顧問契約が切れるのは、腕が足りないからではありません。
中小企業庁の2022年版小規模企業白書によると、事業者が支援機関に求める能力として最も多く挙げられたのは、専門知識でも提案力でもなく「話しやすさ・相談のしやすさ」でした。ところが支援機関の側は、自分たちに期待されているのは知識や提案力だと考えている。白書はこのズレをはっきり示しました。
そして認識のズレは、ある日「今期で契約を終了させていただきます」という一通のメールになって返ってくる。
この記事では、顧問契約が切れる理由をワースト10として整理し、それぞれに処方箋を1つずつ対応させました。扱うのは次の4点です。
- 顧問契約が切れる10の理由と、顧客が実際に口にする言葉
- 理由ごとの処方箋(契約・報告・接点・課題設定をどう設計するか)
- 10項目を並べると見えてくる、切られる本当の理由3つ
- 継続しながら顧問料を上げていくための商品設計
志師塾は、士業・コンサルタント・コーチ・講師といった先生業に特化したビジネススクールとして、これまで3,200名を超える方の顧客獲得を支援してきました(2026年8月時点)。顧問契約が続く人と切れる人の差は、才能でも相性でもない。ほとんどが設計の有無で説明がつきます。この記事では、その設計の中身を公的データと卒業生の実例をまじえて具体的に書きました。
読み終えるころには、あなたの顧問先のうちどこが危ないのか、そして次の更新面談で何を持ち込めばいいのかが見えているはずです。まずは、10の理由を一覧で確認してください。
なお、ここから先の処方箋はどれも「顧客との関係をどう設計するか」という話です。その土台になるのは、そもそもどんな顧客と出会い、どう信頼を得るかという入口の設計のほう。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、継続前提の顧客と出会うための導線づくりを、先生業の実例で解説しています。
「切られない顧問」になる前に、そもそも継続前提のお客様とどう出会うか。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、単発で終わらない顧客動線の作り方をお伝えしています。
1. 顧問契約が切れる理由ワースト10【早見表】

顧問契約が切れる理由とは、顧客が「このお金を払い続ける意味がない」と判断する具体的な引き金のことです。まず全体像を一覧にします。
順位づけについて、先にひとつお断りを。解約理由の調査は実施主体ごとに設問が違い、公開されている数値をそのまま順位にすることはできません。以下の順位は、志師塾が先生業の支援現場で遭遇する頻度をもとに整理したものです。数字の権威を借りた順位ではなく、現場の体感順として読んでください。
| 順位 | 顧問契約が切れる理由 | 顧客が実際に言う言葉 | 処方箋 |
|---|---|---|---|
| 1位 | レスポンスが遅い・相談しにくい | 「ちょっと聞きづらくて」 | 即答より「いつ返すか」の一報を先に |
| 2位 | 聞かれたことしか答えない | 「特に相談もないので」 | 毎回こちらから論点を1つ持ち込む |
| 3位 | 何にお金を払っているか分からない | 「毎月の中身が見えないので」 | やること・やらないこと・報告の形を文書化 |
| 4位 | 報告が過去の数字の読み上げで終わる | 「それはもう知っています」 | 数字・意味・次の一手の3層レポート |
| 5位 | 接点が繁忙期だけ(年1回の保険) | 「今年は結局使わなかったので」 | 相談以外の接点を定期化する(情報提供) |
| 6位 | 経営者の関心領域に届いていない | 「それは専門外ですよね」 | 最初に相談される窓口になる(橋渡しも仕事) |
| 7位 | 立ち上がりの3か月を放置した | 「契約してから何も動いていない」 | 最初の3回で小さな成果を1つ出し切る |
| 8位 | 担当者交代で品質が落ちた | 「前の方のときはよかったのですが」 | 引き継ぎは人ではなく記録で |
| 9位 | そもそも合わない相手と契約した | (最後まで不満を言わず突然切れる) | 受ける基準と受けない基準を先に決める |
