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AI代替79.7%の社労士が生き残る5つの道|2026年の戦略

「社労士の仕事は、AIに79.7%も奪われるらしい」

「手続きと給与計算しかやっていない。このままで大丈夫なのか」

「AIに強い事務所が、顧問先を持っていくのではないか」

こうした声を、この数年で何度も聞くようになりました。2015年に野村総合研究所とオックスフォード大学が発表した共同研究で、社会保険労務士の業務は79.7%がAIに代替可能と試算されています。そこへ生成AIの実用化が重なり、数字が急に現実味を帯びてきました。

ただ、この79.7%が指しているのは「社労士という職業が8割消える」ということではありません。読み方を間違えたまま手を打つと、進む方向まで間違えます。

そこで本記事では、次の内容を整理して解説します。

  • 社労士のAI代替率79.7%という数字が、実際に何を指しているのか
  • 社労士の仕事のうち「消える業務」と「伸びる業務」の境界線
  • AI時代に社労士が生き残る5つの道
  • 志師塾が提唱する『AI伴走士』という新しい職能
  • 入口を決めて選ばれている社労士3人の実例
  • 明日から始められる5ステップ

読み終えるころには、79.7%という数字に振り回されず、顧問先から選ばれ続けるために何から手をつけるかがはっきりしているはずです。順番に見ていきましょう。

Table of Contents

1. 社労士の「AI代替79.7%」が本当に意味していること

不安の出発点になっている数字を、まず正しく置き直します。ここを誤解したままだと、打つ手そのものがずれます。

1.1 野村総研×オックスフォード大の研究データ

2015年12月、野村総合研究所がオックスフォード大学のフレイ&オズボーン両氏と共同で発表した研究では、日本の労働人口の約49%が10〜20年後にAIやロボットで代替される可能性があると試算されました。主要な士業の代替確率は次のとおりです。

士業のAI代替確率の比較(社会保険労務士は79.7%)

士業 AI代替確率
行政書士 93.1%
税理士 92.5%
弁理士 92.1%
公認会計士 85.9%
社会保険労務士 79.7%
司法書士 78.0%
弁護士 1.4%
中小企業診断士 0.2%

社労士は主要8士業のなかで5番目。行政書士や税理士より低いとはいえ、8割という数字の重さは変わりません。他士業との位置関係は士業AI代替率ランキング2025年版TOP10で詳しく扱っています。

1.2 社労士の「職業」ではなく「作業」が測られている

この研究が測ったのは、職業そのものではなく作業(タスク)の集合です。社労士の仕事を細かい作業に割り、それぞれが自動化できるかを積み上げた結果が79.7%。「社労士の10人に8人が廃業する」という意味ではありません。

読み替えると、こうなります。いまの社労士の一日は、8割が機械に渡せる作業で埋まっている。裏を返せば、残りの2割にこそ人に払われる理由があるということです。8割を渡して空いた時間を、その2割を太らせることに使えるかどうか。ここが分かれ目になります。

同じ研究で、弁護士は1.4%、中小企業診断士は0.2%でした。この差は資格の格ではありません。扱っている作業の性質の差です。争いごとの見立てや経営の意思決定支援は、そもそも入力と出力が定まらない仕事なので、自動化の対象になりにくい。社労士の仕事の中にも、同じ性質の領域があります。

1.3 社労士の手続き業務は、AIより先に電子化で減っている

見落とされがちですが、社労士の手続き業務を削っているのはAIだけではありません。電子申請とクラウド労務システムの普及のほうが、実際には先に効いてきました。従業員が入社したら人事システムに登録するだけで、資格取得届が電子で提出される。この流れは戻りません。

だからこそ、AIを「これから来る脅威」として構えるのは、少し的が外れています。手続きの単価が下がる流れは、すでに何年も前から始まっていました。AIはその流れを速める要因だと考えてください。裏返せば、対策も新しいものではありません。手続き以外の柱を持つ、という昔から言われてきたことを、いよいよ先送りできなくなったということです。

1.4 制度が動き続けるかぎり、社労士への相談は生まれ続ける

一方、労務の世界には他の士業にない特徴があります。制度が毎年のように動くことです。しかも、動くのは制度だけではありません。社労士という資格の位置づけ自体も変わりつつあります。

