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社労士法改正で単価を上げる3つの再定義|使命規定を活かす

2025年6月18日、社会保険労務士法の第1条が「目的規定」から「使命規定」へと書き換わりました。ここに入った言葉は「適切な労務管理の確立」と「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成」。同時に、第2条第1項第3号に「監査すること」という一語が加わっています。

法律が、あなたの仕事を呼ぶ名前を変えたのです。それなのに、値札だけが去年のまま。これほどもったいない状況はありません。

この記事では、第9次社会保険労務士法改正(令和7年法律第77号)の中身を最短で押さえたうえで、社労士が単価を上げるために必要な「3つの再定義」を解説します。志師塾は先生業(士業・コンサルタント・講師・コーチ等)に特化したビジネススクールとして、これまで3,200名を超える先生業の顧客獲得を支援してきました(2026年8月時点)。そこで繰り返し見てきたのは、単価が変わる瞬間というのが「新しい業務を覚えたとき」ではなく「同じ仕事の名前・買い手・立場を定義し直したとき」だという事実です。

読み終えるころには、今回の改正をどう自分の商品設計に落とし込むか、そして何を捨てて何を打ち出すかが具体的に見えているはずです。まずは、改正の中身から確認していきましょう。

Table of Contents

1. 社労士法改正(第9次)で何が変わったのか

第9次社労士法改正 4つの柱

単価の話に入る前に、事実関係を正確に押さえます。ここを曖昧にしたまま提案書を書くと、経営者から一発で見抜かれるからです。

1.1 改正の4つの柱と成立の経緯

今回の改正は「第9次社会保険労務士法改正」と呼ばれ、令和7年法律第77号として2025年6月18日に参議院本会議で可決・成立しました。議員立法として提出されたものです。

全国社会保険労務士会連合会(第9次社会保険労務士法改正成立について)が示す改正の柱は、次の4点です。

内容 単価への影響
1. 使命規定の新設 法第1条を目的規定から使命規定へ 値付けの根拠になる
2. 労務監査業務の明記 第2条1項3号に「監査すること」を追加 商品名が法律に載った
3. 補佐人業務規定の整備 第2条の2「訴訟代理人」を「代理人」へ 対応範囲の説明力が上がる
4. 名称使用制限の整備 類似名称の例示を明記 直接の影響は小さい

この表を見て、どこに目が行ったでしょうか。多くの社労士は「1. 使命規定」に注目します。ただ、売上に直結するのは2の労務監査の明記のほうです。理由は後ほど詳しく述べます。

1.2 新しい第1条(使命規定)の条文

改正後の社会保険労務士法第1条は、次のとおりです(衆議院・法律本文より)。

社会保険労務士は、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与することにより、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上並びに社会保障の向上及び増進に資し、もつて豊かな国民生活及び活力ある経済社会の実現に資することを使命とする。

厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会(第201回・2025年8月19日)でも報告事項として扱われ、監督課長が「第1条に社会保険労務士法の目的規定を定めておりました。この規定につきまして、社会保険労務士の使命に関する規定を新たに設けるという改正を行っている」と説明しています(厚生労働省・議事録)。

ここで読み取ってほしいのは、条文に「事業の健全な発達」と「労働者等の福祉の向上」が並列で書かれている点です。会社側の代理人ではなく、両者のあいだに立つ存在として位置づけられました。

1.3 労務監査が第2条に明記された意味

改正条文の実体は、こうです。第2条第1項第3号の「こと」の下に、次の文言が加わりました。

(これらの事項に係る法令並びに労働協約、就業規則及び労働契約の遵守の状況を監査することを含む。)

従来から3号業務として「相談・指導」は行えました。そこに「監査」という言葉が明示的に入ったわけです。

言葉が一つ増えただけ、と思うかもしれません。しかし商品設計の観点で見ると、これは決定的です。「相談」は時間を売る仕事で、値切り圧力にさらされます。「監査」は成果物(報告書)を納品する仕事で、スポット料金・年次更新という価格構造を組めます。売り物の形が変わるのです。