| 10位 | 課題が解決して役目が終わった(卒業) | 「おかげさまで落ち着いたので」 | 更新前に次の課題を一緒に置き直す |
1.1 顧問料の高さは、1位ではない
この表を見て意外に思われたかもしれません。「顧問料が高い」が入っていないのです。
もちろん価格が理由になることはあります。飲食店向けの情報サイトを運営するシンクロ・フードが2025年に実施した税理士利用に関する調査(回答333件)では、税理士を選ぶときに重視した点として「費用の安さ」と「コミュニケーションのしやすさ」がいずれも過半数で並びました。価格は確かに見られている。
ただし、価格は「選ぶとき」の基準であって、「切るとき」の理由としては上位に来にくい。これが現場の実感です。すでに払っている金額をわざわざ問題にするのは、払う価値が見えなくなったあとだから。「高い」は結論であって、原因は別のところにあります。
1.2 解約理由の調査でも、上位は「相談のしにくさ」だった
税理士変更の理由を調べた民間調査でも、同じ傾向が出ています。小谷野税理士法人が2026年に実施した経営者325人への調査では、税理士を変更した理由の第1位は「お金の相談に対するサポートが不十分だった」でした(プレスリリース)。業界メディアの調査報道でも、変更理由の最多は料金ではなくレスポンスの遅さや相談のしにくさだと報じられました。
顧客は「安くしてほしい」ではなく「話を聞いて、一歩前に進めてほしい」と言っている。ここを読み違えたまま値下げで引き留めようとすると、単価だけが落ちて関係は結局切れます。
1.3 この記事の読み方(10位から1位へ)
ここから先は、10位から順に1位まで、1項目ずつ掘り下げます。各項目は「症状(顧客の言葉)、なぜ切れるのか、処方箋」の順に並べました。
読むときのコツがあります。全部を直そうとしないでください。 顧問先の顔を1社だけ思い浮かべて、その会社に当てはまる項目に印をつける。それだけで、次の面談で持ち込むテーマが決まります。
2. 顧問契約が切れる理由 10位~6位と処方箋

まずは、気づきにくい後半の5つから。ここは「顧客が不満として言語化しないまま切る」領域で、だからこそ予兆が掴めません。
2.1 【10位】課題が解決して役目が終わった(卒業による解約)
症状は、きわめて穏やかです。「おかげさまで落ち着きましたので、いったん終了で」。感謝されながら売上が消えます。
これは失敗ではありません。就業規則が整った、労基署対応が終わった、資金繰りが安定した。当初の依頼に応えた結果です。問題は別のところ。顧問の役目が「最初に設定した1つの課題」のまま更新されていなかったという点にあります。
志師塾では、これを「点の問題から面の問題へ」という言い方で教えています。顧客が口にする「点」の悩みに応えるだけでは、点が消えた瞬間に関係も消える。頭痛を訴える人に頭痛薬を出すのは当然ですが、それと同時に体質改善の指導をセットにしておく。この二段構えがあるかどうかで、1年で終わるか3年続くかが決まります。
処方箋:更新の2~3か月前に「次の課題を置き直す面談」を仕込む。 内容は現状報告ではなく、3年後にこの会社がどうなっていたいかの確認です。理想像を先に聞けば、今の延長線では足りないものが必ず出てきます。顧問契約を10年単位の時間軸で設計する考え方は、10年後からの逆算で顧問契約を増やす方法でも詳しく解説しました。
ひとつ補足を。必要のない顧問を続けさせるのは悪手です。 次の課題が本当に見つからないなら、気持ちよく卒業させる。そのほうが紹介という形で戻ってきます。
2.2 【9位】そもそも合わない相手と契約していた
これは解約の瞬間ではなく、契約の瞬間に決まっている理由です。
志師塾の講座では、受けてはいけないクライアントの基準を3つ明示しています。(1)親の悪口を言い続ける人、(2)他のコンサルタントの悪口ばかりで自分の実行責任を取らない人、(3)人の話を聞かず一方的に話し続ける人。いずれも、やがて攻撃の矛先があなたに向くか、成果が出ないことの責任があなたに回ってくる。