第9次社会保険労務士法改正では、社会保険労務士の使命に関する規定が新たに設けられました。厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会(第201回・2025年8月19日)でも、監督課長が「社会保険労務士の使命に関する規定を新たに設けるという改正を行っている」と説明しています。手続きの代行者ではなく、労働・社会保険の専門家として何を担うのかが、法律の側から言語化されたということです。この改正を単価にどう結びつけるかは、記事末尾の関連記事で詳しく扱っています。

賃金の側でも動きが続いています。厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日公表)では、中央最低賃金審議会がランク別の引き上げ額の目安を示しました。最低賃金が動けば、賃金テーブル全体の見直し、パート従業員の労働時間の設計、就業規則の改定と、相談は連鎖して生まれます。

こうした問いは、条文を読めば答えが出るものではありません。会社ごとに就業規則の書きぶりも、実際の運用も違うからです。制度の解説はAIが数秒で返しますが、その会社にとって何をどの順番で直すべきかは、現場を見ている人にしか決められません。制度改正を入口にした関係づくりは、障害者雇用率の改定を扱った記事でも触れています。

では、その「決められない部分」が自分の事務所のどこにあるのか。志師塾では、AI時代に選ばれ続けている先生業の共通点を『AI時代に生き残る先生業の3つの条件』という無料レポートにまとめました。9問のセルフ診断が付いていて、いまの立ち位置を15分で確かめられます。

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2. 社労士の仕事で「消える業務」と「伸びる業務」の境界線

79.7%を分解すると、どこが機械に渡り、どこが人に残るのかが見えてきます。境界線はひとつです。答えが決まっている仕事か、決まっていない仕事か

社労士の業務でAIに渡るものと人に残るものの境界線

2.1 AIに渡っていく社労士の業務

  • 手続き代行:入退社の資格取得・喪失、労働保険の年度更新、算定基礎届。要件が決まっていて、入力さえ正しければ答えが一つに定まります
  • 給与計算:計算式が決まっている領域。イレギュラーの判断だけが人に残ります
  • 規程・帳票のたたき台づくり:モデル就業規則をなぞる程度の文案は、すでに生成AIが数分で出します
  • 制度改正の要点整理:官公庁の資料を渡せば、要点をまとめるところまでは数分で終わります。ただしAIが自分の記憶だけで答えた改正内容は誤っていることがあるため、施行日と適用範囲は必ず一次情報で確かめてください

この4つで手が埋まっている事務所ほど、単価の下落を正面から受けることになります。顧問料の相場が下がるだけでなく、「それなら自社のシステムで足りる」と契約そのものが見直される。守ろうとするより、渡してしまって時間を作るほうが賢明でしょう。渡し方の具体は社労士のAI活用術にまとめています。

2.2 社労士に残るのは「答えが決まっていない」業務

  • 会社ごとの事情を踏まえた判断:同じ相談でも、就業規則の書きぶり、過去の運用、社長の考え方で答えが変わります
  • 人と人のあいだに立つ仕事:辞めそうな社員との面談、経営者と現場の温度差の調整。ここは代われません
  • 責任を引き受ける仕事:提出物に名前を書き、調査に立ち会い、結果を引き受ける。制度が人に求めている役割です
  • 設計する仕事:評価制度、賃金テーブル、採用の仕組み。正解のない問いに、その会社の答えを作る仕事です

この4つに共通するのは、始める前に答えが分からないことです。AIは過去の大量の事例から最もそれらしい答えを返しますが、目の前の会社が過去の平均どおりとはかぎりません。

2.3 志師塾の視点:社労士のAIは「処理」、人は「意味」

志師塾では、この境界を「処理」と「意味」で説明しています。AIが得意なのは処理です。規程を読み、条文と突き合わせ、案を出す。速さでも量でも人は敵いません。

人に残るのは意味づけのほうです。「この会社にとって、いま何を優先すべきか」。社長が本当に困っているのは、規程の文言ではなく、辞めていく社員をどう止めるかだったりします。相談の言葉と、本当の困りごとがずれている。このずれを扱えるのは人だけでしょう。

もうひとつ、意味づけには「引き受ける」という要素も含まれます。案を出すだけなら機械でもできますが、その案でいこうと背中を押し、結果まで一緒に見るところまでは機械の仕事になりません。顧問料が払われている理由は、実はここにあります。