1.4 施行日の切り分け(ここを間違えない)

意外と見落とされているのが施行日です。全部が同時にスタートするわけではありません。

対象 施行時期
使命規定(第1条)・労務監査の明記(第2条1項3号) 公布の日から(すでに効力あり)
第26条の改正規定 公布の日から起算して10日を経過した日
第2条の2の改正規定(補佐人関係) 令和7年10月1日から

つまり、使命規定と労務監査はすでに動いています。「来年から準備しよう」と考えていたなら、その前提は誤りです。逆に言えば、いま提案書を書き換えれば、周囲より半歩先に出られます。

2. なぜ社労士の単価は上がりにくいのか(構造の話)

社労士の単価が上がりにくい3つの構造

改正の中身を押さえたところで、本題に入ります。そもそも、なぜ社労士の顧問料は下がり続けてきたのでしょうか。

2.1 報酬に「公的な相場」は存在しない

まず前提を一つ。社労士の報酬額は自由化されています。かつては全国社会保険労務士会連合会が報酬額の基準を定め、各都道府県会が会則に基準額を置いていましたが、社会保険労務士法の改正に伴いこの規定は削除されました。

ここから導かれる事実は一つです。あなたの単価は、あなたが決めています。「相場だからこの金額」と言っているとき、その相場とは近隣同業者の値付けの平均であって、法律でも公的基準でもありません。

これは苦しい話でもあり、同時に希望でもあります。値上げを止めているものが法律ではないなら、止めているのは説明の材料だけだからです。

2.2 先生ビジネスの3特性が値付けを難しくする

志師塾では、士業・コンサルタント・講師・コーチといった仕事を「先生業」と呼び、その商売には3つの特性があると整理しています。

  • 高額である:単価が大きいため、必ず比較される
  • 分かりにくい:サービスが目に見えず、専門性が高いため、買う側は品質を判断できない
  • 営業しにくい:「お願いします」と頭を下げると、その瞬間に先生としての信頼が落ちる

この2つ目、「分かりにくい」が単価下落の元凶です。買い手が品質を判断できないとき、人は何で選ぶか。判断できる唯一の軸、つまり価格で選びます。腕を磨けば選ばれるはずだ、というのは先生業がはまりやすい典型的な思い込みで、志師塾ではこれを「先生業のハマる5つの罠」の一つとして扱っています。

ここで今回の改正を振り返ってください。「監査」という言葉が法律に載ったということは、分かりにくかった仕事に、社会が共有する名前がついたということです。分かりにくさが減れば、価格以外の軸で選ばれる余地が生まれます。

2.3 「代行」という言葉が単価の天井を作る

もう一つ、構造的な問題があります。手続き代行という言い方です。

代行とは、本来は依頼主がやることを代わりにやる仕事です。この定義に立った瞬間、価格の基準は「自社でやったらいくらか」になります。パート社員の時給、あるいはクラウド労務システムの月額。それが比較対象になるのです。

電子申請の普及とシステム化が進むほど、この基準は下がり続けます。同じ土俵で戦うかぎり、値下げ以外の打ち手がありません。志師塾ではこれを「戦う土俵の選び方の問題」と捉えます。土俵が悪ければ、どれだけ腕を上げても報われないのです。

2.4 単価が上がる瞬間に共通していること

これまで支援してきた先生業のなかで、単価が跳ねた人には共通点があります。新しい資格を取ったからでも、業務範囲を広げたからでもありません。同じ仕事の「呼び名」「売る相手」「立ち位置」を変えた。それだけです。

今回の法改正は、その3つすべてに使える材料を提供してくれました。次章から、順に見ていきます。

「監査」という商品名を手に入れても、それを必要としている経営者に届かなければ売上は変わりません。志師塾では、先生業が自分の価値を言葉にして届けるための無料セミナーを開催しています。