加えて、支払余力も選定条件です。資金的に苦しい相手を顧問先に並べると、値上げができず、更新のたびに減額交渉になります。これは顧客の人格の問題ではありません。あなたが誰を理想の顧客(志師塾では「小人さん」と呼びます)に置いたかという設計の問題です。
処方箋:受ける基準と受けない基準を、紙に書いて先に決める。 売上が不安な時期ほど誰でも受けたくなりますが、合わない1社に奪われる時間と気力は、新規1社の獲得コストより高くつきます。
2.3 【8位】担当者交代で品質が落ちた
「前の担当の方のときはよかったのですが」。スタッフを雇い始めた事務所が最初にぶつかる壁です。
原因は属人化。前任者の頭の中にだけ、その会社の経緯・社長の癖・触れてはいけない話題が入っていた。だから交代した瞬間に、顧客は同じ説明をもう一度させられる側に回ります。これほど「このお金は何だったのか」と思わせる体験もありません。
処方箋:引き継ぎを人ではなく記録で渡す。 顧客ごとに「初回に聞いた課題」「社長が本当に気にしていること」「過去の提案と、やらなかった理由」の3点を1枚で残しておきましょう。
「コンサルティングは個別対応だから標準化できない」と言われることがあります。志師塾の答えは明確です。標準がないと、何がカスタマイズなのかを顧客に説明できません。 標準手順を先に作り、「御社向けにここを変えます」と言えるからこそ、追加費用も請求できる。
2.4 【7位】立ち上がりの3か月を放置した
契約直後に資料の依頼だけして、その後しばらく音沙汰がない。顧客側から見ると、お金を払った瞬間に熱が下がったように見えます。
継続課金型のサービスでは、導入初期の立ち上げ支援(オンボーディング=開始直後に使いこなせる状態まで伴走すること)が継続率を大きく左右するとされます。顧問契約も同じ。最初の数回で「この人と組むと物事が動く」という体験を渡せるかどうかが分かれ目になります。
処方箋:最初の3回で、小さくても成果を1つ出し切る。 助成金の申請を1本通す、未整備の規程を1本仕上げる、滞っていた手続きを片付ける。大きな成果でなくていい。「動いた」という事実が必要なのです。
志師塾では、セミナーや個別相談の満足度を100点ではなく80点で設計すると教えています。全部を語り尽くすと「あとは自分でやってみます」になる。顧問契約の立ち上がりも同様で、1つ成果を出し、同時に次に手をつけるべき論点を見せて残す。この設計が継続につながります。
2.5 【6位】経営者の関心領域に届いていない
「それは先生の専門外ですよね」と言われた時点で、顧問としての守備範囲は確定します。そして経営者の関心は、たいてい専門の外側にある。
経済産業省が2026年4月に公表した2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要では、中小企業の「稼ぐ力」に着目し、その土台として経営リテラシー(財務・会計/組織・人材/運営管理/経営戦略の4分野)の強化が打ち出されました。あわせてAIの活用による変革にも踏み込んでいます。国が中小企業に期待している論点が、この4分野とAIに整理されたということ。
一方、経営者の悩みは昔からヒト・カネ・売上の3つに集約されます。税務や労務の手続きは、そのどれにも直接は触れません。だから「必要だけれど、相談したい相手ではない」位置に置かれてしまう。
処方箋:自分で全部やるのではなく、最初に相談される窓口になる。 志師塾ではこれをコンダクター(指揮者)戦略と呼んでいます。相続や事業承継のように専門家が何人も絡む領域では、深掘りする人より「全体像を示して橋渡しする人」が選ばれる。自分の専門外は仲間につなぐ。そのつなぎ自体が顧問の価値になり、仲間からの紹介も返ってきます。
入口は、相手が今すぐ解決したい悩み(間口の強み)で開ける。信頼を得てから、本来の専門性(奥行きの強み)を提案する。この順番を逆にすると、どれほど良い提案でも届きません。
ここまでの5項目は、どれも「顧客との関係をどう設計するか」という話でした。ただ、設計を変えようと思っても、顧問先が1~2社しかない状態では実験のしようがない。選べる数の見込み客がいて初めて、基準を決めたり卒業を勧めたりできるのです。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、継続前提の顧客と出会うための導線の作り方をお伝えしています。