この線引きは、事務所の中でも共有しておきたいところです。補助者が「AIで作ったので確認してください」と持ってきた案を、そのまま顧客へ渡してしまう事故は実際に起きています。処理はAI、意味づけと最終確認は有資格者。どこで人が検算するかを、業務の流れの中に組み込んでおいてください。

3. AI代替79.7%の社労士が生き残る5つの道

では、具体的にどこへ舵を切るか。志師塾が先生業を支援してきた中から、社労士にとって現実的な道を5つ挙げます。全部やる必要はありません。1つ選んで深く掘るほうが、結果は早く出ます。

AI代替79.7%の社労士が生き残る5つの道

3.1 道①:人事評価・賃金制度の設計へ進む

答えが決まっていない仕事の代表がここです。同じ業種・同じ規模でも、評価制度の正解は会社ごとに違います。何を評価するかは、その会社が何を大事にしているかの写し鏡だからです。

入口になる場面は決まっています。「昇給の根拠を聞かれて答えられない」「若手とベテランの給与が逆転しかけている」「賞与の配分を社長の勘で決めている」。どれも顧問先との雑談で出てくる話です。

毎月の顧問料を積み上げていく手続きの仕事と違い、制度設計は一件でまとまった金額が動きます。規模と範囲によりますが、顧問料の数か月分から一年分に相当する組み方ができる。しかも一度作って終わりではなく、運用の相談が毎年続きます。単価が上がり、関係も続くという点で、手続き業務の目減りをいちばん埋めやすい道です。

最初の一歩:顧問先のうち、従業員が10名を超えたところを1社選び、「いまの昇給はどう決めていますか」と聞いてみてください。答えに詰まる会社が、そのまま最初の相手になります。成果物は、評価項目と賃金テーブルを1枚にまとめた設計書。作って渡すだけでなく、運用開始後の面談に同席するところまでを商品に含めると、翌年も続きます。

3.2 道②:採用と定着から入る

人手不足は、いまの中小企業にとって最も痛い問題です。求人を出しても応募が来ない、来ても続かない。この痛みは労務の相談よりずっと切実で、予算も付きやすい。

採用支援から入る強みは、入口が採用でも、話が必ず労務に戻ってくることにあります。定着しない理由をたどると、評価の不透明さ、残業の偏り、育成の仕組みの不在といった課題に行き着く。社労士がもともと得意な領域です。

求人票の書き方から入る方法もありますが、そこは代行業者と競合します。社労士が持つべき角度は「辞めない職場をどう作るか」のほう。入社後の話まで踏み込めるのは、就業規則と実際の運用の両方を知っている専門家だけです。

最初の一歩:顧問先の直近2年の退職者を、入社からの月数で並べてみてください。3か月以内が多ければ採用の入口の問題、1年前後が多ければ育成と評価の問題です。この1枚を持って社長と話すと、求人広告の相談が定着支援の相談に変わります。

3.3 道③:労務トラブルの予防に軸足を置く

未払い残業、ハラスメント、退職をめぐる争い。起きてしまえば弁護士の領域ですが、起きる前に止められるのは社労士です。就業規則と実際の運用のずれを点検し、危ないところから直していく。

この仕事は、書式を渡すことではなく現場の観察から生まれます。タイムカードの打刻の癖、管理職の口ぐせ、面談記録の残し方。AIに読ませられる形になっていない情報の中にこそ、リスクの芽があります。

予防の仕事は、成果が見えにくいという弱点があります。だからこそ、定例の点検と報告書という形にして、やっていることを目に見えるようにしておく。見えない価値は、続けてもらえません。

予防から入ると、単価の話もしやすくなります。「就業規則の改定に10万円」は高く感じられても、「未払い残業の指摘を受けたときに数百万円が動く」という話と並べれば、判断の物差しが変わるからです。金額の妥当性は、比べる対象を変えるだけで伝わり方が変わります。

最初の一歩:顧問先1社の就業規則と、直近3か月の勤怠データを並べて読んでください。規程に書いてあるのに運用されていない条文が、たいてい2つ3つ見つかります。それを「点検リスト」として渡すのが、予防の商品の原型になります。