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3. 【再定義1】提供物:社労士の仕事を「代行」から「保証」へ

労務監査を商品化する3ステップ

1つ目の再定義です。何を売っているのかを言い直します。

3.1 監査は「成果物が残る仕事」である

相談顧問と労務監査の違いは、成果物の有無です。

項目 相談顧問(従来型) 労務監査(改正で明記)
売っているもの 時間・対応 報告書・判定
価格の説明 月額◯万円(根拠が説明しにくい) 調査範囲×項目数(積算できる)
値切られやすさ 高い(他社と横並び比較) 低い(中身で差が出る)
継続の形 解約されたら終わり 年次更新・是正支援へ展開
決裁者 総務担当・管理部門 経営者・役員

志師塾では、商品づくりの原則として「知りたいものを、手に入るものに変換する」ことを伝えています。人は「アドバイス」にはお金を出し渋りますが、「手に入る結果」にはお金を出します。労務監査報告書は、まさにその手に入るものです。

3.2 パッケージ化しないと単価は上がらない

監査という言葉を使うだけでは足りません。中身をパッケージとして見える形にする必要があります。志師塾では、ノウハウを商品にする手順を「ネタ出し → 手順化 → 体系化」の3ステップで整理しています。

労務監査に当てはめると、こうなります。

  • ネタ出し:これまで顧問先で指摘してきた項目をすべて書き出す(労働時間管理、割増賃金、就業規則と実態の乖離、36協定、雇用契約書、ハラスメント体制、社会保険の適用漏れ、など)
  • 手順化:資料受領 → 書面確認 → ヒアリング → 現場確認 → 判定 → 報告会、という流れに並べる
  • 体系化:チェック項目を大分類・中分類に整理し、判定基準(適合/要改善/重大リスク)を定義する

ここまで作ると、提案書に「全◯項目を◯段階で判定します」と書けます。「何をやってくれるか分からない」が消えるので、金額に納得が生まれます。分かりにくさこそが単価を下げていたのですから、その逆をやるわけです。

3.3 弁護士との線引きを先に決める

ここで注意点を一つ。労使紛争における交渉行為は弁護士法との関係で社労士が担えません。紛争段階に入ったら弁護士へつなぐ、という線を提案時点で明示しておくことが重要です。

これは制約に見えて、実は単価を上げます。「やらないこと」を明言する専門家は、それだけで信頼されるからです。志師塾が伝えている「一点集中、全面展開」という考え方も、まず捨てることから始まります。何でもやれますという人は、何もできない人と同じに見えるのです。

3.4 監査を「入口」にして関係を作る

労務監査の副次的な効果として、入口商品として使いやすいという点があります。顧問契約は「毎月払い続ける」という重い意思決定ですが、監査は「一度診てもらう」という軽い意思決定です。

そして監査結果には、ほぼ必ず改善課題が出ます。そこから是正支援、規程整備、教育研修、そして継続顧問へと展開できます。志師塾で言う「集めて・教えて・売る」の導線が、監査という一つの商品で自然に組めるのです。

4. 【再定義2】買い手:社労士が売る相手を「総務担当」から「経営者」へ

買い手を変えると値札の桁が変わる

2つ目の再定義は、誰に売るかです。ここを変えると単価は桁が変わります。

4.1 決裁者が変われば金額の基準が変わる

同じ労務の話でも、総務担当者にとっての価値と経営者にとっての価値はまったく違います。

  • 総務担当者にとって:業務が楽になる、ミスが減る → 比較対象は「人件費とシステム費」
  • 経営者にとって:訴訟リスクが下がる、資金調達やM&Aが進む、採用で選ばれる → 比較対象は「失う金額」