3. 顧問契約が切れる理由 5位~1位と処方箋

ここからは上位5つです。どれも「毎月の関わり方」そのものに原因があり、契約書を直しても面談の中身が変わらなければ解決しません。
3.1 【5位】接点が繁忙期だけになっている(保険としての顧問)
決算期と年末調整のときだけ会う。労基署の調査が入ったときだけ連絡が来る。顧客はこの状態を「保険」と捉えています。
保険の怖さは、1年間なにも起きなければ、使わないまま満了を迎えるところ。そして更新時にこう考えます。「今年は結局使わなかったな」。使われない保険は、必ず見直しの対象になります。
処方箋:相談以外の接点を定期化する。 ここで効くのは売り込みではなく情報提供です。志師塾では「先生業の営業とは、情報提供である」と言い続けてきました。売り込まれている感が出た瞬間に人は引く。けれど教えてもらった感には好意が返ってきます。
具体策は3つ。(1)月次で1枚のレポートを送る(業界の動きと、その会社への影響を1行ずつ)、(2)顧問先限定のミニ勉強会を四半期に1回開く、(3)チャットで常時つながる窓口を持つ。いずれも「使った」という実感を蓄積させるのが目的です。
3.2 【4位】報告が過去の数字の読み上げで終わっている
月次の試算表を開いて、売上が前年比でどうだった、経費がどう増えた、と説明する。顧客の内心は「それはもう知っています」。数字は社長が先に見ているのです。
価値が生まれるのは数字そのものではなく、その数字が何を意味していて、だから次に何をするのかという部分です。
処方箋:報告を「数字」「意味」「次の一手」の3層にする。
| 層 | 中身 | 顧客の反応 |
|---|---|---|
| 第1層:数字 | 売上・利益・離職率などの事実 | △ 知っている |
| 第2層:意味 | この数字が3年後に何を招くか | ○ 言われて気づく |
| 第3層:次の一手 | 来月やること・担当・期限 | ◎ 払う理由になる |
第2層で効くのは、金額への換算です。離職率が高い、残業が多い、手続きに時間がかかっている。これらを「年間いくらの損失か」に置き換えると、社長の顔つきが変わります。志師塾でも、価値が伝わりにくい領域ほど時間削減や損失回避を金額に換算して示すよう教えてきました。後述する卒業生の三宮さんは、この換算を事業の中核に据えた方です。
3.3 【3位】何にお金を払っているのか分からない
「毎月の中身が見えないので」。これを言われたら、原因は仕事の質ではなく契約の設計にあります。
顧問契約は法律上、準委任契約(=成果物ではなく業務の遂行を委託する契約)にあたります。民法第651条により、委任契約は各当事者がいつでも解除できるのが原則。期間途中の解除を制限したいなら、契約で特約を置く必要があります。つまり「1年契約だから1年は続く」という思い込みには、法的な裏づけがありません。
そのうえで実務的に問題なのは、多くの顧問契約書に次の3つが書かれていないことです。
- やること/やらないことの線引き(どこからが追加費用になるのか)
- 報告の形と頻度。何を、いつ、どの形式で渡すのかを決めていますか
- 成果物の定義(毎月、顧客の手元に何が残るのか)
この3つが決まっていないと、顧客は「払っているのに何もしてくれない」と感じ、あなたは「言われないからやっていない」と思う。どちらも悪意はないのに、更新時に関係が終わります。
処方箋:契約時に3点を文書化し、初回面談で読み合わせる。 志師塾には「形になっていないから伝わらない」という言い方があります。見えないサービスを売るなら、手順と成果物を先に見せる。実際、チラシに成果物を明記しただけで「誠実な人だと思った」と契約が決まった士業の例もありました。
3.4 【2位】聞かれたことしか答えない(提案の不在)
「特に相談もないので、今期は見送ります」。この一言が出る顧問は、受け身になっています。