3.4 道④:助成金を入口に、制度と運用の整備まで引き受ける

助成金は、要件の確認そのものがAIの得意な領域に入っていきます。ただ、受給できる状態に会社を持っていく仕事は別です。就業規則を整え、賃金台帳を揃え、実際の運用を要件に合わせる。ここは現場に入らないと動きません。

注意したいのは、助成金だけを単発で追うと、制度が終われば仕事も終わるということです。入口として使い、その先の顧問契約や制度設計へ渡す設計にしておく。「受給できました」で関係を切らず、「この状態を維持するために毎年ここを見ましょう」まで話を運ぶことが大切になります。

最初の一歩:いま扱える助成金を3つに絞り、それぞれ「受給の前提として整える必要がある社内体制」を書き出してください。売るのは申請代行ではなく、その体制づくりのほうです。

3.5 道⑤:『AI伴走士』として、顧問先のAI活用に伴走する

5つ目は、志師塾が提唱している職能です。AIを自分の業務効率化に使うだけで終わらせず、顧問先の会社がAIを使えるように伴走するという道になります。

中小企業の社長の多くは、AIを使ったほうがいいと分かっていても、何から手をつけるか分かっていません。そこで、日々の業務のどこを機械に渡せるかを一緒に洗い出し、使い方の型を作り、社内に定着させる。

社労士がこの役割に向いているのには理由があります。会社の中の「働き方」を最も細かく知っている専門家だからです。誰がどの作業に何時間かけているか、残業がどの部署に偏っているかを把握している。AI導入の相談で最初に必要なのは、まさにその情報になります。

労務の顧問料とは別の商品として設計できるうえ、社長にとっては採用より早く効く人手不足対策にもなります。

最初の一歩:まず自分の事務所で、就業規則の改定を工程に割ってAIに渡してみてください。自分でやったことしか、人には教えられません。その手順書がそのまま、顧問先へ持っていく商品の原型になります。

とはいえ、「自分がAIを教えられるレベルにあるのか」と感じた方も多いはずです。必要なのは技術の知識ではなく、業務を工程に割って、どこを機械に渡すかを決める力のほう。志師塾のAI伴走士養成セミナーでは、その進め方と、顧問先への提案の形をお伝えしています。

4. 5つの道に共通する、社労士の「生き残り3要素」

どの道を選んでも、土台になるものは同じです。志師塾が3,200名を超える先生業を支援してきた中で、繰り返し同じ3つに行き着きました。

社労士の生き残り3要素(ポジショニング・導線・商品設計)

4.1 ポジショニング:社労士が「手続き屋」から抜ける

「社会保険労務士の○○です。手続きから労務相談まで幅広く対応します」。この名乗りでは、相手に比べる材料が金額しか残りません。誰の・どんな場面を・どう引き受けるかを一文で言い切れるかどうかが、単価の分かれ目になります。

「従業員30名前後の製造業で、辞める人が続く職場を立て直す社労士」。ここまで絞ると、紹介する側も場面と結びつけて思い出せます。絞ると仕事が減ると感じるかもしれませんが、実際は逆でしょう。名乗りの整え方は社労士の営業4手順で詳しく扱っています。

4.2 顧客獲得導線:社労士が「集めて・教えて・売る」を持つ

制度設計もAI伴走も、いきなり売れる商品ではありません。相手にとっては金額が大きく、必要性も自覚しにくいからです。あいだに「教える場」を挟むと、この距離が縮まります。

セミナーや勉強会で困りごとを言語化してもらい、個別相談で自社の状況に当てはめ、そこで初めて提案する。売り込まずに決まる形は、この順番からしか生まれません。手続きの仕事は紹介で回っても、単価の高い商品は「教える場」を通らないと売れない。ここが多くの事務所でつまずくところです。

4.3 商品設計:社労士が顧問料の外に高額商品を持つ

顧問料だけで事業を組むと、単価の下落をそのまま受けます。顧問の外に、まとまった金額の商品を1つ持っておく。制度設計、採用の仕組みづくり、AI導入の伴走。どれでも構いません。