前者の比較対象は月数万円、後者は数百万円から数千万円です。同じ仕事を売っていても、誰の課題を解いているかで値札の桁が変わります。

新しい第1条には「事業の健全な発達」という言葉が入りました。これは総務課の言葉ではなく、経営の言葉です。使命規定は、社労士が経営者と話すための正当性を条文で用意してくれたとも読めます。

4.2 労務監査を必要とする「発注側の文脈」

では、経営者はどんなときに労務監査にお金を出すのか。文脈を具体的に持っておくと提案が刺さります。

場面 経営者が抱える不安
M&A・事業承継 未払い残業などの簿外債務で価格を叩かれないか
上場準備・資金調達 労務コンプライアンスで審査に引っかからないか
取引先からの要請 サプライチェーン全体の労務管理を問われている
採用競争 労務がずさんな会社という評判が広がっていないか
代替わり直後 先代のやり方に何が埋まっているか分からない

いずれも「業務を楽にしたい」という話ではありません。怖いから確かめたいという話です。人が動く理由は「痛みを避ける」か「快楽を求める」かのどちらかですが、労務監査は前者、しかも痛みが極めて大きい領域を扱います。だから高単価が成立します。

4.3 「頭の中に小人を飼う」で買い手を絞る

志師塾では、理想の顧客を具体的な一人の人物として設定し、常に頭の中に置いておく手法を「頭の中に小人を飼う」と呼んでいます。属性だけで「中小企業の経営者」と決めても、提案の言葉は磨かれません。

労務監査を売るなら、たとえばこう決めます。

製造業・従業員80名・年商12億円。二代目社長(46歳)。先代から3年前に引き継いだ。取引先の大手メーカーからサプライチェーンの労務管理について確認を求められ、自社の実態を把握できていないことに気づいて焦っている。深夜に「未払い残業 遡及 何年」と検索している。

ここまで具体化すると、提案書の一行目が決まります。「業務効率化のご提案」ではなく「取引先から問われたときに、社長が数字で答えられる状態をつくります」と書けるようになるわけです。

4.4 経営者に会うための導線をつくる

買い手を経営者に定めても、会えなければ意味がありません。ここで多くの社労士がつまずきます。

志師塾が推奨するのは、いきなり営業に行く「衝動型」ではなく、先に情報提供して関係をつくる「関係型」のアプローチです。具体的には、労務リスクをテーマにしたセミナーや小冊子で経営者と接点を持ち、そこから個別相談へ進みます。

セミナーには3つの効果があります。先生という立場で話せること、サービスを疑似体験してもらえること、そして登壇者としてのブランドがつくことです。「監査をやります」と営業するより、「御社の労務、大丈夫ですか」というテーマで登壇して質問を受けるほうが、はるかに高い確率で仕事につながります。

5. 【再定義3】立場:社労士を「会社の味方」から「公益を背負う第三者」へ

3つ目、これが最も難しく、最も効きます。

5.1 使命規定が示した「中立性」という価値

改正後の第1条をもう一度読んでください。「事業の健全な発達」と「労働者等の福祉の向上」が並んでいます。片方だけではありません。

これまで社労士業界では「会社側の専門家」という自己認識が一般的でした。実際、報酬を払うのは会社です。しかし条文は、その先に「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成」という言葉を置きました。

ここに、単価を上げるための決定的な材料があります。第三者だから言えることが、いちばん高いのです。

5.2 連合の懸念表明を読み解く

今回の改正について、日本労働組合総連合会(連合)は事務局長談話で懸念を表明しています(連合・事務局長談話)。要旨は次のとおりです。

  • 議員立法として成立したが、本来であれば労働政策審議会の議を経るべきだった
  • 社労士試験には労働組合法などの科目がなく、労務監査を行いうる知識を十分に有しているか疑義がある
  • 一部の社労士の問題行動が「労務監査」として正当化されるおそれがある
  • 補佐人についても、労働審判の場で実務が混乱することが懸念される