ここで押さえておきたいのが、中小企業庁と中小機構がまとめた経営力再構築伴走支援ガイドラインです。示されているのは、経営者との対話と傾聴によって信頼関係を築き、本質的な課題への気づきと腹落ちを促し、内発的な動機づけによって事業者自身の行動を引き出すという考え方。キーワードは「課題設定型」。答えを与える支援ではなく、問いを立て直す支援です。
国が支援機関に求めているのが課題設定だということは、裏返せば課題を設定しない顧問に払う理由がないということでもあります。
処方箋:毎回の面談に、こちらから論点を1つ持ち込む。 持ち込むのは答えではなく問いで構いません。志師塾が教えている質問は、たとえばこういうものです。
- 「ひとことで言うと、いま一番の課題は何ですか?」
- 「本当はどうしたいですか?」
- できなかった理由を聞いたあと、そのまま「ではどうすればできますか」まで続けて聞く
人は質問されると、記憶を一気に遡って考え始めます。話すよりも聞く。この順番を守るだけで、顧客は「相談できる相手」としてあなたを再認識する。
そしてもう1つ。顧問の価値が高いのは、助言の先にある実行支援です。「わかっているけど、できない」を「一緒にやりましょう」に変える力。経営者は孤独で、正しい答えよりも並走者を求めています。
3.5 【1位】レスポンスが遅い・相談しにくい
ワースト1位は、技術論ではありません。話しかけにくいことです。
冒頭に挙げた2022年版小規模企業白書のデータをもう一度置きます。事業者が支援機関に求める能力として最も多く挙がったのは「話しやすさ・相談のしやすさ」。そして白書は、知識や提案力については支援機関側の回答のほうが高く出ることも示していました。先生業は、自分が磨くべきものを取り違えているのです。
症状は静かです。メールの返信が3日空く。質問に「確認して折り返します」と言って1週間。面談で専門用語のまま説明する。顧客はクレームを言いません。ただ、だんだん聞かなくなる。相談されなくなった顧問は、翌期の予算から外れます。
処方箋1:即答ではなく「いつ返すか」を先に返す。 専門家が遅くなるのは、調べてから正確に答えたいから。しかし顧客が不安なのは答えの精度ではなく、届いているかどうかです。「受け取りました。○日までに回答します」の一報で、遅さの9割は解消します。
処方箋2:聞きやすさを人柄ではなく設計で作る。 やることは3つ。(1)質問の窓口を1つに絞る、(2)毎月の定例枠をカレンダーに固定しておく(用がなくても15分で解散してよい)、(3)専門用語を使うときは初回だけ「=○○のことです」と添える。
聞きやすい人になるのは、性格を変えることではありません。相手が恥をかかずに聞ける入口を用意することです。
4. ランキングから見える、顧問契約が切れる本当の理由

10項目を並べると、ばらばらに見えた理由が3つの構造に収束します。ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
4.1 切られる理由は、腕ではなく「話しかけにくさ」である
1位・5位・8位は、すべて同じことを言っています。接触の量と質が足りない。
志師塾にはこんな考え方があります。「見込み客は、先生業の腕を正しく見極められない」。これは顧客を侮っているのではありません。形のないサービスは外から評価できないという事実です。評価できないものの代わりに、人は何で判断するか。話しやすさ、返信の速さ、分かりやすさ。
だから、腕を磨いても継続率は上がりません。腕は前提で、継続を決めるのは関係の設計です。
4.2 不満を言わない顧客こそ、いちばん危ない
「うちの顧問先は不満を言ってこないので大丈夫」。これが最も危険な状態です。
気を使ってくれる顧客は、解約を決めるその日まで友好的でいてくれる。そして突然、「契約を終了させていただきます」と連絡が来る。満足度を聞いて回っても、本音は出てきません。
予防策は、満足度の確認ではなくこちらから課題を言語化して返すことです。「御社はいま、採用の入口よりも定着のほうが問題だと見ています。いかがですか」。こう投げれば、否定であれ同意であれ本音が返ってくる。
ついでに、よく見かける悪手も挙げておきます。乗り換えの手間を増やして囲い込む、という発想は捨ててください。 データを渡しにくくする、手続きを複雑にしておく。たしかに短期的には解約が減る。しかしそれは「めんどくさいから続けている」状態で、紹介は一切生まれず、不満が溜まった分だけ最後の離れ方が冷たくなります。