大切なのは、その商品が顧問契約へ戻る設計になっていることです。作って終わりではなく、運用の相談が続く形にしておくと、1件の依頼が何年分もの関係に変わります。

5. AI時代の社労士が明日から踏み出す5ステップ

読んで終わりにしないために、順番を置いておきます。

AI時代の社労士が明日から踏み出す5ステップ

5.1 ステップ1:社労士の業務を工程に割って棚卸しする

まず、自分の一週間を工程に割ってください。就業規則の改定なら「現行規程の読み込み → 法改正との突き合わせ → 改定案の作成 → 説明資料の作成 → 顧客への説明」。工程ごとに、かかっている時間を書き出します。

社労士の就業規則改定を工程に割り、AIに渡せる工程と人が持つ工程を分ける図

この作業をやらずにAIの話に入っても、何を渡せばいいかが決まりません。渡せる工程は、たいてい前半に集まっています。

5.2 ステップ2:社労士がAIを「使いこなす」ところまで到達する

一度試して「思ったほどではなかった」で止まる方が多いのですが、原因は指示の出し方にあることがほとんどです。前提条件(従業員数、業種、現行規程の状態)を先に渡してから頼むだけで、返ってくる内容が変わります。

業務別の具体的な使い方は、2.1でも触れた「社労士のAI活用術」の記事にまとめています。

5.3 ステップ3:社労士の仕事の型を、仕組みとして持たせる

毎回ゼロから指示を出していると、時間はあまり浮きません。自分の型(聞く順番、確認する項目、書き方の癖)を一度まとめて、専用の設定として持たせておく。同じ品質のたたき台が、毎回数分で出てくるようになります。

ここで気をつけたいのが、顧問先の個人情報や賃金データをそのまま渡さないことです。抽象化してから渡す、という線を事務所として先に決めておいてください。

5.4 ステップ4:社労士として、5つの道から1つ選んで商品にする

3章の5つから1つ選び、金額と提供内容を紙1枚にします。何をどこまでやるか、期間はどれくらいか、範囲外は何か。この1枚があるだけで、面談での説明が変わります。

5.5 ステップ5:社労士が「教える・伴走する」側に回る

最後は、作った商品を届ける場を持つことです。顧問先を集めた勉強会でも、商工会との共催セミナーでも構いません。教える場に立った社労士は、その場で専門家として選ばれます。

最初から10人集める必要はありません。顧問先3社の担当者に声をかけて、90分の勉強会を1回開く。そこで出た質問が、そのまま次の商品の種になります。資料も、既存の説明資料を流用してかまいません。大事なのは中身の完成度より、教える立場で人前に立った経験が、自分の名乗りを変えることのほうです。「手続きをやっている社労士」から「この分野を教えられる社労士」へ、相手の見方が切り替わります。

6. 入口を決めて選ばれている社労士の実例

抽象論だけでは動きにくいので、実際に入口を決めて事業を組み立てた志師塾の卒業生を3人紹介します。いずれも、手続きの量で勝負する道を選んでいません。

6.1 田邊雅子さん|共感しない依頼を断ることで、顧問先が増えた社労士

神奈川県横浜市を拠点に、グロースサポート社労士事務所と株式会社グロースサポートを率いる田邊雅子さん。社会保険労務士とキャリアコンサルタントの資格を活かし、人事労務の面から企業を支援しています。現在は従業員6名を抱える規模まで事務所を育てました。

経歴は、まっすぐな一本道ではありません。教職に就いたあと結婚し、約10年の子育て期間を経て図書館でパート勤務。その後、大学の研究機関で正社員に登用されます。転職の悩みからキャリアコンサルタントの資格を取り(2008年)、ハローワークの相談員を約3年務めるなかで、「せっかく入社した人を、なぜ企業はすぐに辞めさせてしまうんだろう」という悔しさを覚えたことが、社労士を目指すきっかけになりました。2012年に合格し、すぐに事務所を立ち上げます。

ところが、実務経験も人脈もないため当初は開店休業状態でした。転機は、依頼を選ぶ基準を持ったことです。「従業員と会社の両方を大切にしたい」という考えに共感してもらえるかどうかを軸にし、共感が得られない依頼は思い切って断りました

絞れば仕事が減ると思われがちですが、結果は逆でした。考えに共感する依頼主が集まり、事務所は約2〜3年で軌道に乗ります。開業から10年を迎える頃には、シニア社員の戦力化プログラムという新しい商品も立ち上げました。詳しくは田邊さんのインタビュー記事をご覧ください。