厳しい指摘です。しかし、これを不都合な情報として避けるのは間違いです。この懸念こそが、あなたの単価の根拠になります

論理はこうです。監査という名前が法定化された以上、これから多くの社労士が「労務監査やります」と言い始めます。ところが労働側からは品質への疑義が出ている。ということは、品質を証明できる社労士だけが、この市場で選ばれるという構図になります。名前がついた瞬間に、名前だけの人と中身のある人の差が際立つのです。

5.3 品質を証明する3つの打ち手

では、どうやって品質を見える形にするか。志師塾でよく使う考え方は「判断基準を見込み客の頭に植え付ける」です。選び方の基準を先に教えてしまう、ということです。

  • 基準を公開する:監査チェック項目の一覧と判定基準を、依頼前に開示する。中身が見えれば比較の土俵が価格から品質に移る
  • 限界を明示する:紛争交渉は弁護士へ、税務は税理士へ、と担当外を先に言う。中立性の宣言になる
  • 知識の裏付けを示す:労働組合法や労働契約法など、試験科目外の領域をどう補強しているかを具体的に語る(連合の指摘に正面から答える形になる)

3つ目は特に効きます。批判に先回りして答えられる専門家は、それだけで格が違って見えるからです。

5.4 「言いづらいことを言う」ことの価格

第三者の立場を取るということは、顧問先の社長に耳の痛いことを言うということです。「その運用は違法です」「この就業規則は実態と乖離しています」と告げる場面が増えます。

怖いと感じるかもしれません。ただ、志師塾で見てきた高単価の先生業に共通するのは、まさにこの「言いづらいことを言える関係」を持っていることです。イエスマンのコンサルタントに月50万円を払う経営者はいません。自分に不都合なことを言ってくれるから、価値があるのです。

使命規定は、その立場を法律の言葉で裏打ちしてくれました。「これは私の意見ではなく、社労士法第1条が定める使命です」と言えるようになったわけです。これほど強い後ろ盾はありません。

5.5 3つの再定義の関係を整理する

ここまでの3つは、バラバラの施策ではなく一本につながっています。

再定義 変えるもの 条文の根拠
1. 提供物 代行 → 保証(監査報告書) 第2条1項3号「監査すること」
2. 買い手 総務担当 → 経営者 第1条「事業の健全な発達」
3. 立場 会社の味方 → 公益の第三者 第1条「個人の尊厳が保持された適正な労働環境」

売り物を変え、売る相手を変え、立ち位置を変える。この3つが揃って初めて、値札が動きます。どれか一つだけでは、以前と同じ会話に引き戻されます。

6. 社労士が再定義を実装する具体ステップ

考え方が分かったら、次は手を動かす番です。志師塾では「まずは発散、その後に収束」を原則としていますので、その順で進めます。

6.1 ステップ1:ポジショニングを決める

「労務監査をやります」だけでは、全国の社労士と横並びです。志師塾が伝えるポジショニングの原則は「無競争状態で、顧客に選ばれる、独自の場所を見つけること」。ポイントは2つ、一点集中とNo.1です。

労務監査を軸に絞り込むなら、こんな掛け算が考えられます。

  • 業種で絞る:運送業専門の労務監査(改善基準告示という固有論点がある)/建設業専門/医療・介護専門
  • 場面で絞る:M&A時の労務デューデリジェンス専門/事業承継時の労務監査/上場準備企業向け
  • 規模で絞る:従業員30〜100名の二代目経営者向け
  • 論点で絞る:未払い残業リスクの定量化に特化

「絞ると仕事が減るのでは」と不安になるところですが、実際は逆です。絞るから第一想起される。第一想起されるから比較されない。比較されないから値切られない。この順番です。

