
- 対象者と人数(全社員ではなく、誰に絞るか)
- 実施内容とスケジュール(何回、何ヶ月、どの月から)
- 費用(総額と、一人あたり・月あたりの両方を書く)
- 期待される変化(測る指標を先に決める)
- 比較検討の材料(松竹梅の3プラン。他社との比較ではなく、提案の中に選択肢を置く)
1枚目に置くべきは、あなたの自己紹介ではありません。相手の課題を1行で言い切った文です。「新任管理職12名が、着任3ヶ月で部下面談に踏み込めていない」。この1行が担当者の言葉として通用するなら、提案書は社内で独り歩きしてくれます。
最後の比較検討も抜けがちです。企業は1社だけの提案を通しづらいので、こちらから選択肢を3つ出す。志師塾でも松竹梅の価格戦略を導入したことで、単価が1.5倍近く上がりました。人は極端を避けて真ん中を選ぶ傾向があるので、真ん中に本命を置く設計にします。
なお、提案書や研修教材の作成に時間がかかりすぎて営業の時間が取れない、という悩みもよく聞きます。この部分は道具で短縮できる領域なので、研修講師が教材づくりの時間を3分の1にした実践法もあわせて参考にしてください。
5.3 コーチが断られる4つの理由を、提案書で先回りして潰す
志師塾では、断られる理由を4つに整理しています。提案書はこれを潰すために作ります。
- 痛み不足……課題の深刻さが共有できていない。対策=現状を数字と事例で見せる
- 快楽不足……変わった後の姿が見えていない。対策=半年後・1年後の具体像を書く
- 支払余力……予算がない。対策=予算の出どころを一緒に探す(研修費・採用費・健康経営)
- 高価格感情……高いと感じる。対策=一人あたり/月あたりに割り戻す、元が取れる筋道を示す
このうち3番と4番は、提案の場で初めて聞いたら手遅れです。事前のヒアリングで予算感と決裁ルートを確認しておく。それだけで、提案が空振りに終わる確率がぐっと下がります。
6. 【手順6〜7】コーチの法人契約を単価3倍・継続契約に育てる

1社目が取れたら、次は単価と継続の設計です。ここを意識しないと、1社目の価格がそのまま自分の相場として固定されてしまいます。
6.1 手順6:コーチが単価を3倍にする設計は「絞る・延ばす・定義する」
単価を上げるレバーは3つしかありません。
| レバー | やること | 単価への効き方 |
|---|---|---|
| 絞る | 対象を全社員→管理職→役員・後継者へ | 一人あたり単価が上がる |
| 延ばす | 単発→6ヶ月→年間契約へ | 契約総額と安定性が上がる |
| 定義する | 回数ではなく到達状態を成果として書く | 時間の掛け算から抜けられる |
3つ目の「定義する」が、単価3倍につながる要です。志師塾では、コンサルティングの仕事を「作業代行/アドバイス/伴走」の3段階に分けて説明しています。作業代行と伴走では、単価が10倍変わることもあります。
コーチングは本来、一番単価が高い「伴走」の領域にあります。ところが、セッション回数で値付けをした瞬間に、作業代行の値段で売ることになってしまう。「月2回のセッション」ではなく「半年で新任管理職12名が自走する状態をつくる」と書けるかどうか。ここが分かれ目です。
実際、志師塾の支援先では、人事領域で月額5万円だった顧問契約が月額30万円になった事例があります。半年関わって退職率が90%減少し、売上が50%向上したという成果が出たためです。成果を定義していたから、価格を成果に紐づけられました。
6.2 手順7:コーチが点の受注を面の受注に変える
志師塾では、顧客が口にする「点」の問題から、長期継続する「面」の問題を設定することを勧めています。頭痛薬を出すだけでなく、体質改善の指導まで提案する、という比喩です。
コーチの場合、こう展開します。
- 対象を広げる……役員1名の伴走 → 幹部5名 → 管理職層全体へ
- 工程を広げる……1on1研修 → 面談シートの運用設計 → 人事評価との連動へ
- 期間を広げる……半年のプロジェクト → 年間顧問 → 複数年の育成計画へ
ここで効いてくるのが、志師塾のコンダクター戦略です。専門を深く掘るより、最初に相談される窓口になったほうが受注は連鎖します。人事制度が必要なら社労士を、資金繰りなら財務の専門家を紹介する。窓口になれば仲間の仕事も生み出せるので、信頼の好循環が回ります。
新規顧客を獲得するよりリピート受注のほうが、営業コストは5分の1です。生産性は3倍程度に上がります。法人開拓を頑張るほど、実は継続の設計が効いてきます。
6.3 コーチの収入を安定させるスポット型とストック型の比率