手続きの量で戦うのではなく、誰と組むかを決めることで単価と関係の質を上げた。4章で挙げたポジショニングが、そのまま形になった例です。

6.2 田尻勲さん|助成金を入口に人事労務をまるごと引き受ける社会保険労務士

田尻勲さんは、スタートアップ・ベンチャー企業に助成金を活用した人事労務課題の解決を提案している社会保険労務士です。

キャリアは大手百貨店から始まりました。入社10年を越えた頃に玩具メーカーへ転職し、人事管理部門の管理職として助成金を駆使しながら、スタートアップの会社を従業員100人規模の組織に成長させています。その約10年後に独立しました。

田尻さんによれば、実際に助成金申請に携わる社労士は少数派だといいます。社内の労務管理体制が整っている会社でないと審査に通りにくく、顧問先を抱える社労士は給与計算などで手が空かないからです。その手間のかかるところを引き受けているのが、そのまま参入障壁になっているわけです。

構造は明快です。助成金の要件そのものは、AIが数秒で答えます。ただ、要件を満たす体制を実際に作るには、就業規則を直し、勤怠の運用を変え、社長に説明して納得してもらう必要がある。この工程が残っているかぎり、入口が「助成金」であっても仕事は続きます。詳しくは田尻さんのインタビュー記事をご覧ください。

6.3 熊岡政道さん|障害年金に特化するという選び方

3人目は、あえて主流から外れた分野を選んだ例です。横浜市で活動する社会保険労務士・熊岡政道さんは、45歳で社労士資格の取得を決意し、4度の不合格を乗り越えて5回目で合格。行政の年金相談員として実務経験を積み、その2年後に事務所を立ち上げました。

専門は障害年金です。老齢・遺族・障害という3つの年金のうち、最も手続きが複雑で個別性が高い分野に絞りました。診断書の記載内容、病歴、日常生活の困難さと判断材料が多岐にわたるため、画一的な対応が通用しにくい領域です。

結果として、相談は障害者施設・病院・特例子会社からの紹介が中心になり、「年金分野は対応できない」という同業の社労士からも依頼が届くようになりました。ホームページ「年金横浜」経由の相談も増えています。

この選択が効いているのは、障害年金が申請する人の生活の実態を、審査に伝わる言葉へ翻訳する仕事だからです。診断書に書かれた病名と、その人が日常でどれだけ困っているかのあいだには、必ず隙間があります。その隙間を埋める作業は、書式の自動化では埋まりません。詳しくは熊岡さんのインタビュー記事をご覧ください。

6.4 3人に共通するのは「入口を1つに決めたこと」

田邊さんは価値観の合う顧問先、田尻さんは助成金、熊岡さんは障害年金。扱う分野はまったく違いますが、入口を1つに決めて、そこから関係を広げている点は同じです。

もう1つ共通しているのが、入口を決めるまでに現場を通っていることです。田邊さんはハローワークの相談員として「入社してすぐ辞める人」を数多く見送り、田尻さんは事業会社の人事部門で助成金を実際に使って組織を作り、熊岡さんは行政の年金相談員として実務を積みました。頭の中だけで「これからは○○が伸びそうだ」と決めたのではなく、自分が何度も通った道をそのまま商品にしている。専門分野の選び方に迷ったときは、この順番が参考になります。

そして3人とも、選んだ入口の先に関係を持っています。絞ることは、仕事を狭めることではありません。呼ばれる理由をはっきりさせて、その先を広げるための順番です。

7. 社労士のAIについて、よくある質問

7.1 Q. 結局、社労士の仕事はなくなりますか

なくなりません。ただし中身は入れ替わります。手続きの代行で得ていた収入は目減りし、判断と設計と伴走で得る収入が増える。この入れ替えに手をつけた事務所とそうでない事務所で、数年後の差が開きます。

7.2 Q. AIが苦手でも、これから間に合いますか

間に合います。社労士に必要なのは、AIの技術に詳しくなることではありません。どの工程を渡し、どこから人が持つかを決められることです。この判断は、実務を長くやってきた方ほど正確にできます。