6.2 ステップ2:肩書とキャッチコピーを作り替える

ポジショニングが決まったら、それを一言に集約します。志師塾では肩書を「専門領域+一般名称」の公式で作り、13文字程度を目安としています。

「社会保険労務士」だけの名刺は、資格名を名乗っているだけで、選ばれる理由を何も語っていません。

  • × 社会保険労務士
  • ◯ 運送業専門 労務監査コンサルタント
  • ◯ 事業承継の労務リスク診断士
  • ◯ 未払い残業リスク診断の専門家

キャッチコピーは25文字程度で、メリット・具体性・相手ごと感(To Me Message)を意識します。「御社の労務、取引先に聞かれて答えられますか」といった問いかけ型も有効です。

6.3 ステップ3:監査商品をパッケージ化する

3.2で触れた3ステップ(ネタ出し → 手順化 → 体系化)を実行します。パッケージには次の要素を盛り込みます。

  • 対象者(誰のための監査か)
  • 解決する問題と、放置した場合のリスク
  • 得られる結果(何が手に入るか。報告書のサンプルページを見せられると強い)
  • チェック項目数と判定基準
  • 進め方(資料受領から報告会まで、期間つき)
  • 信頼証明(実績・お客様の声)
  • 価格と、監査後の是正支援メニュー
  • 担当範囲外の明示(弁護士・税理士との連携)

これをA4のチラシ1枚にまとめてください。チラシは営業ツールであると同時に、自分の商品を検証するツールです。1枚に書けないなら、まだ商品として固まっていません。

6.4 ステップ4:小さく試す(仮説検証)

完成度100点を目指して机上で作り込むより、30点でも早く見込み客に見せるほうが結果は出ます。志師塾では、これを「地上戦の仮説検証」と呼んでいます。

やることは3つです。既存の顧問先や知り合いの経営者にアポを取り、作ったチラシで提案し、テストクロージングして反応を見る。「もし今これを受けるとしたら、気になる点はどこですか」と聞くだけで、断られる理由が見えてきます。

断られた理由は失敗ではなく、次の提案書の材料です。この往復を5回もやれば、商品は見違えます。

6.5 ステップ5:情報発信で第一想起を取る

最後に、集客の仕組みです。労務監査は「今すぐ欲しい」人が多い商品ではありません。だからこそ、思い出してもらえる状態を先に作っておく必要があります。

志師塾が推奨する関係型のアプローチでは、ブログ・セミナー・小冊子といった情報提供を通じて見込み客と関係を作り、必要なタイミングで相談が来る流れを設計します。「売る・売られる」ではなく「教える・教わる」の関係です。

今回の法改正は、その情報発信の絶好の材料でもあります。法律が変わったという事実は、営業ではなく情報として届けられるからです。「社労士法が変わったので営業に来ました」ではなく「法改正で御社に関係する部分をまとめました」。これだけで、受け取られ方が変わります。

7. 社労士以外の先生業にも共通する「再定義」の考え方

ここまで社労士を軸に書いてきましたが、この構造は先生業全般に当てはまります。

7.1 業務範囲が広がらなくても単価は上がる

今回の改正は、社労士ができる仕事を大きく増やしたわけではありません。すでにやっていたことに、名前と背景を与えた改正です。

ここが重要です。単価を上げる余地は「新しい業務の獲得」ではなく「同じ仕事の再定義」にある。この事実は、法改正のない業種でも同じです。あなたが今やっている仕事を、別の名前で呼び、別の相手に売り、別の立場から提案したらどうなるか。それを考えるだけで、値札は動きます。

7.2 「なぜ買うのか」「なぜあなたから買うのか」に文字で答える

志師塾では、顧客獲得の出発点として2つの問いを立てます。

  • なぜ、買うのか?(絶対価値。この商品が必要な理由)
  • なぜ、あなたから買うのか?(相対価値。他の専門家ではない理由)

大切なのは、これに文字で答えられることです。何となく話せるけれど書けない、という状態は、まだ定まっていない証拠です。

労務監査で言えば、こう書けます。

なぜ買うのか:M&Aや取引先要請の場面で、自社の労務コンプライアンス状況を第三者の判定つきで示す必要があるが、社内では実態を客観的に把握できないから。
なぜあなたから買うのか:改正社労士法第2条1項3号に明記された監査業務を、運送業に特化した◯項目の独自基準で実施し、判定根拠まで開示している唯一の事務所だから。