4.3 顧問契約は「満足させ続ける」より「課題を置き直し続ける」
3つめの構造は、10位(卒業)と2位(提案の不在)が同じ根を持っているという話です。
顧問契約を「満足させ続けるゲーム」だと捉えると、課題が解決した時点で終わります。満足の最大値が、契約の終わりだから。一方、「課題を設定し直し続けるゲーム」だと捉えれば、1つ解決するたびに次の論点が立ち上がる。伴走支援ガイドラインが課題設定型を掲げているのも、同じ理由でしょう。
この視点に立つと、更新面談の中身が変わります。「今年もありがとうございました、来年もよろしくお願いします」ではなく、「今年ここが片付いたので、来年はここに手を入れませんか」。更新は、挨拶ではなく提案の場です。
5. 顧問契約を続けながら単価を上げる4つの設計

ここまでは守りの話でした。最後に攻めの話をします。切られないだけでは、事務所は伸びません。
市場環境は厳しくなりました。日本税理士会連合会の税理士実態調査報告書では、法人関与先の平均件数が調査を重ねるごとに減少する傾向が示されています。1社あたりの単価を上げずに件数だけで売上を作る時代は、すでに終わったのです。
5.1 点の受注を面の受注に変える(頭痛薬と体質改善をセットにする)
顧客が持ち込む悩みは、たいてい「点」です。助成金を取りたい、就業規則を直したい、補助金を申請したい。これに応えるのは当然ですが、点を処理するだけの関係は点で終わります。
志師塾の言い方では、頭痛薬を出しながら体質改善の指導をする。就業規則を直す依頼を受けたなら、その背後にある「人が定着しない」という面の問題を設定する。面の問題には終わりがないので、長期の関与が自然に生まれる。
そして数字の話。既存顧客からの受注は、新規顧客の獲得コストに比べて5分の1程度で済みます。 時間あたりの生産性は3倍近く。新規集客を増やす前に、既存の点を面に変えるほうが早いのです。
5.2 作業代行・アドバイス・伴走の3段階で値づけする
先生業の仕事は、提供する層によって単価がまったく変わります。
| 段階 | 提供するもの | 置き換えられやすさ |
|---|---|---|
| 作業代行 | 手続き・書類作成・入力 | 高い(価格競争とAIに直撃) |
| アドバイス | 判断材料の提示・助言 | 中くらい |
| 伴走 | 一緒に決め、一緒に実行し、責任を分かち合う | ◎ 低い |
同じ知識を使っていても、作業代行と伴走では単価が10倍変わることがあります。知識そのものは調べれば出てくる時代ですから、残るのは責任・実行支援・感情のケア。「それはAIに聞けば分かりますよね」と言われたときに答えられるのは、この3つだけです。
5.3 スポット収入とストック収入を5:5に組む
顧問契約が切れると怖いのは、売上が全部スポット(単発)に戻るからです。逆に、年間目標売上の半分が年初に確定している状態を作れば、無理な仕事を受けずに済み、断る基準も守れる。
志師塾では、スポット型:ストック型=5:5を目安として示しています。顧問・会員制・継続研修など、形は業種で変わります。月1回の訪問で月額15万円という設計もありますし、その具体的な組み方は先生業の顧問契約5つの設計図で5パターンに整理しました。
5.4 標準パッケージを先に作り、価値を金額で語る
最後に、値上げの話です。顧問料を上げるときに必要なのは交渉術ではなく、2つの材料です。
1つめは標準パッケージ。何をどういう順番で、どこまでやるのかを見える化したもの。標準があるからこそ「ここから先はカスタマイズです」と言えます。
2つめは価値の金額換算。「この支援で御社は年間○時間を削減でき、人件費換算で○円になります」。志師塾では、50万円の商品でも「その結果500万円が手に入る」と示せれば高くはないと教えています。顧客がどうやって元を取るのかを、あなたの言葉で説明できるか。これが単価の上限を決めます。
6. 志師塾卒業生の事例|顧問契約と信頼のつくり方

ここからは、実際に顧問契約を軸に事業を組み立てている卒業生の話です。2名とも、この記事で挙げた処方箋をそれぞれの形で実践されています。