7.3 Q. 顧問先にAIの話をすると、仕事が減りませんか

減るのは手続きの仕事で、増えるのは相談の仕事です。社長がAIを使い始めると、労働時間の管理や評価の仕方といった新しい相談が生まれます。黙っていても、遅かれ早かれ他から情報は入るもの。先に持っていくほうが、相談相手の位置を取れるでしょう。

7.4 Q. 顧問料を上げると言い出しにくいのですが

値上げの交渉から入るより、渡すものを増やしてから話すほうが通ります。制度設計でも点検報告でも、顧問料の外にある仕事を1つ足し、それが定着してから料金表を組み直す。順番を逆にすると、相手には値上げの話しか残りません。

7.5 Q. 一人事務所でも、ここまで手を広げられますか

広げるのではなく、入れ替えると考えてください。6章の3人も、扱う分野を広げたのではなく入口を決めています。手続きの一部をAIと電子申請に渡して空いた時間を、選んだ1つの領域に充てる。人を増やさずに単価を上げる道は、この順番でしか開きません。

7.6 Q. 顧問先が少ないうちから、専門を絞って大丈夫ですか

絞ることと、断ることは別です。来た仕事は受けながら、発信と名乗りだけを1つに寄せていく。この形なら収入を落とさずに移行できます。6章の3人も、最初から選んだ分野だけで食べていたわけではありません。手続きの仕事で足元を支えながら、選んだ領域の発信を続け、そちらからの相談が増えたところで比率を入れ替えています。

7.7 Q. 何から手をつければいいですか

5.1の棚卸しからです。紙とペンで1時間あれば終わります。そのうえで、3章の5つの道のうち「顧問先から実際に相談されたことがあるもの」を1つ選んでください。ゼロから需要を作るより、すでに聞かれている話のほうが早く商品になります。

8. まとめ|社労士のAI代替79.7%は「脅威」ではなく「地図」

79.7%という数字は、社労士の8割が消えるという予言ではありません。いまの仕事の8割が、機械に渡せる作業でできているという地図です。地図として読めば、進む方向が見えてきます。

  • 測られたのは職業ではなく作業。渡せる作業を渡し、空いた時間を残りの2割に使う
  • 境界線は「答えが決まっているか、いないか」。判断・調整・責任・設計は人に残る
  • 進む先は5つ。制度設計、採用と定着、トラブル予防、助成金からの整備、AI伴走
  • どの道でも土台は同じ。ポジショニング、教える場、顧問の外の商品
  • 先に進んだ3人は、いずれも入口を1つに決めてから、その先を広げている

明日から手をつけるなら、この3つからどうぞ。

  • 直近1週間の仕事を工程に割り、それぞれにかかった時間を書き出す
  • 顧問先から実際に相談された「手続き以外の話」を3つ思い出す
  • そのうち1つを、金額と範囲を書いた紙1枚にしてみる

※本記事の数値は2026年8月時点のものです。代替率は2015年発表の研究に基づく試算で、制度や運用は変わることがあります。法令・制度の最新の取り扱いは、厚生労働省および所属する社会保険労務士会の公表資料でご確認ください。

5つの道のどれを選ぶか、決めきれない社労士の方へ

どの道に進むにしても、出発点は同じです。いま自分がどこにいるのかを知ること。無料レポート『AI時代に生き残る先生業の3つの条件』には、本記事で触れた「AIに渡す・人が持つ」の切り分けを、自分の事務所に当てはめて確かめられる9問のセルフ診断が入っています。読了の目安は15分。メールアドレスだけで受け取れます。

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レポートを読んだうえで「自分の専門分野でどう組み立てるか」を具体的に知りたい方は、志師塾のAI伴走士養成セミナー(80分・参加費無料)もあわせてご利用ください。本記事の道⑤で触れた、顧問先のAI活用に伴走する進め方を扱っています。

9. 社労士のAIと集客について、あわせて読みたい記事

この記事について

監修:志師塾(株式会社エクスウィルパートナーズ)。士業・コンサルタント・コーチ・講師といった「先生業」に特化した集客・顧客獲得支援を行い、これまでに3,200名を超える先生業の方を支援してきました。本記事は、社会保険労務士の受講生・卒業生への支援で得た知見と、野村総合研究所・厚生労働省などの公表資料をもとに構成しています。

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