この2文が書けたら、提案書もホームページも自然に書けます。逆に書けないうちは、何を作っても薄くなります。

7.3 受注力を7つに分解して弱点を見つける

志師塾では、先生ビジネスを成功させる受注力を7つの能力に分解しています。独自力・伝達力・商品力(=キラーコンテンツ)、集客力・高額力・決定力(=顧客獲得システム)、そして仲間力です。

単価が上がらないとき、原因はこのどこかにあります。

  • 独自力の問題:他の社労士と何が違うか説明できない
  • 伝達力の問題:違いはあるのに、肩書やコピーで伝わっていない
  • 商品力の問題:中身が見える形にパッケージ化されていない
  • 集客力の問題:そもそも経営者と会う機会がない
  • 高額力の問題:会っても、高い金額を提示できずに値下げしてしまう
  • 決定力の問題:個別相談で教えて満足されて終わる
  • 仲間力の問題:弁護士・税理士との連携先がなく、案件を受け切れない

今回の法改正が直接効くのは、独自力・商品力・高額力の3つです。残りは自分で作りにいく必要があります。

8. 志師塾卒業生の事例

再定義によって仕事の位置づけが変わった例として、志師塾卒業生の話を紹介します。

8.1 自己実現メンタルコーチ・平真理子さんの場合

平真理子さんは、自己実現メンタルコーチとして「正しい脳の使い方」を教えるという独自の切り口を打ち出している卒業生です。詳しい経緯は【卒業生インタビュー】満足した人生を送りたいあなたに「正しい脳の使い方」を教えます! ~自己実現メンタルコーチ・平真理子さん~で語られています。

注目したいのは、コーチングという一般名詞のままで勝負しなかった点です。コーチという肩書は世の中に無数にあり、その状態では「なぜあなたから買うのか」に答えられません。そこで「正しい脳の使い方」という独自の切り口を立てたことで、比較の土俵から抜け出しています。

これは社労士の労務監査とまったく同じ構造です。「労務相談やります」では横並びですが、「◯◯業に特化した労務監査を、独自の判定基準で」と言えば、比較対象が消えます。やっていることは近くても、名乗り方で市場が変わるのです。

8.2 展示会営業に絞った営業コンサルタントの場合

もう一つ、志師塾の書籍でも紹介している事例です。営業コンサルタントの清永健一さんは、中小企業診断士の資格を持ちながら、あえて資格を前面に出しませんでした。資格を出すと「他の診断士との比較」に巻き込まれるからです。

代わりに打ち出したのが「展示会営業コンサルタント」という肩書。展示会という一点に絞ってノウハウを蓄積した結果、展示会に出展したい企業にとって比較対象のいない存在になりました。独立1年目に年商1,000万円、2年目に3,000万円を超えています。

社労士が「社会保険労務士」と名乗るのは、清永さんが「中小企業診断士」と名乗るのと同じです。資格は入場券であって、選ばれる理由ではありません。今回の改正で「監査」という言葉が手に入った以上、そこに専門領域を掛け合わせて独自の肩書を作るチャンスが来ています。

8.3 事例から読み取るべきこと

2つの事例に共通するのは、能力を上げたから単価が上がったのではないという点です。持っていたものの見せ方を変え、戦う場所を選び直した。それだけで結果が変わっています。

志師塾ではこれを「価値づくり」と呼び、集客などの「仕組みづくり」より先にやるべきこととして位置づけています。順番を逆にすると、伝わらないメッセージを大量に配ることになるからです。

9. よくある質問(社労士法改正と単価設計)