6.1 社会保険労務士・塚元雄平さん|「直接お願いしたい」と言われる関わり方
ネクストステップ社会保険労務士事務所の所長を務める塚元雄平さんは、「働く人が定着する職場をつくる」を使命に、労務相談や就業規則の整備を手がけています。社会保険労務士試験には10回挑戦。実務経験を積んだのち、30代で独立されました。
注目したいのは、独立時のエピソードです。前職時代、塚元さんは労働基準監督署への対応などを担当していました。その仕事ぶりを見ていた顧客から、独立の話をしたときに「直接、塚元さんにお願いしたい」と声をかけられ、グループ企業全体の顧問を任されることになったのです。
これは9位(合う相手との契約)と1位(相談しやすさ)が同時に効いた例といえます。難しい局面で頼られ、分かりやすく対応した実績が、そのまま顧問契約になりました。
さらに塚元さんは、今後の柱として人事部立ち上げ支援を据えています。手続きや労務相談という「点」で終わらせず、評価制度をつくり直して離職率を下げ、社会保険料や退職金を整備し、助成金も使って採用につなげる。制度を作って終わりではなく、企業の中に人事機能が根付くまで支援するという構想です。まさに、点の問題を面の問題に設定し直した形。
詳しい経緯は塚元雄平さんのインタビュー記事をご覧ください。
6.2 作業療法士・三宮孝太さん|損失額を円で示して経営者を動かす
株式会社DIALOG代表取締役の三宮孝太さんは、北海道岩見沢市で作業療法士として23年間、医療・介護の現場で患者と向き合ってきました。2026年5月に法人を設立。現在は北海道の中小建設業に特化して、医学的知見とITデータを組み合わせた現場介入型の支援を展開しています。
主力は健康経営支援サービス「ぱとす」です。ここでのやり方が、4位(報告が数字の読み上げ)の処方箋そのものになっています。
三宮さんは、従業員へのアンケートで健康上の問題を調査し、それがもたらす労働損失額を円単位で算出します。欠勤やパフォーマンス低下による損失を金額で可視化し、さらに働きがいをワークエンゲージメントとして点数化する。腰痛による国内の年間労働損失額は東京大学の試算で3兆円とされますが、こうした数字を自社の規模に落として示すわけです。
健康経営は「良いことだが成果が見えにくい」と言われがちな領域。そこを金額と点数で見える化したことで、経営者は現状を把握し、実効性のある対策を打てるようになる。生産性の向上が組織の魅力につながり、採用と定着に効く、という流れです。
価値を金額に換算して示す。この一手が、継続と単価の両方を支えています。詳細は三宮孝太さんのインタビュー記事にまとめました。
6.3 別業種の例|断る基準を持つことで信頼が深まる
もう1つ、別業種の例を短く。「開運不動産エージェント」として活動する伊東侑泰さん(合同会社ユウタオフィス代表)は、不動産仲介と運勢診断を掛け合わせ、補助金申請や資金調達の相談にも応じています。
伊東さんが徹底しているのは、あえて断る姿勢です。0歳から2歳の子どもを育てている方など、起業で家庭を犠牲にするリスクがある人は支援しない。その数年はお子さんと向き合ってほしい、という考えから。寄り添うことと断る勇気を両立させる。この姿勢が、かえって「この人なら本音を話せる」という信頼を生んでいます(伊東侑泰さんのインタビュー記事)。
3名に共通しているのは、顧客に合わせて自分を安売りしていない点です。関わる相手を選び、価値を言葉と数字で示し、点ではなく面で関わる。この順番さえ守れば、顧問契約は切られるものではなく、更新のたびに深まるものになります。
とはいえ、こうした関わり方を実践するには、そもそも「選べるだけの見込み客」が必要です。顧問先が1~2社だと、どうしても顧客の言い値になる。あなたも、断れる状態から顧問契約を組み立ててみませんか。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、継続前提の顧客と出会う導線と、高単価で選ばれるための打ち出し方をお伝えしています。
7. 顧問契約の継続に関するよくある質問
7.1 顧問料を値上げしたら、切られてしまいませんか?