志師塾が商品設計で目安にしているのが、スポット型:ストック型=5:5という比率です。スポット型はボーナス、ストック型は毎月の給料にあたります。
コーチの法人契約に当てはめると、次のようになります。
- スポット型……研修、ワークショップ、プロジェクト型の伴走(単価は高いが、翌年の保証がない)
- ストック型……月額顧問、年間契約、複数名の定期セッション(1件あたりは低くても積み上がる)
目指したいのは、年間目標売上の半分が、その年が始まる前に確定している状態です。ここまで来ると、新規開拓は「やらないと食べられない活動」から「伸ばすための活動」に変わります。
7. コーチが法人契約で失敗しやすい4つのパターン

最後に、志師塾の支援現場でよく見る失敗を挙げておきます。どれも避けられるものばかりです。
7.1 コーチング資格を前面に出してしまう
資格は信頼の裏付けにはなりますが、選ばれる理由にはなりません。志師塾代表の五十嵐も、中小企業診断士として開業した当初、資格名を肩書にしたところ「まったく選ばれなかった」と振り返っています。開業1年のあいだに、経営コンサルタント、研修講師、ITコンサルタント、Webマーケティングコンサルタントと肩書を変えながら、ようやく仕事が回り出しました。
名刺やプロフィールを見た相手に「で、この人は何をしている人なの?」と思われたら、そこで終わりです。資格名ではなく、解決する課題で名乗る。これが法人開拓の出発点になります。
7.2 窓口の担当者だけを口説いて満足してしまう
窓口の担当者をいくら口説いても、高単価の契約には辿りつきません。その方は課題を認識している人であって、お金を出す人ではないからです。
商談の早い段階で、「この件は最終的にどなたが判断されますか」「ご予算はどの費目から出ますか」と確認してください。聞きにくいと感じるかもしれませんが、企業側からすれば当たり前の確認事項です。むしろ聞かないほうが、話の分からない相手に見えます。
7.3 助成金・補助金を安易に前提にしてしまう
「助成金が使えるので実質負担はこれだけです」という提案は魅力的に見えます。ただしコーチングが助成金の対象になるかどうかは、訓練の内容や制度の要件によって変わります。一律に対象になるわけではありません。
制度は改正も頻繁です。提案書に書く前に、厚生労働省の事業主向けの雇用関係助成金のページで最新の要件を確認し、必要であれば申請に詳しい専門家に確認をとってください。志師塾では、補助金・助成金の申請そのものには関わらず、必要に応じて支援できる専門家を紹介する形をとっています。「使えるかもしれない」と「使える」は、企業にとってまったく違う情報です。
7.4 安売りで1社目を取り、そのまま単価が固定される
実績づくりのために価格を下げるのは、戦術としてはあり得ます。問題は、下げた理由を伝えていないケースです。理由を言わずに安く受けると、その価格が標準になります。
下げるなら、期間・条件・引き換えを明示する。たとえば「導入初年度の事例として実名で公開させていただくことを条件に、今回のみこの価格で」といった伝え方です。志師塾では「価格アップ=サービス品質アップ」と考えます。形のないサービスは価格が品質の判断基準になりますから、安すぎる価格は「その程度のもの」という評価を呼び込みます。
8. コーチとして法人契約を実現した志師塾卒業生3名の事例
ここまでの7手順を、実際に形にした方々を紹介します。いずれも志師塾の卒業生インタビューで、ご本人に詳しくお話を伺っています。
8.1 法律×コーチングで法人顧問を獲得|田村優介さん(社長のコーチ弁護士)
田村優介さんは、池袋を拠点に15年のキャリアを持つ弁護士です。5,000件以上の法律相談、1,000件以上の紛争解決を手がけてきました。それまでは個人向け案件が中心でしたが、「1人1回の関わりで終わることが多く、長期的な関係を築きにくい」という課題を感じていたといいます。
志師塾での自己棚卸を通じて見つけたのが、東京大学文学部で専攻していた社会心理学という、それまで使っていなかった資産でした。そこにコーチングを掛け合わせ、「社長のコーチ弁護士」という独自ポジションを確立します。
提供しているのは、法律相談の無制限対応に加えて月1回のコーチングセッションを組み込んだ企業顧問。一般的な顧問弁護士が契約書チェックや法的アドバイスにとどまるのに対し、経営者の行動量そのものに働きかける設計です。志師塾で学ぶ中で、社長の心に響く詳細な説明資料を作り込んだ結果、顧問契約の獲得につながりました。交流会での1分自己紹介からも新規顧客を獲得しています。