9.1 使命規定ができたら自動的に単価は上がりますか

上がりません。使命規定は値付けの根拠として使える言葉であって、値上げの通知ではありません。条文をどう自分の提案に翻訳するかは、一人ひとりの仕事です。何もしなければ、去年と同じ金額のまま今年が過ぎます。

9.2 監査という言葉を使って問題はありませんか

改正により、法令・労働協約・就業規則・労働契約の遵守状況を監査することが第2条1項3号に含まれると明記されました。ただし、会計監査など他の法令で定義された監査と混同されないよう、「労務監査」と範囲を明示して使うのが安全です。何を対象に、何を基準に判定するかを併記しておきましょう。

9.3 労務監査の価格はどう決めればいいですか

社労士の報酬は自由化されており、公的な基準は存在しません。だからこそ、志師塾では「ガチ時給」で検証することを勧めています。準備・実施・報告書作成・報告会まで、実際にかかる総時間で受注額を割ってみてください。

その数字が、あなたが自分の専門性につけた値段です。想像より低ければ、価格が安いか、工程に無駄があるかのどちらかです。年間の受注件数と合わせて年収シミュレーションまで出すと、いくらで売るべきかが逆算できます。

9.4 既存の顧問先への値上げはどう切り出しますか

いきなり顧問料を上げるのではなく、監査という新しいメニューを追加する形が現実的です。既存の顧問業務はそのままに、年1回の労務監査をスポットで提案する。ここなら「値上げ」ではなく「新サービスの案内」になります。

そして監査で課題が出れば、是正支援という次の仕事が生まれます。結果として年間の取引額が上がる、という順番です。

9.5 補佐人の改正はいつから使えますか

第2条の2の改正規定(「訴訟代理人」を「代理人」に改める部分)は令和7年10月1日から施行です。使命規定と労務監査の明記は公布日から効いていますので、施行時期が異なる点に注意してください。提案資料で日付を間違えると信頼を損ないます。

10. 関連記事もあわせて

単価設計や受注の考え方を深めたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。

11. まとめ|社労士法改正を単価に変える3つの再定義

第9次社会保険労務士法改正(令和7年法律第77号)で起きたことを、もう一度整理します。

  • 第1条が目的規定から使命規定へ。「適切な労務管理の確立」「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成」が入った
  • 第2条1項3号に「監査すること」が明記され、労務監査が法律上の業務として位置づけられた
  • 使命規定と労務監査は公布日からすでに施行。補佐人関係(第2条の2)のみ令和7年10月1日から
  • 一方で連合は、労務監査の知識面への疑義を含む懸念を公式に表明している

そのうえで、単価を上げるための3つの再定義はこうでした。

  1. 提供物の再定義:代行から保証へ。成果物(監査報告書)が残る商品にパッケージ化する
  2. 買い手の再定義:総務担当から経営者へ。決裁者が変われば、比較対象と金額の桁が変わる
  3. 立場の再定義:会社の味方から公益を背負う第三者へ。中立性は制約ではなく価格の裏付けになる

今回の改正は、業務範囲を大きく広げるものではありませんでした。すでにやっていた仕事に、名前と背景を与えた改正です。だからこそ、変えるべきは業務ではなく定義になります。

そして、この構造は社労士だけの話ではありません。士業でもコンサルタントでも講師でもコーチでも、単価が動く瞬間は「同じ仕事を、別の名前で、別の相手に、別の立場から売り始めたとき」です。法改正はそのきっかけの一つにすぎません。

大事なのは、名前を変えたあとにその名前を必要としている人に届けること。ここが抜けると、良い商品を作っただけで終わります。志師塾では、この「価値づくり」から「仕組みづくり」への流れを、先生業に特化した形で体系化してお伝えしています。

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※本記事の法令情報は、衆議院公表の法律本文、厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会議事録(第201回・2025年8月19日)、全国社会保険労務士会連合会および日本労働組合総連合会の公表資料に基づいています。個別の実務対応にあたっては、最新の条文・通達をご確認ください。

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