値上げで切れるのは、値上げの前に価値が見えていなかった場合です。逆に言えば、毎月の成果物と「次の一手」が渡っている関係なら、値上げの説明は難しくありません。
伝え方のコツは2つ。1つは、金額の根拠を顧客側の利得で語ること(削減できる時間、回避できる損失)。もう1つは、値上げを予告しておくこと。「来期からは新規の料金体系が変わります」と先に伝えると、現行価格で継続する理由が顧客側に生まれます。
7.2 顧問契約は、途中で解約されても仕方ないのでしょうか
法的には、顧問契約(準委任契約)は民法第651条により各当事者がいつでも解除できるのが原則です。不利な時期の解除について損害賠償の問題は生じ得ますが、解除そのものを止めることはできません。
したがって、契約書で縛るより更新したくなる状態を作るほうが現実的。そのうえで、契約期間・中途解約時の精算・予告期間については、あらかじめ条項を置いておきましょう。揉めるのは、決めていなかったときだけです。
7.3 解約を告げられたとき、どう対応すべきですか
引き留め交渉の前に、理由を1つだけ丁寧に聞くことをおすすめします。「今後の改善のために教えてください。何が足りませんでしたか」。ここで出てくる言葉は、他の顧問先にもほぼ当てはまります。
そして、気持ちよく終えてください。関係が良いまま終わった顧客は、数年後に戻ってくるか、別の会社を紹介してくれる。最後の印象を悪くすることのコストは、1社の売上よりはるかに大きいと考えてください。
7.4 顧問先がまだ1社もありません。どこから始めればいいですか
いきなり顧問契約を狙わないことです。志師塾では、法人開拓ではまずドアノック商品(入口となる単発商品)を作るよう教えています。採用支援、補助金、融資、人事評価制度などは、「今やらないとまずい」という動く理由があり、すでに動いている予算に乗っかれるから。
単発で成果を1つ出し、そこで見えた面の問題を提案する。この順番なら、顧問契約は売り込まなくても生まれます。提案のときは「提案」ではなく選択肢の提示にするのがコツ。「ご自身で進める方法もありますし、私が伴走することもできます。どうされますか」。これで売り込み感が消え、先生としての立場も保てます。
8. まとめ|顧問契約が切れる理由ワースト10と処方箋
最後に要点を整理します。
- 顧問契約が切れる主因は顧問料の高さではなく、相談のしにくさと提案の不在。2022年版小規模企業白書でも、事業者が支援機関に求める能力の最多は「話しやすさ・相談のしやすさ」だった
- 切れる理由の半分は契約の瞬間に決まっている。やること・やらないこと・報告の形・成果物を文書化していない契約は、やがて「中身が見えない」に行き着く
- 報告は「数字」「意味」「次の一手」の3層に。価値は金額に換算して示す
- 不満を言わない顧客こそ危ない。満足度を聞いて回るより、こちらから課題を言語化して返すほうが本音が出る
- 顧問契約は満足させ続けるゲームではなく、課題を置き直し続けるゲーム。更新は挨拶ではなく提案の場に
- 攻めの設計は4つ。点を面に変える/作業代行ではなく伴走で値づけする/スポットとストックを5:5に組む/標準パッケージを先に作る
ここまで読んで、直すべき箇所はおそらく見えたはずです。ただ、もう1つ厄介な前提があります。顧問先が少ないと、これらの処方箋は実行できません。 断る基準を持つにも、卒業を勧めるにも、値上げを申し出るにも、代わりの見込み客がいることが前提になるからです。顧客を選べる状態をどう作るか。志師塾の先生業のためのWeb集客セミナーでは、そこを扱っています。
「切られない顧問」で止まらず、単価を上げながら続く顧問になるために
10の処方箋を実行するには、顧客を選べる状態が前提になります。志師塾の「先生業のためのWeb集客セミナー」では、継続前提の顧客と出会う導線の作り方と、価格ではなく専門性で選ばれる打ち出し方を、先生業の実例でお伝えしています。参加費は無料です。
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この記事について
この記事は、先生業専門のビジネススクール「志師塾」が執筆・監修しています。志師塾は、士業・コンサルタント・コーチ・講師といった先生業の顧客獲得支援に特化し、これまで3,200名を超える方を支援してきました(2026年8月時点)。卒業生コミュニティには各分野の専門家が集まり、顧問契約・紹介・共同受注が日常的に生まれています。