手順4(企業の言葉への翻訳)と手順5(提案書の作り込み)を、そのまま実行した事例です。
8.2 42年のマーケ経験を法人研修に変えた|矢澤滋人さん(次世代向けマーケティングコーチ)
矢澤滋人さんは、サントリーホールディングスに42年勤務し、マーケティング部門で誰もが知る飲料ブランドを多数担当、グループ会社の経営にも携わった方です。定年退職後、企業向けの研修プログラムを提供する事業を立ち上げました。
特徴は、対象を20代・30代の社員に絞り込んでいる点です。「最短90日間で“刺さる企画提案”がひらめく社員に変身」というキャッチフレーズのもと、ケースメソッド・アート思考・インサイト調査という3つのメソッドで洞察力と創造力を鍛えます。
「マーケティング研修」ではなく「企画提案がひらめく社員を育てる」と打ち出したところに、業務特化の発想が効いています。企業が抱える具体的な困りごと(若手が考えない、自分の意見を整理できない)に直接当てているので、担当者が社内で説明しやすい。手順2(ドアノック商品)と手順6(対象を絞る)の実例です。
8.3 経営者の人生に伴走する形をつくった|岩切宏樹さん(人生と経営の伴走家)
岩切宏樹さんは、アパレル、カルチャースクール、託児所、EC事業など幅広い事業を展開してきた経営者でした。しかし急性心筋梗塞で倒れ、ICUで過ごした48時間をきっかけに働き方を見つめ直し、会社を譲渡する決断をします。
その後、志師塾での学びを通じてサービスを磨き、肩書を「人生と経営の伴走家」と再定義。現在は経営者や士業に向けた伴走型支援を行っています。支援テーマの一つが「脱属人化して企業価値を高める」こと。「もし明日、自分がいなくなったら会社はどうなるのか」という問いと向き合った実体験が、そのまま説得力になっています。
経営者にとって切実な「ヒト」の課題に、自身の経験という替えの利かない裏付けを重ねた設計です。手順1(小人の設定)と、選ばれる理由の言語化が効いた例と見ることができます。
3名に共通しているのは、コーチングのスキルそのものを売っていないことです。これまでの経験と掛け合わせ、企業の課題に当てはめ直してから値札をつけている。あなたの経歴にも、まだ使っていない資産があるはずです。それを法人向けのサービスに組み立て直す順番は、志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーで具体的に解説しています。
9. まとめ|コーチが法人契約を取る7手順と単価3倍の設計
本記事の要点を整理します。
- コーチが法人契約を取れないのは腕の問題ではなく、企業の買い方を知らないから
- 企業の教育投資は労働者一人あたり年1.5万円。だから対象を絞るほど単価は上がる
- 教育予算が薄いなら、採用費など、すでに動いている原資に乗る
- 企業の99.7%は中小企業。意思決定の速いオーナー企業が現実的な主戦場になる
- 手順1〜3で入口をつくる(決裁者と予算で相手を決める/業務特化のドアノック商品/最初の1社)
- 手順4〜5で提案する(企業の言葉に翻訳する/担当者が社内で使える提案書を渡す)
- 手順6〜7で育てる(絞る・延ばす・定義するで単価3倍/点の受注を面に変えてストック化)
- 失敗の多くは、資格を前に出す・窓口の担当者止まり・助成金の前提・安売りの固定化
単価3倍は、値札を書き換えて実現するものではありません。売る単位を「1時間」から「組織の課題」へ変えた結果として付いてくるものです。そして、その単位を変えるために必要なのが、誰に何を打ち出すかという設計です。
7手順のうち、最初の3つが決まれば残りは提案と継続の話になります。逆に言えば、ここが曖昧なまま商談を重ねても、消耗するだけで契約には届きません。
7つの手順のうち、どこから手をつけるか決めきれないコーチの方へ
本記事で挙げた7手順のうち、最初の3つ(誰に・何を・どこから入るか)が固まれば、あとは提案と継続の設計です。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、法人に選ばれる打ち出し方と、そこから依頼が生まれる導線のつくり方を、先生業の実例で解説しています。参加費は無料です。
関連記事もあわせてどうぞ
この記事は、先生業専門のビジネススクール『志師塾』が執筆・監修しています。志師塾は、コーチ・コンサルタント・士業・講師といった先生業の顧客獲得支援に特化し、これまでに3,200名を超える方を支援してきました(2026年8月時点)。卒業生コミュニティでは、法人開拓や商品設計の実践知が日々共有されています。